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14 ノーマン国の聖女
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朝、目を覚ますと隣にスーリはいなかった。
シールドの膜を通り抜け、外に出ると、男と女の話し声が森の奥から聞こえてきた。
そちらに引き寄せられるように歩いて行くと、一対の美男美女が目に入る。
二人は濃厚なキスの真っ最中だった。
一人はスーリ。
寝起きだったのか、シャツの上にマントを羽織っているだけだった。
そのマントは、気だるげに肩から半分ずり落ちている…。
相手の女は金髪で、繊細なウェーブがかかったその髪は、足元近くまで垂れていた。
明らかに平民ではない、神秘的な美しさに包まれている。
シャルリンテは、すぐに近くの木に身を隠した。
先に目を開けたのは、女の方だった。
遠目からも、瞳の色が金色だと分かるぐらい、その目は輝いていた。
「…ジャナル様、今、わたくしから婚姻石、抜き取りました…?」
唇を離したスーリは、くっと笑った。
「…気がつかないように抜いたつもりが…あなたは鋭いな…。さすが、三国一の聖女と謳われているだけの事はある」
金髪の女は、スーリに平手を食らわそうと手を振り上げ、それを察したスーリはすぐに飛び退いた。
「相変わらず…あなたは気性が荒い…」
「ジャナル様…。ふざけていないで、すぐにわたくしの額に戻してくださいな…。抜く事は誰にでもできるけれど、入れる事はシーセントの王族にしか、できないのですから…」
「もう…婚約は解消でいいではないですか…。シーセントがカリストの属国になった時、私は自分で婚姻石を抜きましたよ?あなたも抜いていると思っていたのに…」
スーリは、女から抜いたと思われる真珠位の大きさの玉を、指で摘んでいた。
その玉は、七色の光を発していた。
スーリは遠い目をして、クースリューに話を続ける。
「カリストに急襲された時、すぐに婚姻石を通して、あなたを呼ぼうとしましたが…。制圧されたのは一瞬の出来事で…その後、私はすぐに、カリストに連れて行かれてしまったし…」
クースリューはそう言われ、悔しそうに顔を歪めた。
「ちょうどその時、わたくしは自国の魔物の討伐に追われていた…。だから気づかなかったんです…!気づいていれば…!シーセントが急襲されたと聞き、向かった時には、すでにカリスト国になっていました…」
感情が高ぶったクースリューは、スーリにぎゅっと抱きついた。
それを見て、シャルリンテの胸はなぜか締め付けられる…。
「王と王妃の墓標の上には、ジャナル様の冠も載っていたから、てっきり…。それでもどうしても諦めきれず、毎日、婚姻石に問いかけ、魔力の波動も追っていました…。それが、昨日から急にあなたの波動を感じて…。半信半疑のまま、瞬間移動を繰り返してここに…」
スーリはクースリューを落ち着かせるように、体を離しながら言った。
「心配かけて悪かった…。でもクースリュー、そもそもこの婚姻は弱小国のシーセントが、国防の為に、ノーマン国の聖女を国に呼びたくて…ただ、それだけの為に…。王子との結婚、というていをとってはいたけれど…」
顔を上げたクースリューの瞳には、涙が滲んでいた…。
スーリは気にせず、言葉を淡々と続ける。
「ノーマン国の聖女は、魔力が強大な上、何人もいる…。それが羨ましくて、しょうがなかった私の国は、頼み込んで、やっとあなたのような優秀な聖女を……。でも、国がなくなってしまった今、お互いそれに従う意味など…あるか?」
「──愛しております。これ以上の意味があって?」
スーリはふぅ…とため息をついた。
「…それはきっと違う…。あなたは自分の思い通りに事が進まないのが嫌いなだけ…。私の事は、シーセントの王子…という所に魅力を感じていたに過ぎない…」
「…そんな!ひどいですわ!花嫁候補の一人として出会った十数年前からずっと、あなたをお慕い申し上げておりました!だから、正式に婚約者に選ばれた時には嬉しくて嬉しくて…」
抱き合って会話をしている二人を木の陰から見ていたシャルリンテは、心の中がどんどん虚しくなっていくのを感じた。
そもそも、元のシーセント国と、女の出身国であろうノーマン国は、国柄も似ていて、仲がよかった。
金髪碧眼が主流で、美男美女が多い国として有名だ…。
自分とは違い、二人が並ぶと絵になる。
スーリも、がたがた言わずに迎えに来た婚約者と、早く安全なノーマン国に逃げればいい…。
自分と、危険な逃避行を続ける意味とは?
