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第5章
クラージュ殿下が協力的な理由
しおりを挟むにぃ様達と別れたあと、僕はノヴァとも別れてクラージュ殿下の元にこっそりと訪れた。
突然の申し立てであったのにも関わらず、クラージュ殿下は笑って出迎えてくださった。
まずは、にぃ様と僕の為に寝る間を惜しんでまで周りを説得して話を通してくれた事にお礼を告げた。
そして僕はずっと気にかかっていたことを今日この場でクラージュ殿下に聞いてみることにしたのだ。
「クラージュ殿下にはずっと聞きたいと思っていた事があります」
「いいよ。何でも答えよう」
何でもって…と、ちょっと協力的すぎる殿下に引きつつ答えてくれるのは有難いことなのでそれについては敢えて触れないでおくことにして、学生の頃から気になっていたことを聞いた。
「どうして貴方はそこまでして僕達、にぃ様の為に動いてくださるのですか?」
クラージュ殿下に助けられたことは今回の事だけではない。
今までひっそりと何度も僕達のことをサポートしてくれていたことには気づいている。
だって僕が王城に呼ばれた時には、必ずクラージュ殿下の目があった。
公の場では殿下ご自身であったり、にぃ様を配置してくれたり。
廊下や仕事の時はひっそりと影の者を僕につけていたこともコルダから報告を受けている。
それに影の者は僕が鍛えたことのある人物が多いから気配で分かっていた。
「私はね…幼い頃から同い年の子より大人が側に居ることが多かった。毎日よくわからない言葉を並べられ、それにどう答えるか考え抜かねばならない環境に4歳の頃にはほとほと疲れていた。」
「4歳」
4歳児を疲れさす大人達が居たということが、なんとも言え無い気持ちになる。
しかし、クラージュ殿下の立場を考えればそういった環境であったことは仕方がないと言えば仕方の無いことではある。
「そんな時に出会ったのがアドルファスだ。私のお披露目会の時にアーバスノイヤー公爵と共に挨拶に来たアドルファスは私に向かって言ったんだ。『貴方は王子なのだからもっと堂々とすればいい』ってね。」
その時を思い出しているのか、クラージュ殿下はクスクスと楽しそうに笑う。
「こうも言った。『ヒューは俺の顔色を伺わないし、殴ってくる』ってね。今思えばあの場でそのような発言をしてお咎めがなかったのはアドルファスがアーバスノイヤー家の者だったからなのだが…私はアドルファスのそんな言葉がきっかけで考え方が変わり、生きるのが少し楽になったんだ。その後もアドルファスのおかげで私は自分を見失わずに生きてこれた。私の中でアドルファスは唯一無二の友なのだ。だから、彼の為なら出来る限りのことはしてやりたいと思う。それがアドルファスや君の為に動く理由だ」
そう言って照れくさそうに笑うクラージュ殿下に何だかこっちまでむずむずした気持ちになってしまった。
些細なことだけど…その些細なことが人の人生を大きく左右するっていうことは僕にも覚えがある。
ちょっとした一言で、考え方がガラリと変わることだってあることを僕はよく知っている。
「クラージュ殿下。良い事教えてあげます」
「良いこと?」
にぃ様を凄く大切にしてくれてるクラージュ殿下にちょっとした良いことを教えてあげる。
「アーバスノイヤー家は別に近衛騎士にならないといけない何て決まり、ないんですよ」
「え?」
そう。
アーバスノイヤー家は代々優秀な近衛騎士を輩出してきた由緒正しき公爵家であるが、別に必ず近衛騎士を輩出しなければならないなどという決まりはない。
アーバスノイヤー家の家訓は昔から
『守りたいと感じたものを守り抜け』だと聞いている。
「にぃ様は別にこの国を守りたいんじゃないですよ。僕を守るだけなら近衛騎士になる必要はないですし。にぃ様、国の為にあくせく働くクラージュ殿下の元で騎士をしてるの楽しいみたいです」
僕のそんな言葉にクラージュ殿下は暫く固まった後、ふっと破顔した。
くしゃっと泣きそうな顔で笑うクラージュ殿下に僕もにっと笑って返した。
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