余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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学園編

26.侍従と公爵令息

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シモンには敵わないと悟ったのか、その後のローダの諦めは早かった。

常にブレイドへ警戒の目を向けつつも、僕がまぁまぁとりあえず座ってと誘導すると、ローダは大人しくソファに腰かけてくれた。

そうして、その間にかくかくしかじかと説明をすることしばらく。
ブレイドの噂に関する真実と、ローズの件について。全てを話し終えると、静かに話を聞き終えたローダは難しい表情で黙り込んだ。


「という、わけなんだけれど……あの、ローダも、ローズの腕の麻痺が治ったら、うれしいでしょ?だから、できれば協力を──」

「信用出来ない」

「へ?」


協力をお願いしようとしたけれど、ふとローダが僕の言葉を遮った。

予想外の言葉に首を傾げる。信用出来ないって、何を?誰を?
ぱちくりと瞬く僕をよそに、ローダは眉を顰めてブレイドを睨み付けた。一方のブレイドは、ローダから向けられる険悪な感情にも至って動じていない様子だ。


「親の不始末に責任を持つ姿勢は尊重する。だが、俺はお前を信用出来ない」

「……どうしてか伺っても?」


ブレイドが静かに尋ねる。
ローダは睨み付ける視線を更に強めると、疑心暗鬼な声音で語った。


「お前が狂人だからだ。口ではそう言うが、実際はローズさんの血を狙っている可能性も否定出来ない」

「ッ……ローダ!」


思わず二人の会話に割り込んでしまった。
けれど、それも仕方ないだろう。流石に今のは言いすぎだ。ブレイドだって、学園で流れている噂には心を痛めているのに。

血に昂りを感じてしまうのはあくまで本能であって、ブレイドの意思じゃない。
そう説明したはずなのに。僕がローダを窘めるより先に、ローダは先のセリフを続けた。



「以前見た。お前が動物の血を啜っているのを」

「……へ?」

「……」



思わずポカンと間の抜けた表情をする。
カチコチに固まる僕の向かいでは、ブレイドが何やら気まずそうに顔を背けた。


「先日の昼休みのことだ。お前は校舎裏で、敷地内に迷い込んだ野生の兎を手に掛け、傷口から血を啜っていた」

「…………」

「その後もリス、鳥、果ては蛇の血まで。お前は目に映る全ての生物の血を堪能すると、あろうことか恍惚とした様子で股間を昂らせていたな」

「…………」

「俺は噂などに興味はない。この目で見た事実に基づいて評価を定める。ブレイド・ウォード、お前は事実として狂人だ。故に、俺はお前を警戒していた」


怒涛のありえない暴露に呆然と固まることしか出来ない。

いや、なんというか、その、あまりに妥当すぎる理由だ。
そりゃあローダからしたら、めちゃくちゃブレイドを警戒してもおかしくない。さっきブレイドに襲いかかったのも、たぶん純粋に僕を守るためだったのだろう。

僕はブレイドの友人で、どんなことがあろうと友人で在り続けると決めた。
だから、今の話を聞いても恐れはしない。けれど、それとこれとは別だ。
ブレイドさんね、こういうことは事前に話しておくべきじゃありませんのかね。


「ローズさんの左腕を解毒出来るという話は願ってもない。しかしあまりにもリスクが大きい。申し出は有難いが、お前を信用していい根拠がない」


それはそうだ、と反射的に頷いてしまった。

確かに、正直僕だってローダの立場なら悩むだろう。
ローダの懸念は尤もだ。でも、僕はブレイドの友達だから分かる。ブレイドは心からローズを救いたいと思っていることを。

だからこそもどかしい。
ローダにブレイドの誠意を分かってもらうためにはどうすればいいのか。
今のところ完全にブレイドが自分で自分の首を絞めているようにしか思えないけれど、協力すると決めたのだから中途半端な真似は出来ない。


「ローズさんが手紙に応えないのは、お前の情報を知っているからだ。あの人も警戒しているのだろう。俺が見た例の件も報告済みだからな」


あちゃちゃー、と頭を抱える。
なんてこった。ローズがブレイドを警戒しているというのは予想通りだけれど、さっきのとんでも暴露までローズに共有済みなのか。

それじゃあただでさえ慎重派のローズだ、ブレイドへの警戒心は並大抵のものではないだろう。
これはますます話が難しくなってきた……。


「……だが、協力はしてやる」


数秒の沈黙の末、ローダが渋々語った言葉にハッと顔を上げた。


「ほんとっ?ローダ、手伝ってくれるの……!?」

「私のことは信用出来ないのでは?」


もう完全に協力を拒む流れだったのに、どうして?
僕とブレイドが首を傾げると、ローダは短く溜め息を吐いて答えた。


「勘違いするな、信用など出来ない。だが、これはフェリアルの頼みだからな」

「……!」


ローダは僕に視線を向けると、冷徹な印象を受ける瞳を柔らかく細めた。


「ウォードは信用出来ないが、フェリアルのことは信用している。だから、あくまでフェリアルの頼みなら応える」


ローダの優しい声音に、思わず視界が滲みそうになった。
常に淡々としていてクールなローダだから、てっきりまだ全然距離が縮まっていないと思っていたけれど……どうやらそれは誤解だったらしい。

