王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。(完結)

薄明 喰

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第5章

クラージュ殿下は苦労人

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「にぃ様!ナイ様、どうしてこんな所に?中に入ってきてくだされば…」


慌ててにぃ様達に近づいてそう声をかけると、両腕を広げたにぃ様にがしっと抱きしめられた。



「にぃ様、その服は新調したものですか?とてもにぃ様に似合っていて素敵です。僕達のこの服、にぃ様が選んでくれたと聞いてます。ありがとうございます」


「俺のはナイが選んでくれたものだ。その服も」



「そうなのですね。ナイ様ありがとうございます。とても素敵な刺繍でノヴァと二人で見惚れてしまってました」



「まぁ、喜んで頂けて嬉しいわ。旦那様はああ言ってますが、私は最後にアドバイスをしただけで、ほとんどは旦那様がお決めになられましたのよ?」



流石アーバスノイヤー家の兄弟愛!と両頬を両手で包んでくねくねと動くナイ様からそっと視線を逸らしてにぃ様と視線を交わす。







「魔界との仲介役は危ないことも多いだろう」


「はい。けれど、ノヴァと一緒に居られる時間が増えるし協力してくれる悪魔族の方々もおられます。しかもにぃ様が傍にいてくださるので、あんまり不安はないです」



僕とノヴァに話がきた時から一番最後まで反対していたのがにぃ様だ。

家業は一時ほど忙しくはなくなったと言えど、掛け持ちは負担になるし、相手は異界の悪魔族だ。
負担なデカすぎるってにぃ様はクラージュ殿下にめちゃくちゃ怒って、1週間くらい職務放棄して僕にべったりだった。



僕は丁度ノヴァが魔導具の研究で忙しくて1人の期間だったし、大好きなにぃ様が傍に居てくれて嬉しい限りだったけど、クラージュ殿下とヒュー様は呆れながらも仕事に出てこいと毎日にぃ様を説得しに来てた。

まぁ、説得という理由でお茶休憩時間を確保しに来てただけみたいだけど。




そういうこと行いが許されるのはにぃ様がアーバスノイヤー公爵だからで、他の人が突然お仕事行かなくなったら絶対クビだよね。


そんなにぃ様を説得したのは僕じゃない。




にぃ様を説得したのはナイ様とクラージュ殿下だ。





お仕事行かなくなって、アーバスノイヤー家にも帰らず1週間。
ナイ様が家に来て、

「兄弟愛が素晴らしいことは良いことです。できれば尊い貴方達の時間を邪魔したくはないけれど、そろそろ領地のお仕事はしてくださらないと領民が飢え死にますわ」

とティーカップを傾けながら圧のある笑顔でにぃ様に告げた。

しかし筋金入りの僕溺愛にぃ様は渋った。


「まぁ、ルナイス様もアドルファス様がご自身を理由に領民を飢え殺したなどとなれば酷く心を痛めることでしょう…ねぇ?」


最後は僕にすんごい笑顔の圧で投げかけてくるナイ様。

さすが僕最優先です宣言のにぃ様と結婚なさった御方である。




僕的には正直にぃ様が帰ってしまうのは寂しいので頷きたくはなかったけれど、確かに今回のことで領民達に迷惑をかけるのは違うなと冷静な僕が納得した為、仕方なく僕もナイ様の言葉に続けることにした。


「そうですね。今回のことは領民には何の関係もないのですし…にぃ様。こんなこと僕が言うのはあれですけど、領地運営はやらなくてはならない事だと思います」


「…分かった。ならば、此処でやる」



思わずわぁっと声を上げた僕をナイ様がスンっとした目で見てきたので慌てて口を閉じた。



「アドルファス様。ルナイス様が危険な目にあった時、悪魔族の御方は何度も手を貸してくださいました。ルナイス様の伴侶であるノヴァ様は半魔。お2人以上に魔界との仲介役が務まる者が他にいると言うのなら進言なさればよろしいのではないですか?ただ、幼子のように不貞腐れて相手が自身の思うままに動くことを待つのはもうよしなさい」


ピシャリと言い放ったナイ様の言葉ににぃ様だけでなく、僕もしゅんっとしてしまう。

そんな僕の頭を撫でながらも、にぃ様だって落ち込んでいるのが分かる。




「幸いにも貴方の仕えるクラージュ殿下は貴方を大切な友とし、貴方の願いをできる限り叶える為に動いてくださるとても素晴らしい御方ですわ。きちんとお話するべきです」



「ふふ、そのことなのだけれど、アドルファスこんなのはどうだい?ウォード夫夫が魔界との交流の場にいる間の警護に君を派遣しよう。どうだ?」



「…恩に着る」




ナイ様の言葉の後に、いつの間にやら部屋に通されていたクラージュ殿下が穏やかに笑いながら、しかし目の下に隈をつくっている顔で放った案に、にぃ様は決まりの悪そうな顔でお礼を言ったのだった。



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