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45「池脇竜二×URGA」
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2016年、12月25日、クリスマス。
池脇竜二(R)×URGA(U)。
場所は都内某コンサートホール。
この日の対談は、毎年恒例となるURGAのクリスマスコンサートの会場を借り切って、
当日の朝に収録される運びとなった。
コンサートスタッフもまだ誰も来ていない静かな空間を独占する二人。
客席に並んで座り、照明の当たった舞台セットを見ながら静かなスタート。
ちなみにこの日、時枝は二人の側にはいない。
U「おはようございます」
R「おはようございます」
U「メリークリスマス」
R「メリークリスマス。なんで小声なの?」
U「年末だから?」
R「そうかい(笑)」
U「しかもまだ9時過ぎだよー?」
R「よく遅刻せずに来れたなって自分で感心してる」
U「でもクリスマス当日の早朝にさ、これだけ広くてこれだけ静かな場所を二人占めできるってすごくない?」
R「なあ」
U「あの池脇竜二が憧れるURGAさんとの対談だよ。テンション上がるでしょ」
R「小声で言われてもなあ」
U「声の大きさが取り柄みたいな二人なのにね」
R「今日いつもと違うじゃん。すごいキレイ」
U「お、おお。どうしたいんだ。喜ばせたいのか?落としたいのか?」
R「なんで落とすんだよ」
U「いつもと違うってのは失礼でしょ」
R「そか。いつも以上にって言えばいいのか」
U「ここ入って来る所からやり直す?」
R「(会場を振り返りながら笑い)結構大きい箱だな」
U「そうでしょ、ここ6年ぐらいずっと25日は私が抑えてます」
R「やるじゃん。渋谷なんて何年ぶりだろ」
U「いつもどこを拠点に課外活動をいそしんでるの?」
R「課外活動? …家の近所とかスタジオの近所で飲んでるかな」
U「お酒強いもんね」
R「まあ、そこそこは」
U「ずっと同じ所で飲んでて飽きない?」
R「大丈夫」
U「…」
R「…え?」
U「…なんか緊張してない?」
R「あははは。バレたかー」
U「竜二君にも緊張の二文字はあるんだね」
R「んー、普段ほとんどしないんだけどな。人が多い程緊張しないかもしれない。こうやって一対一とかの方が全然緊張する」
U「あー、分かる。客席って見えてるし見てるんだけど、でも見てないもんね」
R「視界には入ってるけど誰かと目が合うなんて事はねえよな。合っててもこっちは焦点合わせてないっつーか」
U「逆に一対一とかだと相手の目を見なきゃいけないから、人によっては緊張するよね」
R「うん」
U「前に翔太郎君と対談した時も、こうやって横並びにしてたもん」
R「そっか」
U「…疲れてるね」
R「あははは!気ー使いすぎだよ!」
U「だーってなんか変だもーん」
R「いやーまー、ううーん、色々あるよなあと思ってさあ」
U「あはは、うーん。色々あるよー。…生きてるからねえ」
R「ああ、良い事言った。そうだな、それに尽きるよな」
U「それはさておき、アメリカ行き、おめでとうございます」
R「あー。それもさあ、最近ちょくちょく言われっけどさ。ちょっと癪だなと思えてきて」
U「おいおい、今言う事か?」
R「(笑)、もちろん俺達がやってる音楽はアメリカが本場だし、向こうでプレイすることが日常になるってのはものスゲエ事だって分かってるんだよ。そこを目指してやって来たわけだから。だけどどっかで、俺達が一番だって思っていたい傲慢さも捨てたくねえんだよ。分かるだろ?」
U「うん」
R「だから本当は、世界に対して『お前らが来い』って言いたいんだけどな。でもまだそこまで言える状況じゃないってのに、おめでとうってなんだよって」
U「ワールドクラスとは、って事だもんね」
R「アメリカに行くのは楽しみだしワクワクしてるけど、アメリカでやんなきゃ意味ねえじゃんっていう言われ方は、なんだかね」
U「本当は、ドーンハンマーが好きなら海越えて日本まで見に来いよって事でしょ」
R「そ。本当の意味でワールドクラスってそれだと思う。だからいずれそうなったら、帰ってこようかな」
U「いいね、竜二くんらしい目になってきた。お目覚めですね? 今ここにカナちゃんいたらきっともう泣いてるね」
R「カナちゃん? 時枝さん? ああ、そうだな。時枝さん明後日誕生日だって」
U「27日?そうなんだね。おめでとう言わなきゃ。…え、12月って他にも誰かいなかった?」
R「繭子。12日」
U「もう過ぎたじゃん。そっかー」
R「はは」
U「…」
R「…うん?」
U「…そこはさー、URGAさんはー?でしょうが」
R「あー、…いつ?」
U「3月22日」
R「なんだよ!」
U「なんだよって何だよ(笑)」
R「今日かと思うじゃねえか」
U「あはは」
R「…いやそこはさあ」
U「竜二くんは?」
R「5月19日」
U「へー」
R「なんだよ(笑)。なんだこのやりとり」
U「もう日本にいないんだね」
R「あー、確かに」
U「プレゼント貰えるとしたら何が欲しい?」
R「くれんの?」
U「貰えるとしたら、何が欲しい?」
R「んー、考えとく。URGAさんは?」
U「池脇竜二をいつでも好きな時にコーラスに従える事が出来る権利!言えた!」
R「即答って(笑)」
U「同じ内容のプレゼント交換はなしだからね」
R「分かった」
U「今夜本当に皆で見に来るの?」
R「来るよ、チケット取ったもん」
U「買ったって事? あれ、オリーには用意したって伝えたけどな」
R「用意って、タダって意味?」
U「用意は用意(笑)」
R「そんなもんタダで来るわけねえだろ」
U「私は良いけどそうしないと席バラけちゃうよ? 自由席じゃないし、発売開始したの結構前だしね。逆によく取れたね、一応ソールドだよ」
R「織江はそこらへん抜かりないよ。いつ取ったかは知らないけど、そもそも取れたとしても横並びで抑えるとかしないだろうな。並んで見たいわけじゃねえし、却って好都合だよ」
U「袖に来る?」
R「…あわよくばステージに呼び込もうとか考えてない?」
U「ないよ(笑)」
R「うーん、でもいいかな、やめとく。ちゃんと正面から見たいし」
U「そっかー」
R「ありがとう、なんか気い使ってもらって」
U「ええ、自分達の事素人だと思ってない? 会場で顔指して私より騒がれるとか許さないからね?」
R「あははは!あんたのコンサートでそれはないだろ!」
U「あるよ。何度か別の雑誌のインタビューでバンドの名前出した事あるし、無関係じゃないのは割と知られてるよ」
R「そうなんだ。じゃあバレて面倒な展開になったら帰る」
U「ええ!?」
R「声がでかい(笑)」
U「袖に来る?」
R「ずっと袖の方向いて歌ってくれんなら袖行くわ」
U「ちょっとしたパニックになるね」
R「大混乱だろ(笑)。あれどうなった?『ひとつの世界』。やる?」
U「今日はやらないかな。やれないよね、なんかね」
R「やっぱり翔太郎とじゃないとやる気しない?」
U「ふふ、でもそういうものじゃない?」
R「そらそうだと思うよ。誰か別のスタジオミュージシャンが同じように弾いたってきっと、全然違う!って受け付けないだろうし」
U「そー。あー、嬉しい。そうなんだよ。分かってんなあ、竜二」
R「ふふ、ゲロ吐いちまうよなあ」
U「吐かないよ(笑)。吐かないけど、拒否反応出るんだろうなっていうのはやる前から分かっちゃうから、依頼するだけ失礼だよね」
R「あれ歌メロどっちが考えたの?」
U「二人で」
R「凄いな、あれ。普通になんの予備知識もなく聴いて、Aメロ開始20秒で鳥肌立ったもん」
U「よおおおーーし!」
R「静かにしようよ、な。朝だから」
U「やっぱり今日やろうかなあ?」
R「あははは」
U「いやー、しかしさあ、翔太郎くんてやっぱり凄いよね。天才だわ」
R「おーほほほ。ありがとう」
U「やっぱりバンドのメンバー褒められると嬉しいんだ?」
R「そりゃまあ、そうさ。今のバンド組んでからのあいつの貢献度って考えると、計り知れねえもんがあるからな」
U「プロとしての実績は竜二くんと大成くんの方が上でしょ?」
R「メジャーで音源を何枚か出したってのが実績なら、そうだろうな。ただバンドの音楽性が変わったから延長線上には考えてねえし、それはもともと一緒にやってた奴らにも失礼だと思うから。別の話だと思ってるよ」
U「今の4人で一緒にデビューしたんだ、くらいの気持ちなわけだ」
R「そうだな。まあ繭子の前にもう一人いたんだけど」
U「アキラくんだよね、知ってるよ」
R「そうそう。繭子になってからの方が長いけどな」
U「そっか。…翔太郎君て最初っからあんなに才能豊かな人だったの?」
R「どうだろうな。もともとガキの頃からの知り合いだけど、性格自体がガラっと変わったしな。あ、違うか。性格は同じかもしんねえけど、感情を表に出すようになったっていうかさ。昔は全然喋らねえ暗ーいガキだったし」
U「全然想像つかないね(笑)」
R「あはは、俺また殴られるかもしれねえな。まあ、いいや。でさ、最初のうちはあいつにあんな才能があるなんて分かってなかったけど、とりあえずギターの腕は俺達4人の中では抜群だったな」
U「へー」
R「でも俺の思うあいつの凄さって、もちろんそのテクニックもそうだけど、ほんと無尽蔵じゃねえかなって思えるぐらい、常に頭の中で音が鳴ってる所だと思うんだよ」
U「何それ」
R「俺らってまだ形になってない曲のストックがめちゃくちゃあるんだけど、なんでかっていうと翔太郎が狂ったようにメロディを生み出すからなんだよ。その、短いギターリフとか、ワンフレーズだけとかも合わせると正確な数が把握できないくらいに」
U「へええ、凄いね。ありがたい存在だねえ、曲作りに困らないなんて」
R「却ってプレッシャーだよ(笑)。死ぬまでに全部形になんのかよって真剣に途方に暮れるからな。ピンとくるかどうか分かんねえけど、あいつずっと携帯持ってんの。ギター弾いてる時以外ずっと」
U「今流行りの依存症だと思ってた」
R「だろ。あれ実はスマホのアプリで曲作ってんだよ」
U「えええ!スゴ。そういう人なのかあ」
R「そう。だから、めっちゃくちゃあるんだよ。色んな音が色んなスピードであいつの頭の中にあって」
U「ああああ、…欲しいー」
R「ふははは!そこはもうちょっと心の声にしとけよ。本気度がすげえよ」
U「そっかー。大した音楽家なんだなーやっぱり」
R「だから『ひとつの世界』の曲と歌メロを聞いた時、悔しかった部分もあるんだよ。いや、ちゃんと仕事したな、名に恥じないだけの曲作ったなっていう思いもあったけど、良い曲出しやがったなーおいーっていうね(笑)」
U「嫉妬だ」
R「そう。でもそれは多分俺よりもきっと大成が強く感じたんじゃねえかなあ。あいつの方がどっちかっていうと、曲調としては(URGAと)タイプの似てる作曲家だし、先越されたーっていうかさ」
U「ああ、うん。彼もそう言ってた」
R「翔太郎?」
U「うん」
R「へえー。でもあの歌はアレだな。全体のメロディもそうだけど、やっぱり歌メロがいいな。歌詞を上手く利用した響きの良い歌い方が出来てる。聞いてて気持ちがいい」
U「お、ボーカリスト対談らしくなってきたね。全然話変わるけど私竜二君の発音するThunderが好きだよ」
R「いきなりだな、ありがとう(笑)。びっくりした今、注意されんのかと思った。俺も今回のURGAさんの歌い方は好きだな。結構喉潰してる所がセクシー」
U「潰してはないよ、絞ってるけどね。捻り上げるような歌い方というか、慣れるまでは顎がガクガク動いちゃって、全然セクシーじゃなかったよ」
R「あー(笑)」
U「最初のうちは、『竜二意識してんのか?』って翔太郎くんに突っ込まれたし」
R「あははは! え、俺、顎ガクガクしてねえよ」
U「ガクガクって言うかなんかね、歌いながら顔でリズム追いかけてたみたい。体感的には速さを感じない曲だけどさ、作曲者の持ってる個性みたいなのがこれまで私が作ってきた歌とは全然違うリズムだったんだろうね。新鮮だった」
R「どっちかって言うと俺の方が馴染みがある曲な気がする」
U「そうなの。だから翔太郎くんに『竜二ならもっとこう歌うんだけどな』っていつ言われるかって内心ドキドキしてたもん」
R「そういう事は、言わねえよあいつは」
U「うん、言われなかったけどね。でもその時は不安でしょ」
R「まあな。でも初めて聞いた時に、大分あいつ寄りな気がしたから良かったのかなって思ったけど」
U「ドーンハンマーっぽいってことでしょ?」
R「いや、ドーンハンマーって言うか、翔太郎カラーが強いというか。歌メロは二人で作ったとしても、曲調がこれまであんたが作ってきた曲とは全然違うし、昔からいるファンは絶対違和感と受け取るだろーなって」
U「それはでも、…うーん、そうだなあ。ファンの期待に答えたい私と、裏切った上で新しい私を好きになって欲しい私がいるかな。今回は裏切ってもいいからやりたいことやろーっと、って」
R「ああ、なるほどな」
U「転調の多い曲を歌った事がないわけではないし、苦手でもないよ。あとは好きになる人と嫌いになる人がいるってだけだし、そこを判断基準にするのは独立した時にやめたかな。ただ、私が好き勝手に歌う事が誰かの心に寄り添うことなんだーなんて傲慢な事も思ってないから、私にしか出来ない事をしたいけど、でも一人でも多くの人に届けばいいなあとも、思ってる。それは普段私が歌ってる歌もそうだし、実は『ひとつの世界』だってそうだよ」
R「うん」
U「今回の共作がどういう受け止められ方をするかというより、私が歌う歌をたった一曲でもいいから側に置いておきたいと願う人が現れるかどうか、そこが大事」
R「すげえなあ。やっぱ色々考えてんだなあ」
U「でも君達と似てる発想なんだよ」
R「そうか?」
U「私の場合は、格好良いかどうかじゃなくて、誰かに必要とされる歌になっているかどうか、だね」
R「そこだけを追求していると」
U「そ」
R「難しいぜー?」
U「難しいよ~(笑)」
R「いわゆる流行歌になってはいけないし、かと言って説教くせえ魅力のない音楽でもいけねえしな。でも今それをやれてるのはURGAさんだけかもしれねえな」
U「ええー…。何だよ急にー。上げて落としてかあ?どうやって落とすつもりだあ?」
R「あはは!落とさねえよ」
U「あとさ、私歌ってて眉間に皺が寄る時があるの」
R「うん、知ってる」
U「でもそうなるのって私にとっては良い事でもあってさ。感情がスーっと入って行く時で、さっきの観客席の話じゃないけど視界が狭まって、違う場所へ魂が飛ぶような感覚になるんだよね。一瞬で別の次元に行けるみたいな」
R「ええー、凄いな」
U「『ひとつの世界』がまさにそうだったんだけど。竜二くんはそういうのない?」
R「そんなトリップ感はねえかなあ。いいなあ、一回その別次元に行ってみたい」
U「変な薬はやってないからね」
R「…からの?」
U「違う違う違う。ホラ!やっぱり落とした!」
R「(笑)、でも歌っててそういう感覚に陥るって怖くないの?コントロール不能になったりしない?」
U「ずーっとではないよ。完全に入り込むわけじゃないし。そういう感覚になれる時って物凄く集中できてるっていう事でもあるから、そういうメロディとか歌って、やっぱり自分の中では特別な一曲になる事が多いんだよね」
R「ああ、なるほどなあ」
U「特別な一曲って何かある?」
R「『終わりがくる時』」
U「ヘーイ、センキュー」
(手の平をパーンと上下で打ち鳴らす二人)
U「意外とベタなとこ選んで来てるように思えて、なんか竜二君らしくて好きだな。嬉しい。でもそれってやっぱりボーカリストとして選んでるとこない?」
R「意識したことないけど、そうかもしれないな。あの曲のあの声は、それこそ特別だよなーってつくづく思うんだよ。あの曲が出た時代とか身の回りの思い出やなんかも含めて好きだってのもあるけど」
U「へえー、そういう風に自分のこれまでの時間とともに愛してくれるのは嬉しい。そういう風にありたいといつも思ってる事だからね。曲で言えば、歌詞の内容もそうだけど、そこよりも歌い方であったりメロディの良さであったり、声の出し方とか、色んな要素が綺麗に補い合ってるなって自分でも思う。ベストパフォーマンスを発揮する為に歌うとしたら、絶対選択肢に入る歌ではあるよ、確かに」
R「URGAさんて自分の曲の中で一番二番とかある?」
U「あー、それはないかな。曲ってさ、好き嫌いでは作れないよね」
R「んー、でもうちは結構好き嫌いは関係してるかな」
U「そお? どんな風に?」
R「思いついたとしても避けるような歌い方とかあるだろ?」
U「ないよ?」
R「あるの(笑)」
U「例えば?」
