372 / 423
学園編
11.生徒会
しおりを挟むオムライスは公爵邸のシェフにも劣らない出来栄えだった。
ふんわりとろとろな卵が口の中で溶けてスプーンが止まらない。あっという間に頬張り尽くしてしまうと、アディくんに「急いで食わなくていいんだぞ」と心配そうに諭された。
ぐぬ……急いだわけじゃなくて、おいしすぎて手が止まらなかっただけなのだが……。
それを言ったらなんだか締まらないので、こくりと頷くだけで留めた。
「そういえば、今日は珍しくグリーンが遅いね」
「グリーン……?」
食後のおやつにプリンをもぐもぐしていると、ふとオーレリア兄様が紅茶を嗜みながら呟いた。
何やら聞き慣れない名前に首を傾げる。
オーレリア兄様は「そういえば紹介がまだだったね」と微笑むと、初耳のグリーンさんとやらについて説明してくれた。
「グリーン・テラ。僕と同じ三年の生徒で、生徒会の書記だよ。いつも昼時になると一番にここへ来るのだけれど……また何か仕出かしているのかな」
呆れ顔で息を吐くオーレリア兄様にきょとんと瞬く。
どうやらグリーンさんという人は、生徒会のメンバーにしては珍しくやんちゃな性格をしているようだ。
いや、なんだかんだ言って会長のローダもちょっぴり物騒だし、珍しいとは言えないかもしれないけれど。
「アディくんは、グリーンさん知ってる?」
「おう。まぁ有名だからな、あの人。すっげぇ地獄耳らしくてさ、学園じゃ情報力であの人に敵う人間はいないらしい」
「じごくみみ……」
な、なんだかえらくピンポイントな情報だ……。
情報力に長けている、そしてやんちゃな性格。
なんだかまったくイメージが湧かないけれど、グリーンさんは一体どんな人なのだろう。
生徒会の一員というからには相当優秀な人なのは確かだ。
プリンを頬張りながらグリーンさんの姿を予想していると、噂をすればとばかりに軽快な足音が近付いていた。
「おや、ちょうど来たみたいだね」
オーレリア兄様のセリフと同時に扉が勢いよく開かれる。
バーン!と音を立てて開かれたものだから、椅子に座ったままちょっぴり飛び上がってしまった。
「グリーン・テラ!ただいま参りました!!」
溌剌な声が真っすぐに響き渡る。
お世辞にもお上品とは言えない登場を見せた彼は、貴族らしくなく制服を着崩していて、なんだか自由な印象を受けた。
無造作な茶髪、黒曜みたいな丸っこい瞳。
……?なんだろう、なんだか妙な既視感があるような。
「いやぁ、すみません!例の英雄様について聞き込みしてたら時間を忘れちゃいまして!」
「そうかい。それで、噂の英雄くんについて何か情報でも得られたのかな?」
「はいそれはもう!英雄様の超絶キュートな素顔についてバッチリ聞き込み……ってええぇぇ!?」
ワクワク!と擬音すら聞こえてきそうな様子で現れた彼は、お喋りの途中で僕を視界に入れるなり目玉が飛び出る勢いで仰け反った。
「ひッ、えっ、英雄様ぁ!?」
「あ、どうも」
びっくりしてどうもどうもと軽いお返事をしてしまう。
グリーンさんは流れるようにすってんころりんと横転すると、すぐに立ち上がって恐縮したように姿勢を正した。
なんだろう、なんだか少しシモンに似ている気もする……。
「帝国の英雄様にお目にかかります!三年!グリーン・テラと申します!」
「フェリアルです。よろしくおねがいします。グリーン先輩」
「せんぱッ!?そんなッ!俺のことはグリーンとお呼びください!」
「いえ、先輩を呼び捨てするのよくないです。グリーン先輩は、僕のことフェリアルって呼んでください」
ニコニコ笑顔のオーレリア兄様が「フェリアルは礼儀正しいね」と語る。
グリーン先輩はしばらくオロオロと困り果てたかと思うと、やがてぐぬぬ……と苦い表情を浮かべて答えた。
「そ、それじゃあ……間を取って、フェリたんで……」
「どこの間を取ったんだよ」
