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学園編
32.過保護な信頼
突然だけれど、僕は今グリーン先輩……いや、グリードと一緒に保健室へ来ている。
あの騒ぎを生徒会として鎮めてから、特に会話もなく、けれどお互いに示し合わせたように訪れた保健室。
現れた僕を見て一度は嬉しそうに飛び跳ねたシモンだったけれど、続いて入ってきたグリードを見るとサーッと酷く青ざめた。
そんなこんなで、保健室にはさっきから緊迫した空気が流れていた。
「…………」
「あの、姫……」
「フェリアル様……」
腕を組んで黙り込む僕を、グリードとシモンがはわわ……とでもいうような顔で見つめる。
僕はムスッと頬を膨らませると、不満な気持ちを隠すことなく呟いた。
「……なんか、いや」
嫌な感じ。そう言うと、二人は揃ってピシッと硬直した。
青褪めた表情を見る限り、僕の短い言葉の意味についてはしっかり察したらしい。
バレた後、僕がこう言うことくらい分かっていたはずなのに。
それなら初めから言ってくれてもよかっただろう。考えれば考えるほど不服で、不満で。
それにしたって、僕が何より嫌な感じなのは、僕だけ何も知らなかったことについてじゃない。あまりにも、僕の扱いが行き過ぎていることについてだ。
「そんなに、僕のこと信じられなかったの」
沈んだ声音で呟くと、二人は息を呑んだ。
僕が言いたいのはまさにそこだ。
僕は自分の力で努力して、この学園に飛び級での途中入学をするという特別措置を掴み取った。
みんなもそれを喜んでくれて、応援してくれて……あの寂しくも達成感のある門出を経て、今ここにいるというのに。
シモンが現れたところまではよかった。
シモンがそばにいてくれるのは純粋に嬉しい。だから、ただ単純に喜べた。
ローダが僕の知らないところで僕の護衛に任命されていたことも、それはそれでよかった。
ローダに出会えたことそのものが、僕にとっては重要なことだったし。ローダとの寮生活だって楽しい。
でも、でも……グリーン先輩。頼れる先輩との出会い、それだって大切なことだったのに。
その出会いが偽りだった。それこそが、なんとか保っていた我慢を崩壊させてしまった。
「ここまで、されると……さすがに、くるしい」
視界が滲む。
自分でも言葉に出来ない感情だった。
膝の上にぎゅっと握り締めた手の甲に、ポロポロと滴が零れ落ちる。
それを見た二人がぎょっと目を見開くのが気配で分かった。それでも、止められない。
「うれしかったのに……グリーン先輩、頼れるすてきな先輩で……会えて、うれしかったのに……」
こっそり僕に関わる為に『グリーン先輩』という存在しない人物が作られたのなら。
それはなんて悲しいことだろうかと、ただただ虚しい気持ちが湧き上がる。
嗚咽さえ漏れてきた頃、やがてグリードが焦燥を滲ませた声を上げた。
「ッひ、姫!違います!それは違います!」
「ひぐっ、ぅ……なにが、ちがうの……っ」
「“グリーン・テラ”は確かに存在します!俺は誓って!姫のご入学に合わせて学園に潜入したわけじゃないです!」
……グリーン先輩が確かに存在する?
それはどういうことだろう。気になる言葉に思わず涙が引っ込んだ。
視線だけで説明を求めると、グリードは緊張した面持ちで語り始めた。
「そもそも、隣国から渡ったのは帝国内の情勢を探る為でもありました!学園への潜入もその一環です!その証拠に、俺は三年前にちゃんと真っ当に試験を受けて入学してます!」
「……そうなの?」
「そうです!不正も一切ありません!グリーン・テラの名も、帝国へ移住する時に得たれっきとした正真正銘の身分です!」
そうなの?と今度はシモンに視線を向ける。
シモンは僕の視線を受けて、こくこくっと何度も深く頷いた。ふむ……シモンが言うなら事実なのだろう。
というか、シモンはグリードの事情を全て知っていたのか、と改めて気が沈んだ。
いつでもどんな時も無知なのは僕だけ。周りの人達は僕に事実を話すことを滅多にしない。
仮にも僕はグリードの主なわけで、そういうことは僕にだって教えてくれてもよかったのに……。
やっぱりムスッと不貞腐れながら、僕は仕方なく溜め息を吐いた。
「そっか……そういうことなら、わかった。でも、それじゃあどうして隠してたの。どうして、グリードってこと隠して、僕と関わってたの」
真剣な表情を向けると、グリードは「それは……」と複雑な顔で躊躇してから答えた。
「……まさに今みたいな事を心配してたんです。流石にシモン様に続いて俺までっていうのは、展開として出来すぎてますし……姫をご不快にさせてしまうかと」
グリードの言い分に思わず虚を突かれる。
そうか、確かに、言われてしまえばそれはそうだ。
たぶんグリードの言う通り、たとえ初めにグリードとして自己紹介されたところで、僕は今のような疑心を抱いたことだろう。
だからグリードは、あえてグリーン・テラの名で僕と出会った。
全部、僕の気持ちを考えた上での選択。
行き過ぎた過保護に怒っていたはずなのに、グリードのそんな気持ちは純粋に嬉しいと思ってしまった。
「そっか、そうだったの……ごめんね、グリード。僕、やなこといっちゃって……」
「なに言ってんすか!完全に俺のせいですよコレは!もっと上手いやり方もあったはずなのに、それをサボったせいでこんなことに……」
マジですみません!と頭を下げるグリードにあたふた慌ててしまう。
そんな、謝るのはこちらの方だ。勝手に勘違いして怒って、グリードの立場からしたらとんだ冤罪を吹っ掛けてしまったし、そのことは大反省しなきゃ。
「ううん、僕が、ごめんなさい。シモンも、急に来て、責めてごめんね」
「えッ!いえいえ!俺的にはフェリアル様が遊びに来てくれて超ハッピーなので!本当に何も気にしてないですから!全然謝らないでください!」
べ、別に遊びに来たわけではないけれど……。
グリードに続いてシモンに謝るけれど、相変わらずな反応を返されて思わず力が抜けた。
「大体フェリアル様を泣かせるとかどんな度胸してんですかお前」
「いやいや!これに関してはマッジで不可抗力だと思いますけど!?」
やがて互いに落ち着いた頃、激おこを発動させたシモンが鬼の形相でグリードに迫る。
いつもの空気が戻ってきたことに安堵して、僕は改めてグリードに勘違いを謝罪した。
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