R「サビでファルセットになるとか、ハイキーでハイトーンボイス使うとか」
U「へー、避けてるんだ」
R「うん。俺にハイトーンは似合わねえよ」
U「そんな事ないよ」
R「聞いた事ねえくせに(笑)」
U「あるよ」
R「ええ、いつ?」
U「大体分かるよ、想像力ないと思ってるでしょ」
R「あははは」
U「でも高い音域まで地声で持っていく方が竜二君らしいのは私もそう思う。叫んでるというか、吠えてる姿が似合ってるもんね」
R「ありがとう。そういう、スタイルっていう程大した話じゃないけど細かい部分で、それが消去法なのか、好きな物だけで固める方法か分かんねえけど、やっぱ偏りはするよ。ある時期はどうしても似通った歌い方が多いな、とか。そこを敢えて模索して別の歌唱法を試していく事でパフォーマンスに幅を持たせるんだけど、それってやっぱりもともと好き嫌いの存在があって、一つの方向性として自分の中にあるわけだしね」
U「それはでもいわゆる池脇竜二カラーをコレっていうものに決めてしまうか、カメレオンのように色々変化しながら挑戦していくかっていう話であってさ。曲を作る時の材料って詞とメロディと声でしょ。作ってる時は例えば、なんだろうな、格好良いぜ!って思って作ってるわけだから、絶対好きでしょ? じゃあ次の曲が出来た時に、前の曲はやっぱり好きじゃないってなる? ならないんじゃないかな」
R「嫌いにはならねえよもちろん。俺はでも、一番二番は言い過ぎかもしれねえけどこっちよりこっちの曲の方が好き、っていう感覚はあるよ。それもないの?」
U「あー、どうかなあ? 例えば新しいアルバムとデビューアルバムだったら、どっちが歌いやすいって言ったら新しいアルバムだよね。でも、じゃあデビューアルバムから何曲か歌いませんかって提案されたら、妙にワクワクしたり、嬉しかったりしない? やあ、久しぶりに会えたねえ、またよろしく頼むよー、なんて具合に」
R「分かる気はする」
U「なんかね、私の場合特に、ただ伝えたい言葉を書き連ねて一曲に仕上げました、というよりは、その時の自分の考え方や、歌詞には書ききれなかった色んな感情までぎゅっと詰まってる気がするんだよ。だからその歌を歌えば、それを作った時の自分が戻って来るような感覚になるし、その時私の側にいた大切な人や、友人や、家族や、…色々なものを感じながら歌ってるんだよね。竜二君が『終わりがくる時』を好きなのと同じように」
R「ああ、そうか。…そうなると、『好き』に順番はねえよな」
U「うん、そうなんだよねえ。でもさっき聞いた特別な一曲っていうのは、別に私の歌で好きなのどれって聞いたわけじゃなくて、まあそこも含めてだけど、竜二くんにとって特別な一曲ってどういう物なのかなって言うことね」
R「自分たちの歌も込みでって事? …それはー、ちょっとすぐには出てこねえなあ。多分歌ってきた曲数は、URGAさんにも引けを取らねえんじゃねえかなー」
U「そうだね。クロウバーの時代から数えると余裕で10枚以上アルバム出してるもんね」
R「それもそうだし、さっき言った音源化してない曲がいっぱいあるからなあ」
U「そっかー。デビュー曲って覚えてる?」
R「クロウバーのは覚えてる。シングルだったしな。ドーンハンマーはアルバムしか出してねえから、『FIRST』の1曲目がそれになんのかな」
U「思い入れ強くないの?」
R「思い出はあるけど、…どうだろう。今の方がもっと格好いい曲作れるしなって思っちまうかなあ」
U「過去の栄光は振り返らないぞ、と」
R「栄光なんてないけど。まあ、そういう見方もあるな」
U「君達っぽいね、それは」
R「なんていうか…。URGAさんにこういう話を聞かせるのは勇気がいるんだけど。音源に対してどこまで拘りを持ってるかっていう話になったらきっと、あんたとは何も語り合えない気がするんだよ」
U「なんで!?」
R「拘らないから」
U「ウソだよ、めっちゃ拘ってるよ」
R「うーんと。…もしかしたら翔太郎がもう言ってるかもしれねえけど、俺達のアルバムって作品じゃないんだよ」
U「ん、それはあれでしょ。そこで完成するわけじゃなくて、一杯演奏する事でどんどん進化していくんだって話でしょ?」
R「そう。要するにライブで暴れる為の手段なんだ」
U「そんなの別に珍しくないよ。皆そうだよ。私だってコンサートで色々なアレンジを試して曲の持つ顔をガラっと変えたりするもん」
R「それとはちょっと意味が違うかな」
U「どんな風に?」
R「もともと完成してる曲に新しい一面を持たせるとしたら、そこには準備や練習や入念な打ち合わせ、リハーサルが必要だろ?」
U「うん」
R「俺達は音源を完成した曲だと思ってないから平気で本番違う事をやるんだよ」
U「合わせらんないじゃん」
R「それでも合わすのがあいつらの凄さなんだよ」
U「ちょちょちょ、ちょっと待って待って。あはは、またこんな展開か(笑)。なんでそんな事したいの?」
R「格好いい曲をプレイしたいから」
U「それを作る為に、アルバム制作にあれだけ魂削ってるんじゃないの?」
R「そこがだから、あんたと違う所なんだよ。だから話が合わなくなるんだ」
U「えー」
R「いい曲を作りたいっていう目的はなくて、4人で格好いい曲ブチかますっていう目的の為の手段だから、曲は。今日完成させた曲を、明日壊したってかまわないんだ、そっちの方が格好いいんならね」
U「…じゃあ、何のために音源作ってるの?」
R「セトリだよ。これをライブでやる予定!全く同じにやるかは未定!」
U「あ、え、ライブに来ないファンはファンじゃいって事?」
R「そんな風に分けて考えてはいねえよ。音源聞いて『デスラッシュいいなー』『ドーンハンマーまたやりやがったなー』ってニンマリされるだけでも十分嬉しいし。けど、ライブに来たら確実に音源より凄いもん見せるとは思ってるよ」
U「それを音源で封じ込める事は出来ないの?その、凄いもんを」
R「やってるさ。やってるだろ? でもそこで完成なんだって誰が言える?なんで思える?今この瞬間にさ、もっといいアレンジ浮かぶかもしれないだろ。それをやるなって言うのか?だって毎日そんな事の繰り返しなんだぞ、俺達は」
U「ふわー…」
R「な、言った通りになったろ?」
U「ん?いや、怒ってないよ。逆にドーンハンマーの本当の凄さに触れた気がする。ずーっと動いてるんだね。立ち止まれない人達なんだね」
R「あはは、回遊魚か(笑)」
U「そうかー。そっかそっか。うん、なるほどね。色々理解出来た気がするよ。竜二くんのボーカルが曲ごとに違うのも、そこが理由なんだね」
R「そう。あー、うん、嬉しい。理解者がいた(笑)」
U「あはは、URGAです、どうぞよろしく」
R「よろしく」
U「私ね、こないだクロウバーのアルバム聞き返してみたの」
R「お、ああ、普通にびっくりした。ありがとな、忙しいのに」
U「ううん。だって音楽としてただ聞いて楽しむだけならドーンハンマーより全然心地いいしね」
R「うははは!」
U「綺麗なハイトーン出てたよ」
R「だから。ウソだろ、出してねえよ(笑)」
U「…『HOUSE OF NOISY INSANITY』」
R「…あ」
U「ほらー、ちょっとタイトル思い出すのに時間かかったけどもー(笑)」
R「完全に忘れてたよ。あー、確かに出してるわ。何で忘れてんだろ」
U「前にさ、たまには良い歌詞書くよねって話をした時にさ、私『AEON』って言ったでしょ。でも一番最初にそう思ったのって、実は別の曲なの」
R「なに?どれ?」
U「『レモネードバルカン』」
R「ああ、え、『FIRST』の? クロウバーの曲なのかと思った」
U「ややこしい話し方しちゃったね。『レモネードバルカン』という曲を初めて聞いた時、『俺達に任せとけ!』みたいなさ、ありふれた言葉のリフレインだけど、歌詞の内容と君達のキャラクターにマッチした音の世界が、なんかグッとくるなあって思ったんだけど、他はやっぱり8割方変な歌でしょ。でさ、今回クロウバーの音源を改めて聞き返してた時びっくりしたのがさ、ちゃんと書けるじゃないか!って思ったの」
R「あははは、あー、そこか。そうか、そうなるよな」
U「当時はやっぱりレコード会社から注文入った?」
R「いや、ビクターじゃなくて前の事務所からはね、あったよ。若かったから、こいつら分かってねえんじゃねえかって思われてたみたいで。だから当時は俺が言いたい言葉というより、曲を活かす為のフレーズを当て嵌めて作った感じだから、URGAさんにとっては変でも実は今の曲の方が全然歌いやすいんだよ」
U「分かんないもんだよねえ、そうなってくると」
R「そこは実際に作ってる人間にしか分からねえよな」
U「あれだけ絶叫しながら、早口だったり字余りを凝縮したりっていうあれやこれやの技術を要して歌ってるのに、もう少し大人しかった時代より歌いやすいんだ」
R「今もそうだけど、曲ありきの言葉選びだったりするからな」
U「昔からそうなんだね」
R「うん。また身内を褒めて気持ち悪いけど、昔みたいなああいう曲書かせたら本当に大成は名人だと思うよ。それは単純にミドルテンポとかバラードっていう話じゃなくて、綺麗な旋律や高揚感のあるサビに関しては翔太郎も自ずと道を開けるし」
U「棲み分けがちゃんと出来てる感じだね。曲書ける人間が2人もいるなんて贅沢だよなあ」
R「あはは。まあでも俺達のジャンルだと割とザラにいるよ、特にあっち(海外)だと」
U「世界は広いもんね。あと印象に残ってるのは、クロウバーの方だとこないだお願いした『裂帛』と、えーっと、『ブルーアース・バット』」
R「うんうん」
この時点ではまだ公式に発表されていなかったのだが、2017年春頃にリリースされるURGAのカバーアルバムに、CROWBAR時代の名曲『裂帛』を収録したいと申し入れがあったようだ。もちろんバンド側は快諾している。
U「あれさ、アルバム誤表記だよね?」
R「どれ?」
U「『BLUE EARTH BAT』」
R「何が?」
U「え、だって意味合い的には『わが星、あるいは』っていう事だよねえ。そしたらBUTじゃないと駄目でしょ。BATだとコウモリか野球のバットになっちゃうよ」
R「あはは。あってるよ」
U「ええ!? なに、どっち?」
R「野球のバット」
U「えええ!地球はじゃあ…ボール?地球をバットで打っちゃう歌なの?私の感動を返せ!」
R「ちゃんと聞いてくれてんだねえ、嬉しいなあ。ありがとうな」
U「聞いていい? なんでクロウバーやめたの?」
R「クロウバーをやめたというより、作りたい曲の方向性を今みたいなのに変えたいと思った時に昔の事務所では了解得られなかったんだよ。売れないっつって。でも、…やりたかったんだよ」
U「ああ、そうかあ。そういうのはホント辛いね。でも今は、逃した魚は大きいぞ!って思ってる?」
R「あはは。ああ、思ってるよ」
U「ワーイ!」
R「そんなの最初から思ってるよ。ただ恩義も感じてるし、一度は面倒見てもらってるからね。後ろ足で砂掛けるような事は言ってねえけど、ただもう今更戻って来いって言われてもな」
U「それはね。今の君達があるのはそれこそオリーの力もあるもんね」
R「ああ、他のスタッフも含めて、よくここまでついて来てくれたなと思ってるよ」
U「でもガラっと変えたじゃない?昔みたいにさ、気持ちよさそうに喉を鳴らして豪快な歌ウマアピールで世界を目指す事だって出来たんじゃない?」
R「ああ、ううん。そこは難しい話だな」
U「なんで?」
R「バンドで、歌うたって生きてくっていう目標を叶える事は割と早い段階で出来た」
U「うん」
R「そこからさらに世界を目指したのは、俺の夢というよりは俺達全員で世界を獲り行こうぜっていう意味なんだよ」
U「皆で思い描いた夢って事?」
R「皆がそこにいるっていう絵が出来上がってる夢、うん。実際行けると思ってたしね。夢というよりも予定とか計画とか、決定事項ぐらいに考えてたんだけど、それは翔太郎や大成やアキラじゃないと駄目だったんだよ。もちろん支えてくれるスタッフやそれまで一緒に戦ってくれてたクロウバーの奴らも含めてそうなんだけど。結局、俺一人が良い気分で歌い上げてるだけのバンドで、そこへ行けるとは全然思わなくて」
U「ええっ、らしくないじゃん、謙虚だね」
R「あはは。うん、そう。でも事実だからな」
U「そんな事ないよって、私が言っても信じない?」
R「アンタの事は信じるよ。でも信じる信じないじゃなくて、人が何を言うかで自分の人生を決めたりしない。…今スゲー嬉しいの堪えて必死にカッコ付けてるから」
U「あははは!正直に言わなくていいトコだよそこは!」
R「翔太郎がギター弾いて、大成がベース弾いて、アキラがドラム叩いて、あいつらが全身全霊で音を鳴らしたら、きっと俺の悦に浸った歌声なんか消し飛ばされるなって。だから俺は血管ブチ切れるまで絶叫しなきゃいけねえって。ドーンハンマーはそういうバンドなんだよ」
U「うん。…震えがくる程100点満点のお答えいただきました」
U「どういう評価のされ方が嬉しい?」
R「あんたは?」
U「『あなたじゃないと駄目なんです』」
R「ああ。…今ぐっと来たわ」
U「えへへ、なんで?」
R「いや、実際そうだし」
U「うおーう。ありがとう!そんな風に思ってくれてたの!?」
R「ずっと思ってるよ。URGAファンは全員そう思ってるよ」
U「あとで事務所に何か贈っときますね」
R「焼酎でお願いします」
U「芋派?麦派?」
R「麦」
U「私はワイン」
R「聞いてねえよ(笑)」
U「鈍いなあ。お酒誘っていいよっていう合図でしょう?」
R「あー、なるほどねえ。でも俺ワイン飲まねえしなあ」
U「いいお店紹介したげるよ」
R「そこは今度連れてったげるよ、でしょうが」
U「そういう意味でしょーが。にっぶいなあ(笑)」
R「あはは、そうなのか」
U「でもここ最近のドーンハンマーってちょっと、いやかなり、飛ぶ鳥を落とす勢いでしょ? 色々言われてるんじゃないの?」
R「色々って?」
U「賛否」
R「ああ。でもそれは別になんとも思わねえよ。実際に音源出してみて、ライブやってみて、その手応えや客のリアクションが全てだし。そんなのURGAさんだってそうだろ?」
U「そりゃあそうだけどさ。でも気にならないといったらウソになるかなあ」
R「評価?」
U「うん。評価よりも評判を気にするタイプかも。それこそアルバムの質とかコンサートの出来栄えとか、その瞬間の事であれば受け止められるんだけど、私という存在を揺るがすような言葉を見てしまった日には、一日落ち込んで立ち上がれない事もあるよ」
R「なになに、何を見たんだよ(笑)。インターネット?」
U「誰々さんに似てるよね、とかさ」
R「ああ、それは腹立つな」
U「もうねえ、…ちょっと待ってよーって。それを言う人の所に走ってって、全然違うよ!って言いたくて仕方ないもん」
R「そんな事言うと変な奴がそれっぽい事一杯言ってくるから、やめとけ」
U「あはは。でも、うん。そうなんだよね。竜二君は?」
R「そもそも、特に俺は言葉で何かを伝えるのが苦手なもんだから、具体的な感想を貰おうとも思ってないんだよ」
U「たとえば?」
R「今度の曲は怒りに満ちていますね!とか。…はあ!?ってなるし」
U「あははは!やばい、ツボに入った! でもそれさあ、別に向こうは変な事言ってないよね」
R「変な事っつーか、そう歌ってねえのにそう聞こえたっていうのはそいつだけの感想だろ。そんなん知らねえよってなる」
U「ああ、竜二君が怒りソングを作ってないのにってこと? そんな事言われる!?」
R「めちゃくちゃ言われるよ!」
U「そうなんだ。全然伝わってないんだね。やばい、まだ面白いよ(笑)」
R「そもそもそういうモチベーションじゃないからさ。いつまで笑ってんだよ(笑)。そこに勝手なテーマ性を求められても困るんだよ。格好良いかどうだかだけ聞きたいんだよこっちは!って。だから前にうち来て歌ってくれた時に言ってたあんたの感想が一番好き。『なんだか分からないけど、凄いぞ!』って」
U「そうかあー。やっぱり、凄いねえ」
R「…ええ?」
U「多分誤解されてると思うし、いい機会だから言うけど、私ドーンハンマーで一番才能豊かだと思ってるのは竜二君だよ」
R「え!」
U「あははは、カメラ見て!凄い顔してるから(笑)」
R「なんで?冗談だろ?」
U「ええ、何言ってんの。そんな冗談言うわけないでしょ。嫌なの?」
R「嫌じゃねえけど、びっくりはしてる。そこは普通に翔太郎だと思うだろ」
U「あはは、流れ的に、みたいな?」
R「そう」
U「デリカシーないって本当だね」
R「あははは!それは、やっぱり同じボーカリストとして、みたいな」
U「贔屓目に見て? ううん、もっと単純に考えて、バンドで唯一ひとりでも世界で戦える人だと思ったから。もちろん翔太郎君も大成君も繭ちゃんも非凡だとは思ってる。でも彼らがそういう才能で全力を出せるのは、君がいるからだと思うよ」
