勘違いラブレター

ぽぽ

文字の大きさ
8 / 14

8

しおりを挟む
 部活が終わり外はすっかり冷えて空に暮色が漂う。その寒い中、俺は校舎裏でいた。いつも一緒に帰っていた湊に予定があると伝えた時は残念な顔をしていたが、俺だって本当は直ぐに家に帰り天使に癒されたかった。
 さて、そんな俺が何故ここにいるかというとある人物に呼び出されたからだ。
 
「でさぁ、湊って超優しいわけ」
「はあ……」
「ちょっと。真面目に聞いてる?」
 
 彼女の小さな顔が俺に近づく。近くで見るとより彼女の大きな瞳が際立って見えた。女の子らしい甘い香りがして何だか緊張する。こんな美少女に告白されて断る男子がいるのだろうか。そんな事を考えていると彼女は不満げな表情を浮かべた。

「ねえ、瑠愛の話ちゃんと聞いてるの?」
「あ、はい。すみません」
「だから、湊も多分瑠愛に気があるの。そう思わない?」
「えー、そうかもしれませんねー」
「だよね!」
 
 彼女は以前湊に胸を押し付けてた、っとこんな言い方では悪いか。彼女は湊にノートを一緒に運んで欲しいと頼んでいた先輩である。しかし何故俺が今彼女とこんな会話をしているのかと言うと俺にも分からない。急に手紙で校舎裏に呼び出されたから決闘かと思ったら現れたのは可愛い女の子でひっくり返りそうになった。
 瑠愛先輩は湊の惚気話を俺に語っているが一体何を言いたいのか?まさか俺達が付き合ってるってバレてる?
 
「創くんだっけ?創くんってさ念の為に聞くけど湊のこと好き?」
 
 俺の目を覗く。瑠愛先輩の目は茶色が少し混ざっていてぱっちり二重でとても可愛らしいが、何故か今は少し怖かった。
 好きってどういう意味だ。好きの種類なんて沢山ある。先輩として、友人として、沢山あるが俺が真っ先に思い付いたのは恋愛としての「好き」だった。別に俺は恋愛として好きじゃないのに。
 
「先輩として良い人だと思ってます」
「あ、そう?良かったぁ。もしかして創くんって瑠愛と同じかと思っちゃって。でもそうだよね!普通男が男を好きとかないよね」
 
 花が咲いたような笑みで俺に同調を求める。ここまでは別に俺は特に傷付きもしなかった。当たり前だ。だって同性なんて世間で認められてないって分かってるし彼女がそう思うのも普通だ。
 しかし、次の言葉で鳩尾を打ったような一撃を食らった。
 
「前もあったの。湊と付き合ってる男がいて、湊は瑠愛のなのに執拗く纏わりついて超うざかった」
 
 ……そっか。他に付き合ってた男がいたんだ。俺が初めてじゃなかったのか。まああんなに慣れてるし分かりきってたことだけど、男の恋人がいたなんて。
 全身の気力を失い、俺は相槌を打つことも出来なかった。ショックを受けた姿を見て何を勘違いしたのか瑠愛先輩は更に付け足して言った。
 
「あ、でも湊は瑠愛とも付き合ってたし女子も好きだから。多分どっちでも大丈夫なんじゃない?」
 
 別にそれはどうでも良い。湊は押しに弱そうだし瑠愛先輩に強引に言われて仕方なく付き合いそうだ。
 でも、その男の人って告白したのは湊から?その人から?モヤモヤする。胸が強く握り締められているように苦しい。なんで?別に俺は好きで湊と付き合ったわけじゃないのに。どうせ俺とは直ぐ別れる仲だし恋愛感情なんて全く無かったはずだ。
 
 瑠愛先輩はその後も何か話していたが全く頭に入らなかった。頭の中ではずっと湊とその男の人が仲良さそうに手を繋いで抱きしめてキスして、そんな幸せそうな姿がぐるぐる回る。

