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学園編
27.怪しいメイド服
しおりを挟む途中入学してからしばらく経ち、学園はだんだんと賑やかな空気に染まってきた。
それもそのはず、ついに文化祭の準備が始まったのだ。
色んなクラスが出し物について話し合いを始めたり、それに伴って生徒会の仕事も一気に増えてきた。
それはつまり、僕のお仕事もようやく始まるということである。
「今日も集まってくれてありがとう。これから更に忙しくなるから、皆には負担を掛けてしまうけれど……無理をしない範囲で協力してくれると嬉しいな」
今日も今日とて、放課後に生徒会の集まりに参加する。
いつも通り、オーレリア兄様の気遣い溢れる言葉から会議が始まった。
「まず早速だけれど、いくつかのクラスから出し物の案が届いたよ」
オーレリア兄様が切り出すと、グリーン先輩がボードにささっと情報を記していく。
一年B組、一年C組、一年E組……どうやら一年生のクラスは、まだ文化祭の準備期間が始まったばかりだというのに、ほとんどが出し物を決定したらしい。
「すごいね。決めるの早い……」
「まぁ一年だからな。一年の張り切り具合は毎年すげぇんだよ。逆に三年とかは、慣れてるからかギリギリに提出するとこも多いんだ」
「ふむ、なるほど……」
思わずぽつりと零した呟きに、アディくんが詳しい説明をしてくれた。
確かに僕も文化祭の話を聞いた時はとってもワクワクしたし、一年生が高揚しているのは理解出来る。
一年生の出し物は飲食系が多いとのことだったけれど、今年はどんな出し物の案が挙がったのかな。
グリーン先輩がボードに書き込んでいくのと同時に、オーレリア兄様が説明を再開した。
「B組は演劇、C組はカフェ、E組は……コスプレ喫茶?うん……何やら怪しいものも紛れているけれど、まぁ危険はなさそうだから承認しようか」
根っからのお貴族様であるオーレリア兄様が、一瞬ピクッと眉を寄せたけれどすぐに笑顔を戻した。
どうやらお上品センサーが発動し、俗物的な単語に反応してしまったらしい。
コスプレ喫茶……確かに貴族の生徒がやる出し物にしては色々と楽しそうだ。
「飲食系の出し物は売上の管理があるから、会計のアラン君とカリオン君、各クラスで問題があれば都度対応をお願いするね」
「了解です」
「わかりました」
それっぽい会議をする三人をキラキラ輝く目で見つめる。
いいな、いいな。アランとアディくん、いかにもお仕事っぽいお仕事を任されていてかっこいいな。
僕は僕は?とワクワクしながらオーレリア兄様に視線を向ける。
僕のキラキラな視線に気が付いたらしいオーレリア兄様は、ちょっぴり硬い笑顔で息を吐いた。どうやら少し緊張している様子だ。
そんなに緊張しなくても、僕だってしっかりお仕事できるのに。
「……今話したクラスは、既に本格的な準備を始めていると思う。準備期間の監視を任せている庶務には、明日から早速見回りを始めてほしいのだけれど……」
何やら口ごもるオーレリア兄様の視線がこちらに向く。
『任せて!任せて!』とやる気満々な僕を見ると、オーレリア兄様は困ったように微笑んだ。
「フェリアル、大丈夫?僕も一緒に見回りしようか。一人だと不安だろうし」
「むっ?大丈夫です。もんだいなっしんぐ、です。僕がひとりで、しっかりきっちり見回りします!」
「……どうしよう。もう既に不安だ」
僕がえっへんと胸を張ると、オーレリア兄様は顔色悪めに眉尻を下げた。
失敬な。あまり僕を甘く見てもらっては困る。僕はお兄さんだよ、見回りくらいできるもん。
「オーレリア先輩。先輩の不安は俺らも痛いほど分かりますけど、今回は任せても大丈夫だと思いますよ」
「そうだね。フェリアルはこう見えても対人スキルが高いし、相手の緊張を無意識に解すタイプだ。こういう役割は案外天職かもね」
アランとアディくんが嬉しいフォローしてくれて、それを聞いたオーレリア兄様はふむ……と頷いた。
「二人が言うなら心配ないかな。フェリアル、改めて見回り任せたよ」
「はい!おまかせくださいっ!」
ぽん、と胸を叩く。
僕もついにお仕事を任されてしまった。これはもう完璧なお兄さんといえるのではなかろうか。
ちょっぴり照れくさい気持ちを抱えながら、僕は明日からの本格的な仕事にワクワクと胸を高鳴らせた。
***
そうして翌日。
放課後になると、僕は早速生徒会でオーレリア兄様から指示をもらい、既に出し物が決定しているクラスの見回りに向かった。
目的地は一年E組。
ここは一年ながらコスプレ喫茶という尖った出し物をするクラスだ。
どうやら他の一年クラスと比べても、E組の張り切り具合は特に激しく、既に当日着る衣装のサンプルまで用意してしまったらしい。
これは一刻も早く見回りに向かわなくては……と、僕は急いで一年E組を訪れた。
「──あのぅ、失礼します」
コンコン、と一応ノックして教室内へ。
放課後だというのにほとんどの生徒が残っているらしいE組は、僕という来客が現れるなり賑やかなざわめきをシーンと掻き消した。
「あの、おじゃましてごめんなさい。生徒会の、見回りです」
あれ、どうしたんだろう。
確かに突然先輩が来て、それも生徒会だったら驚くのも無理ないだろうけれど。
それにしたって、目玉が飛び出そうなくらい仰天している彼らの様子が気になった。
「えっと、学級委員さんはいらっしゃいますか」
ここは一年生のクラスなので全員が後輩だけれど、あくまで敬語は欠かさない。
なんてったって、みんな僕より年上だからね。すごくややこしい話だけれど、僕は彼らより一つ年下だから。
「ッ!あ、はい!俺!俺が学級委員です!」
沈黙の中でしばらく待つと、やがて眼鏡をかけた生徒が慌てたように駆け寄ってきた。
何やらずっとボーッとしていたけれど大丈夫かな。
心配しながらも学級委員さんに改めて挨拶をして、出し物について色々と質問しようとしたその時だった。
「あの!二年のフェリアル先輩、ですよね?噂の英雄様の……」
ふと学級委員さんに尋ねられ、僕はぱちくりと瞬いた。
僕を見つめてボーッとしていたかと思えば、なるほどそういうことか。
そういえば、自分の世間的な見られ方をすっかり忘れていた。
年上の人に先輩って呼ばれるの変な感じだなぁ……なんて現実逃避みたいなことを考えながら、尋ねられたそれにこくりと頷く。
「はい、僕がフェリアル、ですけれども」
緊張しておかしな語尾になってしまった。
いや、でも本当にちょっぴり照れくさい。
今の返答、言い方を誤魔化しただけで実質『仰る通り!僕が噂の英雄です!』と言ったのと変わらなくないかな。
とんでもない自意識過剰の人だと思われたらどうしよう……。
縮こまる僕をよそに、E組の生徒達は揃って興奮したように騒ぎ始めた。
「あぁやっぱり!あなたが噂のフェリアル様!お目にかかれて光栄です!」
「へ?あぇ、それは、どうも」
あっという間に生徒達に囲まれる。
みんな口を揃えて「光栄です!」「英雄さま!」「会えて嬉しいです!」と声をかけてきて、僕は少し仰け反ってしまった。
あわわ、どうしよう……生徒会のお仕事をしにきたのに、これじゃあ……。
「むっ、ぐ、あの、あの……っ」
もみくちゃにされかけながら、僕はやがて覚悟を決めてお腹から声を絞り出した。
「あのっ!出し物のおはなし、うかがいたいのですがっ!」
くわっ!と叫ぶと、ざわめきが一瞬にして静まり返った。
そしてすぐに周囲の輪が散り始め、彼らは揃って申し訳なさそうに「すみません!」「気が利かず!」と頭を下げた。
どうやら悪い人たちではなさそうだ。
ほっと息を吐いて、僕もいえいえごめんなさいと謝罪する。これは自分の評判をすっかり忘れていた自業自得でもあるから……。
「それじゃあ、えっと、出し物について質問をしてもいいですか?」
「はい!もちろんです!」
えぇっと、じゃあまずは出し物の概要についてを……。
オーレリア兄様から渡されたマニュアルを確認しようとして、僕はふと教室の奥に置いてあった衣装に気が付いた。
「……あの。あれも、出し物でつかうお洋服ですか?」
「“あれ”?あぁ!えぇそうです!あの衣装も候補の一つです!」
目を付けたのは、メイド服に似た衣装。
似た、というのはまさに言葉の通り。僕が知っているメイド服にしては、やけに露出や装飾がおかしい気がしたからである。
「これは、ちょっぴり、あっはーんなのでは」
「え?そうですかね?まぁ確かにちょっとアレンジはしましたけど」
ちょっとどころではなさそうだけれど……。
少なくとも、公爵邸で見かける使用人さん達は、足首まで隠れるような長くて分厚いスカートを履いていたはずだ。
でもどうだろう。ここにあるなんちゃってメイド服は、膝丈までしかスカートがない上に、かなりフリルが盛られている気がする。
「……うーむ、あやしい」
これはひょっとすると、グリーン先輩が言っていた例の件に該当するのでは。
確かこのクラスは要確認事項について特に書かずに出し物案を提出していたはずだから、そこのところ少し怪しい気がする。
うーむ……と唸る僕を見て、ふと学級委員さんが真面目な顔で声を上げた。
「じゃあ、実際に着て確かめてみます?」
「…………はい?」
いまなんと?
思わずポカンと目を見開く僕を、なぜかE組の生徒達が瞳をキラキラ輝かせて取り囲んだ。
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