R「いやいやいやいや、違う違う、逆、逆逆」
U「認められてこれだけ否定する人初めて見たんだけど(笑)」
R「あはは、いやー、困ったな」
U「竜二、お前が一番だ!」
R「いやいやいやいや…」
U「あははは!」
R「そんな事今まで一度も言わなかっただろ。なんでいきなりそんな事言うんだ?」
U「もう言ってもいいかなあって思って」
R「え、頃合いの問題? なんで今なんだよ」
U「どこかでまだ信じてないっていう顔だね(笑)。うーんとね、…才能の話とはまた少し違うかもだけど、同じボーカリストとして初めて生で歌声を聞いた時に、なんていうか、嬉しかったの。言い方がすごく難しいけど…私に近いなって。ただ友達同士仲良く楽しんで音楽活動してるだけじゃないな、この人なんか背負ってるなって。物凄く良い雰囲気を持ってる人だなって勝手に思ってて。もちろん才能に嫉妬したり奮起したりっていうのもあったけどさ、全部ひっくるめてそういう言葉を本人の前で口にしたくはなかったんだよ、その時は。なんでかって言うと、私の個人的な経験だとか考え方だとかが色々影響してる見方だから、言われた方はきっと混乱するし迷惑だろうなって思ったからね。ほら、今のそういう顔。…だから実はそーっと見てたんだよ。戦ってるな、今日も戦ってるな、叫んでるなって。それを確認するのが密かな楽しみとか、励みになってた」
R「…えー、全然知らなかった。ぜんっぜん知らなかった」
U「びっくりした?」
R「かなり」
U「だから言いたくなかったんだよ。なんか…ホントは私だけが勝手に思ってればいい事なのにね。でも、アメリカ行く前に伝えておくのも良いかなと思って。竜二、ちゃんと見てるからな!」
R「おう。ありがとう(笑)」
R「前から気になってたんだけどさ」
U「うん」
R「なんでURGAっていう名前なの?」
U「何がなんでなの?」
R「何が。え?」
U「名前だよね」
R「うん、だからなんでURGAにしたのって」
U「だから名前だよ。え、言ってなかった?」
R「…え、URGAっていう名前なのか?本名?」
U「いや、え、うんと。漆の葉っぱと書いて、ウルハ」
R「ウルハ?」
U「Uruha Ray Gabrielle。ウ・ル・ガ」
R「え!? ハーフ!?」
U「うん。ウィキにも出てるけど」
R「えー、知らなかった。え、じゃあ向こうだとガブリエル・レイ・ウルハ?」
U「アメリカ式に言えばね。でも日本でもどこでも活動はURGAだよ」
R「うわー、全然知らなかった。皆知ってんのかなこれ」
U「皆って誰のこと?(笑)」
R「織江とか、翔太郎とか」
U「オリーは知ってるよ。だから大成君も知ってるだろうね。翔太郎君にはウルガとしか呼ばれたことないなあ、どうだろう」
R「いやー、たまげた。全然思ってた話と違ってびっくりした。普通にURGAっていう言葉自体に意味があるのかと思って」
U「今でもあるのかな、新宿に同じ名前のライブハウスがあるって聞いて見に行ったことある(笑)」
R「ああ、あそこは今違う名前になってるよ」
U「そうなんだ。ますます頑張らなきゃ」
R「そっか名前かあ。公表してんの?」
U「あえて公表はしてないけど、どこかから漏れ出ちゃったね。間違ってないから否定も出来ないし」
R「そっかそっか」
U「…別に気にしなくていいからね。嫌だと思ってたら最初から言ってないから」
R「おう」
U「…え、なんか気にしてるよねえ、その顔」
R「してねえよ、全然違う事考えてた」
U「何を?」
R「もし俺がその名前だったら絶対、『ニックネーム統一してくれない!?』って言うよなあと思って」
その瞬間、大きく目を見開きこれまでにない大きな動きと声で笑い声を上げるURGA。
途中ゲホゲホと咳き込み、池脇が慌てて背中をさする。
U「あー。おー」
苦しそうに喘ぐとまた笑い出すその姿に、池脇は背後を振り返ったり誰かを探すようにきょろきょろと辺りを見回している。よっぽどURGAの反応が想定外だったようだ。
U「ごめんごめん、ありがとう。なに、なんで。私の事昔から見てたの?」
R「なんだよ、笑いすぎだって」
U「凄いねえ、まさしくその通りだよ。私本当に同じセリフ言った事あるもん」
R「あはは、そうなのか」
U「だってさあ。まずは、ウルでしょー? ウルハ、レイ、レイちゃん、ガブリエル、ガブ、ガブちゃん、ギャビー、ゲイブ、もー!」
R「うははは!や、そりゃそうだろうなと思って。やっぱそうか、そうなるよな。でもやっぱりそんな感じする。ガブリエルだわ。あんた天使感あるもんな」
U「天使感!(笑)。あのさあ、そういう事は人前で言わないでくれるかな。いくらこんな私でも世間の目は気にするからね?」
R「あー、俺絶対ガブちゃんて呼びたい」
U「あははは、公表してないって言ってるだろ。あと私40だからね?」
R「平気平気」
U「ん?」
R「平気だって」
U「…見えないって言う所!早く言って!」
R「あははは!見えない見えない、天使、天使」
U「幸せって何だと思う?」
R「…でかい話するなあ」
U「日常レベルの話だよ。なんでも思いついた事でいいから、聞かせて」
R「世界平和とかそういうんじゃなしに?」
U「なしに。…それが本気の願いなら構わないけど、それが幸せ?」
R「個人的な幸せの話をするなら、今」
U「…具体的には?」
R「バンドのボーカルとしてガムシャラにやりたい事やって、倒れそうなほど忙しい毎日で、すんげえ酒が美味い。腹立つくらい才能豊かなメンバーに恵まれて、背中を押してくれる仲間がいて、俺が世界で唯一別格だと思ってる歌うたいがクリスマスの朝、今横にいるから」
U「さすが綺麗にまとめて来るなぁ(笑)。さっきの私の話がもう影響してない?」
R「してねえよ(笑)、ちゃんと本音で言いました」
U「なら、良し。私ね、皆んなの演奏見たの、ファーマーズでの舞台を」
R「お、ありがと。感想聞いていいの?」
U「やっぱり、自分の気持ちを人に伝えるって大事だなって改めて思ったよ。それは竜二君のスピーチだけを言ってるんじゃなくて、音楽そのものがさ、言葉だけじゃなくて、生き方や考え方や、人となりで溢れてた。格好良かったよ」
R「おおー、…沁みたぁー」
U「あはは。パソコンで見たんだけどさ、目が痛くなるくらい、グーって入り込んで見ちゃった。字幕なしで竜二君のスピーチ聞けるからさ、一人モニターの前で頷きながら見てた。何度も鳥肌が立った。考えてみればあれ見てる時ってもう日本帰って来てたんだろうしさ、電話でもすれば良かったね」
R「そんなテンションで電話あっても照れて何も話せないかもしれない(笑)」
U「あはは、そうかもしれないね。うん、あと純粋に嬉しかったのもあって。ジャンルは全然違うけど、心から凄いんだ彼らはって思ってるから、あれだけ大勢のセレブの前で堂々としていてくれる姿や、喝采を浴びてる姿を見れたのが嬉しい。喜んでないでお前も頑張れって話だけどさ」
R「いやいや、何言ってんの。すっごい嬉しい。ありがたい」
U「勉強にもなった」
R「どんだけ言うんだよ(笑)」
U「ほんとほんと。音楽を仕事にしてやってるとさ、目の前の音や歌に縛られてるなって感じる時があるの。でも音楽ってさ、人の思いや願いを増幅させるツールだったり、素直に言えない気持ちを通すフィルターだったりして、本来一番手前にあるべきは心だと思うんだよ。そこを忘れちゃいけないんだって自分で反省する事がよくあるし、ドーンハンマーはその部分がしっかりしてるなって感じる。もちろん音楽に対する捉え方は、私のは一般的じゃないのかもしれないけど、でもそう思う」
R「うん」
U「『うん』?」
R「え? いや、音楽論を戦わせる程の学はねえよ(笑)。けどなんつーか、分かんねえけど、大事なのは多分何が正解かとかじゃなくてさ、あんたがどう思いながら自分の音楽と向き合ってるかって、そこだけなんじゃねえかな」
U「うん、うん」
R「自分で出した答えが何よりも正しいと思うし、あんたはきっとそういう所間違わねえよ」
U「あはは、凄いね」
R「何が」
U「それでね、君達が心底楽しそうに、嬉しそうに演奏してたあの日の舞台を見て、あー、幸せってこれじゃないか!ってシンプルにそう思ったの」
R「仰る通り(笑)」
U「いつまでも自分達を偽らずに思うがままプレイし続けて欲しい。君達はそれが出来ると思う。その事が分かったんだよ」
R「なんで? 笑ってた?」
U「笑ってたし、本気だったよね」
R「もちろん」
U「だから、私から見て君達は今とても幸せだろうなと思う」
R「うん」
U「本人としては、どういう時が幸せ?」
R「だから今だよ」
U「あはは! ありがとうって言わせたいのか? もう、ありがとうっ」
R「あははは!いやいや、違うよ。なんつーかなあ。…結構俺ら、小っちゃい時どうしようもねえような育ち方したからさ、面倒な現実から逃げたくて、とにかく必死でここまで来たって思うんだよ。不幸自慢とかそんなんじゃなくて、何が言いたいかってーと、多分世間一般の人が最近俺達をどこかで見かけて思うのは、メタルとかやって、余裕かまして、カッコばっかつけて生きてやがんだろうなあって事だと思うんだよ。別に否定はしないしどんな風に見られようと気にしないけど、あんただけに本音を言うとまだまだ全然余裕なんかねえし、一杯一杯だよ」
U「そうなんだ」
R「だから今、すっごい眩しい。意味が分からねえくらいどきどきする」
U「なんで?」
R「あんたの事を別世界の人だと思ってるから」
U「…私が!? 今更!? なんで(笑)。全然一緒だよ、デビューも近いし、ほとんどやってる事同じじゃない」
R「全然違うよ」
U「一緒に歌った仲じゃないか」
R「まあ、そうなんだけど」
U「ええー、なんかショックだなあ。同志ぐらいに思ってたのに」
R「あはは、うん。でも別格だし、別世界だと思ってるから。…だから、これぞ夢って感じ。さっきも言ったけどさ、俺達がアメリカ行って活動する事自体は想定内なんだ。自分で敷いたレールの上をただ走ってるだけだし、もともと目的地だった場所に行くだけだからな。でも俺の人生にあんたは登場するはずじゃなかった」
U「寂しい事言うなよっ(笑)」
R「そのぐらい次元が違う。…朝も早えしさ、俺はまだ夢の中にいんじゃねえかな」
U「おいー。新曲のタイトルが出来そうだぞー!?」
R「まあ、そんな感じだな」
U「なんか嬉しいけど複雑だなぁ。でもなんか意外だったな」
R「なんで」
U「竜二君て普段はもっとこう…、来いよ!みたいな人だと思った」
R「…何?」
U「だから、来いよ!みたいな」
R「なはは。なんだよ、全然分かんねえよ」
U「えー!まあいいけどさあ、でもやっぱりショックだー」
R「こっちこそ意外な反応されてびっくりしてるよ」
U「竜二君さあ、自信家なのに、控えめだね」
R「トムとジェリーみたいな言い回しすんな(笑)」
U「私と竜二君の何が違うの?」
R「それは分からねえよ、俺あんたの事何も知らねえし」
U「…うわ。…うわ、泣きそうだ!」
R「なんで!?」
U「そんな突き放すような事言う人だったんだ」
R「えええ、今これ泥沼だな。喋れば喋るほどわけ分かんねえ深みにはまってく気がする」
U「ショックだー。ガーン」
大袈裟に肩を落とし、天井を仰ぎ見て目を閉じるURGA。
池脇は苦笑いしながら頭を横に振って、
カメラに向かって何度も「何が?」と口パクしている。
R「あんたはどうなんだよ。幸せはどんな形をしてる?」
U「カタチ?」
R「世の中には色々な形があるだろう? 歌、芸能界、友達、恋愛、結婚、妊娠、出産、育児。…酒」
U「酒」
R「あははは!」
U「そーだなー」
R「別に女としてとか、そういう括りで決めつけなくていいけど、そもそも今言った事ぐらしかぱっと思いつかないし。URGAさんにとっての幸せは何なんだ?」
U「今竜二君が言った中での話をするなら、まず歌だよね。これが一番大きいし、それは歌える事もそうだけど、少なくとも誰かに届ける事が出来る環境が整ってるっていう幸運もあると思うんだよ」
R「うん、それはこの20年であんたが続けてきた努力の結果だろ」
U「そうだけど、私がCDプレスしてるわけじゃないし、私が段ボールに詰めて出荷してるわけじゃないしね」
R「ああ、そういう話?」
U「違うけど」
R「なんだよ(笑)」
U「うん…。結婚、妊娠、出産、育児は、私の、ひとつの夢でした」
R「うん」
U「自分が生きた証は歌として残せるけど、世界を繋げていく事もまた大切な事だなって思ってる部分もあるし、そんな大きいテーマで考えなくたって、一人の女性として愛する人の子供を産んで育てていくって事はさ。それは、…ねえ?そりゃあ凄いよ」
R「…うん」
U「自分で聞いといてそんな顔するな(笑)。 意外と私も限界近いぞ?」
R「あははは!ごめんごめん、色々考えちまった」
U「そっか、そうだね」
R「デリカシーなくてごめんな。この話はやめよう。酒の話しよう」
U「別にいいよ。竜二君はいつも腹割って接してくれるから、なんでも話せるよ」
R「…うん」
U「最近になって悔しいなと思うのはさ。意外なほど身近にいた人達なのに(レコード会社が同じ)、去年のアルバム制作に参加するまでずっと関わり合いを持てなかったじゃない?」
R「うん」
U「今こうやって二人で並んでこれだけ色々と話をするっていう事も、考えてみれば初めてかもしれないしね。何で今まで、ちゃんと聴いてこなかったんだろうって。改めてドーンハンマーやクロウバーの音源を聞いてて思うし、勿体ない事したなぁって」
R「嬉しいねえ。嬉しいけど、そらそうだろうなって思うよ。同じ音楽とは思えないしね、やってる事が違い過ぎて」
U「表面上はね(笑)。私自身は、制作現場にお邪魔した時に得る物が凄くたくさんあったし、竜二君が思ってる程は、距離は感じてないよ」
R「それはでもちょっと、意外だった。初めてうちのスタジオ来てくれた時も、生音にびっくりしてるようなリアクション取りながら笑ってたし、懐深いなと(笑)。もう、うるさい!嫌い!ぐらいに思う人だっているからな、実際」
U「うるさい!とは思ったけどね。でもそこはある程度覚悟して行ったし、思ってたより全然うるさくないなって思う方が嫌だよね」
R「それは確かに」
U「ちなみにだけど、私の事っていつから知ってる?」
R「ずっと前から」
U「…」
池脇を見つめるURGAの微笑が少し、赤みを帯びた。
R「20年前から知ってる」
U「…あはは」
そのままURGAは両手で顔を覆った。どうやら照れているらしい。
U「ありがとう」
R「デビュー当時からずっとファン。まだオカッパみたいなおぼこい髪形で、満足に弾けもしないでかいファルコン(アコギ)かついでライブ演ってた頃も知ってるし、生で見てたよ。CDショップのインストアライブを昔のメンバーと見に行った事もある。この人どこでも裸足で歌うんだなーって、綺麗な足の爪してんなって思った事も覚えてるよ。あとは、俺達が昔メジャーだった頃にPV撮る話になってさ、俺も大成もまだガキに毛の生えた程度だったから場慣れしてなくて、ガチガチに緊張してさ。あんまりにも体動かねえもんだから、2人してアンタの『 Far beyond my voice 』の振り付けを踊って緊張解したんだ。だからその頃から誰かに寄り添う愛の歌を歌って来た事を知ってるし、世の中に二番煎じ、三番煎じが出て来た時は鼻で笑ってやったよ」
池脇の冗談に突っ込みを入れようと、顔を覆っていた手をどけた瞬間彼女の目から涙が零れた。笑顔だが、感極まった様子だった。涙を抑えて池脇を見つめるのだが、当の池脇本人はURGAを見ずに俯いている。
R「俺達皆そうだよ。あんたの大ファンなんだ。…だから翔太郎があんたと初めて対談した後に俺聞いたんだよ、どうだった?って。したらあいつ、『ゲロ吐きそうなぐらい緊張した』って真顔で言ってたよ。大成もあんたの楽屋に初めて呼ばれた時、ションベンちびりそうになったって言ってた。今日だって俺もすげえ緊張したし、…今でもどっか抜けてねえ。制作の場でさ、皆がいる中でワイワイやったり、そこで話をしたりってのは全然平気なんだけど、一対一になっちまうと今でも震えがくる。多分、そこにはドーンハンマーとしての俺ってものはいなくて、あんたを20年好きでいるただの俺になってるからなんだろうなって思う」
URGAは俯いて、左手で目鼻を覆った。
R「前にスタジオで目の前で歌ってくれたろ。…これは一体なんだろうなって、まじで信じられなかったし、完全に無防備になってた。人生の半分、俺はあんたの歌とともに生きて来たから。その20年の中で起こった色んな、楽しい事や辛い事が全部目の前に広がったんだよな。いつかちゃんと、思いのこもった『ありがとう』を言わなきゃなんねえなって…それは初めて顔を合わせた時からずっと思ってた」
