余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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学園編

11.生徒会

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オムライスは公爵邸のシェフにも劣らない出来栄えだった。
ふんわりとろとろな卵が口の中で溶けてスプーンが止まらない。あっという間に頬張り尽くしてしまうと、アディくんに「急いで食わなくていいんだぞ」と心配そうに諭された。

ぐぬ……急いだわけじゃなくて、おいしすぎて手が止まらなかっただけなのだが……。
それを言ったらなんだか締まらないので、こくりと頷くだけで留めた。


「そういえば、今日は珍しくグリーンが遅いね」

「グリーン……?」


食後のおやつにプリンをもぐもぐしていると、ふとオーレリア兄様が紅茶を嗜みながら呟いた。

何やら聞き慣れない名前に首を傾げる。
オーレリア兄様は「そういえば紹介がまだだったね」と微笑むと、初耳のグリーンさんとやらについて説明してくれた。


「グリーン・テラ。僕と同じ三年の生徒で、生徒会の書記だよ。いつも昼時になると一番にここへ来るのだけれど……また何か仕出かしているのかな」


呆れ顔で息を吐くオーレリア兄様にきょとんと瞬く。

どうやらグリーンさんという人は、生徒会のメンバーにしては珍しくやんちゃな性格をしているようだ。
いや、なんだかんだ言って会長のローダもちょっぴり物騒だし、珍しいとは言えないかもしれないけれど。


「アディくんは、グリーンさん知ってる?」

「おう。まぁ有名だからな、あの人。すっげぇ地獄耳らしくてさ、学園じゃ情報力であの人に敵う人間はいないらしい」

「じごくみみ……」


な、なんだかえらくピンポイントな情報だ……。

情報力に長けている、そしてやんちゃな性格。
なんだかまったくイメージが湧かないけれど、グリーンさんは一体どんな人なのだろう。

生徒会の一員というからには相当優秀な人なのは確かだ。
プリンを頬張りながらグリーンさんの姿を予想していると、噂をすればとばかりに軽快な足音が近付いていた。


「おや、ちょうど来たみたいだね」


オーレリア兄様のセリフと同時に扉が勢いよく開かれる。
バーン!と音を立てて開かれたものだから、椅子に座ったままちょっぴり飛び上がってしまった。


「グリーン・テラ!ただいま参りました!!」


溌剌な声が真っすぐに響き渡る。
お世辞にもお上品とは言えない登場を見せた彼は、貴族らしくなく制服を着崩していて、なんだか自由な印象を受けた。

無造作な茶髪、黒曜みたいな丸っこい瞳。
……?なんだろう、なんだか妙な既視感があるような。


「いやぁ、すみません!例の英雄様について聞き込みしてたら時間を忘れちゃいまして!」

「そうかい。それで、噂の英雄くんについて何か情報でも得られたのかな?」

「はいそれはもう!英雄様の超絶キュートな素顔についてバッチリ聞き込み……ってええぇぇ!?」


ワクワク!と擬音すら聞こえてきそうな様子で現れた彼は、お喋りの途中で僕を視界に入れるなり目玉が飛び出る勢いで仰け反った。


「ひッ、えっ、英雄様ぁ!?」

「あ、どうも」


びっくりしてどうもどうもと軽いお返事をしてしまう。

グリーンさんは流れるようにすってんころりんと横転すると、すぐに立ち上がって恐縮したように姿勢を正した。
なんだろう、なんだか少しシモンに似ている気もする……。


「帝国の英雄様にお目にかかります!三年!グリーン・テラと申します!」

「フェリアルです。よろしくおねがいします。グリーン先輩」

「せんぱッ!?そんなッ!俺のことはグリーンとお呼びください!」

「いえ、先輩を呼び捨てするのよくないです。グリーン先輩は、僕のことフェリアルって呼んでください」


ニコニコ笑顔のオーレリア兄様が「フェリアルは礼儀正しいね」と語る。
グリーン先輩はしばらくオロオロと困り果てたかと思うと、やがてぐぬぬ……と苦い表情を浮かべて答えた。