何を頑なに、美しい婚約者を突っぱねているのだろう…。
シールドの膜を通り抜け、外に出ると、男と女の話し声が森の奥から聞こえてきた。
そちらに引き寄せられるように歩いて行くと、一対の美男美女が目に入る。
二人は濃厚なキスの真っ最中だった。
一人はスーリ。
寝起きだったのか、シャツの上にマントを羽織っているだけだった。
そのマントは、気だるげに肩から半分ずり落ちている…。
相手の女は金髪で、繊細なウェーブがかかったその髪は、足元近くまで垂れていた。
明らかに平民ではない、神秘的な美しさに包まれている。
シャルリンテは、すぐに近くの木に身を隠した。
先に目を開けたのは、女の方だった。
遠目からも、瞳の色が金色だと分かるぐらい、その目は輝いていた。
「…ジャナル様、今、わたくしから婚姻石、抜き取りました…?」
唇を離したスーリは、くっと笑った。
「…気がつかないように抜いたつもりが…あなたは鋭いな…。さすが、三国一の聖女と謳われているだけの事はある」
金髪の女は、スーリに平手を食らわそうと手を振り上げ、それを察したスーリはすぐに飛び退いた。
「相変わらず…あなたは気性が荒い…」
「ジャナル様…。ふざけていないで、すぐにわたくしの額に戻してくださいな…。抜く事は誰にでもできるけれど、入れる事はシーセントの王族にしか、できないのですから…」
「もう…婚約は解消でいいではないですか…。シーセントがカリストの属国になった時、私は自分で婚姻石を抜きましたよ?あなたも抜いていると思っていたのに…」
スーリは、女から抜いたと思われる真珠位の大きさの玉を、指で摘んでいた。
その玉は、七色の光を発していた。
スーリは遠い目をして、クースリューに話を続ける。
「カリストに急襲された時、すぐに婚姻石を通して、あなたを呼ぼうとしましたが…。制圧されたのは一瞬の出来事で…その後、私はすぐに、カリストに連れて行かれてしまったし…」
クースリューはそう言われ、悔しそうに顔を歪めた。
「ちょうどその時、わたくしは自国の魔物の討伐に追われていた…。だから気づかなかったんです…!気づいていれば…!シーセントが急襲されたと聞き、向かった時には、すでにカリスト国になっていました…」
感情が高ぶったクースリューは、スーリにぎゅっと抱きついた。
それを見て、シャルリンテの胸はなぜか締め付けられる…。
「王と王妃の墓標の上には、ジャナル様の冠も載っていたから、てっきり…。それでもどうしても諦めきれず、毎日、婚姻石に問いかけ、魔力の波動も追っていました…。それが、昨日から急にあなたの波動を感じて…。半信半疑のまま、瞬間移動を繰り返してここに…」
スーリはクースリューを落ち着かせるように、体を離しながら言った。
「心配かけて悪かった…。でもクースリュー、そもそもこの婚姻は弱小国のシーセントが、国防の為に、ノーマン国の聖女を国に呼びたくて…ただ、それだけの為に…。王子との結婚、というていをとってはいたけれど…」
顔を上げたクースリューの瞳には、涙が滲んでいた…。
スーリは気にせず、言葉を淡々と続ける。
「ノーマン国の聖女は、魔力が強大な上、何人もいる…。それが羨ましくて、しょうがなかった私の国は、頼み込んで、やっとあなたのような優秀な聖女を……。でも、国がなくなってしまった今、お互いそれに従う意味など…あるか?」
「──愛しております。これ以上の意味があって?」
スーリはふぅ…とため息をついた。
「…それはきっと違う…。あなたは自分の思い通りに事が進まないのが嫌いなだけ…。私の事は、シーセントの王子…という所に魅力を感じていたに過ぎない…」
「…そんな!ひどいですわ!花嫁候補の一人として出会った十数年前からずっと、あなたをお慕い申し上げておりました!だから、正式に婚約者に選ばれた時には嬉しくて嬉しくて…」
抱き合って会話をしている二人を木の陰から見ていたシャルリンテは、心の中がどんどん虚しくなっていくのを感じた。
そもそも、元のシーセント国と、女の出身国であろうノーマン国は、国柄も似ていて、仲がよかった。
金髪碧眼が主流で、美男美女が多い国として有名だ…。
自分とは違い、二人が並ぶと絵になる。
スーリも、がたがた言わずに迎えに来た婚約者と、早く安全なノーマン国に逃げればいい…。
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