自分でもいけないと思ったのだろう。
URGAは顔を覆うのやめてしっかりと池脇の横顔を見つめた。
R「タイミングがずっとなくて。…改めて、畏まって礼を言うのも柄じゃねえなって思ってたけど、さっきあんたが言ったように、俺が腹を割って接してると感じてくれてんなら、今じゃねえかなと思う。…ずっと、ありがとう」
微笑みながら話していた池脇が彼女を見た瞬間、URGAの笑顔が泣き崩れた。
U「あはは、変な感じ」
そう言ってなんとか笑おうとするのだが、涙が止まらず、唇がわずかに震え始めた。
池脇はカメラに向かって右手の平を差し向け、首を横に振った。
U「あ、こないだネットニュースに出てたけどさ、あの噂って本当なの?」
R「噂って?」
U「ハリウッドスター、リディア・ブラントと熱愛!って書かれてたよ」
R「ああ、あれわざと向こうサイドが流したんだよ。すごい事するよな」
U「ウソなの?」
R「ウソではないけど」
U「あはは、すっごいね。君、やっぱり信じられないモテ方するんだね」
R「なあ。ウソなんじゃねえかな」
U「そういう事は冗談でも言うもんじゃないよ。たとえジョークでも相手は傷ついちゃうからね。絶対ダメ」
R「…はい。付き合って、ます」
U「ちょっと変な間があったけど正直でよろしい。…そうするとあれだね、映画主演とテーマソングのタイアップで共演とか夢じゃないんだね」
R「どっかの好き物が自分とこの映画にデスメタルを起用してくれんならね」
U「ハードロックとかヘヴィメタルは多いでしょ」
R「ハードロックとメタルは多いね」
U「デスの部分にこだわりがあるんだね」
R「『どこまで本気で暴れられるか』ってのが一つの指標というかね。全力で歌って全力で弾いた時に今の音楽性以上のジャンルはねえし、グロテスクなのも全然ありで、えぐいぐらいの攻撃性を持って奏でられる最高の音楽だと思ってるよ」
U「急にそうやって男の子の顔するもんなぁ。惚れてまうやろー」
R「古いんだよ(笑)」
U「あははは。…ハリウッド女優だって(笑)」
R「んー、ふふふ、そこは何も返しようがねえよ」
U「あ、思い出した。ちょっと前にも女優さんと話題になってなかった? 日本の」
R「ああ、あれはウソ。一回しか会った事ないし、二人で会った事はないな」
U「こわっ。あれウソなんだね」
R「うん。そんな事言ってそっちだって、共演する若いミュージシャンといっつも噂されてんのはなんで? いっつもだよな」
U「ああ、ねえ。こわいね。多分プライベートスタジオに呼んで演奏したり打ち合わせしたりが多いのと、ブログでその風景をアップしちゃうからじゃないかな。やっぱり楽しい事は、楽しいって言いたいし、そういう事なんだろうね」
R「隙が多いんだな」
U「おい、レディに言っていい言葉じゃないぞ(笑)」
R「あー、またやった」
U「学習しないなぁ」
R「えーっと、恋多き人、か」
U「だから違うって(笑)」
R「あはは」
U「そういうの気にする人?」
R「そりゃ人を傷つける発言しといて何にも思わねえ程ボンクラじゃ」
U「違う違うそっちじゃなくて、噂話とか」
R「…本人の言葉を信じるから噂は気にしない」
U「裏切られた事がないんだね」
R「あんの?」
U「あるよそりゃあ」
R「そっか」
U「本当にないの?」
R「分かんねえ」
U「幸せな奴だなあ(笑)」
R「おかげさまで」
U「竜二君はやっぱ、モテるわ。あはは」
R「なんだそれ。そうそう話変わるけど、多分年明けて、1月中には表に出ると思うんだけど、リディアのインタビューをもう撮影してあるんだよ」
U「そうなんだ! え、今言って大丈夫なの?」
R「うん。この、今日の映像だって表に出るとしたら相当先だぞ。春以降とかだし」
U「そっかそっか。二人で話してるの?」
R「いや、時枝さんがインタビューしてる単独の奴。一応その場にはいたけど、俺は参加してねえよ」
U「そうなんだ。どんな内容か聞いていいの?」
R「リディア・ブラントにとってドーンハンマーとは、みたいな。そのインタビューで本人言ってるけどさ、『自分だけではないと思うけど、人間の一番奥の、一番深い所に刺さるものって、決して美しい形をしてるとは限らないと思うんだ』って、言うわけ」
U「…ワオ。…あー、凄い人なんだね」
R「うん。『彼らが何者であろうと私にとっては重要じゃない。彼らが誰よりも強靭で、見た事のない程ギザギザで、鋭く尖った大きな槍を、私の心の真ん中に突き刺さしてくれたおかげで、私は今ここであなたと話をしているんだ』って笑顔で言ってるのを見た日にゃあさ。ああ、そうかーって」
U「…うん」
R「本当に遠くまで俺達の投げた槍は届いたなーって感心したし、それが人の生きる励みなったのは音楽的な評価とはまた違った嬉しさがあるっていうのは、あんたにはよく分かるだろ」
U「…うん」
R「だから、リディアの一番深い所に刺さったものが、要するに俺達で言うこだわりの強い『デス』とか『スラッシュ』の部分なんじゃねえかなあって理解した時の喜びというかね。別に死のイメージとか言葉通りのニュアンスを売りにしてるわけじゃないけどけど、…もっと行こう、もっとやれる、もっとだ、もっと!って常に思ってる気持ちの先端部分はきっと、歪んでイビツな形をしてるだろうなって自分達でも思うんだよ。そこはきっと誰にも理解されないくらい、形容しがたいカタチをしてるんだろうなって思ってる」
U「…」
R「大丈夫?」
背筋を伸ばし、話す池脇の横顔を黙って見つめていたURGAの目にまたも涙が浮かんでいた。
彼女はそれを指先で拭いながら何度も小刻みに頷いて返すものの、返す言葉を口にすることはできないでいる。
R「ダイレクトにそこを拾い上げてくれた人ってのがこれまでいなかったし、はっきりと言葉で賞賛してくれた人もいなかったから、余計嬉しかった。だからって安易に、じゃあお付き合いしましょうなんて、そんな子供みたいな単純な発想にはならねえけどさ。それでも俺は…」
U「言わなくていいよ。そんな大事な気持ちは他人に言わなくていい」
R「何も知らねえなんて言っておいてアレだけど、他人だとは思ってねえよ。20年だから」
U「あはは、ありがと」
URGAは何度か胸の真ん中をさすり、喉の調子を整えると足元に置いていたペットボトルを拾い上げた。
U「じゃあ、せっかくだし、恋愛の話する?」
R「フフ。どうぞ」
U「例えばさ、自分の才能に酔ってるって思われるかもしれないから言い方に気を付けないといけないんだけど、どっちの自分が好き?どっちの自分が本当?どっちの自分が気持ちい良い?って自分自身に聞いた時にさ、出てくる答えは全部、URGAなの」
R「…そうなんだ」
U「うん。じゃあ、全部URGAでいい?って言われたらさ、人間…」
R「そうでもねえわな」
U「そうでもないよね。その部分なの、私にとっての、恋愛は」
R「うん、うん。…ぶっちゃけすぎじゃねえか?」
U「あはは、昔は違ったけどね」
R「うん」
U「なんか、似てると思ってるの、竜二君と私は。だからこういう話出来るんだけど」
R「うん、そうかもしれねえな」
U「うん。この先、多分誰もこんな事を私に確認してこないしさ。もっと言えば他人には関係ない事でもあるでしょう、プライベートという部分においては。だからきっと本当は、隠れてうまくやっていけるはずなんだよ。隠れてって言うとコソコソしてるみたいで変だけどさ。わざわざ公言しなくたって、いい恋愛をして、良い曲つくってさ、幸せに歌っていく事ももちろん出来るはずだし、昔は出来たんだけど、今はもう『URGA』程の全力と時間を使っては出来ないんだよね」
R「うん。出来ねえな」
U「ふふ、ごめん、そんな、合わせなくていいからね」
R「何だよ、気なんか使うなよ(笑)」
U「それはこっちのセリフだよ、デリカシーないくせに優しさは人一倍あるなあ。でも自分自身が一番理解してるからさ。誰かを心の底から愛して、そうして得られる幸せを糧に生きていきたいっていう、私の中にあった女心という魂は、もうあの人の棺桶にそっと入れてきちゃったんだよ」
R「…ああ」
腕組みをしたまま、池脇がURGAとは反対方向に顔を向ける。
U「良ければだけどね、これを機会にちょっとでも知ってくれれば良いなと思うし、おそらく色んな人に誤解を与えたと思うから言うんだけど、例の彼の事はもちろん今でも好き。でもじゃあ、彼が手に入るなら音楽やめて、一人の女性として彼の側で生きていきたいの?って言われたら、そんな風に聞かれなくても同じ事だけど、そういうのはもう無理なんだよね。それに、それ以上に彼の音楽家としての存在を尊敬するし、大好きだからこそ、一人の男性として見るという狭い見方はもう出来ないかな」
R「…いや、そこはでも」
池脇が何か言葉を挟もうとすると、URGAは無言のまま彼を見つめる事でそれを遮った。
池脇はその眼差しに観念したような顔で頷き、下を向いた。
U「一度ヒヤっとしたのがさ。身近な人に言われたんだよね。URGAさん彼を甘やかしすぎですって。ああ、もうそういう距離感で見られてるのかってびっくりしたのと同時に、なんだか怖くなってさ」
池脇がURGAに視線を戻す。
U「何を言われようと少なくとも好意はあるからさ。そこにどんな言い訳引っ付けたって周りから見れば同じ事でしょ。でも、種類はどうあれ久しぶりに他人にそういう感情や興味を持った事で、余計にいなくなったあの人を思い出してる自分に気がついたの。めちゃくちゃ寂しいよーってなって。例の彼とは似ても似つかない人だったけど、二人の人生を一緒に歩いていけるはずの人だったから、一杯思い出して一杯怖くなったんだ。これってひょっとして無意識に忘れようとしてる感覚なのかな、違うよねって焦ったりもした。だってさあ、…やっぱり今でも、どうしようもないくらい死んじゃったあの人の事が大切なんだよ。これはもうどうしようもないんだけどさ。それに私がURGAでいる以上は、そこを他所へ押し退けてでも一人の男の人に私の全てを捧げる事は、もう出来ないなぁ」
R「当たり前だろそんなの。死んだからって好きな気持ちが消えるわけねえだろうが」
U「だけどもう二度と会えない人を思い続ける事が、幸せだとは限んないでしょ」
R「幸せだと俺は思ってるよ。そういう人がこの俺の人生に確かにいたんだって何度でも思い返せる事は、俺にとっては十分幸せな事だから」
U「でももう二度と会えないんだよ?」
R「それでも。俺は忘れるなんて出来ねえな」
U「…うん。竜二君ならそう言ってくれると思った。ありがと」
R「何がありがとうなんだよ」
U「同じ経験をしたあなたにだけは分かって欲しかったし、そう言って欲しかったんだと思う」
R「分かるに決まってんじゃねえか。俺の気持ちだってあんたが一番分かってるはずだろ。忘れちゃ駄目だなんて事は簡単に言えねえけどさ、心の隅っこだっていいから、ずっと覚えててやんなよ」
U「うん、ありがとう」
R「なんつーか、人恋しくなったら適当に若いのと遊んでさ、後ろ向いて舌出してりゃいいんだよ」
U「あははは、そんなわけにいかないでしょ。一応これでも愛の歌を歌ってるんだから」
R「いいじゃねえか別に、お互いがそれで良けりゃ丸く治まんだから」
U「丸く治まらないでしょ(笑)」
R「なんで。それこそスタジオミュージシャンでもなんでもさ」
U「だから、ちーがーう!」
R「あんたの寂しい顔見るよりゃあずっといい」
U「そんな事言ってさあ(笑)。…え、ちょっと待ってちょっと待って。ひょっとして竜二君て遊んでる人なの?」
R「ん?」
U「遊んでるな?」
R「…はいい」
U「え?」
R「…はいい?」
U「ええ?…もー。…もう!」
URGAは池脇の太ももにペットボトルを叩きつけると、嬉しそうな笑顔で涙を拭った。
池脇はURGAのペットボトルと自分のペットボトルを手に持つと、おどけた顔でその2つを戦わせて見せる。喧嘩している男女のようだ。いや、一方的に怒られている男と、怒っている女だろう。
U「でもさあ。もう竜二くんだから正直に告白するけどさあ。確かに、どこか少しくらいはそういう部分で遊んだりする事もなくはないんだよね」
R「そういう部分って?」
U「駆け引きとまではいかないんだけど、ちょっと笑顔多めで接してみたりとかさ」
R「(手を叩いて爆笑する)」
U「ただ相手によるけどね。もの凄くそういう事に飢えてるような殿方だったり真面目な人には、それは出来ないし。なんなら全然私に興味ないような人の方が遊びを仕掛けてみたくなるというか」
R「上手にあしらってくれるような相手ならって?」
U「そうだね。…あしらわれるのは、腹が立つけど」
R「ギリギリのライン攻めてたなー」
U「そうなのかな、分かんない(笑)」
R「その、…まだ例の彼で良かったと思うよ」
U「あはは、そういう事言えるんだ」
R「でもさあ、それで相手がちょっとでも本気になったら、そんなつもりじゃないんですぅーってなんの? それなんて言うか知ってる?」
U「アイドル」
R「ビ、あははは!お手上げだ、アンタには誰もかなわねえ」
U「ビってなんだ、おい(笑)。ただやっぱり私の方から誰かを本気で求めたりはしないかなあ。竜二君は? あ、これ聞いちゃうとまずいのか」
R「いいよ。俺もそうだよ。でも俺は、断る理由もねえかなって思ってるよ」
U「んー。ん?相手から来た場合ってこと?」
R「そう」
U「あー。なるほどね」
R「じゃないと、俺やURGAさんはこの先リアルな人の体温を感じないまま生きてく事になるだろ。実際それでも俺はかまわないけど、くれるってんなら貰おうかなって思ったっていいんじゃねえかな。なあ?」
U「…それを私に同意しろと?(笑)」
R「だめか?」
U「もっとなんか、素敵な表現してよ」
R「えー? あー、なんだあ、そのー」
U「誰かに必要だって言ってもらえる幸せをさ、振りほどける程孤独が好きなわけじゃないよね」
R「それ!」
U「また新曲出来たね」
R「ニュー、マキソソンゴーゥ」
U「バカにしやがって(笑)」
R「あー、話せて良かったなあ。…やっぱり俺、アンタの事好きだわ」
U「うん。ありがとう。私も話せて良かった。側に池脇竜二がいてくれて良かったよ」
R「よせやい。…惚れてまうやろー!」
U「救われたな。全然知らねえって、ドーン!ってされたけど」
R「まだ言ってんのかよ。俺のボケを返せよ」
U「先に言ったの私だから。私のボケだから(笑)」
R「女版・翔太郎みたいな人だな」
U「それはごめん、あんまり嬉しくない」
R「あははは!」
U「ねえ、私、何だっけ?」
R「ガブちゃん」
U「そこは普通に天使でいいでしょ!」
R「やっぱ言われたいんじゃねえか!」
ひとしきりの笑い声が治まった後、会話が止まって何度目かの静寂が訪れた。
URGAは座席の両側のひじ掛け手を置いて、うつむき加減の顔には微笑みを浮かべている。
特に沈黙を気にする様子はない。
そんな彼女を、池脇竜二が見つめている。
不意にURGAは天井を見上げて、歌のようなものを小さく口ずさんだ。
そして何かを発見したような表情で人差し指を天井に向けて、池脇を見やって初めて、
自分が見つめられていた事に気が付いた。
ん?
と無言で彼女は尋ね、池脇は笑って首を横に振る。
URGAは手を下ろして池脇の顔を見つめ返し、言葉を待つ。
二人は見つめ合ったまま何も言わず、10秒程経って、池脇が下を向いた。
URGAも倣って自分の膝小僧辺りに視線を落とし、ふふ、と嬉しそうに笑う。
沈黙。
んん。
喉を鳴らして、膝を手で払いながらスカートの裾を直すURGA。
そして、照明に照らされたステージを見つめる。
今夜、彼女が立つステージだ。
想像し、思いを巡らせるような目でURGAは自分の生きている場所を見つめる。
なんでそんなに強いの?
不意を突いて聞こえた来た言葉に、弾かれたように、驚いて池脇を見る。
彼の動かない視線を浴びて、彼女は前に向き直る。
さあ。…やっぱり、薄情者なのかもしれないね。
URGAはそう言い終わると池脇を見つめ返し、両手を肩の位置まで持ち上げた。
終わりにする?
そういう意味に取れた。
池脇は不貞腐れたような顔になって、右側のひじ掛けに寄りかかって反対側を向いてしまう。
拗ねちゃった。
URGAは芝居がかった表情を浮かべ、そしていつもの微笑になって反対側を向く。
沈黙。
俺はもう全部言ったからな。
やがて池脇がそう言うと、URGAはゆっくりと顔だけ振り向いて彼を見た。
そしてカメラを向いて目を軽く見開き、問いかけるような仕草をする。
彼は本気で言ってるの?
そういう意味だろう。
池脇が立ち上がった。
彼を見上げたURGAは少しだけ驚いたように笑うと、
カメラに向かって両手でトントンとバッテンを作って見せた。
私から言えるのはただ一言だ。
メリークリスマス!
