勘違いラブレター

ぽぽ

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 真野先輩のせいで授業も集中出来ず、昼休みになってしまった。食欲も湧かず机の上で項垂れていると元凶の男が現れた。
 
「はーじめっ。一緒に昼食べよう」

 クラス全員の視線が俺に集中する。嫌です、なんて言えば俺の明日が無くなるため仕方なく心の中で涙を流して頷いた。

 食堂へ行くといつもより人の目を感じる。俺にではなく真野先輩への視線だとは分かっているが。彼はいつもこんなに注目されても笑顔を浮かべているのか。俺なんて自分じゃないと分かっていても何だか緊張してしまう。まあ、この人鈍感だし気付いてないだけかも。
 
「湊ー!こっち早く来いよ」
「今日遅くね?」

 先輩の友達が話し掛けてきた。中にはバスケ部の先輩もいる。よしっ俺はこの隙に逃げるか。そう思い後ろを振り向いたが、まるで俺の行動を読んでいたのか、真野先輩は俺の腕をしっかりと掴み彼等の前に出した。

「創も座らせていい?」
「お、創じゃん。お前らそんな仲良かったっけ」
「あ、はは、こんちはー。お邪魔したら悪いですし他で食いますよ」

 気にすんなって、と先輩達は快く俺に席を勧めてきた。今その気遣いは要らねえ……。
 
 うちの食堂は券売機で食べたい物を選びおばちゃん達に渡すという仕組みだ。因みに俺のイチオシはハンバーグ定食。ふっくらと肉厚でジューシーなのだ。頬を弛めて席へ戻ろうとすると声が聞こえた。
 
「嬉しそうだなぁ」

 ブーブーと悲鳴のようなクラクションの音が脳裏に響く。これは真野先輩が接近してきたという真野警報だ。今考えた。
 隣の席に座るように促され、そのまま腰掛けた。

「何を取ってきたんだ?」
「ハンバーグです」
「へぇ、良いな。一口いいか?」

 口を開く真野先輩。
 ……え、もしやあーんしろって意味?
 ハンバーグを真っ二つに切り、片方を真野先輩の皿へ乗せた。残念だが俺は「あーん」してくれる恋人じゃないんだ。こんな公の前で出来るわけないでしょうが。てか、周囲の先輩達も引くだろう。

「つれないな、創は」
「真野先輩は油断出来ないので。今朝みたいな事をされたらまた真野警報が」
「ぷっ、真野警報って何だよ」

 あ、ミスった……。つい心の中で思っていた言葉が口に出て本人にバレてしまった。先輩は口を手で押えて緩んだ口角を隠しているが、くつくつと笑って小刻みに震えるのはバレバレなんだからな。
 すると、さっきまでスマホを触りながら食事していた部活の先輩が身を乗り出して話し掛けてきた。

「真野、なんか楽しそー!はっちんと真野っていつの間にそんなに仲良しになってたの?」
「ああ、最近な」

 絶対余計な事を言うなよ真野湊。この人は公の前で俺達の関係を平気で言いそうで怖い。ただでさえこの部活の先輩は察しの良い性格で交友関係も広い為、影響力もある。一番俺達の関係がバレたくない。
 俺はさりげなく席から立ち上がった。

「ちょっと、おかわりしてくるので席外します」
「俺も付き添うよ」

 真野先輩も共に俺の横に付いてくる。ちょうど良い。一回真野先輩に話さなきゃいけないことがあるから。
 
 俺は彼をトイレまで誘導した。生徒は昼食を食べているため、誰一人来ないからだ。どこかひんやりしていて何処と無く漂う気味の悪さが俺の不安を掻き立てる。しかし、俺は真っ直ぐ真野先輩を見て頭を下げた。

「俺達の関係は周りには内緒にして下さい」
 
 言ってしまった。でも、男同士だし周囲にバレないようにする事は当たり前じゃないか?だけど真野先輩って朝から迎えに来たりカップルっぽいこと好きそうだし傷付くかも……。
 しかし、先輩は思ったよりも平然としていた。

「分かった。創が言うなら受け入れるよ」
「本当ですか?ありがとうございます!」
「但し、俺の頼みを一つ聞いてくれるなら、だが」

 目を細めた。
 ……ですよね。そんな直ぐに事が決まるわけないですよね。仕方ない。引き受けよう。俺はもうどうだっていい。雑用でも何でもしてやる。

「じゃあまず毎日放課後一緒に出掛けたいな。あと家族には彼女としてじゃなくても顔だけ合わせて欲しいな。それと朝も俺と一緒に」
「待て待て待て。なんか多くないですか!?」
「バレたか」

 バレるだろ。この人俺が聞いてなきゃ沢山言うつもりだったな。それに、一つ一つの願いがかなり重い。絶対にやりたくない。
 真野先輩は口角を上げながら、本当の一つの願いを言った。

「そうだな。じゃあ「真野先輩」って呼び方を変えてくれないか?」
「え、そんなのでいいんですか?」
「なんだ?やっぱり毎日デートにするか?」
「御遠慮致します」

 デートは流石にしんどいためお断りだ。だが、呼び名なんて何が良いのか。呼び捨てとか?先輩相手にそれはちょっとレベルが高い。でも、恋人だからな……。
 意を決して彼と目を合わさず一つ咳払いをして名前を呼んだ。

「え、えー……湊?」

 一気に距離が縮まったように感じる。チラリと彼の顔を見てみると、目をパチリと瞬きさせてこちらをずっと見つめていた。え、何これ。どういう反応?俺、間違ってる?暫く沈黙が続いたが、彼がついに声を落とした。

「……湊先輩、かと思ったがまさかそう言われるとはな」
「えっ、やっぱりなしで!湊先輩でいきましょう」
「湊か。良いな」
「お願いします。俺は湊先輩が良いです」

 彼は少し残念そうな顔をしたが、まあ人がいる時は良いかと言ってくれた。良かった。これで一安心。
俺達はその後、昼休みが終わるギリギリまで食堂で過ごしたのだった。放課後も共に帰る約束をして別れた後、俺は重大なことに気付いた。

 先輩を妹に会わせないといけないんだった!先輩といると先輩のペースに振り回されてやるべきことを忘れてしまう。放課後は絶対に言おうと心に決めた。
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