「ちょっと聞いてる?」
「……あ。すみません。えっとなんて?」
「湊の連絡先教えて欲しいわけ。湊が携帯変えてから連絡先分かんなくなっちゃってクラスLIMEも入ってないみたいだし」
 
 湊とLIMEは付き合う前から交換してた。いつだったか忘れたけど、いつの間にか登録されていた。
 
「でも、勝手に教えていいのか……」
「あー気にしないで?瑠愛と付き合ってたんだし良いに決まってるでしょ」
 
 そう言われても俺はなんだか気が進まなかった。きっとこの人はLIMEを交換したら毎日のように文字を送って湊も律儀にそれを返すのだろう。もし、もし二人が復縁したら
 
「嫌です」
「は?」
「駄目ったら駄目です!」
「いや、何言って」
「駄目なんです!てか自分で頼めない奴にあげたくなんかありません!」
 
 そう言うと、目の前の女の子はあんなに可愛いお人形さんのような顔から般若の顔に大変身した。ひょえ、こわ……。
 顔が真っ赤になった彼女は拳を振り上げた。そして勢いよく俺の頬を平手打ちした。
 
「別にあんたのでもないのに何様!?マジでうざっ!」
 
 そう彼女は言い捨てて帰った。
 右の頬がじんじんする。熱くて痛い。だけど嫌な気分は無かった。寧ろ湊を悪い奴から守ったような達成感が強かった。フハハ、流石俺。ちゃんと言ってやれたしスッキリした。
 
 過去にもこのように、俺の大天使・妹の連絡先を教えて欲しいなんて馬鹿げたことを言ってくる男がいた。その度俺は数々の男を成敗してきた。時には殴られたり馬鹿にされたりしたが別に俺は良かった。好きな人を守るヒーローになった気分がするし兄として当たり前の行動だ。
 しかし、瑠愛先輩の言葉を思い出すと同時に昔の記憶が蘇る。
 
『お前のじゃねえしいいだろ別に。シスコンマジできっしょ』
『コイツと縁切った方が幸せだろうな』
 
 ……気持ち悪いなんて分かり切ってますよ。
 だけど妹は時々俺を煙たがるけど直接「きもい」とか「うざい」とか言うことなんて一度も無かった。増してや「縁を切ってくれ」なんて言うわけが無い。寧ろこうして言い寄る男を成敗すると、家に帰ったら優しい笑みを浮かべて「ありがとう」と言ってくれて手当てもしてくれる。
 だけど、湊はどうだろう。
 瑠愛先輩ともしかしたらもう一度付き合いたかったかもしれない。俺が知らないだけで、本当はシスコンの俺をキモイとか思ってるかもしれない。本当は俺なんか好きじゃなくて単に元彼の代わりで付き合ったのかもしれない。
 
 とぼとぼと遅い足取りで帰途に着く。家へ入ると妹は驚いた顔をして久しぶりに俺の顔を手当てしてくれた。
 
「兄さんが怪我するなんて久々ね。もう私のために怪我なんてしなくてもいいよ」
「……今日は違う。別の人の連絡先を教えないって言ったんだ」

 そう言うと妹は目を見開いた。当然だ。俺が彼女の前で他の人間の話をするのは滅多にないから。
 
「それって、真野先輩?」

 こくりと頷くと妹はいつもの涼しげな顔に戻った。俺の頬を片手で冷やしながら俺の手をぎゅっと握った。
 
「兄さん、真野先輩のこと嫌いじゃなかったの?」
「嫌いじゃないよ」
「ふうん。前はあんなにダメダメ言ってたのに。何かあった?」
「だって、その、お前の未来のお婿さんだろ。だから助けたの!別に好きとかそんなんじゃない!」
 
 俺がそう言うと呆れたように妹はため息を吐いた。そして俺の手から離して、暗い空気を飛ばすように両手を叩いて言った。
 
「日曜、出掛けるんでしょ?楽しみにしてるよ」

 妹のテンションに合わせて笑顔を作るものの心は晴れないままだった。
 その日、土曜日の予定を断った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

処理中です...