池脇竜二(R)×URGA(U)。
場所は都内某コンサートホール。
この日の対談は、毎年恒例となるURGAのクリスマスコンサートの会場を借り切って、
当日の朝に収録される運びとなった。
コンサートスタッフもまだ誰も来ていない静かな空間を独占する二人。
客席に並んで座り、照明の当たった舞台セットを見ながら静かなスタート。
ちなみにこの日、時枝は二人の側にはいない。
U「おはようございます」
R「おはようございます」
U「メリークリスマス」
R「メリークリスマス。なんで小声なの?」
U「年末だから?」
R「そうかい(笑)」
U「しかもまだ9時過ぎだよー?」
R「よく遅刻せずに来れたなって自分で感心してる」
U「でもクリスマス当日の早朝にさ、これだけ広くてこれだけ静かな場所を二人占めできるってすごくない?」
R「なあ」
U「あの池脇竜二が憧れるURGAさんとの対談だよ。テンション上がるでしょ」
R「小声で言われてもなあ」
U「声の大きさが取り柄みたいな二人なのにね」
R「今日いつもと違うじゃん。すごいキレイ」
U「お、おお。どうしたいんだ。喜ばせたいのか?落としたいのか?」
R「なんで落とすんだよ」
U「いつもと違うってのは失礼でしょ」
R「そか。いつも以上にって言えばいいのか」
U「ここ入って来る所からやり直す?」
R「(会場を振り返りながら笑い)結構大きい箱だな」
U「そうでしょ、ここ6年ぐらいずっと25日は私が抑えてます」
R「やるじゃん。渋谷なんて何年ぶりだろ」
U「いつもどこを拠点に課外活動をいそしんでるの?」
R「課外活動? …家の近所とかスタジオの近所で飲んでるかな」
U「お酒強いもんね」
R「まあ、そこそこは」
U「ずっと同じ所で飲んでて飽きない?」
R「大丈夫」
U「…」
R「…え?」
U「…なんか緊張してない?」
R「あははは。バレたかー」
U「竜二君にも緊張の二文字はあるんだね」
R「んー、普段ほとんどしないんだけどな。人が多い程緊張しないかもしれない。こうやって一対一とかの方が全然緊張する」
U「あー、分かる。客席って見えてるし見てるんだけど、でも見てないもんね」
R「視界には入ってるけど誰かと目が合うなんて事はねえよな。合っててもこっちは焦点合わせてないっつーか」
U「逆に一対一とかだと相手の目を見なきゃいけないから、人によっては緊張するよね」
R「うん」
U「前に翔太郎君と対談した時も、こうやって横並びにしてたもん」
R「そっか」
U「…疲れてるね」
R「あははは!気ー使いすぎだよ!」
U「だーってなんか変だもーん」
R「いやーまー、ううーん、色々あるよなあと思ってさあ」
U「あはは、うーん。色々あるよー。…生きてるからねえ」
R「ああ、良い事言った。そうだな、それに尽きるよな」
U「それはさておき、アメリカ行き、おめでとうございます」
R「あー。それもさあ、最近ちょくちょく言われっけどさ。ちょっと癪だなと思えてきて」
U「おいおい、今言う事か?」
R「(笑)、もちろん俺達がやってる音楽はアメリカが本場だし、向こうでプレイすることが日常になるってのはものスゲエ事だって分かってるんだよ。そこを目指してやって来たわけだから。だけどどっかで、俺達が一番だって思っていたい傲慢さも捨てたくねえんだよ。分かるだろ?」
U「うん」
R「だから本当は、世界に対して『お前らが来い』って言いたいんだけどな。でもまだそこまで言える状況じゃないってのに、おめでとうってなんだよって」
U「ワールドクラスとは、って事だもんね」
R「アメリカに行くのは楽しみだしワクワクしてるけど、アメリカでやんなきゃ意味ねえじゃんっていう言われ方は、なんだかね」
U「本当は、ドーンハンマーが好きなら海越えて日本まで見に来いよって事でしょ」
R「そ。本当の意味でワールドクラスってそれだと思う。だからいずれそうなったら、帰ってこようかな」
U「いいね、竜二くんらしい目になってきた。お目覚めですね? 今ここにカナちゃんいたらきっともう泣いてるね」
R「カナちゃん? 時枝さん? ああ、そうだな。時枝さん明後日誕生日だって」
U「27日?そうなんだね。おめでとう言わなきゃ。…え、12月って他にも誰かいなかった?」
R「繭子。12日」
U「もう過ぎたじゃん。そっかー」
R「はは」
U「…」
R「…うん?」
U「…そこはさー、URGAさんはー?でしょうが」
R「あー、…いつ?」
U「3月22日」
R「なんだよ!」
U「なんだよって何だよ(笑)」
R「今日かと思うじゃねえか」
U「あはは」
R「…いやそこはさあ」
U「竜二くんは?」
R「5月19日」
U「へー」
R「なんだよ(笑)。なんだこのやりとり」
U「もう日本にいないんだね」
R「あー、確かに」
U「プレゼント貰えるとしたら何が欲しい?」
R「くれんの?」
U「貰えるとしたら、何が欲しい?」
R「んー、考えとく。URGAさんは?」
U「池脇竜二をいつでも好きな時にコーラスに従える事が出来る権利!言えた!」
R「即答って(笑)」
U「同じ内容のプレゼント交換はなしだからね」
R「分かった」
U「今夜本当に皆で見に来るの?」
R「来るよ、チケット取ったもん」
U「買ったって事? あれ、オリーには用意したって伝えたけどな」
R「用意って、タダって意味?」
U「用意は用意(笑)」
R「そんなもんタダで来るわけねえだろ」
U「私は良いけどそうしないと席バラけちゃうよ? 自由席じゃないし、発売開始したの結構前だしね。逆によく取れたね、一応ソールドだよ」
R「織江はそこらへん抜かりないよ。いつ取ったかは知らないけど、そもそも取れたとしても横並びで抑えるとかしないだろうな。並んで見たいわけじゃねえし、却って好都合だよ」
U「袖に来る?」
R「…あわよくばステージに呼び込もうとか考えてない?」
U「ないよ(笑)」
R「うーん、でもいいかな、やめとく。ちゃんと正面から見たいし」
U「そっかー」
R「ありがとう、なんか気い使ってもらって」
U「ええ、自分達の事素人だと思ってない? 会場で顔指して私より騒がれるとか許さないからね?」
R「あははは!あんたのコンサートでそれはないだろ!」
U「あるよ。何度か別の雑誌のインタビューでバンドの名前出した事あるし、無関係じゃないのは割と知られてるよ」
R「そうなんだ。じゃあバレて面倒な展開になったら帰る」
U「ええ!?」
R「声がでかい(笑)」
U「袖に来る?」
R「ずっと袖の方向いて歌ってくれんなら袖行くわ」
U「ちょっとしたパニックになるね」
R「大混乱だろ(笑)。あれどうなった?『ひとつの世界』。やる?」
U「今日はやらないかな。やれないよね、なんかね」
R「やっぱり翔太郎とじゃないとやる気しない?」
U「ふふ、でもそういうものじゃない?」
R「そらそうだと思うよ。誰か別のスタジオミュージシャンが同じように弾いたってきっと、全然違う!って受け付けないだろうし」
U「そー。あー、嬉しい。そうなんだよ。分かってんなあ、竜二」
R「ふふ、ゲロ吐いちまうよなあ」
U「吐かないよ(笑)。吐かないけど、拒否反応出るんだろうなっていうのはやる前から分かっちゃうから、依頼するだけ失礼だよね」
R「あれ歌メロどっちが考えたの?」
U「二人で」
R「凄いな、あれ。普通になんの予備知識もなく聴いて、Aメロ開始20秒で鳥肌立ったもん」
U「よおおおーーし!」
R「静かにしようよ、な。朝だから」
U「やっぱり今日やろうかなあ?」
R「あははは」
U「いやー、しかしさあ、翔太郎くんてやっぱり凄いよね。天才だわ」
R「おーほほほ。ありがとう」
U「やっぱりバンドのメンバー褒められると嬉しいんだ?」
R「そりゃまあ、そうさ。今のバンド組んでからのあいつの貢献度って考えると、計り知れねえもんがあるからな」
U「プロとしての実績は竜二くんと大成くんの方が上でしょ?」
R「メジャーで音源を何枚か出したってのが実績なら、そうだろうな。ただバンドの音楽性が変わったから延長線上には考えてねえし、それはもともと一緒にやってた奴らにも失礼だと思うから。別の話だと思ってるよ」
U「今の4人で一緒にデビューしたんだ、くらいの気持ちなわけだ」
R「そうだな。まあ繭子の前にもう一人いたんだけど」
U「アキラくんだよね、知ってるよ」
R「そうそう。繭子になってからの方が長いけどな」
U「そっか。…翔太郎君て最初っからあんなに才能豊かな人だったの?」
R「どうだろうな。もともとガキの頃からの知り合いだけど、性格自体がガラっと変わったしな。あ、違うか。性格は同じかもしんねえけど、感情を表に出すようになったっていうかさ。昔は全然喋らねえ暗ーいガキだったし」
U「全然想像つかないね(笑)」
R「あはは、俺また殴られるかもしれねえな。まあ、いいや。でさ、最初のうちはあいつにあんな才能があるなんて分かってなかったけど、とりあえずギターの腕は俺達4人の中では抜群だったな」
U「へー」
R「でも俺の思うあいつの凄さって、もちろんそのテクニックもそうだけど、ほんと無尽蔵じゃねえかなって思えるぐらい、常に頭の中で音が鳴ってる所だと思うんだよ」
U「何それ」
R「俺らってまだ形になってない曲のストックがめちゃくちゃあるんだけど、なんでかっていうと翔太郎が狂ったようにメロディを生み出すからなんだよ。その、短いギターリフとか、ワンフレーズだけとかも合わせると正確な数が把握できないくらいに」
U「へええ、凄いね。ありがたい存在だねえ、曲作りに困らないなんて」
R「却ってプレッシャーだよ(笑)。死ぬまでに全部形になんのかよって真剣に途方に暮れるからな。ピンとくるかどうか分かんねえけど、あいつずっと携帯持ってんの。ギター弾いてる時以外ずっと」
U「今流行りの依存症だと思ってた」
R「だろ。あれ実はスマホのアプリで曲作ってんだよ」
U「えええ!スゴ。そういう人なのかあ」
R「そう。だから、めっちゃくちゃあるんだよ。色んな音が色んなスピードであいつの頭の中にあって」
U「ああああ、…欲しいー」
R「ふははは!そこはもうちょっと心の声にしとけよ。本気度がすげえよ」
U「そっかー。大した音楽家なんだなーやっぱり」
R「だから『ひとつの世界』の曲と歌メロを聞いた時、悔しかった部分もあるんだよ。いや、ちゃんと仕事したな、名に恥じないだけの曲作ったなっていう思いもあったけど、良い曲出しやがったなーおいーっていうね(笑)」
U「嫉妬だ」
R「そう。でもそれは多分俺よりもきっと大成が強く感じたんじゃねえかなあ。あいつの方がどっちかっていうと、曲調としては(URGAと)タイプの似てる作曲家だし、先越されたーっていうかさ」
U「ああ、うん。彼もそう言ってた」
R「翔太郎?」
U「うん」
R「へえー。でもあの歌はアレだな。全体のメロディもそうだけど、やっぱり歌メロがいいな。歌詞を上手く利用した響きの良い歌い方が出来てる。聞いてて気持ちがいい」
U「お、ボーカリスト対談らしくなってきたね。全然話変わるけど私竜二君の発音するThunderが好きだよ」
R「いきなりだな、ありがとう(笑)。びっくりした今、注意されんのかと思った。俺も今回のURGAさんの歌い方は好きだな。結構喉潰してる所がセクシー」
U「潰してはないよ、絞ってるけどね。捻り上げるような歌い方というか、慣れるまでは顎がガクガク動いちゃって、全然セクシーじゃなかったよ」
R「あー(笑)」
U「最初のうちは、『竜二意識してんのか?』って翔太郎くんに突っ込まれたし」
R「あははは! え、俺、顎ガクガクしてねえよ」
U「ガクガクって言うかなんかね、歌いながら顔でリズム追いかけてたみたい。体感的には速さを感じない曲だけどさ、作曲者の持ってる個性みたいなのがこれまで私が作ってきた歌とは全然違うリズムだったんだろうね。新鮮だった」
R「どっちかって言うと俺の方が馴染みがある曲な気がする」
U「そうなの。だから翔太郎くんに『竜二ならもっとこう歌うんだけどな』っていつ言われるかって内心ドキドキしてたもん」
R「そういう事は、言わねえよあいつは」
U「うん、言われなかったけどね。でもその時は不安でしょ」
R「まあな。でも初めて聞いた時に、大分あいつ寄りな気がしたから良かったのかなって思ったけど」
U「ドーンハンマーっぽいってことでしょ?」
R「いや、ドーンハンマーって言うか、翔太郎カラーが強いというか。歌メロは二人で作ったとしても、曲調がこれまであんたが作ってきた曲とは全然違うし、昔からいるファンは絶対違和感と受け取るだろーなって」
U「それはでも、…うーん、そうだなあ。ファンの期待に答えたい私と、裏切った上で新しい私を好きになって欲しい私がいるかな。今回は裏切ってもいいからやりたいことやろーっと、って」
R「ああ、なるほどな」
U「転調の多い曲を歌った事がないわけではないし、苦手でもないよ。あとは好きになる人と嫌いになる人がいるってだけだし、そこを判断基準にするのは独立した時にやめたかな。ただ、私が好き勝手に歌う事が誰かの心に寄り添うことなんだーなんて傲慢な事も思ってないから、私にしか出来ない事をしたいけど、でも一人でも多くの人に届けばいいなあとも、思ってる。それは普段私が歌ってる歌もそうだし、実は『ひとつの世界』だってそうだよ」
R「うん」
U「今回の共作がどういう受け止められ方をするかというより、私が歌う歌をたった一曲でもいいから側に置いておきたいと願う人が現れるかどうか、そこが大事」
R「すげえなあ。やっぱ色々考えてんだなあ」
U「でも君達と似てる発想なんだよ」
R「そうか?」
U「私の場合は、格好良いかどうかじゃなくて、誰かに必要とされる歌になっているかどうか、だね」
R「そこだけを追求していると」
U「そ」
R「難しいぜー?」
U「難しいよ~(笑)」
R「いわゆる流行歌になってはいけないし、かと言って説教くせえ魅力のない音楽でもいけねえしな。でも今それをやれてるのはURGAさんだけかもしれねえな」
U「ええー…。何だよ急にー。上げて落としてかあ?どうやって落とすつもりだあ?」
R「あはは!落とさねえよ」
U「あとさ、私歌ってて眉間に皺が寄る時があるの」
R「うん、知ってる」
U「でもそうなるのって私にとっては良い事でもあってさ。感情がスーっと入って行く時で、さっきの観客席の話じゃないけど視界が狭まって、違う場所へ魂が飛ぶような感覚になるんだよね。一瞬で別の次元に行けるみたいな」
R「ええー、凄いな」
U「『ひとつの世界』がまさにそうだったんだけど。竜二くんはそういうのない?」
R「そんなトリップ感はねえかなあ。いいなあ、一回その別次元に行ってみたい」
U「変な薬はやってないからね」
R「…からの?」
U「違う違う違う。ホラ!やっぱり落とした!」
R「(笑)、でも歌っててそういう感覚に陥るって怖くないの?コントロール不能になったりしない?」
U「ずーっとではないよ。完全に入り込むわけじゃないし。そういう感覚になれる時って物凄く集中できてるっていう事でもあるから、そういうメロディとか歌って、やっぱり自分の中では特別な一曲になる事が多いんだよね」
R「ああ、なるほどなあ」
U「特別な一曲って何かある?」
R「『終わりがくる時』」
U「ヘーイ、センキュー」
(手の平をパーンと上下で打ち鳴らす二人)
U「意外とベタなとこ選んで来てるように思えて、なんか竜二君らしくて好きだな。嬉しい。でもそれってやっぱりボーカリストとして選んでるとこない?」
R「意識したことないけど、そうかもしれないな。あの曲のあの声は、それこそ特別だよなーってつくづく思うんだよ。あの曲が出た時代とか身の回りの思い出やなんかも含めて好きだってのもあるけど」
U「へえー、そういう風に自分のこれまでの時間とともに愛してくれるのは嬉しい。そういう風にありたいといつも思ってる事だからね。曲で言えば、歌詞の内容もそうだけど、そこよりも歌い方であったりメロディの良さであったり、声の出し方とか、色んな要素が綺麗に補い合ってるなって自分でも思う。ベストパフォーマンスを発揮する為に歌うとしたら、絶対選択肢に入る歌ではあるよ、確かに」
R「URGAさんて自分の曲の中で一番二番とかある?」
U「あー、それはないかな。曲ってさ、好き嫌いでは作れないよね」
R「んー、でもうちは結構好き嫌いは関係してるかな」
U「そお? どんな風に?」
R「思いついたとしても避けるような歌い方とかあるだろ?」
U「ないよ?」
R「あるの(笑)」
U「例えば?」
R「サビでファルセットになるとか、ハイキーでハイトーンボイス使うとか」
U「へー、避けてるんだ」
R「うん。俺にハイトーンは似合わねえよ」
U「そんな事ないよ」
R「聞いた事ねえくせに(笑)」
U「あるよ」
R「ええ、いつ?」
U「大体分かるよ、想像力ないと思ってるでしょ」