僕は自分が思っているよりも、ローダとの関係をしっかり深められていたようだ。


「ありがとうございます、ローダンセ・シュタイン」

「……なんだその呼び方は、気色悪い。シュタインでいい」


礼儀正しく頭を下げるブレイドに、ローダはちょっぴり複雑な顔をしながらも頷いた。



***



これで今度こそ一歩前進、と言っていいだろう。
相変わらず最難関の問題はローズをどう呼び寄せるかだけれど、ひとまずローダの協力を得られたのは大きい進歩だ。

ローダとブレイドの話も終わり、僕はブレイドをお見送りした。
そしてシモンに誘われ、ちょっぴり息抜きでもしようと人通りのない裏庭へ向かった。


「シモン、先生。お仕事は大丈夫ですか?」

「問題ありませんよ。どうせ養護教諭の手をわざわざ借りるほど重傷を負う人間なんて滅多に現れませんし、戻っても暇なだけです」


もう水も出ていない、枯れた噴水の縁に二人並んで腰かける。
相変わらず適当なシモンの返答に苦笑したけれど、同時に少しほっとした。

今日は色々あったし、正直シモンと二人きりになれる時間がほしかったから。


「いやぁ。にしてもさっきの俺、めちゃくちゃ空気に同化出来てましたよね?しっかりお口チャック出来たので褒めてください!」


シモンがふと満面の笑顔で屈み込む。
なんだか撫でられ待ちをするグリードみたいで、あるはずのない耳と尻尾が見えた気がした。ブンブンと勢いよく揺れる尻尾が見える、見える……。

僕が「よしよし」と言いながら頭を撫でてあげると、シモンは嬉しそうに笑った。
それを見て、ふと胸の内にとくんと何かが込み上げる。


「……」


ぎゅっと胸の辺りを拳で握り締める。
僕の異変を目敏く察したシモンが心配そうに声をかけてきて、僕はとうとう耐えられなくなってぽつりと呟いた。


「あの……シモン、先生」

「どうしました?どこか痛いですか?苦しいですか?」


あわあわと心配した様子のシモンに微笑む。
へにゃりと眉尻を下げて、僕は困り顔でシモンに問いかけた。


「……シモンって、呼んでもいい?」

「っ!!」


シモンが大きく目を見開く。
いや、あまり改めて聞くようなことではないけれど。だって、ちょくちょくシモンのことは普通にシモンと呼んでしまっているし。

でも、そうじゃない。そういうことじゃなくて、明確な意思を持って、僕は公爵家のフェリアルとしてシモンとお喋りがしたかったのだ。
教師と生徒という、遠い関係での会話じゃなくて。

自分で学園内での関係を変化させた手前、ものすごく申し訳ないお願いだけれど……。

ドキドキしながら答えを待つと、やがて視界の端でシモンがぷるぷる震えるのが見えた。


「シモン……?って、わっ!」


突然むぎゅーっ!と強く抱き締められてびっくり仰天する。
「フェリアル様ぁ!」と号泣しながら叫ぶシモンを見て、僕はポカンと固まった後に思わず小さく吹き出した。

なんだ、シモンも僕と同じだったのか。


「ぐすんッ!俺ぇ!俺ずっと寂しかったんですッ!せっかくフェリアル様を追って来たのに!全然一緒に過ごす時間ないですしぃッ!」

「それは、そうだよ。だって、僕はお勉強があるし、シモンは先生だもの。生徒と先生は、あんまり一緒にいる時間とかないでしょ?」

「そんなの知らないですもんッ!ぶっちゃけ他のガキ共だってどうでもいいですしッ!俺はフェリアル様のお傍に居るために来たのにぃッ!」


教師としてはあまりにもメッ!なことを言っちゃうシモンだけれど、まぁ今回ばかりは見逃してあげよう。

荒ぶるシモンをよしよしと撫でたり抱き締めたりして宥める。

やがて落ち着きを取り戻したシモンは、僕の頭にうりうりと頬擦りしたままふと何やら思い出した様子で声を上げた。


「あぁ、そういえば……あの、さっきの話なんですけど」

「うん?」


頬擦りをやめて離れると、シモンはまだちょっぴり濡れている目元をハンカチで拭いながら続けた。


「例の解毒の話です。シュタイン伯爵を誘き寄せるのに良いタイミングがあるんですが」


ローズをおびき寄せる良いタイミング?
そんな都合のいいタイミングがあるのだろうか。ローダもブレイドも僕も揃って、しっかりとローズもおびき寄せることができる、そんなタイミングが……。


「……まさか?」

「そのまさかです」


シモンが笑みを湛えて頷く。
まさかとは思ったけれど、本当にそうなのか。シモンは校舎の方を指さすと、ふふんと胸を張って答えた。



「そう!文化祭です!」



既に色んな知り合いに誘いのお手紙を送っている学園の一大行事、文化祭。
当然、行事に誘う相手にはローズも含まれている。

これは確かに、シモンの言う良いタイミングかもしれない……。
これから着々と準備が始まっていく文化祭に思いを馳せ、僕とシモンはひそひそと秘密の作戦会議を始めるのだった。
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