386 / 423
学園編
25.狂人と会長と養護教諭
しおりを挟む意気込んで部屋へ戻ったのはいいものの、ローダはまだ帰ってきていなかった。
そういえば、文化祭も近いし今は生徒会の仕事が忙しい。最近はいつも帰りが遅かったから、今日だってそうなのだろう。
「ごめんねブレイド、ちょっぴり待つことになるかも」
「私のことはお構いなく。ですが、やはり時期を改めた方が」
「だめ!こういうのはね、一気にやるべきなの。そういうものなの」
「そういうものなのですか」
「うむ。そういうものなの」
リビングのソファにブレイドを誘導する。
えっと、お客さんが来たときはどうするんだっけ。確か、こういう時はお茶とかをご用意するんだっけ。
あたふたとキッチンに向かおうとすると、ふと正面にシモンが滑り込んできた。
「フェリアル様。飲み物なら俺が淹れますから、フェリアル様も座って寛いでいてください」
ニッコリ笑うシモンにぱちくりと瞬く。
僕は満面の笑顔で立ち塞がるシモンの横をとたとたと通り過ぎた。
「……えっ、あの、フェリアル様??」
背後から慌てた様子でシモンが追ってくる。
僕がキッチンの棚から慣れない動きでカップを取り出すのを見て、シモンはあわあわと冷や汗を垂らした。
「シモン先生。ここはだれのお部屋ですか」
「え?それはもちろん、フェリアル様のお部屋ですが……」
「うむ。そして、ブレイドとシモン先生は、お客さまです」
シモンがサーッと青ざめる。
どうやら僕の言いたいことを理解してくれたらしい。
僕はたどたどしい手つきでお湯を用意すると、シモンの方を振り返って宣言した。
「お客さまは、座ってくつろいでいてください」
ガーン!とあからさまにショックを受けるシモンを放置し、作業を再開する。
カップを三つ用意し、それぞれに茶葉をぱらぱらといれる。それで、えぇっと、次はお湯を……。
ゆっくりとお湯を注ぐと、不器用な上に慣れない作業だったからか、お湯が少し飛び散って手についてしまった。
「あちちっ!あちっ!」
「フェリアル様ぁぁあ!!!!」
かっこよくキリッと宣言した直後だというのに、なんて情けないミスを……。
反射的に涙を滲ませて手の甲を確認する。火傷というほどではないけれど、お湯が飛び散ったところがほんの少しだけ赤くなっていた。
困ったな。こういう時はどうするんだっけ?
火傷の対処法なんて知らないのであたふたしていると、何やら光の速さでシモンが飛んできて、僕の手を引っ掴んで蛇口の水に突っ込んだ。
「あばばばばッ!!」
「シモン、おちついて」
熱い思いをしたのは僕の方なのに、なぜかシモンの方が大混乱している。
それを見たら、逆に僕は落ち着いて痛みも薄れた。自分より慌てている人がいたら冷静になるって、よく言うよね。
「あちゃーだね、シモン」
「なにちょっと矮小化しようとしちゃってんですか!」
あちゃーどころじゃないが、とシモンが険しい表情を浮かべる。
残念。サラッと誤魔化そうとしたけれど失敗してしまった。まぁ、シモンが誤魔化されてくれるわけもないか。
「ほらもういいですから、お願いですから座ってください。悪化する前に冷やしましょう。お茶はいいですから」
「で、でも、お客さまにはお茶をご用意しなきゃ……」
「お客様は俺ですよ!俺がいいって言ってるんだからいいんです!ほらそこで黙って座ってるあなた!あなたもお茶いいですよね!?」
ついに我慢の限界が来てしまったのか、シモンは完全にいつもの余裕を捨て去った。
これにはブレイドも素直にこくりと頷く。無表情だけれど、シモンの剣幕にやや圧倒されている様子だ。
ごめんねブレイド、シモンって熱量がコロコロ変わる人だから……。
「ほら座ってください!しばらくこっちの手は使わないでくださいね!」
半ば強引にソファに座らされる。シモンは「まったくもうほんとフェリアル様は」とブツブツ呟きながらも、素早く手当てをしてくれた。
「ありがとう、シモン」
「……どういたしまして」
あれあれ。シモンったら、ものすごくお疲れみたいだ。
ふむ。どれ、ここはひとつ、僕がお茶でも淹れて……と立ち上がろうとすると、シモンは死人みたいな顔色で「頼むから勘弁してください……」と縋り付いてきた。
「ブレイド、ごめんね。僕、お茶もまともにご用意できなくて」
「お気になさらず。私こそ気が利かず申し訳ございません。次からは私が責任を持ってお茶をご用意いたしますのでご心配なく」
うーむ……あくまでこの部屋では僕がお茶を淹れるべきなのだが……。
冷えた濡れタオルで手をぐるぐる巻きにした僕、お行儀よく座るブレイド、僕の膝に縋り付いて息も絶え絶えなシモン。
なんだかちょっぴりカオスが否めない部屋に、ふと淡白な足音が近付いてきた。
どうやら、お目当ての彼が帰って来たらしい。
「フェリアル、誰か居るのか────」
怪訝そうな表情でリビングに入ってきた彼……ローダは、この状況を見るなり数秒間だけピタリと硬直した。
「…………」
「…………」
お互いに沈黙が流れる。
ローダの視線が僕、シモン、そしてブレイド、と順番に動いていく。やがてブレイドをジッと見つめたローダは、真っ黒な瞳をカッと見開いて即座に動き出した。
「……!ローダ、だめ!」
ほんの一瞬のことだった。
視界の端で何かがキラリと光って、ローダが隠し持っていたナイフだということに気付くまで、そう時間はかからなかった。
僕が立ち上がるより先にローダが駆ける。
ブレイドの喉元に迷いなく切っ先を差し向けたローダだったけれど、それは寸前で止まった。
「はいはい、そこまで」
ローダの腕をしっかりと掴んで飄々と声を上げたのは、つい数秒前まで僕の膝に縋り付いていたシモンだった。
いつの間に動いたのか……相変わらずものすごい反射神経だ、とこんな時だけれど改めて感心してしまう。
「……なぜ、ウォードの狂人がここにいる」
強い警戒心を纏って、ローダが低く這うような声を吐く。
これは……もしかすると、前向きな考えより嫌な予感の方が当たりだったかもしれない。
じわじわと悪くなる一方の空気を察し、思わずあちゃーと肩を落とした。
753
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。