「フェリたん……」
グリーン先輩の大真面目なボケにアディくんがすかさずツッコむ。
むーん、ここでも既視感が……。
それにしても、フェリたんか。ちょっぴり謎すぎるあだ名である気が否めないけれど、まぁ敬称はついていないから良しとしよう。
それでいいですと頷くと、グリーン先輩は心底ほっとしたように息を吐いた。
「うん、ひとまず生徒会のメンバー全員と顔合わせが済んだみたいだね。これからはいつでも生徒会所有の部屋を使っていいからね、フェリアル」
「は、はい……はい?」
グリーン先輩との挨拶を見守っていたオーレリア兄様がふと柔らかく微笑む。
一度は頷きかけて、けれどすぐにハテナが浮かんだ。これで生徒会のメンバーが全員揃ったって、今そう言ったような……。
「……生徒会、三人だけ?」
ローダとオーレリア兄様、そしてグリーン先輩を順番に見つめて呟く。
僕の呆気に取られた顔を見て、オーレリア兄様は苦笑を浮かべて答えた。
「あぁ、やっぱり気になるよね。生徒会のメンバーは推薦で決まる仕組みなのだけれど、今代は少し特殊な結果になってね……」
「俺らの他に三人、そこのカリオン君と第二皇子、あともう一人選ばれたんすけど、俺ら以外は全員推薦を蹴ったんです。いやぁ、参っちゃいますよ」
オーレリア兄様に続いてグリーン先輩がため息混じりに語る。
なるほど、推薦という選び方になるとそういう弊害も出るのか。
学園の生徒会というと、全校生徒が憧れる花形という印象だ。実際、今まではそうだったのだろう。
しかしどういうわけか、そういう普通の型に嵌らない人間が一つの代に集まってしまった。
そういう厄介な状況なのだろうなと、案外あっさり予想できた。なぜだろう、僕の周りが型に嵌らない人間だらけだからだろうか。
「……フェリアル。もういっそお前が生徒会に入らないか」
「へ?」
完食したプリンの皿をぼーっと見つめながら考え込んでいると、ふとローダにとんでもない誘いをされてギョッと目を丸くした。
ずっと黙っていたかと思えば、一体何を言い出すのやら……。
僕がピタリと硬直すると、あろうことかオーレリア兄様がローダに同調するようにキラリンと瞳を輝かせた。
「それいいね!」
「よくないが」
すかさずツッコむ恒例のアディくんの隣であわあわと冷や汗を垂らす。
そんな……僕が生徒会だなんて、絶対に務まるはずない。
悲しいけれど世間知らずの自覚があるし、今までの周囲の反応的にあまり良い印象も持たれていないはず。
なぜだか前向きなローダとオーレリア兄様には申し訳ないけれど、ここは断るのが正解だろう。
そう思い声を上げようとした時、ふとローダが呟いたセリフにピクッと身体を揺らした。
「……フェリアルが生徒会に入ってくれれば、とても助かるのだが」
僕が生徒会に入れば、ローダが助かる?
僕でもローダの力に……生徒会の、誰かの力になれる?
学園に来てからまだ二日目。早くも自信を失う出来事ばかりで落ち込んでいた僕にとって、その言葉はとっても胸に響いた。
「あの、悪いですけどフェリアルは生徒会には入らな──」
「僕、やる」
「え?」
「僕、生徒会がんばる!みんなの力になる!」
「はぁ!?」
ぱっ!と立ち上がり、胸の前で拳をぎゅっと握り締める。
「本当か」「本当に?嬉しいよフェリアル!」「光栄です!」と口々にお礼を言ってくれる生徒会メンバーとは逆に、アディくんは何やらガックシと肩を落としていた。
「あぁクソ……めちゃくちゃチョロい奴だってこと忘れてた……」
グリーン先輩がばんざーいと両手を挙げ、オーレリア兄様はどこからか取り出したクラッカーを鳴らし、ローダはうむと深く頷く。
そんなこんなで、僕は生徒会へ入ることになった。
1,037
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。