R「あははは」
U「でも高い音域まで地声で持っていく方が竜二君らしいのは私もそう思う。叫んでるというか、吠えてる姿が似合ってるもんね」
R「ありがとう。そういう、スタイルっていう程大した話じゃないけど細かい部分で、それが消去法なのか、好きな物だけで固める方法か分かんねえけど、やっぱ偏りはするよ。ある時期はどうしても似通った歌い方が多いな、とか。そこを敢えて模索して別の歌唱法を試していく事でパフォーマンスに幅を持たせるんだけど、それってやっぱりもともと好き嫌いの存在があって、一つの方向性として自分の中にあるわけだしね」
U「それはでもいわゆる池脇竜二カラーをコレっていうものに決めてしまうか、カメレオンのように色々変化しながら挑戦していくかっていう話であってさ。曲を作る時の材料って詞とメロディと声でしょ。作ってる時は例えば、なんだろうな、格好良いぜ!って思って作ってるわけだから、絶対好きでしょ? じゃあ次の曲が出来た時に、前の曲はやっぱり好きじゃないってなる? ならないんじゃないかな」
R「嫌いにはならねえよもちろん。俺はでも、一番二番は言い過ぎかもしれねえけどこっちよりこっちの曲の方が好き、っていう感覚はあるよ。それもないの?」
U「あー、どうかなあ? 例えば新しいアルバムとデビューアルバムだったら、どっちが歌いやすいって言ったら新しいアルバムだよね。でも、じゃあデビューアルバムから何曲か歌いませんかって提案されたら、妙にワクワクしたり、嬉しかったりしない? やあ、久しぶりに会えたねえ、またよろしく頼むよー、なんて具合に」
R「分かる気はする」
U「なんかね、私の場合特に、ただ伝えたい言葉を書き連ねて一曲に仕上げました、というよりは、その時の自分の考え方や、歌詞には書ききれなかった色んな感情までぎゅっと詰まってる気がするんだよ。だからその歌を歌えば、それを作った時の自分が戻って来るような感覚になるし、その時私の側にいた大切な人や、友人や、家族や、…色々なものを感じながら歌ってるんだよね。竜二君が『終わりがくる時』を好きなのと同じように」
R「ああ、そうか。…そうなると、『好き』に順番はねえよな」
U「うん、そうなんだよねえ。でもさっき聞いた特別な一曲っていうのは、別に私の歌で好きなのどれって聞いたわけじゃなくて、まあそこも含めてだけど、竜二くんにとって特別な一曲ってどういう物なのかなって言うことね」
R「自分たちの歌も込みでって事? …それはー、ちょっとすぐには出てこねえなあ。多分歌ってきた曲数は、URGAさんにも引けを取らねえんじゃねえかなー」
U「そうだね。クロウバーの時代から数えると余裕で10枚以上アルバム出してるもんね」
R「それもそうだし、さっき言った音源化してない曲がいっぱいあるからなあ」
U「そっかー。デビュー曲って覚えてる?」
R「クロウバーのは覚えてる。シングルだったしな。ドーンハンマーはアルバムしか出してねえから、『FIRST』の1曲目がそれになんのかな」
U「思い入れ強くないの?」
R「思い出はあるけど、…どうだろう。今の方がもっと格好いい曲作れるしなって思っちまうかなあ」
U「過去の栄光は振り返らないぞ、と」
R「栄光なんてないけど。まあ、そういう見方もあるな」
U「君達っぽいね、それは」
R「なんていうか…。URGAさんにこういう話を聞かせるのは勇気がいるんだけど。音源に対してどこまで拘りを持ってるかっていう話になったらきっと、あんたとは何も語り合えない気がするんだよ」
U「なんで!?」
R「拘らないから」
U「ウソだよ、めっちゃ拘ってるよ」
R「うーんと。…もしかしたら翔太郎がもう言ってるかもしれねえけど、俺達のアルバムって作品じゃないんだよ」
U「ん、それはあれでしょ。そこで完成するわけじゃなくて、一杯演奏する事でどんどん進化していくんだって話でしょ?」
R「そう。要するにライブで暴れる為の手段なんだ」
U「そんなの別に珍しくないよ。皆そうだよ。私だってコンサートで色々なアレンジを試して曲の持つ顔をガラっと変えたりするもん」
R「それとはちょっと意味が違うかな」
U「どんな風に?」
R「もともと完成してる曲に新しい一面を持たせるとしたら、そこには準備や練習や入念な打ち合わせ、リハーサルが必要だろ?」
U「うん」
R「俺達は音源を完成した曲だと思ってないから平気で本番違う事をやるんだよ」
U「合わせらんないじゃん」
R「それでも合わすのがあいつらの凄さなんだよ」
U「ちょちょちょ、ちょっと待って待って。あはは、またこんな展開か(笑)。なんでそんな事したいの?」
R「格好いい曲をプレイしたいから」
U「それを作る為に、アルバム制作にあれだけ魂削ってるんじゃないの?」
R「そこがだから、あんたと違う所なんだよ。だから話が合わなくなるんだ」
U「えー」
R「いい曲を作りたいっていう目的はなくて、4人で格好いい曲ブチかますっていう目的の為の手段だから、曲は。今日完成させた曲を、明日壊したってかまわないんだ、そっちの方が格好いいんならね」
U「…じゃあ、何のために音源作ってるの?」
R「セトリだよ。これをライブでやる予定!全く同じにやるかは未定!」
U「あ、え、ライブに来ないファンはファンじゃいって事?」
R「そんな風に分けて考えてはいねえよ。音源聞いて『デスラッシュいいなー』『ドーンハンマーまたやりやがったなー』ってニンマリされるだけでも十分嬉しいし。けど、ライブに来たら確実に音源より凄いもん見せるとは思ってるよ」
U「それを音源で封じ込める事は出来ないの?その、凄いもんを」
R「やってるさ。やってるだろ? でもそこで完成なんだって誰が言える?なんで思える?今この瞬間にさ、もっといいアレンジ浮かぶかもしれないだろ。それをやるなって言うのか?だって毎日そんな事の繰り返しなんだぞ、俺達は」
U「ふわー…」
R「な、言った通りになったろ?」
U「ん?いや、怒ってないよ。逆にドーンハンマーの本当の凄さに触れた気がする。ずーっと動いてるんだね。立ち止まれない人達なんだね」
R「あはは、回遊魚か(笑)」
U「そうかー。そっかそっか。うん、なるほどね。色々理解出来た気がするよ。竜二くんのボーカルが曲ごとに違うのも、そこが理由なんだね」
R「そう。あー、うん、嬉しい。理解者がいた(笑)」
U「あはは、URGAです、どうぞよろしく」
R「よろしく」
U「私ね、こないだクロウバーのアルバム聞き返してみたの」
R「お、ああ、普通にびっくりした。ありがとな、忙しいのに」
U「ううん。だって音楽としてただ聞いて楽しむだけならドーンハンマーより全然心地いいしね」
R「うははは!」
U「綺麗なハイトーン出てたよ」
R「だから。ウソだろ、出してねえよ(笑)」
U「…『HOUSE OF NOISY INSANITY』」
R「…あ」
U「ほらー、ちょっとタイトル思い出すのに時間かかったけどもー(笑)」
R「完全に忘れてたよ。あー、確かに出してるわ。何で忘れてんだろ」
U「前にさ、たまには良い歌詞書くよねって話をした時にさ、私『AEON』って言ったでしょ。でも一番最初にそう思ったのって、実は別の曲なの」
R「なに?どれ?」
U「『レモネードバルカン』」
R「ああ、え、『FIRST』の? クロウバーの曲なのかと思った」
U「ややこしい話し方しちゃったね。『レモネードバルカン』という曲を初めて聞いた時、『俺達に任せとけ!』みたいなさ、ありふれた言葉のリフレインだけど、歌詞の内容と君達のキャラクターにマッチした音の世界が、なんかグッとくるなあって思ったんだけど、他はやっぱり8割方変な歌でしょ。でさ、今回クロウバーの音源を改めて聞き返してた時びっくりしたのがさ、ちゃんと書けるじゃないか!って思ったの」
R「あははは、あー、そこか。そうか、そうなるよな」
U「当時はやっぱりレコード会社から注文入った?」
R「いや、ビクターじゃなくて前の事務所からはね、あったよ。若かったから、こいつら分かってねえんじゃねえかって思われてたみたいで。だから当時は俺が言いたい言葉というより、曲を活かす為のフレーズを当て嵌めて作った感じだから、URGAさんにとっては変でも実は今の曲の方が全然歌いやすいんだよ」
U「分かんないもんだよねえ、そうなってくると」
R「そこは実際に作ってる人間にしか分からねえよな」
U「あれだけ絶叫しながら、早口だったり字余りを凝縮したりっていうあれやこれやの技術を要して歌ってるのに、もう少し大人しかった時代より歌いやすいんだ」
R「今もそうだけど、曲ありきの言葉選びだったりするからな」
U「昔からそうなんだね」
R「うん。また身内を褒めて気持ち悪いけど、昔みたいなああいう曲書かせたら本当に大成は名人だと思うよ。それは単純にミドルテンポとかバラードっていう話じゃなくて、綺麗な旋律や高揚感のあるサビに関しては翔太郎も自ずと道を開けるし」
U「棲み分けがちゃんと出来てる感じだね。曲書ける人間が2人もいるなんて贅沢だよなあ」
R「あはは。まあでも俺達のジャンルだと割とザラにいるよ、特にあっち(海外)だと」
U「世界は広いもんね。あと印象に残ってるのは、クロウバーの方だとこないだお願いした『裂帛』と、えーっと、『ブルーアース・バット』」
R「うんうん」
この時点ではまだ公式に発表されていなかったのだが、2017年春頃にリリースされるURGAのカバーアルバムに、CROWBAR時代の名曲『裂帛』を収録したいと申し入れがあったようだ。もちろんバンド側は快諾している。
U「あれさ、アルバム誤表記だよね?」
R「どれ?」
U「『BLUE EARTH BAT』」
R「何が?」
U「え、だって意味合い的には『わが星、あるいは』っていう事だよねえ。そしたらBUTじゃないと駄目でしょ。BATだとコウモリか野球のバットになっちゃうよ」
R「あはは。あってるよ」
U「ええ!? なに、どっち?」
R「野球のバット」
U「えええ!地球はじゃあ…ボール?地球をバットで打っちゃう歌なの?私の感動を返せ!」
R「ちゃんと聞いてくれてんだねえ、嬉しいなあ。ありがとうな」
U「聞いていい? なんでクロウバーやめたの?」
R「クロウバーをやめたというより、作りたい曲の方向性を今みたいなのに変えたいと思った時に昔の事務所では了解得られなかったんだよ。売れないっつって。でも、…やりたかったんだよ」
U「ああ、そうかあ。そういうのはホント辛いね。でも今は、逃した魚は大きいぞ!って思ってる?」
R「あはは。ああ、思ってるよ」
U「ワーイ!」
R「そんなの最初から思ってるよ。ただ恩義も感じてるし、一度は面倒見てもらってるからね。後ろ足で砂掛けるような事は言ってねえけど、ただもう今更戻って来いって言われてもな」
U「それはね。今の君達があるのはそれこそオリーの力もあるもんね」
R「ああ、他のスタッフも含めて、よくここまでついて来てくれたなと思ってるよ」
U「でもガラっと変えたじゃない?昔みたいにさ、気持ちよさそうに喉を鳴らして豪快な歌ウマアピールで世界を目指す事だって出来たんじゃない?」
R「ああ、ううん。そこは難しい話だな」
U「なんで?」
R「バンドで、歌うたって生きてくっていう目標を叶える事は割と早い段階で出来た」
U「うん」
R「そこからさらに世界を目指したのは、俺の夢というよりは俺達全員で世界を獲り行こうぜっていう意味なんだよ」
U「皆で思い描いた夢って事?」
R「皆がそこにいるっていう絵が出来上がってる夢、うん。実際行けると思ってたしね。夢というよりも予定とか計画とか、決定事項ぐらいに考えてたんだけど、それは翔太郎や大成やアキラじゃないと駄目だったんだよ。もちろん支えてくれるスタッフやそれまで一緒に戦ってくれてたクロウバーの奴らも含めてそうなんだけど。結局、俺一人が良い気分で歌い上げてるだけのバンドで、そこへ行けるとは全然思わなくて」
U「ええっ、らしくないじゃん、謙虚だね」
R「あはは。うん、そう。でも事実だからな」
U「そんな事ないよって、私が言っても信じない?」
R「アンタの事は信じるよ。でも信じる信じないじゃなくて、人が何を言うかで自分の人生を決めたりしない。…今スゲー嬉しいの堪えて必死にカッコ付けてるから」
U「あははは!正直に言わなくていいトコだよそこは!」
R「翔太郎がギター弾いて、大成がベース弾いて、アキラがドラム叩いて、あいつらが全身全霊で音を鳴らしたら、きっと俺の悦に浸った歌声なんか消し飛ばされるなって。だから俺は血管ブチ切れるまで絶叫しなきゃいけねえって。ドーンハンマーはそういうバンドなんだよ」
U「うん。…震えがくる程100点満点のお答えいただきました」
U「どういう評価のされ方が嬉しい?」
R「あんたは?」
U「『あなたじゃないと駄目なんです』」
R「ああ。…今ぐっと来たわ」
U「えへへ、なんで?」
R「いや、実際そうだし」
U「うおーう。ありがとう!そんな風に思ってくれてたの!?」
R「ずっと思ってるよ。URGAファンは全員そう思ってるよ」
U「あとで事務所に何か贈っときますね」
R「焼酎でお願いします」
U「芋派?麦派?」
R「麦」
U「私はワイン」
R「聞いてねえよ(笑)」
U「鈍いなあ。お酒誘っていいよっていう合図でしょう?」
R「あー、なるほどねえ。でも俺ワイン飲まねえしなあ」
U「いいお店紹介したげるよ」
R「そこは今度連れてったげるよ、でしょうが」
U「そういう意味でしょーが。にっぶいなあ(笑)」
R「あはは、そうなのか」
U「でもここ最近のドーンハンマーってちょっと、いやかなり、飛ぶ鳥を落とす勢いでしょ? 色々言われてるんじゃないの?」
R「色々って?」
U「賛否」
R「ああ。でもそれは別になんとも思わねえよ。実際に音源出してみて、ライブやってみて、その手応えや客のリアクションが全てだし。そんなのURGAさんだってそうだろ?」
U「そりゃあそうだけどさ。でも気にならないといったらウソになるかなあ」
R「評価?」
U「うん。評価よりも評判を気にするタイプかも。それこそアルバムの質とかコンサートの出来栄えとか、その瞬間の事であれば受け止められるんだけど、私という存在を揺るがすような言葉を見てしまった日には、一日落ち込んで立ち上がれない事もあるよ」
R「なになに、何を見たんだよ(笑)。インターネット?」
U「誰々さんに似てるよね、とかさ」
R「ああ、それは腹立つな」
U「もうねえ、…ちょっと待ってよーって。それを言う人の所に走ってって、全然違うよ!って言いたくて仕方ないもん」
R「そんな事言うと変な奴がそれっぽい事一杯言ってくるから、やめとけ」
U「あはは。でも、うん。そうなんだよね。竜二君は?」
R「そもそも、特に俺は言葉で何かを伝えるのが苦手なもんだから、具体的な感想を貰おうとも思ってないんだよ」
U「たとえば?」
R「今度の曲は怒りに満ちていますね!とか。…はあ!?ってなるし」
U「あははは!やばい、ツボに入った! でもそれさあ、別に向こうは変な事言ってないよね」
R「変な事っつーか、そう歌ってねえのにそう聞こえたっていうのはそいつだけの感想だろ。そんなん知らねえよってなる」
U「ああ、竜二君が怒りソングを作ってないのにってこと? そんな事言われる!?」
R「めちゃくちゃ言われるよ!」
U「そうなんだ。全然伝わってないんだね。やばい、まだ面白いよ(笑)」
R「そもそもそういうモチベーションじゃないからさ。いつまで笑ってんだよ(笑)。そこに勝手なテーマ性を求められても困るんだよ。格好良いかどうだかだけ聞きたいんだよこっちは!って。だから前にうち来て歌ってくれた時に言ってたあんたの感想が一番好き。『なんだか分からないけど、凄いぞ!』って」
U「そうかあー。やっぱり、凄いねえ」
R「…ええ?」
U「多分誤解されてると思うし、いい機会だから言うけど、私ドーンハンマーで一番才能豊かだと思ってるのは竜二君だよ」
R「え!」
U「あははは、カメラ見て!凄い顔してるから(笑)」
R「なんで?冗談だろ?」
U「ええ、何言ってんの。そんな冗談言うわけないでしょ。嫌なの?」
R「嫌じゃねえけど、びっくりはしてる。そこは普通に翔太郎だと思うだろ」
U「あはは、流れ的に、みたいな?」
R「そう」
U「デリカシーないって本当だね」
R「あははは!それは、やっぱり同じボーカリストとして、みたいな」
U「贔屓目に見て? ううん、もっと単純に考えて、バンドで唯一ひとりでも世界で戦える人だと思ったから。もちろん翔太郎君も大成君も繭ちゃんも非凡だとは思ってる。でも彼らがそういう才能で全力を出せるのは、君がいるからだと思うよ」
R「いやいやいやいや、違う違う、逆、逆逆」
U「認められてこれだけ否定する人初めて見たんだけど(笑)」
R「あはは、いやー、困ったな」
