76 / 119
Re:04 Recognize
01
しおりを挟む扉のノック音が聞こえたのは、すすり泣きに変わった頃だった。
「ゆーき、いる?」
返事を待たずに入ってきた昴夜は、ベッドの上に座り込んでいる私達を見て――なんなら私が泣いていたことに気付いて、一瞬硬直したように見えた。私は慌てて顔を拭こうとしたけれど、手近なティッシュは既に涙と鼻水でぐしゃぐしゃで、侑生が新たにティッシュを差し出してくれるのを受け取るしかなかった。
「あ、あの、これは、違うの。その……なんでもなくて」
「いや……うん……いやうん……。……侑生が泣かせた、わけじゃない……?」
どうやら喧嘩をしていたわけではないらしい、というのは伝わったのだろう。居心地悪そうに目を泳がせる昴夜に、激しく首を縦に振った。
「それなら……、いいけど、いやよくないんだけど。……いやでも……うん。……いや、俺がいない間に英凜連れ込んでるとか引くんだけどな!」
おどけた態度は、気まずさを誤魔化そうとしているのがバレバレだった。
「引くって、何にだよ」
「なんか……なんかこう、やらしいじゃん! てか俺を邪魔みたいな目で見ないで!」「邪魔だろ、何言ってんだ」
「あ、そういうこと言う! 親友と彼女どっちが大事なんだよ!」
キャンキャンと子犬が威嚇するような様子で、でも「ちぇっ、俺なんてイルミネーション拒否っただけで胡桃にキレられたのに、なんだよなんだよ」と変な拗ね方をした。
「拒否ったのかよ、行けよ」
「やだよ、別に興味ないし」
「んじゃどうでもいいけど、それはそれとして邪魔だから出て行け」
「あー、そういうこと言うなら出て行きません。ここに座ります、何の話してたの?」
「クリスマスデートの行き先」
「……侑生きらい」
昴夜は本当にベッドに横になり、枕に顔を埋めた。
この状況で昴夜がいると、私にとっても少し邪魔だな……ととんでもないことを考えてしまっていると「てか二人いるなら外に遊びに行こ、夜パフェってヤツ」と昴夜もこれまた厄介な提案をした。今しがた、三人で遊ぶより二人でデートしようと話したばかりなのに。
「……夜の外出は禁止でしょ」
「バレないからセーフ。行こ!」
侑生の顔を見ると「ま、せっかく修学旅行だし」と肩を竦めるだけで拒絶しなかった。これは建前か、それとも本音か……?
「いや……、私は……ほら、先生に見つかるの怖いから」
「俺らが無理矢理連れ出したって言えばいいだろ、行くなら早く行こう」
「侑生、結構乗り気じゃん」
侑生はそれでいいの? 目だけで訊ねると「着替えてきたら」と畳みかけられた。
「……でも」
「英凜、いいから」
とりあえず今は気にしなくていいから。そう言われているような気がして、頷いた。昴夜はベッドの上に転がったまま「あー、カップルのアイコンタクトやだー」と口を尖らせていた。
結局、私達は三人でこっそりホテルを抜け出して、夜の札幌に繰り出した。いまにも崩れそうな絶妙なバランスで組み立てられたパフェに三人ではしゃいで、他愛ない話に笑って、帰路について、これまたこっそりとホテルに戻った。無事、先生に見つかることはなかった。
例のXデーだったはずなのに、私と侑生はもちろん、昴夜とも、喧嘩になることはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
想い出は珈琲の薫りとともに
玻璃美月
ライト文芸
――珈琲が織りなす、家族の物語
バリスタとして働く桝田亜夜[ますだあや・25歳]は、短期留学していたローマのバルで、途方に暮れている二人の日本人男性に出会った。
ほんの少し手助けするつもりが、彼らから思いがけない頼み事をされる。それは、上司の婚約者になること。
亜夜は断りきれず、その上司だという穂積薫[ほづみかおる・33歳]に引き合わされると、数日間だけ薫の婚約者のふりをすることになった。それが終わりを迎えたとき、二人の間には情熱の火が灯っていた。
旅先の思い出として終わるはずだった関係は、二人を思いも寄らぬ運命の渦に巻き込んでいた。
その後の愛すべき不思議な家族
桐条京介
ライト文芸
血の繋がらない3人が様々な困難を乗り越え、家族としての絆を紡いだ本編【愛すべき不思議な家族】の続編となります。【小説家になろうで200万PV】
ひとつの家族となった3人に、引き続き様々な出来事や苦悩、幸せな日常が訪れ、それらを経て、より確かな家族へと至っていく過程を書いています。
少女が大人になり、大人も年齢を重ね、世代を交代していく中で変わっていくもの、変わらないものを見ていただければと思います。
※この作品は小説家になろう及び他のサイトとの重複投稿作品です。
私の主治医さん - 二人と一匹物語 -
鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。
【本編完結】【小話】
※小説家になろうでも公開中※
となりのソータロー
daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。
彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた…
という噂を聞く。
そこは、ある事件のあった廃屋だった~
君の左目
便葉
ライト文芸
それは、きっと、運命の歯車が狂っただけ。
純粋な子供の頃から惹かれ合っていた二人は、残酷な運命の波にのまれて、離れ離れになってしまう。
それもまた運命の悪戯…
二十五歳の春、 平凡な日々を一生懸命過ごしている私の目の前に、彼は現れた。
私の勤める区役所の大きな古時計の前で、彼は私を見つけた…
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
スルドの声(反響) segunda rezar
桜のはなびら
キャラ文芸
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。
長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。
客観的な評価は充分。
しかし彼女自身がまだ満足していなかった。
周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。
理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。
姉として、見過ごすことなどできようもなかった。
※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。
各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。
表紙はaiで作成しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる