余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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学園編

28.再会の手紙



「んぐ、ぐぬぬぅ……」


誠に不服、極めて不服である。

真っ赤な頬を膨らませてぷるぷると震える僕の周囲には、何やら悶絶した様子で膝をつくE組の生徒達がいる。
どうせ僕のあまりにもな恰好にお腹を抱えて笑っているのだろう。仮にも先輩を相手になんてひどい悪戯をする生徒達なのか。ふんすふんす。


「もう着がえる!もう脱ぐ!」

「ちょ!ちょっとお待ちを!もったいないですよ!せっかくですし隣のクラスの奴らにも見せびらかしません!?」

「ぜったい!やだ!!」


なんてことを言い出すのか。
こんな格好で外に出られるわけがないだろう。

こんな、こんな──例のあっはーんなメイド服を着た姿で外になんて!


「これだめ!再審査!せめて、キャッチコピーは変えてもらいます!」

「えぇ?うちのキャッチコピーよくないですか?『お子様も楽しめる!わくわく!コスプレ喫茶!』ですよ?」

「お子さまには刺激がつよいです!」


なーにがお子様も楽しめる!なのか。
確かに見世物としても楽しそうな出し物であることに間違いはないけれど、それはそれとして若干のズレが否めない。

少なくともこのあっはーんなメイド服も使うというのなら、せめてお子様も楽しめる!のところだけは変更してもらわなきゃ。

膝丈スカートのフリルふんだんメイド服を着たまま、僕はふんすっと息巻いた。
それにしてもこれ、足がスースーするしとにかく恥ずかしいしで、本番に着たがる生徒はいるのだろうか。


「とにかく、もう脱ぎます。はずかしいので」


「えぇ~」だの「もったいない」だの聞こえてくるけれど、構わず畳んで置いていた制服に手を伸ばす。

それにしても、僕はなんだって素直にこれを着てしまったのか。
なんとなく勢いに押されて着用してしまったけれど、このクラスの人達もだいぶ変わり者だ。仮にも男の子の僕にメイド服を着せるなんて。

もしかして僕に罰ゲームでもさせようとしたのかな……なんてちょっぴり悲しくなった時、ふと教室の扉がガラッと開かれた。



「──はい急にすみませんねー。さっきからここが騒がしいって苦情が…………」



通りがかりに生徒から苦情を託されたのだろう。
とっても気怠そうに顔を覗かせたのは、形だけでも白衣を羽織った養護教諭だった。


「…………????」


やる気のない養護教諭こと、侍従のシモン。
シモンの視線は一点に集中した。言うまでもなく、フリフリのメイド服を着た僕に。

おわった。僕は焦るでもなく泣くでもなく、ただ冷静にそう思った。
まさか、こんな恥ずかしい姿をよりにもよってシモンに見られるなんて。


「あの、シモン、せんせ……、っ!?」


見なかったことに……と交渉しようとして、それより先にギョッと息を呑んだ。
思考がショートしたみたいに硬直していたシモンが突然、出血多量が心配になるくらいの勢いで鼻血を噴き出しバターン!と倒れ込んだのである。


「ししっ、しもーん!?」


公衆の面前だというのに、普通に侍従シモンを相手にする感じであたふたと駆け寄る。
青褪めながらシモンを覗き込むと、目だけはクワッと開き切ったシモンが小さく呟いた。


「──……これは、夢????」

「現実だよ。シモン」


なんだかとっても驚かせてしまったみたいだ。当たり前だけれど。

もう見るからに大混乱しているシモンを見下ろして申し訳なくなる。
確かに僕がシモンの立場だとしても、突然メイド服を着たシモンが目の前に現れたらこうなるかも。

改めてびっくりさせてごめんねと謝ろうとした時、シモンが一筋の涙を零しながら言葉を続けた。


「はは、夢に決まってますよね、だってこんなの、俺が毎日見てる夢そのものですし」

「こんな夢を毎日みてるの……」


な、なんて可哀想なんだ。メイド服の僕という悪夢を毎日のように見ているなんて。

悪夢の大半はストレスが原因と言うし、シモンったら表に出さないだけでとっても疲れが溜まっていたのかもしれない。
環境も大きく変わったし、それも原因かもしれないな。

もしシモンが無理をするようなら、僕の方から休暇を与えてくれるようにアル先生にでも頼んでみよう。


「ほらシモン、おきて。ここ、夢じゃないの、現実だから。僕いま着がえるから、起きて、後ろ向いてほしいな」


つんつん、つんつん。

しばらくシモンをツンツン突っついて声をかけ続けていると、シモンはふとハッと目を見開いて起き上がった。
そして僕をジィッと強く見つめると、やがてあんぐりと大きく口を開く。


「……え??ほんとに?ほんとに、フェリアル様??」

「ほんとに僕だよ。夢じゃないよ」

「現実に、天使メイドのフェリアル様が……?」


天使メイドとやらは分からないけれど、現実にメイド服を着た恥ずかしい僕がいるのは確かだ。

赤くなりながらもそう言うと、シモンは何やらポケットから光の速さで水晶らしきものを取り出すと、それを僕に向けて叫んだ。


「せめて一枚!!記録用に水晶へ残しましょう!!」

「いいから後ろむいてください。シモン先生」


二度目の鼻血ぷしゃーをしながら前のめりになるシモンに、僕はピシャリと言い放った。



***



初仕事からとんだハプニングが勃発したけれど、僕はなんとかその日の役割を終わらせた。
やっぱり一番忙しかったのはE組の見回りだった。なぜかメイド服まで着せられたし……。

今日は疲れたから早く寝ようかな……なんて思いながら寮へ帰る。
部屋へ入るとすぐ、新しい手紙が届いていることに気付いて思わずパッと表情が晴れた。


「お返事、きた……!」


最近、大事な人たちに送っていた同じ内容の手紙。
文化祭に来てほしいというお願い。件のローズだけじゃなく、深い関わりのある仲良しさんたちにはみんなに手紙を送った。

どれくらい了承のお返事をくれるかな、とワクワクしながら一枚ずつ開封して確かめる。


「よかった、兄様たちは来てくれる……」


兄様たちは揃って了承のお返事をくれた。
学園は兄様たちの母校でもあるし、きっと文化祭に来てくれれば当時のことを思い出して二人も楽しめるはずだ。

うんうんと頷き、他の手紙も確かめる。

レオも来てくれるみたいだけれど、皇太子のお仕事が忙しいから当日にどうなるか分からない。
ルルは魔塔での任務に追われているみたいで来られないらしい。
二人とも今やとてつもなく多忙な立場にいるし、これは仕方のない返事だ。


「……あ、ライネスも来てくれるんだ……」


白い手紙たちに紛れた真っ黒な封。
差出人を見なくてもわかる。ドキドキしながら中身を読むと、期待していた通りの返事が書かれていて思わずほっと息を吐いた。

やっとライネスに会えることがまず嬉しい。
そして、僕の頑張っている姿を見せられることも。


「がんばらなきゃ」


みんなが、ライネスが来るのだ。
いいところを見せるためにも、これから精一杯頑張らないと。

ワクワクしながら手紙を整理して、僕はふと気が付いた。


「……ローズのだけ、ない」


そう、ローズからの返事だけがまだ届いていない。
もちろん文化祭はまだまだ先だし、届くにしたってこれからの可能性の方が高いけれど。

それでも、僕の大好きな人達の手紙、それに紛れてローズの手紙がないというのは、なんだかとっても寂しいことのように感じた。
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