371 / 423
学園編
10.皇子の噂
しおりを挟む保健室から戻った後は、なるべく注目されないよう大人しく過ごした。
けれどそもそも僕の存在自体があらゆる意味で興味の的だからか、一向に注目は散らなかった。
僕が泣きながら抱きついたせいでアディくんまで視線を集めることになってしまったし……それに関しては本当に反省しなきゃ。
アディくんは気にしなくていいって言ってくれたけれど、やっぱり自分で自分が許せない。
僕だけならともかく、大事な友人に迷惑をかけるのが一番心苦しい。
とにかく、なんとかここからでも挽回しないと。
そう思いながら気を引き締めて授業に集中していると、あっという間に初めての昼休みが訪れた。
「フェリアル。お前、昼は弁当か?」
午前最後の授業が終わってすぐ、アディくんから声を掛けられる。
そういえばお昼ご飯のことを何も考えていなかったな……と思い出して、どうしようか悩みながら首を横に振った。
「ううん。どうしよう、お弁当ない……」
「ならちょうどよかった!一緒に学食行こうぜ、ここの昼飯は種類が多いんだ」
「がくしょく?」
がくしょく……学食?そうか、そういうものもあるのか。
なんか学校っぽい!と単純な頭がワクワクし始める。
友達と一緒に学食でご飯……なんてすてきな響きなのだろう。僕がお弁当のことをすっかり忘れるポンコツさんでよかった。
「うん、食べたい!」
「よっしゃ!そんじゃ今から行こうぜ、早くしねぇと席埋まっちまう」
そんなに人気なのか……!と更にワクワクが増す。
アディくんに手を引かれながら、頭の中はどんなご飯があるのかと高揚でいっぱいだった。
***
「わぁ、人いっぱい……」
「昼はいつもこうだぜ。人酔いだけ気を付けろよ」
食堂はとっても広かった。
たくさんの長机に人がごった返していて、とにかくとっても賑やか。
既に食事を始めている生徒のご飯をこっそり覗くと、ワクワクな予想通り美味しそうな料理がいっぱいだった。
美味しそうな光景と匂いで早くもお腹がぐるぐる音を鳴らし始めると同時に、周囲の視線が集まってきたことに気付いて思わず萎縮する。
「……ど、どうしよう、すっごく見られてるような……」
ぷるぷると震える僕とは裏腹に、アディくんは特に表情を変えず僕の手を繋いだまま歩き出す。
この注目の中を強行突破するつもりなのだろうか?ぱちくりと瞬くと、アディくんは耳元でヒソヒソと囁いてきた。
「安心しろフェリアル。奥に生徒会の人達が使ってる個室があるんだ。会長からフェリアルは許可なしで入っていいって言われてっから」
「……へ?」
なんのこっちゃ、と目を丸くする。
会長って、ローダのこと?奥の個室って?
いつの間にアディくんとローダで情報共有が行われていたのかというのもそうだけれど、一番は僕の扱いが驚くほどスムーズなことだ。
まるで僕が苦悩しないように、何か壁に当たる前に道が整えられるよう、事前に完璧な準備をされていたみたいな……。
ありがたいことのはずなのに、なぜか胸の奥が一瞬だけピリッと痛んだ。
「ほらフェリアル、なに食いたい?ここに載ってないやつでも、フェリアルの注文ならなんでも用意してもらえるはずだ」
「あ……うん、なににしようかな」
悶々と考え込んでいる内に注文場所まで辿り着いたらしい。
ハッと我に返って、アディくんから手渡されたメニューを眺める。
パンやスープなどのシンプルなものから、何やら長い料理名のお高そうなものまで、とにかくお昼時に考えつきそうなものは全てありそうだ。
なるべく後ろを待たせないようサッと流し見て、最初に目についたものを頼むことにした。
「オムライスがいいな」
「よし、オムライスな。んじゃ俺は……昨日肉食ったから今日は魚にすっかな」
アディくんが僕の分までまとめて注文してくれるのを、隣でぽーっと見つめる。
その間にも、四方八方からヒソヒソとした囁き声が絶えず届いた。
やっぱり内容までは聞き取れないけれど、所々で聞こえる英雄だのなんだのという言葉から、確実に注目の先は僕だということだけは理解できる。
確かにこの突き刺さるような無数の視線の中、純粋に料理を楽しめる度胸は僕にはない。
さっきは少しだけモヤッとしてしまったけれど、正直アディくんの言葉にはほっとした。
個室を使う許可をくれたらしいローダには、あとでしっかりお礼を伝えなきゃ。
「行こうぜフェリアル。料理は出来たら届けてくれるように言っといたから」
「うん、わかった」
