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学園編
34.面影の君
しおりを挟む気付けば準備期間も最終段階に入り、文化祭まで数日を切った。
その間、僕は生徒会と自分のクラスを行ったり来たり。活動は同時進行なので、それはもう身体がいっぱいいっぱいだった。
とは言っても、ほとんど生徒会の仕事ばかりしていて、クラスの準備にはそれほど参加できなかったけれど……。
ちなみに、クラスではカフェをやるらしい。あ、一年生みたいな尖ったカフェじゃないよ、普通のカフェだ。
シフトが分かれているので、明確な自由時間もあるのが嬉しい。
当日は仲良しの人達がたくさん来るから、ある程度時間を確保しておかなきゃ。
そんなこんなで、僕は今日も今日とて放課後の生徒会活動に勤しんでいた。
今日は手の空いたグリードが手伝ってくれて、校内全体を軽く見回ることに。クラスごとの見回りは、昨日全て終わらせることができたのだ。
「そういえば、グリードって年齢はいくつなの?」
派手な飾り付けが目立つ廊下をグリードと並んで歩く。
文化祭当日が迫っているということで一層賑やかな校内を見回っている時、ふと浮かんだ疑問をそのままグリードに尋ねた。
「なんか、めっちゃ急ですね、その質問」
「あっ!ごめんね、実は前から気になってたの……」
グリーン先輩がグリードだと分かった日から、実はひっそりと気になっていたこと。
虚を突かれたようにぱちくりと瞬くグリードを見上げて、デリカシーのない質問をしてしまったかも……と青ざめた。
普通に考えて、突然年齢を聞かれるのは嫌かも。びっくりさせちゃったかな。
「その、てっきりシモンと同じくらいかと……でも、学生だったんだね」
グリードに学生というイメージが湧いたことが一度もなかったので、特に何も考えず大人だと思い込んでいた。
隣国では騎士をしていたらしいし、学生っぽい言動は特に見たこともなかったし……。
あれ?考えてみると、グリードってもしかして、意外と一番ミステリアスな人なんじゃ?
「秘密です」
「……へ?」
「歳は秘密です。いくら姫でもコレはちょっと教えられないっすねー」
秘密って。実際に学生なのだから、歳は十七とか十八とかそこらだろう。
秘密も何もないじゃないか。そう困惑する僕を見ても、グリードはただ含みのある微笑みを浮かべるだけ。
……いや、待てよ。秘密って言うくらいだし、つまりグリードの本当の年齢は学生のそれではないのでは?
ということは……ということは、どういうこと?
グリードの悪戯っぽい答えが、思いがけない混乱を脳内に生む。
せめて、せめてこの二択だけは教えてほしい。
実はとっても若いのか?
それとも、実はとってもダンディな感じのお年頃なのか……!?
「グリードは、男の子?それとも……男の人?」
これくらい曖昧な聞き方ならちょっとは話してくれるんじゃないか。
そう期待を込めて見上げると、グリードはニコッと笑顔を浮かべて答えた。
「男の人っす」
さ、更に疑問が深まってしまった……。
「そっか……」
「はい、そうです。あっ、なんかあそこ揉めてますね。ちょっと仲裁してくるんで、ここで待っててください」
モヤモヤを抱える僕を放置し、グリードは向こうで何やら騒いでいる生徒達のもとへ向かった。
その様子をジッと見つめていると、ふと背後に気配が近付いた。同時に周囲の人達、主に女子生徒達が黄色い悲鳴を上げる。
これは……と思いつつ振り返ると、そこには案の定の人物がいた。
「フェリアル。見回りは順調か」
「うん、順調だよ。ローダは、ここでなにしてるの?」
生徒会長のローダ。
自分では気付いていないみたいだけれど、ローダは学園内で一番人気といっても過言ではないくらいモテモテだ。
ローダと並んでいて黄色い悲鳴に囲まれたのは初めてのことじゃないので、気にせず会話を続ける。
「お前の様子を見に来た」
「僕の?僕、きちんとお仕事してるよ……?」