U「竜二、お前が一番だ!」
R「いやいやいやいや…」
U「あははは!」
R「そんな事今まで一度も言わなかっただろ。なんでいきなりそんな事言うんだ?」
U「もう言ってもいいかなあって思って」
R「え、頃合いの問題? なんで今なんだよ」
U「どこかでまだ信じてないっていう顔だね(笑)。うーんとね、…才能の話とはまた少し違うかもだけど、同じボーカリストとして初めて生で歌声を聞いた時に、なんていうか、嬉しかったの。言い方がすごく難しいけど…私に近いなって。ただ友達同士仲良く楽しんで音楽活動してるだけじゃないな、この人なんか背負ってるなって。物凄く良い雰囲気を持ってる人だなって勝手に思ってて。もちろん才能に嫉妬したり奮起したりっていうのもあったけどさ、全部ひっくるめてそういう言葉を本人の前で口にしたくはなかったんだよ、その時は。なんでかって言うと、私の個人的な経験だとか考え方だとかが色々影響してる見方だから、言われた方はきっと混乱するし迷惑だろうなって思ったからね。ほら、今のそういう顔。…だから実はそーっと見てたんだよ。戦ってるな、今日も戦ってるな、叫んでるなって。それを確認するのが密かな楽しみとか、励みになってた」
R「…えー、全然知らなかった。ぜんっぜん知らなかった」
U「びっくりした?」
R「かなり」
U「だから言いたくなかったんだよ。なんか…ホントは私だけが勝手に思ってればいい事なのにね。でも、アメリカ行く前に伝えておくのも良いかなと思って。竜二、ちゃんと見てるからな!」
R「おう。ありがとう(笑)」
R「前から気になってたんだけどさ」
U「うん」
R「なんでURGAっていう名前なの?」
U「何がなんでなの?」
R「何が。え?」
U「名前だよね」
R「うん、だからなんでURGAにしたのって」
U「だから名前だよ。え、言ってなかった?」
R「…え、URGAっていう名前なのか?本名?」
U「いや、え、うんと。漆の葉っぱと書いて、ウルハ」
R「ウルハ?」
U「Uruha Ray Gabrielle。ウ・ル・ガ」
R「え!? ハーフ!?」
U「うん。ウィキにも出てるけど」
R「えー、知らなかった。え、じゃあ向こうだとガブリエル・レイ・ウルハ?」
U「アメリカ式に言えばね。でも日本でもどこでも活動はURGAだよ」
R「うわー、全然知らなかった。皆知ってんのかなこれ」
U「皆って誰のこと?(笑)」
R「織江とか、翔太郎とか」
U「オリーは知ってるよ。だから大成君も知ってるだろうね。翔太郎君にはウルガとしか呼ばれたことないなあ、どうだろう」
R「いやー、たまげた。全然思ってた話と違ってびっくりした。普通にURGAっていう言葉自体に意味があるのかと思って」
U「今でもあるのかな、新宿に同じ名前のライブハウスがあるって聞いて見に行ったことある(笑)」
R「ああ、あそこは今違う名前になってるよ」
U「そうなんだ。ますます頑張らなきゃ」
R「そっか名前かあ。公表してんの?」
U「あえて公表はしてないけど、どこかから漏れ出ちゃったね。間違ってないから否定も出来ないし」
R「そっかそっか」
U「…別に気にしなくていいからね。嫌だと思ってたら最初から言ってないから」
R「おう」
U「…え、なんか気にしてるよねえ、その顔」
R「してねえよ、全然違う事考えてた」
U「何を?」
R「もし俺がその名前だったら絶対、『ニックネーム統一してくれない!?』って言うよなあと思って」
その瞬間、大きく目を見開きこれまでにない大きな動きと声で笑い声を上げるURGA。
途中ゲホゲホと咳き込み、池脇が慌てて背中をさする。
U「あー。おー」
苦しそうに喘ぐとまた笑い出すその姿に、池脇は背後を振り返ったり誰かを探すようにきょろきょろと辺りを見回している。よっぽどURGAの反応が想定外だったようだ。
U「ごめんごめん、ありがとう。なに、なんで。私の事昔から見てたの?」
R「なんだよ、笑いすぎだって」
U「凄いねえ、まさしくその通りだよ。私本当に同じセリフ言った事あるもん」
R「あはは、そうなのか」
U「だってさあ。まずは、ウルでしょー? ウルハ、レイ、レイちゃん、ガブリエル、ガブ、ガブちゃん、ギャビー、ゲイブ、もー!」
R「うははは!や、そりゃそうだろうなと思って。やっぱそうか、そうなるよな。でもやっぱりそんな感じする。ガブリエルだわ。あんた天使感あるもんな」
U「天使感!(笑)。あのさあ、そういう事は人前で言わないでくれるかな。いくらこんな私でも世間の目は気にするからね?」
R「あー、俺絶対ガブちゃんて呼びたい」
U「あははは、公表してないって言ってるだろ。あと私40だからね?」
R「平気平気」
U「ん?」
R「平気だって」
U「…見えないって言う所!早く言って!」
R「あははは!見えない見えない、天使、天使」
U「幸せって何だと思う?」
R「…でかい話するなあ」
U「日常レベルの話だよ。なんでも思いついた事でいいから、聞かせて」
R「世界平和とかそういうんじゃなしに?」
U「なしに。…それが本気の願いなら構わないけど、それが幸せ?」
R「個人的な幸せの話をするなら、今」
U「…具体的には?」
R「バンドのボーカルとしてガムシャラにやりたい事やって、倒れそうなほど忙しい毎日で、すんげえ酒が美味い。腹立つくらい才能豊かなメンバーに恵まれて、背中を押してくれる仲間がいて、俺が世界で唯一別格だと思ってる歌うたいがクリスマスの朝、今横にいるから」
U「さすが綺麗にまとめて来るなぁ(笑)。さっきの私の話がもう影響してない?」
R「してねえよ(笑)、ちゃんと本音で言いました」
U「なら、良し。私ね、皆んなの演奏見たの、ファーマーズでの舞台を」
R「お、ありがと。感想聞いていいの?」
U「やっぱり、自分の気持ちを人に伝えるって大事だなって改めて思ったよ。それは竜二君のスピーチだけを言ってるんじゃなくて、音楽そのものがさ、言葉だけじゃなくて、生き方や考え方や、人となりで溢れてた。格好良かったよ」
R「おおー、…沁みたぁー」
U「あはは。パソコンで見たんだけどさ、目が痛くなるくらい、グーって入り込んで見ちゃった。字幕なしで竜二君のスピーチ聞けるからさ、一人モニターの前で頷きながら見てた。何度も鳥肌が立った。考えてみればあれ見てる時ってもう日本帰って来てたんだろうしさ、電話でもすれば良かったね」
R「そんなテンションで電話あっても照れて何も話せないかもしれない(笑)」
U「あはは、そうかもしれないね。うん、あと純粋に嬉しかったのもあって。ジャンルは全然違うけど、心から凄いんだ彼らはって思ってるから、あれだけ大勢のセレブの前で堂々としていてくれる姿や、喝采を浴びてる姿を見れたのが嬉しい。喜んでないでお前も頑張れって話だけどさ」
R「いやいや、何言ってんの。すっごい嬉しい。ありがたい」
U「勉強にもなった」
R「どんだけ言うんだよ(笑)」
U「ほんとほんと。音楽を仕事にしてやってるとさ、目の前の音や歌に縛られてるなって感じる時があるの。でも音楽ってさ、人の思いや願いを増幅させるツールだったり、素直に言えない気持ちを通すフィルターだったりして、本来一番手前にあるべきは心だと思うんだよ。そこを忘れちゃいけないんだって自分で反省する事がよくあるし、ドーンハンマーはその部分がしっかりしてるなって感じる。もちろん音楽に対する捉え方は、私のは一般的じゃないのかもしれないけど、でもそう思う」
R「うん」
U「『うん』?」
R「え? いや、音楽論を戦わせる程の学はねえよ(笑)。けどなんつーか、分かんねえけど、大事なのは多分何が正解かとかじゃなくてさ、あんたがどう思いながら自分の音楽と向き合ってるかって、そこだけなんじゃねえかな」
U「うん、うん」
R「自分で出した答えが何よりも正しいと思うし、あんたはきっとそういう所間違わねえよ」
U「あはは、凄いね」
R「何が」
U「それでね、君達が心底楽しそうに、嬉しそうに演奏してたあの日の舞台を見て、あー、幸せってこれじゃないか!ってシンプルにそう思ったの」
R「仰る通り(笑)」
U「いつまでも自分達を偽らずに思うがままプレイし続けて欲しい。君達はそれが出来ると思う。その事が分かったんだよ」
R「なんで? 笑ってた?」
U「笑ってたし、本気だったよね」
R「もちろん」
U「だから、私から見て君達は今とても幸せだろうなと思う」
R「うん」
U「本人としては、どういう時が幸せ?」
R「だから今だよ」
U「あはは! ありがとうって言わせたいのか? もう、ありがとうっ」
R「あははは!いやいや、違うよ。なんつーかなあ。…結構俺ら、小っちゃい時どうしようもねえような育ち方したからさ、面倒な現実から逃げたくて、とにかく必死でここまで来たって思うんだよ。不幸自慢とかそんなんじゃなくて、何が言いたいかってーと、多分世間一般の人が最近俺達をどこかで見かけて思うのは、メタルとかやって、余裕かまして、カッコばっかつけて生きてやがんだろうなあって事だと思うんだよ。別に否定はしないしどんな風に見られようと気にしないけど、あんただけに本音を言うとまだまだ全然余裕なんかねえし、一杯一杯だよ」
U「そうなんだ」
R「だから今、すっごい眩しい。意味が分からねえくらいどきどきする」
U「なんで?」
R「あんたの事を別世界の人だと思ってるから」
U「…私が!? 今更!? なんで(笑)。全然一緒だよ、デビューも近いし、ほとんどやってる事同じじゃない」
R「全然違うよ」
U「一緒に歌った仲じゃないか」
R「まあ、そうなんだけど」
U「ええー、なんかショックだなあ。同志ぐらいに思ってたのに」
R「あはは、うん。でも別格だし、別世界だと思ってるから。…だから、これぞ夢って感じ。さっきも言ったけどさ、俺達がアメリカ行って活動する事自体は想定内なんだ。自分で敷いたレールの上をただ走ってるだけだし、もともと目的地だった場所に行くだけだからな。でも俺の人生にあんたは登場するはずじゃなかった」
U「寂しい事言うなよっ(笑)」
R「そのぐらい次元が違う。…朝も早えしさ、俺はまだ夢の中にいんじゃねえかな」
U「おいー。新曲のタイトルが出来そうだぞー!?」
R「まあ、そんな感じだな」
U「なんか嬉しいけど複雑だなぁ。でもなんか意外だったな」
R「なんで」
U「竜二君て普段はもっとこう…、来いよ!みたいな人だと思った」
R「…何?」
U「だから、来いよ!みたいな」
R「なはは。なんだよ、全然分かんねえよ」
U「えー!まあいいけどさあ、でもやっぱりショックだー」
R「こっちこそ意外な反応されてびっくりしてるよ」
U「竜二君さあ、自信家なのに、控えめだね」
R「トムとジェリーみたいな言い回しすんな(笑)」
U「私と竜二君の何が違うの?」
R「それは分からねえよ、俺あんたの事何も知らねえし」
U「…うわ。…うわ、泣きそうだ!」
R「なんで!?」
U「そんな突き放すような事言う人だったんだ」
R「えええ、今これ泥沼だな。喋れば喋るほどわけ分かんねえ深みにはまってく気がする」
U「ショックだー。ガーン」
大袈裟に肩を落とし、天井を仰ぎ見て目を閉じるURGA。
池脇は苦笑いしながら頭を横に振って、
カメラに向かって何度も「何が?」と口パクしている。
R「あんたはどうなんだよ。幸せはどんな形をしてる?」
U「カタチ?」
R「世の中には色々な形があるだろう? 歌、芸能界、友達、恋愛、結婚、妊娠、出産、育児。…酒」
U「酒」
R「あははは!」
U「そーだなー」
R「別に女としてとか、そういう括りで決めつけなくていいけど、そもそも今言った事ぐらしかぱっと思いつかないし。URGAさんにとっての幸せは何なんだ?」
U「今竜二君が言った中での話をするなら、まず歌だよね。これが一番大きいし、それは歌える事もそうだけど、少なくとも誰かに届ける事が出来る環境が整ってるっていう幸運もあると思うんだよ」
R「うん、それはこの20年であんたが続けてきた努力の結果だろ」
U「そうだけど、私がCDプレスしてるわけじゃないし、私が段ボールに詰めて出荷してるわけじゃないしね」
R「ああ、そういう話?」
U「違うけど」
R「なんだよ(笑)」
U「うん…。結婚、妊娠、出産、育児は、私の、ひとつの夢でした」
R「うん」
U「自分が生きた証は歌として残せるけど、世界を繋げていく事もまた大切な事だなって思ってる部分もあるし、そんな大きいテーマで考えなくたって、一人の女性として愛する人の子供を産んで育てていくって事はさ。それは、…ねえ?そりゃあ凄いよ」
R「…うん」
U「自分で聞いといてそんな顔するな(笑)。 意外と私も限界近いぞ?」
R「あははは!ごめんごめん、色々考えちまった」
U「そっか、そうだね」
R「デリカシーなくてごめんな。この話はやめよう。酒の話しよう」
U「別にいいよ。竜二君はいつも腹割って接してくれるから、なんでも話せるよ」
R「…うん」
U「最近になって悔しいなと思うのはさ。意外なほど身近にいた人達なのに(レコード会社が同じ)、去年のアルバム制作に参加するまでずっと関わり合いを持てなかったじゃない?」
R「うん」
U「今こうやって二人で並んでこれだけ色々と話をするっていう事も、考えてみれば初めてかもしれないしね。何で今まで、ちゃんと聴いてこなかったんだろうって。改めてドーンハンマーやクロウバーの音源を聞いてて思うし、勿体ない事したなぁって」
R「嬉しいねえ。嬉しいけど、そらそうだろうなって思うよ。同じ音楽とは思えないしね、やってる事が違い過ぎて」
U「表面上はね(笑)。私自身は、制作現場にお邪魔した時に得る物が凄くたくさんあったし、竜二君が思ってる程は、距離は感じてないよ」
R「それはでもちょっと、意外だった。初めてうちのスタジオ来てくれた時も、生音にびっくりしてるようなリアクション取りながら笑ってたし、懐深いなと(笑)。もう、うるさい!嫌い!ぐらいに思う人だっているからな、実際」
U「うるさい!とは思ったけどね。でもそこはある程度覚悟して行ったし、思ってたより全然うるさくないなって思う方が嫌だよね」
R「それは確かに」
U「ちなみにだけど、私の事っていつから知ってる?」
R「ずっと前から」
U「…」
池脇を見つめるURGAの微笑が少し、赤みを帯びた。
R「20年前から知ってる」
U「…あはは」
そのままURGAは両手で顔を覆った。どうやら照れているらしい。
U「ありがとう」
R「デビュー当時からずっとファン。まだオカッパみたいなおぼこい髪形で、満足に弾けもしないでかいファルコン(アコギ)かついでライブ演ってた頃も知ってるし、生で見てたよ。CDショップのインストアライブを昔のメンバーと見に行った事もある。この人どこでも裸足で歌うんだなーって、綺麗な足の爪してんなって思った事も覚えてるよ。あとは、俺達が昔メジャーだった頃にPV撮る話になってさ、俺も大成もまだガキに毛の生えた程度だったから場慣れしてなくて、ガチガチに緊張してさ。あんまりにも体動かねえもんだから、2人してアンタの『 Far beyond my voice 』の振り付けを踊って緊張解したんだ。だからその頃から誰かに寄り添う愛の歌を歌って来た事を知ってるし、世の中に二番煎じ、三番煎じが出て来た時は鼻で笑ってやったよ」
池脇の冗談に突っ込みを入れようと、顔を覆っていた手をどけた瞬間彼女の目から涙が零れた。笑顔だが、感極まった様子だった。涙を抑えて池脇を見つめるのだが、当の池脇本人はURGAを見ずに俯いている。
R「俺達皆そうだよ。あんたの大ファンなんだ。…だから翔太郎があんたと初めて対談した後に俺聞いたんだよ、どうだった?って。したらあいつ、『ゲロ吐きそうなぐらい緊張した』って真顔で言ってたよ。大成もあんたの楽屋に初めて呼ばれた時、ションベンちびりそうになったって言ってた。今日だって俺もすげえ緊張したし、…今でもどっか抜けてねえ。制作の場でさ、皆がいる中でワイワイやったり、そこで話をしたりってのは全然平気なんだけど、一対一になっちまうと今でも震えがくる。多分、そこにはドーンハンマーとしての俺ってものはいなくて、あんたを20年好きでいるただの俺になってるからなんだろうなって思う」
URGAは俯いて、左手で目鼻を覆った。
R「前にスタジオで目の前で歌ってくれたろ。…これは一体なんだろうなって、まじで信じられなかったし、完全に無防備になってた。人生の半分、俺はあんたの歌とともに生きて来たから。その20年の中で起こった色んな、楽しい事や辛い事が全部目の前に広がったんだよな。いつかちゃんと、思いのこもった『ありがとう』を言わなきゃなんねえなって…それは初めて顔を合わせた時からずっと思ってた」
自分でもいけないと思ったのだろう。
URGAは顔を覆うのやめてしっかりと池脇の横顔を見つめた。
