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9 麦畑
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二人が瞬間移動で降り立った場所は、広大な麦畑が広がる農地だった。
着いた瞬間、強い衝撃によって二人とも麦畑の中へ、散り散りに飛ばされた…。
あまりの遠方への瞬間移動のせいで、スーリは最後まで丁寧に魔術を操れなかったようだ。
スーリは顔をあげて、視界の先にシャルリンテが倒れているのを目で確認すると、頭をまた麦畑に着けた。
「王女様…大丈夫ですか…」
「………う…ん…」
麦畑へ、沈み込むように倒れていた二人は放心したように、しばらく横になっていた。
先程までの、王宮での緊迫感など嘘のようだった。
聞こえてくるのは、蛙と虫の鳴き声…。
時折、空を通る鳥の羽音。
さらさらと揺れる麦畑には、どこまでも平安が漂う。
先に立ったのはスーリだった。
スーリは安堵のため息をつきながら、シャルリンテのそばまで行くと、ゆっくりと手を差し伸べた。
「…とりあえず…逃げられましたね…シャルリンテ様」
「様は…必要ない…。もう、私は王女じゃないんだから…」
「──だとしても、私にとってはあなたはいつまでも王女様です…」
そう言うと、美しい顔をほころばせて笑った。
引き起こされながら疑問に思っていた事を、シャルリンテは聞いた。
「…そもそも、どうしてあなたが新王になったの?自分から、カリスト国王になりたいと言ったの?」
「いえ…彼らは国を成す為に、形だけの王が欲しかったのでしょう…。三年前、私がカルダンテ王に連れて行かれたのを、シーセントの兵が何人か目撃していたから…。まだ王宮の中で生きているかもしれない…と思っていたのでは…?」
スーリはシャルリンテの頬に、すっと手を伸ばした。
「シャルリンテ様…私はあなたの事を……」
シャルリンテは、なんだろう?とスーリの瞳をじっと見て、言葉の先を聞いていた。
するとスーリの瞳に、ふっと悲しそうな色が浮かぶ。
ふいにスーリは目をぎゅっと閉じると、話を変えて横の道を指差した…。
「おそらく…ですが、この道をまっすぐ行けば国境…」
明らかに何かを言おうとしていたのに、はぐらかしたスーリにシャルリンテは不信感を持つ。
「何よ…。私を連れてきた事を、もうすでに後悔し始めたんじゃないでしょうね?!」
シャルリンテは、半分本気で、意地悪く聞いた…。
スーリは、力なくふっと笑ってその質問を無視した。
「…この辺りは、辺境の地だから国境に兵が立っている事もない。一日か二日歩けば、国外へ出られます。シーセント国でもカリスト国でもない、サシュナ国に着くはず…。けれど、そこも安全ではないから、入国したらすぐに瞬間移動を使って、もっと南へ飛びます…」
そう言って振り返ったスーリは、いつものスーリに戻っていた。
「瞬間移動を繰り返して、シーセントのシの字も、カリストのカの字も無いような場所に着いたら、身を潜めて…二人で暮らしませんか…?」
スーリはシャルリンテの右手を自分の口元に持っていき、キスをした。
シャルリンテはそれを見て、ポツリと言った。
「…王宮を出る前にも言ったけど、あなたはこの国に残れば?命を追われているのは私だけのはず…」
ふっと笑うと、スーリは言った。
「…私は、公開処女喪失などというものをして、時間を稼ぎ…その上、あなたと逃げたんですよ?見つかれば、ただじゃすまない」
スーリは短くなった金髪を耳にかけながら、妖艶に微笑んだ…。
「ただ、シーセントの王子とカリストの王女が逃げたと思われているから、私のこの女装姿は有利だ…」
侍女の華奢なドレスを着こなしている細身のスーリは、声を出さなければ、男になど見えなかった…。
「どうです?髪の毛はこんなですが、まだ女として通用します…?」
シャルリンテは黙って、こくっと頷いた。
スーリは、くくっと笑って「よかった」と呟いた。
「もうすぐ、日が暮れます。今日は用心して、宿ではなく森に泊まりますから…急いで一歩でも前に進みましょう」
そう言うスーリの声は明るかった。
この先の未来に、明るい要素など一つもないように思えるのだが…。
「…スーリはそれでいいの?」
「ええ」
スーリは嬉しそうに頷いた。
父王と共に民衆からも疎まれ、殺されかけた自分と、なぜスーリが一緒に逃げてくれるのかは謎だった。
それでも、スーリの笑顔を見ていると、ほっとして心が落ち着いてくるのが自分でも分かった。