「能力を疑っているわけじゃない。単純に気になったので来た」
「あ、そ、そっか。それならよかった」
一瞬僕の仕事ぶりを信用されていないのかと焦ったけれど、そういうことではないようなので安堵した。
ローダは僕の隣に並ぶと、僕の視線を追うようにグリードを見据える。
その瞳は淡白で、やっぱり何を考えているのはいまいち読めなかった。
「あれも、ついでに例の養護教諭も侍従か。お前の周囲は過保護な人間が多いらしい」
「う……そう、だね。それは、僕もそう思うよ」
「いいことだ」
へ?と思わず間の抜けた声を上げてしまった。
ローダの無表情やこの流れから、てっきり何か手厳しいことを言われるのかと思ったのに。
予想に反して前向きな言葉を口にしたローダにぱちくり瞬く。
ローダは僕のびっくり仰天な表情を見下ろすと、僅かに目を細めて語った。
「フェリアルはいい子だ。いい子だから、これだけ愛されて当然だ」
「……」
「お前は偉業を成した。過剰な過保護が生じて然るべきだ。それなのになぜ、お前の性根はいつまで経っても謙虚なんだ」
ローダは不思議そうに首を傾げる。
僕はと言うと、どう反応していいか迷って固まってしまった。まさか、そんなことを言われるなんて思わなくて。
僕は思わず俯いて、ローダの言葉にぽつりと返す。
「……謙虚とか、そういうのじゃないよ。だって僕は、べつに偉いことなんてしてない」
「しているだろう。お前が成し遂げたのは後世に語り継がれる偉業だ」
「それは……僕にとっては、ただの結果だよ」
あぁ、本当は思っていた。
英雄なんて柄じゃない。別に世界を救おうとしたわけでもない。結果的にそうなったってだけで、別に僕は……。
ただ、大切な人たちを守りたかっただけだ。その一心でしかない。
彼らにハッピーエンドを届けられるなら、別に他のことはどうなってもよかった。あの時はそんなことすら思っていた。
ただの自己満足が世界的な偉業に繋がるなんて、こんなのは単なる予想外だ。
暗い表情で俯く僕をジッと見つめたローダは、やがて何を思ったのか、僕の頭にぽんと手をのせた。
「……?ローダ?」
「関係ない」
「へ?」
「俺は、お前の成したことは偉業だと思う。だが、それとこれは関係ない。俺と出会ってくれた人間がフェリアルであったことに、ただ感謝する」
真っすぐでブレの無い言葉に息を呑んだ。
なんだか頬まで熱くなってきた。そんなセリフを真顔で言えるなんて、ローダはやっぱりローズにそっくりだ。
「妙なことを言った。無神経な発言で、気を悪くさせてしまったなら悪い」
「あっ……ううん!ぜんぜん、そんなことないよ。ローダと話せてすっごくうれしい」
「そうか。ならいい」
ローダが反省したように無表情をちょっぴり崩す。
それを見て慌てて首を横に振った。すると安堵したような表情になって、その微妙な変化を見分けられるようになったことがまた嬉しかった。
「……ローズさんのこと、無事に解決出来るだろうか」
ふとローダが困ったような声音で呟く。
なるほど。珍しく様子を見に来たと思えば、本当の目的はそれだったのか。
ついに文化祭が近いから、慣れない不安に襲われて僕のところまで来たのだろう。確かに、ローダにとっては大仕事だものね。
「大丈夫。ローズは絶対来るし、腕もきちんと治せるよ」
実際どうなるかは分からないけれど、とにかく今はローダを安心させたくてそう答えた。
ローダの手をきゅっと握り締め、ふにゃりと笑顔を向ける。
「文化祭、絶対に成功させようね」
成功させたいのは文化祭そのものだけじゃない。
ローダやブレイドと交わしたあの話。それを思い返して真っすぐ見つめると、ローダは全て察した様子で頷いた。
「……あぁ。必ず成功させよう」
ローダの瞳に意思が宿る。
きっと全部が上手くいく。根拠なんて何もないけれど、僕は漠然とそう確信した。
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