最後の女

蒲公英

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37.

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「やーんっ! 小さいって文句いうくらいなら、触んないでっ!」
「揉みゃあ、ちっとは刺激されて育つ」
 形ばかり巻きつけたバスタオルを引き剥がし、秀一は茜の耳を舐めながら胸を揉みしだく。いつも通りのすべらかな肌の感触を楽しみ、礼代わりに先端を摘む。耳の中を舌で満たされた茜は、身体から力が抜ける。秀一の指に愛らしく反応する先端は赤みを増し、秀一の口を誘う。
「ん……」
 小さな溜息を吐いて、茜は胸の上の秀一の頭を抱えた。片側を手で悪戯しながら、もう片側に舌を這わせている。焦らすように先端を避けながら、小さく舌が震動する。
 いつもより反応悪いな、と秀一は思う。とは言っても三週間以上間が空いた事情が事情なので、いくら明るく振る舞っている茜でも、気が乗らないのかも知れない。けれどこれ以上引きずっても、このままってわけには行かない。胸の先端をぎゅっと吸い込み、秀一の手は茜の下腹に伸びた。閉じた脚の間に指をしのばせ、ゆっくりと動かす。小さな核に行き着くと、茜は身体を捩った。普段なら、この段階で秀一を迎える準備が整っているはずのそこは、まだ緊張を引きずっている。身体を伸ばして耳元に唇を持って行き、秀一は小声で尋ねた。
「――怖いか」

 秀一の質問に、茜は首を横に振る。大丈夫なつもりだった。自分のキャラクターはあっけらかんとした、深刻にならない人間として育ててきたはずだ。秀一もそれを気に入ってくれているのだと思っているし、そう見える自分が気に入っていた。秀一が外出を提案したとき、落ち込みがちな自分を気にかけてくれたと嬉しく思ったから、いつまでも引きずってないよ、大丈夫だよと宣言したつもりだった。
 ラブホテルに泊まって一緒にお風呂に入って、ふざけていればなし崩しに、自分が元の自分と同じようにできると思った。それなのに一度沁み付いた怯えが、茜に水を差す。
 怖いかと問われても、正直に首を縦には振れない。怖いと答えれば、秀一は茜を労わって懐に抱えたまま眠ろうとするだろう。外見が仁王であろうが、仏頂面が張り付いていようが、秀一はやさしい。だからこそ、このまま怯えているわけにはいかない。
「怖くない、大丈夫。して、秀さん」
 茜は秀一の首に腕をまわし、唇を引き寄せた。

 何度も唇を重ねて、舌を絡ませた。耳がべたべたになるほど、耳にキスした。首に顔を埋めた。胸を噛んだ。時間をかけて茜が暖まるのを待った。やっと茜の息が弾みだし、秀一は茜の脚を開いた。舌で核を探りながら、指で中を確かめてみる。
「んん……あっ……」
 狭くなった部分を指でノックすると、俄かに茜の腰は浮き、秀一は顔に安堵の表情を浮かべた。進める指で少しずつ、自分の場所を作って行く。核を吸いあげ、指で中を摺ってみる。
「はぁ……ん……」
 茜の顔が上気し、秀一の手を求めて手が差し出された。指を絡めながら、秀一はその行為に没頭する。舐めあげては吸い、指を潜らす。
「秀さん……もう、だいじょうぶ…だからっ……」
 茜の声が、切なげになる。顔を上げた秀一は、それに応えるように上体を起こした。

 切っ先が押し当てられたとき、茜は秀一の顔を見た。これは、私の大好きな旦那様。一生懸命私を守ろうとしてくれている人。
「きついな……まだ怖いか」
「大丈夫って言った」
 目を閉じてゆっくり息を吐き、茜の身体は秀一を受け入れた。

 ひとつになるって、なんて気持ちの良いことだったんだろう。合わせた胸の体温を感じながら、茜は秀一の背に手をまわす。このままくるんとひとつのパッケージになっちゃって、ずっと離れないでいられたら幸福なのにと思い、そうじゃないと思い返す。秀さんが欲しがって、私も欲しがって、それが叶うから幸福なんだ。
「秀さん、気持ちいい?」
「もったいないくらい、気持ちいい」
「嬉し……私も気持ちいい。いっぱい、して」
「そんなに何回も頑張れねえ。おっさんだからな」
 秀一が苦く笑う。
「一晩じゃ、ない。これから、ずっと」
 よっしゃ、と秀一は茜の膝を持ち上げた。
「とりあえず、今日の分だ」
 ゆっくり腰を動かしながら、秀一が茜を見下ろす。その太い腕を、茜は握った。怯えはあるが、それよりもこの先が見たい。覚えてしまった感覚が、身体の中に花開いて行く。
「んっ……秀さん、すきっ……」
 腹に溜まっていく感覚と同時に胸を弄られ、背が反る。
「あ……あん……んんっ……」
「今日は隣に聞こえないぞ。乱れちまえ」

 足首をひとつに、身体を二つ折りにされた。接点は一箇所だけなのに、その感覚だけが大きくなる。残った手が核を刺激すると、自由にならない脚がびくびくと震えた。
「やっ……そこ触っちゃ、やだあっ!……」
「ああ、締まる……すげえぞ……涎垂れて……」
「やあぁっ! もう、だめえ……!」
 茜は首を横に振り、限界を訴える。握り締めたシーツの皺が、深くなった。

 足首を放して茜の上に身体を戻した秀一の腰が早くなる。もう痙攣の始まっている茜の中は、きつい。
「しゅう、さん……うあ……何か、ヘン……!」
 絶頂へと走りきって息は切れているのに、茜の首がぐぐっと反った。
「や……やあっ……!」
 瞬間茜の四肢は硬直し、次に手足ががくがくと震えだした。秀一を取り逃すまいと締め上げる中もぐぐっと一際強く締まり、秀一にも耐え切れない。
「いかせてくれ……」
「あ……あ、あ、あ……」
 大きく身体を震わせている茜を抱きしめ、秀一が果てると同時に、茜の身体も治まりを見せた。

「突き抜けちゃったか」
 まだ繋がって抱きしめたままの秀一が、腕の中の茜に口づけた。
「な、に?」
「いきすぎて、身体の外に出せなくなっちゃったんだろうな。そんなに良かったか」
「わかんない……わかんないけど……」
 切らした息のまま、茜は秀一にしがみついて顔を隠した。

 備え付けのガウンよりもマシだと、茜は上半身にTシャツを着て下半身はショーツのままだ。トランクスひとつで布団に入っている修一の横にごそごそと潜り、腋に顔を押し付けた。布団の端から目だけ出し、秀一の顎を見上げる。
「秀さん」
「何だ」
 秀一はもう、寝る体勢だ。
「秀さん、愛してる」
「うるせえ。明日早く出るんなら寝ろ、バカ」
 言葉足らずの秀一は、絶対に言わない言葉だ。けれど茜はもう、秀一が言葉にしないだけだと知っている。
 照れ屋で無愛想で怖い顔でオジサンなの。だけど、私は知ってるんだもん。
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