シャルリンテの心はすっと軽くなり、いつの間にかスーリにつられて自分も笑っていた…。
着いた瞬間、強い衝撃によって二人とも麦畑の中へ、散り散りに飛ばされた…。
あまりの遠方への瞬間移動のせいで、スーリは最後まで丁寧に魔術を操れなかったようだ。
スーリは顔をあげて、視界の先にシャルリンテが倒れているのを目で確認すると、頭をまた麦畑に着けた。
「王女様…大丈夫ですか…」
「………う…ん…」
麦畑へ、沈み込むように倒れていた二人は放心したように、しばらく横になっていた。
先程までの、王宮での緊迫感など嘘のようだった。
聞こえてくるのは、蛙と虫の鳴き声…。
時折、空を通る鳥の羽音。
さらさらと揺れる麦畑には、どこまでも平安が漂う。
先に立ったのはスーリだった。
スーリは安堵のため息をつきながら、シャルリンテのそばまで行くと、ゆっくりと手を差し伸べた。
「…とりあえず…逃げられましたね…シャルリンテ様」
「様は…必要ない…。もう、私は王女じゃないんだから…」
「──だとしても、私にとってはあなたはいつまでも王女様です…」
そう言うと、美しい顔をほころばせて笑った。
引き起こされながら疑問に思っていた事を、シャルリンテは聞いた。
「…そもそも、どうしてあなたが新王になったの?自分から、カリスト国王になりたいと言ったの?」
「いえ…彼らは国を成す為に、形だけの王が欲しかったのでしょう…。三年前、私がカルダンテ王に連れて行かれたのを、シーセントの兵が何人か目撃していたから…。まだ王宮の中で生きているかもしれない…と思っていたのでは…?」
スーリはシャルリンテの頬に、すっと手を伸ばした。
「シャルリンテ様…私はあなたの事を……」
シャルリンテは、なんだろう?とスーリの瞳をじっと見て、言葉の先を聞いていた。
するとスーリの瞳に、ふっと悲しそうな色が浮かぶ。
ふいにスーリは目をぎゅっと閉じると、話を変えて横の道を指差した…。
「おそらく…ですが、この道をまっすぐ行けば国境…」
明らかに何かを言おうとしていたのに、はぐらかしたスーリにシャルリンテは不信感を持つ。
「何よ…。私を連れてきた事を、もうすでに後悔し始めたんじゃないでしょうね?!」
シャルリンテは、半分本気で、意地悪く聞いた…。
スーリは、力なくふっと笑ってその質問を無視した。
「…この辺りは、辺境の地だから国境に兵が立っている事もない。一日か二日歩けば、国外へ出られます。シーセント国でもカリスト国でもない、サシュナ国に着くはず…。けれど、そこも安全ではないから、入国したらすぐに瞬間移動を使って、もっと南へ飛びます…」
そう言って振り返ったスーリは、いつものスーリに戻っていた。
「瞬間移動を繰り返して、シーセントのシの字も、カリストのカの字も無いような場所に着いたら、身を潜めて…二人で暮らしませんか…?」
スーリはシャルリンテの右手を自分の口元に持っていき、キスをした。
シャルリンテはそれを見て、ポツリと言った。
「…王宮を出る前にも言ったけど、あなたはこの国に残れば?命を追われているのは私だけのはず…」
ふっと笑うと、スーリは言った。
「…私は、公開処女喪失などというものをして、時間を稼ぎ…その上、あなたと逃げたんですよ?見つかれば、ただじゃすまない」
スーリは短くなった金髪を耳にかけながら、妖艶に微笑んだ…。
「ただ、シーセントの王子とカリストの王女が逃げたと思われているから、私のこの女装姿は有利だ…」
侍女の華奢なドレスを着こなしている細身のスーリは、声を出さなければ、男になど見えなかった…。
「どうです?髪の毛はこんなですが、まだ女として通用します…?」
シャルリンテは黙って、こくっと頷いた。
スーリは、くくっと笑って「よかった」と呟いた。
「もうすぐ、日が暮れます。今日は用心して、宿ではなく森に泊まりますから…急いで一歩でも前に進みましょう」
そう言うスーリの声は明るかった。
この先の未来に、明るい要素など一つもないように思えるのだが…。
「…スーリはそれでいいの?」
「ええ」
スーリは嬉しそうに頷いた。
父王と共に民衆からも疎まれ、殺されかけた自分と、なぜスーリが一緒に逃げてくれるのかは謎だった。
それでも、スーリの笑顔を見ていると、ほっとして心が落ち着いてくるのが自分でも分かった。
シャルリンテの心はすっと軽くなり、いつの間にかスーリにつられて自分も笑っていた…。
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