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学園編
33.人生の選択
しおりを挟む『グリーン・テラ』が僕の侍従のグリードであるという事実は、ひとまず生徒会メンバーにだけ周知させておくことになった。
僕に正体がバレた以上、もう先輩面をすることは出来ないとグリードが泣きついてきたからだ。
突然グリードの僕に対する態度が恭しくなったら、流石に皆も混乱するだろうから。
というわけで、ただでさえ忙しい時期だというのに申し訳ないけれど、僕は生徒会室に皆を集めて事の経緯を説明した。
初めはやっぱり驚いていた皆だけれど、理解が追い付くと案外あっさりと状況を飲み込んでくれた。
「まぁでも、考えてみれば別に驚くことじゃねぇな。むしろあと十人くらいフェリアルの見守り要員が隠れててもおかしくねぇ」
「確かに。アディの言う通りだね。別に驚くことではないよね」
アディくんとアランが二人揃ってうんうんと頷く。
それを見てちょっぴり切ない気持ちになった。ぼ、僕ってそんなに頼りないかな……。
「でも、どうしてフェリアルはすぐに気付かなかったの?その姿は変装ってわけじゃないのだろう?」
ふと腕を組んで考え込んでいたオーレリア兄様が、そう声を上げた。
そのセリフにふむと首を傾げる。確かに、言われてみればそうだ。
グリードの『グリーン・テラ』としての姿は変装じゃない。
なぜなら、今の僕の目には確かに彼がグリードとして見えているから。今の、というのは、さっきまでは違ったということだけれど。
「ずっと別人に見えてた。でも、いまはちゃんとグリードに見える……どうして?」
ぽつぽつと呟く。
グリードの姿は変装じゃない。でも、実際に僕は今までずっとグリードをグリードとして認識出来ていなかった。
そして今は、しっかりとグリードの姿が見える。どうしてだろう。
「あー、それはですね。認識阻害の魔道具を身に着けてるからです」
「認識、阻害?」
「相手の認知を歪ませる魔道具です。でも仰る通り変装しているわけじゃないので、俺を『グリード』として認識している人間には、この魔道具の効果は通用しません」
ふむふむ、なるほど。
今の僕にグリードの姿が見えるのは、僕が彼をグリーン先輩ではなく、グリードとして認識しているからということか。
グリーン先輩として彼を認識している人間には、これからも変わらず彼のことがグリーン先輩に見え続ける。つまりそういうことなのだろう。
「そういうことか。道理で僕の目にはグリーンの姿に変化がないように見えるんだね」
合点がいったようにそう語るオーレリア兄様に、思わずむむ?と眉を寄せた。
ちょっと待てよ……ちょっぴり頭の中がややこしくなってきた。
どうしてオーレリア兄様から見たグリードの姿が変わらないのだろう?それじゃあ魔道具の意味は……。
ぐぬぬと頭を抱えていると、安心安全のアディくんが助け舟を出してくれた。
「あー。確かにちょっとややこしいよな、これ。この魔道具はあくまで相手の認知を変えているだけで、別に姿を変えてるわけじゃないんだ。ここまではわかるか?」
「うん、わかる……」
「魔道具の目的は『グリード』って人間が別の人間に見えるように、相手の認知を変えることなんだよ。だから『グリード』を知ってるお前には別人に見える」
「ふむふむ」
「つまり、そもそも『グリード』を知らねぇヤツには効果がないんだ」
はっ!と大きく目を見開く。
アディくんったら、いつもながらなんて分かりやすい説明をしてくれるんだ。流石は二年の座学トップである。とっても賢い。
しっかり理解した。さっきはちょっぴり勘違いしていたらしい。
なるほど、だから皆はグリードを見てもあんまり反応が良くないのか。
姿が変わったから驚くだろうと思ったけれど、そもそも僕以外の目にはグリードの姿の変化が見えていないわけだ。
……むむ?待てよ、ということは……。
「それじゃあ、みんなには『グリード』の姿で見えてるってこと?はじめから?」
はいはい!と手を挙げて尋ねると、グリードはなんてことなさそうに頷いた。
「まぁ、たぶんそうっすね」
「じゃ、じゃあ……みんなには、はじめから見えてるの?その……もふもふ」
「もふもふ?」
「もふもふのおみみと、しっぽ……」
グリーン先輩を『グリード』と認識してから見えるようになった、もふっとした可愛らしい犬耳、そしてぶんぶん動く尻尾。
それを指さして恐る恐る尋ねると、皆は揃ってきょとんと首を傾げた。
「え、お前は見えてなかったのか?つーか、先輩がリーベルタースの出身だってのは有名な話だろ?」
「リーベルタースの出身なら、普通に考えて獣人でしょ。フェリアル……いくら魔道具の効果があったって、考えればもっと早く分かったんじゃ……?」
可哀想な子を見るようなアランの目に、ガクッと肩を落とした。
なんてこった。いや、確かにリーベルタースといえば獣人だけれども……そんな、そんな当然みたいな感覚だったのか。
改めて自分の世間知らずを実感する。
こんな時だけど、学園に入学出来たことに安堵した。あのまま公爵邸の中でだけ過ごしていれば、無意識の世間知らずがますます悪化していたことだろう。
「うーん……いっそ留学もしちゃおうかな」
「ッひ、姫ェ!?急に何事っすかァ!?」
そうだ、それもいいかもしれない。
僕はあまりに無知だ。だから、いっそ帝国を越えて旅をするっていうのもありかも。
百回もの人生を経ておきながら、そのどれもが閉鎖的な人生で、輪廻を加えても僕は経験というものを積んでこなかった。
でも、今世は自由だ。
だから、もっと広い世界を見てみるのもいいんじゃないだろうか。
「お、おいフェリアル……流石にそれはやりすぎだと思うぞ……」
「フェリアルの意思は常に尊重したいけど、今回は僕もアディと同意見かも……」
何やらアディくんとアランが慌てた様子で声をかけてくるけれど、僕の頭はまだ見ぬ世界でいっぱいだった。
今までは発想にすらなかったけれど、考えてみればこの世界は帝国だけで完結しているわけじゃないのだ。
当然、外の世界がある。帝国というかつての“舞台”を抜け出した先には、当然のように別の国があって、あらゆる人達がいる。
考えれば考えるほど、意識は帝国という大きな舞台から逸れていく。
僕は……僕の人生を、無知のままで終わらせたくない。
「グリード!グリード、ありがとう!」
「えッ……な、なにがですか……」
「グリードのおかげで、新しい可能性みたいなのが、見えてきたの!」
「……あ、あの、それは」
「僕、いっぱい考えてみる!いっぱい、自分の頭で考えてみる!」
キラキラと表情を輝かせる。
気付くと、グリードの件やその騒ぎのことはすっかり頭から消えていた。
文化祭まであと少し。
僕の大好きな人達が集まる大事な日。それはつまり兄様達や、レオや……ライネスが来るということ。
「お話、してみよう」
学園に来てまだ間もないけれど、僕は色んなことを学んだ。新しい価値観や経験を得た。
その結果を皆に見せてあげよう。僕の成長の結果を。
ふんふんと上機嫌に笑う僕を見て、グリードを筆頭とした生徒会の皆が複雑な表情を浮かべていたことは知る由もない。
きっと僕の成長をたくさん喜んでくれるだろう皆を想像して、僕はただ、今から文化祭をとても楽しみに思うのだった。
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