恋人>幼馴染

すずかけあおい

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恋人>幼馴染③

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「片付けは俺がやるよ」
「いい。シャワーでも浴びとけ」
「……わかった」

優しい。
言われたとおりにシャワーを浴びて戻ると、一葉が交代でシャワーを浴びる。
泊まるんだ…。
布団出しておこう。
と思ったらすでに出してある。
もうすっかり一葉専用布団だ。
その一葉専用布団に寝転がって天井を見る。
一葉の見ている景色。

「そっちで寝んの?」
「違う。一葉の見てる景色だなって思って見てただけ」

シャワーを浴び終えた一葉がこちらを見ている。
かと思ったら布団に近付いてきた。

「深來も違う。俺の見てる景色はこっち」

ころんと身体を転がされて、ベッドのほうを向かされる。

「? なんでベッド?」
「ベッドじゃなくて、ベッドに寝てるやつを見てる」
「……」

ベッドに寝てるやつって…俺?
まさか泊まりにきてるとき、一葉って俺のこと見てるの!?

「え、え…?」
「気付いてないんだろうとは思ってたけど」
「は? なんで…?」
「まだ『なんで』とか言ってんの? 自分に自信ないのはいいけど、鈍過ぎるのはなんとかしてくれ」

鈍過ぎるって、俺はそこもだめなのか。
また新たな自分を発見した…だめなところ。
一葉は俺のことをびっくりするくらい知ってる。

なんで?

いや、理由は…なんとなくぼんやりわかるんだけど。
わかっても『なんで』が出てしまう。
色んなことに対して『なんで』。

「一葉はなんで俺の恋人になりたいの? 恋人になってどうするの?」

そういえばメッセージの返信なかった。

「俺、だめなところしかないよ。楽しくないよ? 俺なんかだめだよ」

無言。

「なんで幼馴染でいたくないの? なんで恋人? 俺のどこがいいの?」
「また混乱してんのか」
「……」
「混乱を鎮めるためだったら答えない」

一葉が俺の隣に横になって背中をくっつけてくる。
ただ背中が当たってるだけなのにどきどきする。
これも『なんで』。
身体を起こして一葉の顔を見ると、一葉は目を閉じている。

「ねえ一葉、教えて」
「教えて欲しい理由は?」
「え?」
「なんで知りたいの?」

また『なんで』…。
知りたい理由、教えて欲しい理由。

「気になるから」
「好奇心でも教えない」
「じゃあなんなら教えてくれるの?」

珍しく意地悪なことを言う一葉の肩に手を置いて揺する。
その手をぐっと掴まれた。

「深來が俺を知りたいって思ってくれてるなら答える」
「……知りたいよ」
「だから好奇心だろ」
「……」

手をぱっと離されて、また俺は肩を揺する。
好奇心かもしれないけど、でも一葉ばっかり知ってて俺は知らないのも嫌だ。
それとも、俺に話したってわからないって思われてるのかな。
悔しい。
でも聞いても一葉の思うとおり、全くわからないかもしれない…けど!

「一葉を知りたいよ。教えて」

一葉が俺をじっと見る。
真剣な視線が絡みついて、顔が熱くなってくる。

「……後悔すんなよ」
「え…? あ…!」

腕を掴まれて、布団に押し倒された。
慌てて起き上がろうとしても、一葉が覆いかぶさってきて動けない。
それでも身体を捩ろうとしたら体重をかけられて、頬に一葉の唇が触れた。

「!!」
「ほんとに深來って馬鹿」
「馬鹿だよ! 馬鹿でいいからどいて!」
「いつもそれくらい開き直ってりゃいいんだよ」

一葉はあっさり俺の上からどく。

「馬鹿でいいんだよ。なんもなくていいんだよ。それでも有り余るくらいなんだから」
「? なにが?」
「鈍過ぎ」
「え?」

一葉の言うことは難しくてよくわからない。
俺のレベルに下げて話をしてくれないかな。

「あーあ、俺のほうが馬鹿っぽい」
「一葉は馬鹿じゃないよ」
「酒飲む」
「なんで急に?」
「素面じゃやってらんない」

立ち上がってキッチンに向かう一葉を追いかける。

「どんなに飲んだっていつも酔わないじゃん」
「深來が弱過ぎるだけ。あと自分のペースを知らない」
「ペース?」

どういうこと?

「もっとゆっくり飲め。いつも深來は飲みたい勢いだけで飲んでる」
「そうかな。じゃあ俺も飲むから俺のペースっていうの、教えて?」

一葉のシャツを引っ張ったら睨まれた。

「なに?」
「そういうこと、俺以外にすんな、言うな」
「そういうこと?」
「鈍いのも無自覚も勘弁してくれ…」

缶ビールを開けてぐーっと飲んでいる一葉。
一気に一缶飲んじゃってる。
これが一葉のペース?

