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学園編
25.狂人と会長と養護教諭
意気込んで部屋へ戻ったのはいいものの、ローダはまだ帰ってきていなかった。
そういえば、文化祭も近いし今は生徒会の仕事が忙しい。最近はいつも帰りが遅かったから、今日だってそうなのだろう。
「ごめんねブレイド、ちょっぴり待つことになるかも」
「私のことはお構いなく。ですが、やはり時期を改めた方が」
「だめ!こういうのはね、一気にやるべきなの。そういうものなの」
「そういうものなのですか」
「うむ。そういうものなの」
リビングのソファにブレイドを誘導する。
えっと、お客さんが来たときはどうするんだっけ。確か、こういう時はお茶とかをご用意するんだっけ。
あたふたとキッチンに向かおうとすると、ふと正面にシモンが滑り込んできた。
「フェリアル様。飲み物なら俺が淹れますから、フェリアル様も座って寛いでいてください」
ニッコリ笑うシモンにぱちくりと瞬く。
僕は満面の笑顔で立ち塞がるシモンの横をとたとたと通り過ぎた。
「……えっ、あの、フェリアル様??」
背後から慌てた様子でシモンが追ってくる。
僕がキッチンの棚から慣れない動きでカップを取り出すのを見て、シモンはあわあわと冷や汗を垂らした。
「シモン先生。ここはだれのお部屋ですか」
「え?それはもちろん、フェリアル様のお部屋ですが……」
「うむ。そして、ブレイドとシモン先生は、お客さまです」
シモンがサーッと青ざめる。
どうやら僕の言いたいことを理解してくれたらしい。
僕はたどたどしい手つきでお湯を用意すると、シモンの方を振り返って宣言した。
「お客さまは、座ってくつろいでいてください」
ガーン!とあからさまにショックを受けるシモンを放置し、作業を再開する。
カップを三つ用意し、それぞれに茶葉をぱらぱらといれる。それで、えぇっと、次はお湯を……。
ゆっくりとお湯を注ぐと、不器用な上に慣れない作業だったからか、お湯が少し飛び散って手についてしまった。
「あちちっ!あちっ!」
「フェリアル様ぁぁあ!!!!」
かっこよくキリッと宣言した直後だというのに、なんて情けないミスを……。
反射的に涙を滲ませて手の甲を確認する。火傷というほどではないけれど、お湯が飛び散ったところがほんの少しだけ赤くなっていた。
困ったな。こういう時はどうするんだっけ?
火傷の対処法なんて知らないのであたふたしていると、何やら光の速さでシモンが飛んできて、僕の手を引っ掴んで蛇口の水に突っ込んだ。
「あばばばばッ!!」
「シモン、おちついて」
熱い思いをしたのは僕の方なのに、なぜかシモンの方が大混乱している。
それを見たら、逆に僕は落ち着いて痛みも薄れた。自分より慌てている人がいたら冷静になるって、よく言うよね。
「あちゃーだね、シモン」
「なにちょっと矮小化しようとしちゃってんですか!」
あちゃーどころじゃないが、とシモンが険しい表情を浮かべる。
残念。サラッと誤魔化そうとしたけれど失敗してしまった。まぁ、シモンが誤魔化されてくれるわけもないか。
「ほらもういいですから、お願いですから座ってください。悪化する前に冷やしましょう。お茶はいいですから」
「で、でも、お客さまにはお茶をご用意しなきゃ……」
「お客様は俺ですよ!俺がいいって言ってるんだからいいんです!ほらそこで黙って座ってるあなた!あなたもお茶いいですよね!?」
ついに我慢の限界が来てしまったのか、シモンは完全にいつもの余裕を捨て去った。
これにはブレイドも素直にこくりと頷く。無表情だけれど、シモンの剣幕にやや圧倒されている様子だ。
ごめんねブレイド、シモンって熱量がコロコロ変わる人だから……。
「ほら座ってください!しばらくこっちの手は使わないでくださいね!」
半ば強引にソファに座らされる。シモンは「まったくもうほんとフェリアル様は」とブツブツ呟きながらも、素早く手当てをしてくれた。
「ありがとう、シモン」
「……どういたしまして」
あれあれ。シモンったら、ものすごくお疲れみたいだ。
ふむ。どれ、ここはひとつ、僕がお茶でも淹れて……と立ち上がろうとすると、シモンは死人みたいな顔色で「頼むから勘弁してください……」と縋り付いてきた。
「ブレイド、ごめんね。僕、お茶もまともにご用意できなくて」
「お気になさらず。私こそ気が利かず申し訳ございません。次からは私が責任を持ってお茶をご用意いたしますのでご心配なく」
うーむ……あくまでこの部屋では僕がお茶を淹れるべきなのだが……。
冷えた濡れタオルで手をぐるぐる巻きにした僕、お行儀よく座るブレイド、僕の膝に縋り付いて息も絶え絶えなシモン。
なんだかちょっぴりカオスが否めない部屋に、ふと淡白な足音が近付いてきた。
どうやら、お目当ての彼が帰って来たらしい。
「フェリアル、誰か居るのか────」
怪訝そうな表情でリビングに入ってきた彼……ローダは、この状況を見るなり数秒間だけピタリと硬直した。
「…………」
「…………」
お互いに沈黙が流れる。
ローダの視線が僕、シモン、そしてブレイド、と順番に動いていく。やがてブレイドをジッと見つめたローダは、真っ黒な瞳をカッと見開いて即座に動き出した。
「……!ローダ、だめ!」
ほんの一瞬のことだった。
視界の端で何かがキラリと光って、ローダが隠し持っていたナイフだということに気付くまで、そう時間はかからなかった。
僕が立ち上がるより先にローダが駆ける。
ブレイドの喉元に迷いなく切っ先を差し向けたローダだったけれど、それは寸前で止まった。
「はいはい、そこまで」
ローダの腕をしっかりと掴んで飄々と声を上げたのは、つい数秒前まで僕の膝に縋り付いていたシモンだった。
いつの間に動いたのか……相変わらずものすごい反射神経だ、とこんな時だけれど改めて感心してしまう。
「……なぜ、ウォードの狂人がここにいる」
強い警戒心を纏って、ローダが低く這うような声を吐く。
これは……もしかすると、前向きな考えより嫌な予感の方が当たりだったかもしれない。
じわじわと悪くなる一方の空気を察し、思わずあちゃーと肩を落とした。
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