R「タイミングがずっとなくて。…改めて、畏まって礼を言うのも柄じゃねえなって思ってたけど、さっきあんたが言ったように、俺が腹を割って接してると感じてくれてんなら、今じゃねえかなと思う。…ずっと、ありがとう」
微笑みながら話していた池脇が彼女を見た瞬間、URGAの笑顔が泣き崩れた。
U「あはは、変な感じ」
そう言ってなんとか笑おうとするのだが、涙が止まらず、唇がわずかに震え始めた。
池脇はカメラに向かって右手の平を差し向け、首を横に振った。
U「あ、こないだネットニュースに出てたけどさ、あの噂って本当なの?」
R「噂って?」
U「ハリウッドスター、リディア・ブラントと熱愛!って書かれてたよ」
R「ああ、あれわざと向こうサイドが流したんだよ。すごい事するよな」
U「ウソなの?」
R「ウソではないけど」
U「あはは、すっごいね。君、やっぱり信じられないモテ方するんだね」
R「なあ。ウソなんじゃねえかな」
U「そういう事は冗談でも言うもんじゃないよ。たとえジョークでも相手は傷ついちゃうからね。絶対ダメ」
R「…はい。付き合って、ます」
U「ちょっと変な間があったけど正直でよろしい。…そうするとあれだね、映画主演とテーマソングのタイアップで共演とか夢じゃないんだね」
R「どっかの好き物が自分とこの映画にデスメタルを起用してくれんならね」
U「ハードロックとかヘヴィメタルは多いでしょ」
R「ハードロックとメタルは多いね」
U「デスの部分にこだわりがあるんだね」
R「『どこまで本気で暴れられるか』ってのが一つの指標というかね。全力で歌って全力で弾いた時に今の音楽性以上のジャンルはねえし、グロテスクなのも全然ありで、えぐいぐらいの攻撃性を持って奏でられる最高の音楽だと思ってるよ」
U「急にそうやって男の子の顔するもんなぁ。惚れてまうやろー」
R「古いんだよ(笑)」
U「あははは。…ハリウッド女優だって(笑)」
R「んー、ふふふ、そこは何も返しようがねえよ」
U「あ、思い出した。ちょっと前にも女優さんと話題になってなかった? 日本の」
R「ああ、あれはウソ。一回しか会った事ないし、二人で会った事はないな」
U「こわっ。あれウソなんだね」
R「うん。そんな事言ってそっちだって、共演する若いミュージシャンといっつも噂されてんのはなんで? いっつもだよな」
U「ああ、ねえ。こわいね。多分プライベートスタジオに呼んで演奏したり打ち合わせしたりが多いのと、ブログでその風景をアップしちゃうからじゃないかな。やっぱり楽しい事は、楽しいって言いたいし、そういう事なんだろうね」
R「隙が多いんだな」
U「おい、レディに言っていい言葉じゃないぞ(笑)」
R「あー、またやった」
U「学習しないなぁ」
R「えーっと、恋多き人、か」
U「だから違うって(笑)」
R「あはは」
U「そういうの気にする人?」
R「そりゃ人を傷つける発言しといて何にも思わねえ程ボンクラじゃ」
U「違う違うそっちじゃなくて、噂話とか」
R「…本人の言葉を信じるから噂は気にしない」
U「裏切られた事がないんだね」
R「あんの?」
U「あるよそりゃあ」
R「そっか」
U「本当にないの?」
R「分かんねえ」
U「幸せな奴だなあ(笑)」
R「おかげさまで」
U「竜二君はやっぱ、モテるわ。あはは」
R「なんだそれ。そうそう話変わるけど、多分年明けて、1月中には表に出ると思うんだけど、リディアのインタビューをもう撮影してあるんだよ」
U「そうなんだ! え、今言って大丈夫なの?」
R「うん。この、今日の映像だって表に出るとしたら相当先だぞ。春以降とかだし」
U「そっかそっか。二人で話してるの?」
R「いや、時枝さんがインタビューしてる単独の奴。一応その場にはいたけど、俺は参加してねえよ」
U「そうなんだ。どんな内容か聞いていいの?」
R「リディア・ブラントにとってドーンハンマーとは、みたいな。そのインタビューで本人言ってるけどさ、『自分だけではないと思うけど、人間の一番奥の、一番深い所に刺さるものって、決して美しい形をしてるとは限らないと思うんだ』って、言うわけ」
U「…ワオ。…あー、凄い人なんだね」
R「うん。『彼らが何者であろうと私にとっては重要じゃない。彼らが誰よりも強靭で、見た事のない程ギザギザで、鋭く尖った大きな槍を、私の心の真ん中に突き刺さしてくれたおかげで、私は今ここであなたと話をしているんだ』って笑顔で言ってるのを見た日にゃあさ。ああ、そうかーって」
U「…うん」
R「本当に遠くまで俺達の投げた槍は届いたなーって感心したし、それが人の生きる励みなったのは音楽的な評価とはまた違った嬉しさがあるっていうのは、あんたにはよく分かるだろ」
U「…うん」
R「だから、リディアの一番深い所に刺さったものが、要するに俺達で言うこだわりの強い『デス』とか『スラッシュ』の部分なんじゃねえかなあって理解した時の喜びというかね。別に死のイメージとか言葉通りのニュアンスを売りにしてるわけじゃないけどけど、…もっと行こう、もっとやれる、もっとだ、もっと!って常に思ってる気持ちの先端部分はきっと、歪んでイビツな形をしてるだろうなって自分達でも思うんだよ。そこはきっと誰にも理解されないくらい、形容しがたいカタチをしてるんだろうなって思ってる」
U「…」
R「大丈夫?」
背筋を伸ばし、話す池脇の横顔を黙って見つめていたURGAの目にまたも涙が浮かんでいた。
彼女はそれを指先で拭いながら何度も小刻みに頷いて返すものの、返す言葉を口にすることはできないでいる。
R「ダイレクトにそこを拾い上げてくれた人ってのがこれまでいなかったし、はっきりと言葉で賞賛してくれた人もいなかったから、余計嬉しかった。だからって安易に、じゃあお付き合いしましょうなんて、そんな子供みたいな単純な発想にはならねえけどさ。それでも俺は…」
U「言わなくていいよ。そんな大事な気持ちは他人に言わなくていい」
R「何も知らねえなんて言っておいてアレだけど、他人だとは思ってねえよ。20年だから」
U「あはは、ありがと」
URGAは何度か胸の真ん中をさすり、喉の調子を整えると足元に置いていたペットボトルを拾い上げた。
U「じゃあ、せっかくだし、恋愛の話する?」
R「フフ。どうぞ」
U「例えばさ、自分の才能に酔ってるって思われるかもしれないから言い方に気を付けないといけないんだけど、どっちの自分が好き?どっちの自分が本当?どっちの自分が気持ちい良い?って自分自身に聞いた時にさ、出てくる答えは全部、URGAなの」
R「…そうなんだ」
U「うん。じゃあ、全部URGAでいい?って言われたらさ、人間…」
R「そうでもねえわな」
U「そうでもないよね。その部分なの、私にとっての、恋愛は」
R「うん、うん。…ぶっちゃけすぎじゃねえか?」
U「あはは、昔は違ったけどね」
R「うん」
U「なんか、似てると思ってるの、竜二君と私は。だからこういう話出来るんだけど」
R「うん、そうかもしれねえな」
U「うん。この先、多分誰もこんな事を私に確認してこないしさ。もっと言えば他人には関係ない事でもあるでしょう、プライベートという部分においては。だからきっと本当は、隠れてうまくやっていけるはずなんだよ。隠れてって言うとコソコソしてるみたいで変だけどさ。わざわざ公言しなくたって、いい恋愛をして、良い曲つくってさ、幸せに歌っていく事ももちろん出来るはずだし、昔は出来たんだけど、今はもう『URGA』程の全力と時間を使っては出来ないんだよね」
R「うん。出来ねえな」
U「ふふ、ごめん、そんな、合わせなくていいからね」
R「何だよ、気なんか使うなよ(笑)」
U「それはこっちのセリフだよ、デリカシーないくせに優しさは人一倍あるなあ。でも自分自身が一番理解してるからさ。誰かを心の底から愛して、そうして得られる幸せを糧に生きていきたいっていう、私の中にあった女心という魂は、もうあの人の棺桶にそっと入れてきちゃったんだよ」
R「…ああ」
腕組みをしたまま、池脇がURGAとは反対方向に顔を向ける。
U「良ければだけどね、これを機会にちょっとでも知ってくれれば良いなと思うし、おそらく色んな人に誤解を与えたと思うから言うんだけど、例の彼の事はもちろん今でも好き。でもじゃあ、彼が手に入るなら音楽やめて、一人の女性として彼の側で生きていきたいの?って言われたら、そんな風に聞かれなくても同じ事だけど、そういうのはもう無理なんだよね。それに、それ以上に彼の音楽家としての存在を尊敬するし、大好きだからこそ、一人の男性として見るという狭い見方はもう出来ないかな」
R「…いや、そこはでも」
池脇が何か言葉を挟もうとすると、URGAは無言のまま彼を見つめる事でそれを遮った。
池脇はその眼差しに観念したような顔で頷き、下を向いた。
U「一度ヒヤっとしたのがさ。身近な人に言われたんだよね。URGAさん彼を甘やかしすぎですって。ああ、もうそういう距離感で見られてるのかってびっくりしたのと同時に、なんだか怖くなってさ」
池脇がURGAに視線を戻す。
U「何を言われようと少なくとも好意はあるからさ。そこにどんな言い訳引っ付けたって周りから見れば同じ事でしょ。でも、種類はどうあれ久しぶりに他人にそういう感情や興味を持った事で、余計にいなくなったあの人を思い出してる自分に気がついたの。めちゃくちゃ寂しいよーってなって。例の彼とは似ても似つかない人だったけど、二人の人生を一緒に歩いていけるはずの人だったから、一杯思い出して一杯怖くなったんだ。これってひょっとして無意識に忘れようとしてる感覚なのかな、違うよねって焦ったりもした。だってさあ、…やっぱり今でも、どうしようもないくらい死んじゃったあの人の事が大切なんだよ。これはもうどうしようもないんだけどさ。それに私がURGAでいる以上は、そこを他所へ押し退けてでも一人の男の人に私の全てを捧げる事は、もう出来ないなぁ」
R「当たり前だろそんなの。死んだからって好きな気持ちが消えるわけねえだろうが」
U「だけどもう二度と会えない人を思い続ける事が、幸せだとは限んないでしょ」
R「幸せだと俺は思ってるよ。そういう人がこの俺の人生に確かにいたんだって何度でも思い返せる事は、俺にとっては十分幸せな事だから」
U「でももう二度と会えないんだよ?」
R「それでも。俺は忘れるなんて出来ねえな」
U「…うん。竜二君ならそう言ってくれると思った。ありがと」
R「何がありがとうなんだよ」
U「同じ経験をしたあなたにだけは分かって欲しかったし、そう言って欲しかったんだと思う」
R「分かるに決まってんじゃねえか。俺の気持ちだってあんたが一番分かってるはずだろ。忘れちゃ駄目だなんて事は簡単に言えねえけどさ、心の隅っこだっていいから、ずっと覚えててやんなよ」
U「うん、ありがとう」
R「なんつーか、人恋しくなったら適当に若いのと遊んでさ、後ろ向いて舌出してりゃいいんだよ」
U「あははは、そんなわけにいかないでしょ。一応これでも愛の歌を歌ってるんだから」
R「いいじゃねえか別に、お互いがそれで良けりゃ丸く治まんだから」
U「丸く治まらないでしょ(笑)」
R「なんで。それこそスタジオミュージシャンでもなんでもさ」
U「だから、ちーがーう!」
R「あんたの寂しい顔見るよりゃあずっといい」
U「そんな事言ってさあ(笑)。…え、ちょっと待ってちょっと待って。ひょっとして竜二君て遊んでる人なの?」
R「ん?」
U「遊んでるな?」
R「…はいい」
U「え?」
R「…はいい?」
U「ええ?…もー。…もう!」
URGAは池脇の太ももにペットボトルを叩きつけると、嬉しそうな笑顔で涙を拭った。
池脇はURGAのペットボトルと自分のペットボトルを手に持つと、おどけた顔でその2つを戦わせて見せる。喧嘩している男女のようだ。いや、一方的に怒られている男と、怒っている女だろう。
U「でもさあ。もう竜二くんだから正直に告白するけどさあ。確かに、どこか少しくらいはそういう部分で遊んだりする事もなくはないんだよね」
R「そういう部分って?」
U「駆け引きとまではいかないんだけど、ちょっと笑顔多めで接してみたりとかさ」
R「(手を叩いて爆笑する)」
U「ただ相手によるけどね。もの凄くそういう事に飢えてるような殿方だったり真面目な人には、それは出来ないし。なんなら全然私に興味ないような人の方が遊びを仕掛けてみたくなるというか」
R「上手にあしらってくれるような相手ならって?」
U「そうだね。…あしらわれるのは、腹が立つけど」
R「ギリギリのライン攻めてたなー」
U「そうなのかな、分かんない(笑)」
R「その、…まだ例の彼で良かったと思うよ」
U「あはは、そういう事言えるんだ」
R「でもさあ、それで相手がちょっとでも本気になったら、そんなつもりじゃないんですぅーってなんの? それなんて言うか知ってる?」
U「アイドル」
R「ビ、あははは!お手上げだ、アンタには誰もかなわねえ」
U「ビってなんだ、おい(笑)。ただやっぱり私の方から誰かを本気で求めたりはしないかなあ。竜二君は? あ、これ聞いちゃうとまずいのか」
R「いいよ。俺もそうだよ。でも俺は、断る理由もねえかなって思ってるよ」
U「んー。ん?相手から来た場合ってこと?」
R「そう」
U「あー。なるほどね」
R「じゃないと、俺やURGAさんはこの先リアルな人の体温を感じないまま生きてく事になるだろ。実際それでも俺はかまわないけど、くれるってんなら貰おうかなって思ったっていいんじゃねえかな。なあ?」
U「…それを私に同意しろと?(笑)」
R「だめか?」
U「もっとなんか、素敵な表現してよ」
R「えー? あー、なんだあ、そのー」
U「誰かに必要だって言ってもらえる幸せをさ、振りほどける程孤独が好きなわけじゃないよね」
R「それ!」
U「また新曲出来たね」
R「ニュー、マキソソンゴーゥ」
U「バカにしやがって(笑)」
R「あー、話せて良かったなあ。…やっぱり俺、アンタの事好きだわ」
U「うん。ありがとう。私も話せて良かった。側に池脇竜二がいてくれて良かったよ」
R「よせやい。…惚れてまうやろー!」
U「救われたな。全然知らねえって、ドーン!ってされたけど」
R「まだ言ってんのかよ。俺のボケを返せよ」
U「先に言ったの私だから。私のボケだから(笑)」
R「女版・翔太郎みたいな人だな」
U「それはごめん、あんまり嬉しくない」
R「あははは!」
U「ねえ、私、何だっけ?」
R「ガブちゃん」
U「そこは普通に天使でいいでしょ!」
R「やっぱ言われたいんじゃねえか!」
ひとしきりの笑い声が治まった後、会話が止まって何度目かの静寂が訪れた。
URGAは座席の両側のひじ掛け手を置いて、うつむき加減の顔には微笑みを浮かべている。
特に沈黙を気にする様子はない。
そんな彼女を、池脇竜二が見つめている。
不意にURGAは天井を見上げて、歌のようなものを小さく口ずさんだ。
そして何かを発見したような表情で人差し指を天井に向けて、池脇を見やって初めて、
自分が見つめられていた事に気が付いた。
ん?
と無言で彼女は尋ね、池脇は笑って首を横に振る。
URGAは手を下ろして池脇の顔を見つめ返し、言葉を待つ。
二人は見つめ合ったまま何も言わず、10秒程経って、池脇が下を向いた。
URGAも倣って自分の膝小僧辺りに視線を落とし、ふふ、と嬉しそうに笑う。
沈黙。
んん。
喉を鳴らして、膝を手で払いながらスカートの裾を直すURGA。
そして、照明に照らされたステージを見つめる。
今夜、彼女が立つステージだ。
想像し、思いを巡らせるような目でURGAは自分の生きている場所を見つめる。
なんでそんなに強いの?
不意を突いて聞こえた来た言葉に、弾かれたように、驚いて池脇を見る。
彼の動かない視線を浴びて、彼女は前に向き直る。
さあ。…やっぱり、薄情者なのかもしれないね。
URGAはそう言い終わると池脇を見つめ返し、両手を肩の位置まで持ち上げた。
終わりにする?
そういう意味に取れた。
池脇は不貞腐れたような顔になって、右側のひじ掛けに寄りかかって反対側を向いてしまう。
拗ねちゃった。
URGAは芝居がかった表情を浮かべ、そしていつもの微笑になって反対側を向く。
沈黙。
俺はもう全部言ったからな。
やがて池脇がそう言うと、URGAはゆっくりと顔だけ振り向いて彼を見た。
そしてカメラを向いて目を軽く見開き、問いかけるような仕草をする。
彼は本気で言ってるの?
そういう意味だろう。
池脇が立ち上がった。
彼を見上げたURGAは少しだけ驚いたように笑うと、
カメラに向かって両手でトントンとバッテンを作って見せた。
私から言えるのはただ一言だ。
メリークリスマス!
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