「俺も飲む」

真似をしようとしたらビールの缶を取り上げられた。
一葉がすごく怖い顔で俺を見てる。

「だから自分のペースを知れって言ってんだろ」
「うん。わからないから一葉の真似してみようと…」
「俺は俺、深來は深來。真似すりゃいいってもんじゃない」

溜め息と一緒にビールが手に戻された。
とりあえず…一口飲めばいいのかな。
一口飲む。

「……」

もう一口飲む。

「……」

もう一口、と思ったところでまた缶が取り上げられた。

「だからさ」
「ちょっとずつ飲んでるよ?」
「ちょっとずつでもその速度で飲んでたら深來はすぐ潰れる」

難しい。
冷蔵庫の前に一葉が座り込むので、俺も隣に座る。
俺には色々言いながら、一葉は冷蔵庫から次の缶ビールを出している。
なんだかずるい。

「そんな目で見んな」
「…だって」
「俺といるときだけ潰れてもいい。ほら」

また缶が手に戻された。
潰れてもいいって言うけど、そう言われると気を付けて飲まなくちゃって気になる。
俺がちびちび飲んでいたら一葉も今度はゆっくり飲んでいる。

「ほんと、深來って手がかかる」
「…ごめん」
「……それが嬉しい俺も大概だな」
「嬉しいの? 変なの」

一葉が髪をぐしゃぐしゃ撫でてくれて、それがなんだか落ち着く。
ぐしゃぐしゃになった髪を、今度は丁寧に梳いて直してくれる。

「俺だって苦手なものあるし、できないことがある」
「そうなの?」
「深來はよく知ってるだろ」
「知らないよ」

一葉って完璧じゃないの?
でもひとつやふたつ欠点があったってやっぱり一葉になりたい。
こんな俺よりもずっといい。

「犬が苦手。りんごが苦手。ブラックコーヒーが苦手。他にも山ほど苦手なものもできないこともある」
「犬…」

そういえば一葉は犬がだめだっけ。
小さい頃、近所に庭で中型犬を放し飼いにしている家があって、脱走したときに一葉が追いかけられてそれから苦手だった…今もなんだ。
でもあれは…。

「あれって、一葉に遊んで欲しかっただけだよね」
「結果的にはそうだったけど、あのときの俺にはすげえ恐怖だったんだよ」
「そっか…よしよし」

一葉の頭を撫でたら笑われた。

「もう酔ってんのか」
「酔ってないよ! ちょっと気分いいけど」
「気分いいくらいの飲み方にしとけ」
「うん…」

ほんとに優しいし、俺のことよく見てる…。
でもそれって、俺が好きだから…なんだろうな。
俺ってもしかして、ずっと一葉に見守られてた…?

「…一葉って変」
「変でいい。完璧じゃないってわかっただろ。もう俺になりたいなんて考えんな」
「無理。それでもやっぱり一葉がいい」

ぴたりと一葉の動きが止まる。
俺はビールをちびちび飲む。

「…俺がいいの?」
「うん。一葉がいい」
「どういう意味で?」
「え?」

どういう意味?

一葉に視線を向けると、すごく真剣な瞳で俺を見ている。
なんでこんなまっすぐ俺を見るの?
どきどきする。
顔が熱い。

「えっと…」
「顔赤い。酔った?」

頬を撫でられて、頭の中まで熱くなってくる。
どきどきはバクバクになってる。

「…えーっと…」
「深來、ほんとにそんなに鈍い?」
「…?」
「俺が今、なにしたいかわかってんだろ」

指で唇をなぞられてますます顔に熱が集まり、くらくらする。
一葉の顔がゆっくり近付いてきて、ぎゅっと目を閉じる。

「交換」
「え?」

手からビールの缶を取り上げられて、一葉の持っていた缶が握らされる。

「これくらい、いいだろ」

そう言って俺の飲んでいたビールに口を付ける。

「直接したいの、我慢してんだよ」
「!!」

もう無理、と一葉から視線を逸らして手の中の缶ビールの飲み口をじっと見つめる。

「…飲めば?」
「……」

飲めばって……飲めばって!
だってこれ、一葉が飲んでた缶で、一葉が口を付けた缶で………。

恐る恐る飲み口に口を付けてビールをこくりと飲む。

「……おいしい」
「そりゃビールはうまい」
「……」

ビールは美味しいものだけど。
でも違う。

心にぽっとなにかが灯った気がした。


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