「そ、それじゃあ……間を取って、フェリたんで……」

「どこの間を取ったんだよ」

「フェリたん……」


グリーン先輩の大真面目なボケにアディくんがすかさずツッコむ。
むーん、ここでも既視感が……。

それにしても、フェリたんか。ちょっぴり謎すぎるあだ名である気が否めないけれど、まぁ敬称はついていないから良しとしよう。
それでいいですと頷くと、グリーン先輩は心底ほっとしたように息を吐いた。


「うん、ひとまず生徒会のメンバー全員と顔合わせが済んだみたいだね。これからはいつでも生徒会所有の部屋を使っていいからね、フェリアル」

「は、はい……はい?」


グリーン先輩との挨拶を見守っていたオーレリア兄様がふと柔らかく微笑む。
一度は頷きかけて、けれどすぐにハテナが浮かんだ。これで生徒会のメンバーが全員揃ったって、今そう言ったような……。


「……生徒会、三人だけ?」


ローダとオーレリア兄様、そしてグリーン先輩を順番に見つめて呟く。
僕の呆気に取られた顔を見て、オーレリア兄様は苦笑を浮かべて答えた。


「あぁ、やっぱり気になるよね。生徒会のメンバーは推薦で決まる仕組みなのだけれど、今代は少し特殊な結果になってね……」

「俺らの他に三人、そこのカリオン君と第二皇子、あともう一人選ばれたんすけど、俺ら以外は全員推薦を蹴ったんです。いやぁ、参っちゃいますよ」


オーレリア兄様に続いてグリーン先輩がため息混じりに語る。

なるほど、推薦という選び方になるとそういう弊害も出るのか。
学園の生徒会というと、全校生徒が憧れる花形という印象だ。実際、今まではそうだったのだろう。

しかしどういうわけか、そういう普通の型に嵌らない人間が一つの代に集まってしまった。
そういう厄介な状況なのだろうなと、案外あっさり予想できた。なぜだろう、僕の周りが型に嵌らない人間だらけだからだろうか。


「……フェリアル。もういっそお前が生徒会に入らないか」

「へ?」


完食したプリンの皿をぼーっと見つめながら考え込んでいると、ふとローダにとんでもない誘いをされてギョッと目を丸くした。

ずっと黙っていたかと思えば、一体何を言い出すのやら……。
僕がピタリと硬直すると、あろうことかオーレリア兄様がローダに同調するようにキラリンと瞳を輝かせた。


「それいいね!」

「よくないが」


すかさずツッコむ恒例のアディくんの隣であわあわと冷や汗を垂らす。

そんな……僕が生徒会だなんて、絶対に務まるはずない。
悲しいけれど世間知らずの自覚があるし、今までの周囲の反応的にあまり良い印象も持たれていないはず。

なぜだか前向きなローダとオーレリア兄様には申し訳ないけれど、ここは断るのが正解だろう。
そう思い声を上げようとした時、ふとローダが呟いたセリフにピクッと身体を揺らした。


「……フェリアルが生徒会に入ってくれれば、とても助かるのだが」


僕が生徒会に入れば、ローダが助かる?

僕でもローダの力に……生徒会の、誰かの力になれる?
学園に来てからまだ二日目。早くも自信を失う出来事ばかりで落ち込んでいた僕にとって、その言葉はとっても胸に響いた。


「あの、悪いですけどフェリアルは生徒会には入らな──」

「僕、やる」

「え?」

「僕、生徒会がんばる!みんなの力になる!」

「はぁ!?」


ぱっ!と立ち上がり、胸の前で拳をぎゅっと握り締める。

「本当か」「本当に?嬉しいよフェリアル!」「光栄です!」と口々にお礼を言ってくれる生徒会メンバーとは逆に、アディくんは何やらガックシと肩を落としていた。


「あぁクソ……めちゃくちゃチョロい奴だってこと忘れてた……」


グリーン先輩がばんざーいと両手を挙げ、オーレリア兄様はどこからか取り出したクラッカーを鳴らし、ローダはうむと深く頷く。

そんなこんなで、僕は生徒会へ入ることになった。
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