アディくんに手を引かれ、その場を後にする。
相も変わらずヒソヒソと囁かれるざわめきから逃れるように、学食の最奥にある扉へと急いだ。
***
「失礼します、二年C組のカリオンです。フェリアルを連れてきました」
アディくんが扉をノックして中に入る。
僕も慌てて「失礼します!」と頭を下げて入ると、そこには二人の男子生徒がいた。
「来たか、フェリアル」
「待っていたよフェリアル。カリオン君もいらっしゃい。さぁ二人とも座って」
「……!」
個室は応接室のような造りになっていた。
上座にローダ、そこから一番近いソファにオーレリア兄様が腰掛けている。
僕はアディくんと隣り合うようにして、空いたソファにそそくさと座った。
「俺までご一緒してしまいすみません。生徒会のメンバーでもないのに」
「そんな、気にしないで。むしろカリオン君は僕達が生徒会に勧誘している真っ最中の相手だし、生徒会に関係のない人間とは言えないだろう?」
アディくんとオーレリア兄様のやりとりを聞いてきょとんと瞬く。
思わず横から「アディくん、生徒会にスカウトされてるの?」と尋ねると、アディくんは困ったように笑った。
「あー……まぁな。でも俺は生徒会には入らない。アランが渋ってる内は、俺はアランに合わせるって決めてんだ」
アラン。第二皇子であり、皇太子であるレオの弟。
唐突に僕の大好きなお友達でもあるアランの名前が出て驚く。
頭上にハテナを浮かべる僕に気付くと、アディくんは「あ、そういや言ってなかったな」と苦笑した。
「アランのやつ、二年に上がる時は会長……シュタインさんと並んで生徒会長に推薦されたんだ。でもアイツは自分でそれを蹴って……」
「結果的にローダンセが会長に選ばれたのだけれど、あの後も僕達は生徒会として彼を勧誘し続けているんだ。彼の能力は生徒会でこそ輝くと思ってね」
「そういうこと。で、生徒会の皆さんはついでに俺のことも勧誘してくれてんだけど、俺としてはアランがその気にならない内は俺も無理だって伝えてるんだ」
アディくんが言いにくそうに口ごもったところで、それを引き継ぐようにオーレリア兄様が説明してくれる。
頷いたアディくんが更に続けたのを聞いて、なるほど……と顎を撫でた。
アランが生徒会長の推薦を辞退したのは、なんとなく理解できる。
なぜならアランの兄であるレオは、生徒会長としてこの学園に濃く名を残したからだ。
皇太子という肩書だけじゃない。レオは一生徒の立場でありながらあらゆる学園改革を行い、歴代最高の生徒会長として校外でも有名になった。
僕ですら公爵邸でだらーっとしている間もレオの噂が届いたくらい。
だからこそわかる。この学園で“伝説の生徒会長レナード”の印象は強い。アランにとってそれは、何よりも大きなプレッシャーであることだろう。
「……アランの気持ち分かるんだ。だからなるべく寄り添ってやりたいって思うだろ?そんでそれは、近い立場にいねぇと出来ねぇことだからさ」
小さく笑うアディくんに、ちょっぴり涙腺が緩んだ。
やっぱりアディくんは優しい人だ。そして、アランのことは今すぐにでもぎゅっと抱き締めてあげたくなった。僕もいるよーって、単純に伝えたくなったのだ。
「僕達も彼の気持ちを何より一番に尊重したいと思っているよ。ローダンセも、もし何かあって会長職を退くなら、後を任せる相手は彼が良いだろう?」
「……この肩書きなら面倒だから今すぐにでも辞めたいが。どうせ任せるなら、まぁ例の第二皇子しかいないだろう」
二人の会話を聞いて僕も笑みを零す。
今の話をそっくりそのままアランに聞かせてあげたいくらいだ。そう思ったら、アランに会いたい気持ちがぐっと強くなった。
時間が出来たら真っ先にアランに会いに行こう。
そう心に決めた時、ふとどこからか良い匂いが漂ってきた。
思わずすんすんと鼻を動かす僕を、三人が揃って微笑ましそうに見つめてくる。
「ご、ごめんなさい……おいしそうな匂いがしたから……」
「気にすんなよフェリアル、そうだな、確かにうまそうな匂いすんな」
「ふふ。フェリアルはわかりやすくて本当に可愛いね」
「……フェリアルを眺めていたら俺も腹が減った」
ガラガラとワゴンの音が近付いてくる。
ぐるぐるる……と鳴り響くお腹の音に恥ずかしくなりながら、僕は数秒後に運ばれてくるだろう料理を想像して思わず涎を垂らした。
1,049
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。