6 / 14
6
しおりを挟む「すみません。待ちました?」
「待ってないよ」
白い息を吐いて先輩は俺の手を取って歩き始めた。手はひんやりと氷のように冷たい。待ってないなんか絶対嘘じゃん。手を外して彼の服のポッケの中に入れてあげると何故かムッと不満気な顔をしていた。
「手、繋ぐの嫌だった?」
「いや違います。寒そうだったんで」
「そこは創の手で温めてくれるとこだろ」
彼の細長い骨ばった手が俺の手に絡む。面と向かってこんな事を言われると面映ゆい気持ちになった。しかし後にこの男が妹に惚れると思うと顔の熱は冷めた。
先輩と居ると調子が狂うしこちらから先手を打とう。
「ま、じゃなかった。湊。その」
「ん?」
「俺の家に来ませんか?」
そう言うと湊の笑顔がスっと消えた。
何故このタイミングで?可愛い天使を見せてやると言われてそこはいつも以上の笑顔になるところだろう。
「創、そういうのまだ早いと思うし、俺は創を大切にしたいと思ってる。だからもっと手順を踏んでからそういう事をしたいと思ってるんだ」
「……え?どういうことですか?」
「うーん、本当に警戒心が無くて心配だなぁ。そこも可愛いんだけど。まあとりあえずそれはもうちょっと後でいいよ。な?あと他の奴を家に入れたらダメだぞ」
彼の言葉の意図が分からず俺は思考を巡らせた。家へ行く=結婚のご挨拶なんて思ってるのかな。思い込みが激しいな。
「で、でも湊には妹に会ってもらいたくて」
「妹?どうして?」
付き合わせるためです、なんて言えない。くそっ、本当は二人を付き合わせるどころか引き離す為に近付いたのにどうしてこんな目に。まぁ自業自得ですけど……。
「すっ、すっごく可愛いから是非見て欲しいなって」
「へえ、写真とかあるの?」
「はい!どうぞ」
数多ある妹の写真の中から俺は最近の写真を見せた。タイトルをつけるならばクレープの妖精ちゃん。クレープを頬張る姿はマジで妖精の国から迷い込んでしまったのかと思い込んでしまうほど可愛い。実物の方が可愛いのは当たり前だが写真でもめちゃくちゃ可愛い。これなら湊も正気を取り戻し妹に惚れて俺をこの場で振るだろう。
そう考えていたが、彼は写真を見て直ぐに視線を外した。
「創とはあんまり似てないんだね」
「当たり前ですよ!うちの妹はすっっごく可愛いんで!俺が兄になれたのはきっと前世の俺が何か良い事を沢山したからだと思います。世界救ったとか勇者だったとか」
「はは、凄く好きなんだな」
「大好きです!」
「そうか。でも、ちょっと彼氏的には妬けるな」
妹の事を嬉々として語っていたが、湊の言葉にピシリと固まる。あれ、まだ妹の事好きになってないのか?写真でも充分可愛いのに、やっぱり湊程のイケメンだったら美女に耐性がついてるのかもな。やはり本物に会わせないと。
脳内で計画を立てている最中、湊は困ったように眉を下げた。
「おいおい、彼氏がこんなにアピールしてるのに無視か?」
「えっ、あ、すみません!湊の事も好きですよ」
「取って付けたような言い方だな」
「うぐっ、ほほ本当ですよ!」
んー?と彼は目を眇めて俺の顔に近付く。近い!いちいち距離が近い!妹と付き合った際は程良い距離感を保つようにしっかり湊に言い聞かせなくては。
湊は俺の唇に人差し指を当てた。そして悪戯を思いついた子供のように言った。
「そうだ。創からキスしてくれないか?」
「何でそうなったんですか!?」
「創が本当に俺の事が好きならキス出来るだろ?好きじゃないなら別にしなくていいけど」
う、そう言われたらキスしないといけないじゃないか。まあ落ち着け俺。一度湊の方から額にキスされたことはあるし俺だって出来る。
グッバイ、俺のファーストキス……。
俺は湊の両肩を掴む。湊はちょっと驚いたように目を見開いたが口角を上げて微笑んでいた。意を決して顔を近付ける。心臓がバクバクと煩い。もう少し、というところで俺は怖気付いて進行方向を変えて頬に口付けた。
「……あれ、そこ?」
「そこもキスのうちの一つですよ!はい終わり!俺が湊の事好きって証明出来ましたね」
「うーん、ちょっと納得いかないけど創からキスしたのはこれが初めてだよな?」
当たり前だ。こんな平凡な野郎に今まで彼女が居たと思ってるのか?
頷くと湊は「じゃあいっか」と笑顔になった。よ、良かった。正直唇じゃないから拗ねるかと思ったけど満足してくれたようだ。安心したのも束の間、彼が俺の腰に手を回し、そして俺の唇に柔らかいものが重なった。
え?思考が停止し頭が真っ白になる。対して彼は角度を変えて触れるだけのキスを何度も落とす。俺が動揺して抵抗も出来ない間に彼の舌の先が俺の唇をこじ開けようと突いた。せめてそれだけは、と唇を固く結んだが、人の声がどこからか聞こえてそっちに意識が移った。彼の背中を叩くが離す様子は全く無い。声を掛けようと口を開いた瞬間、獲物を捕らえるように舌が差し込まれた。
「みなっ、んぁ」
口付けは更に深くなり、彼は舌を這わせ俺の口腔内を貪る。痺れるような初めての感覚が俺を襲い、また唾液の混ざる音が聞こえ羞恥心も湧いてきた。
人の足音が近付くと流石に湊も唇を離した。名残惜しそうな顔をして俺の口の端から零れるものも舐めとる。
「ごめんな。びっくりした?」
力が抜けて上手く立てず湊に寄り掛かりながらこくこくと頷く。
「抱っこして連れてこうか?」
「や。それは、だめ」
妹にこんな醜態を見せられるわけが無い。酸欠でろくに話せないし落ち着いてから行きたい。そんな俺の気持ちを汲み取ったのか、湊は子供を宥めるように俺の頭をいつものように撫でた。すると、自然と気持ちが落ち着き力が戻った。さっきまで子鹿のようだった足が元に戻り俺はまるでク○ラが立ったように喜んだ。
「あ、た、立てた。立てました。もう大丈夫です」
「良かった」
「てか湊のせいですからね!?あああんなの駄目です!もう二度とキスは駄目。駄目です」
「えっ、二度と?そんな」
「もう怒りましたから!さようなら!」
全力で走り、湊から逃げるように家へ向かった。
湊の馬鹿野郎。本当に奴は油断ならない男だ。初めてのキスなのに許可も無く急にしてきて、なんて奴だ。
こんなのを妹にもするのだろうか。妹は俺の百倍繊細で純粋だから倒れてしまうかもしれない。妹にも、あんな風に甘い言葉を囁いてキスをするのだろう。でも俺なんかよりもっと大事に優しくするだろうか。
徐々に足取りが重くなり、少し屈んで息を整えた。深呼吸を繰り返しても息が辛い。
「……ムカつく」
胸の奥でまだ何かが疼く。厨二病にでもなったのかな、そう思い直して前を向いた。
19
あなたにおすすめの小説
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
両片思いの幼馴染
kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。
くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。
めちゃくちゃハッピーエンドです。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
サンタからの贈り物
未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。
※別小説のセルフリメイクです。
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる