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学園編
39.双子と従兄弟
しおりを挟むかくして、クラスのシフトを終えた僕はローズ探しへと向かった。
とはいえそもそもローズが来ているかどうかが分からないので、無駄足をなるべく避けるためにもひとまずローダ達と合流することに。
保健室を見ていなければいけないシモンと見回り担当のグリードとは一旦お別れし、その辺を歩かせていたら騒ぎになる兄様達を連れて生徒会室に急いだ。
ローダの仕事はいまのところないから、きっとまだ生徒会室にいるはずだ。
「失礼します、フェリアルです」
一応ノックをしてから入ると、そこには予想外の人物がいた。
「おやフェリアル、何か忘れ物かい……って、これは珍しい顔ぶれだね」
生徒会室には何やら事務仕事をしていたらしいオーレリア兄様がいて、僕はぱちくりと瞬いた。
てっきり校内を回っているかと思っていたのに、オーレリア兄様は今日も真面目だ。
ローズを日々支える副会長ということもあり、彼はいつも見ている側が心配になるくらいたくさん働いている。
「オーレリア兄様。またお仕事ですか?」
「あぁ、いや、仕事ってほどじゃないよ。少し予算表を確認していただけさ」
相変わらず謙遜気味なオーレリア兄様は「それはそうと……」と僕の背後に目を向けた。
背後にいるのは、言わずもがな兄様達だ。
「ディランさん、ガイゼルさん。お久しぶりですね」
「オーレリアか。そういやお前、副会長だったな」
「フェリに無理な仕事を押し付けていないだろうな」
「いえいえ、そんな。ですがフェリアルの手腕にはいつも助けられていますよ」
しっかりとお互いを紹介しようと思っていたのに、何やら慣れた様子で話を始める三人を呆然と見つめる。
そ、そんな……まさか、三人はとっくにお友達だったの?
僕は入学するまでオーレリア兄様の存在すら知らなかったのに、それならどうして教えてくれなかったんだ。
むすっと不貞腐れた僕にいち早く気付いたのはオーレリア兄様だった。
きょとんと不思議そうに首を傾げて、オーレリア兄様は僕に問いかける。
「……フェリアル?可愛らしく頬を膨らませて、どうしたの?」
可愛くない!と勢いに任せて反論しそうになるのをグッと堪え、ふんっと顔を背ける。
僕が拗ねていることをようやく察した兄様達は、たちまち青ざめてあたふたし始めた。僕が拗ねると面倒なことになると知っているからだろう。
「お、おいチビ。お前が何に拗ねてんのか大体わかるが、違うぞ?別に隠してたわけじゃねぇからな?」
「その通りだフェリ。特に紹介するタイミングがなかったというだけだ。こんないかにも大衆人気の高そうな歳の近い男を近付かせたくなかっただけだ」
「おいアホディラン!馬鹿正直に白状すんじゃねぇ!」
兄様達のことだから、だいたいそんな理由だろうとは思ったけれど……まさか本当にそんな理由だったなんて。
それだけで僕に従兄弟の存在を隠していたのか。
僕が人との関わりを大事に思っていること、知っているはずなのに。
従兄弟というと、その関わりの中でもかなり近くて深い存在だ。
それを隠すなんて、兄様達ったらとってもひどいじゃないか。
「あぁ、そういうことか。フェリアル、あまりお兄様達を怒らないであげて。タイミングがなかったというのは事実だから」
「オーレリア兄様……でも……」
「本当だよ。お二人と実際に話す機会が増えたのも、フェリアルが……不在の間だったから」
少し躊躇してから語ったオーレリア兄様にピクッと肩を揺らす。
僕が不在の間……それは言うまでもなく、僕が行方不明とされていた二年間のことだろう。
そういうことなら、確かにオーレリア兄様の言う通り怒ることもないか。
学園に入学する前は、ただでさえ勉強やら、空白の二年を埋めるための行動で忙しかったし……。
不器用だけれど、きっとこれも兄様達なりの配慮でもあったのだろう。
「ごめんなさい、ディラン兄様、ガイゼル兄様。そういうことなら、いいの。そうですよね、不純な動機なんて、あるわけないものね」
「…………当然だ」
「チビ、悪いがこの話はこの辺で終わらせよう。ディランがすっげぇ動揺してっから」
何やらびっくりするほど目が揺れているディラン兄様を不思議に思いつつ、ガイゼル兄様の言う通り話を進めることに。
そうだ、そういえば僕には大事な用件があるんだった。
「あの、僕、ローダにご用があって来たんです」
改めてオーレリア兄様に用件を伝えると、彼は「ローダンセに?」と首を傾げた。
「ローダンセなら、ついさっき出て行ったよ。難しい顔をしていたけれど……ローダンセに限って何か悩みでもあるのかな」
そう言ってオーレリア兄様は訝し気に腕を組んだ。
その言葉にはっと息を呑む。もしかして、ローズの件に進展でもあったのだろうか。
これは、僕も早くローダを追うべきだろう。
そう考えて踵を返した時、ふと生徒会室にドタドタと大きな足音が近付いてきた。
「──ディラン様!邸から早く戻ってくるようにと伝令が届きましたよ!仕事をほっぽってどこへ行った、とのことです!」
何やら手紙を掲げて駆け込んできたのはグリードだった。
その言葉にぎょっとして振り返る。僕の視線から逃れるように顔を背けたディラン兄様の横で、呆れ顔のガイゼル兄様がため息を吐いた。
「ディラン、お前執務ぶん投げてきたのか?片付けたって言ってなかったか?」
「……終わりそうになかったのでこっそり父上の執務室に置いてきた」
「お前はガキか!!」
ツーンと現実逃避するディラン兄様に苦笑する。
公爵位を継ぐ前で忙しい時期なのに、よく文化祭へ来てくれることになったなと思ったら……そういうことだったのか。
でも、いつもしっかり者のディラン兄様がそんなことをしたのは、行けないと僕が寂しがると分かっていたからだろう。
僕の為だということを僕自身が理解出来るから、これにはお説教をする気持ちにはなれなかった。
「ディラン兄様。僕、久しぶりに兄様とお話できて、うれしかったです。だから、気にしないで、お仕事に戻ってください」
「フェリ……だが、兄様はフェリの兄として、フェリの晴れ舞台を全てこの目に焼き付ける義務が……」
「僕の接客、見てくれたでしょ?それで十分です。僕、本当にうれしかった」
だから心配しないで。そう言うと、ディラン兄様はしょんぼり肩を落として、けれど切り替えた様子でこくりと頷いた。
「わかった。今日のところは戻るが、休暇が出来れば必ず会いに来る」
僕とディラン兄様がお別れの挨拶を交わす横で、その様子を見ていたガイゼル兄様はドヤ顔を浮かべた。
「残念だったなディラン、まぁチビの活躍は俺が全部見ていくから落ち込むなって。帰ったら思い出話してやるよ」
「あ、ガイゼル様にも騎士団から召集令が来てるっす」
「ンだと!?」
つい数秒前までどどやぁと満足気に笑っていたガイゼル兄様を、ディラン兄様が無表情でズササーッと引き摺っていく。
「また会おう、フェリ」と微笑むディラン兄様に僕も手を振って、生徒会室の手前で二人を見送った。
「…………フェリアルのお兄様達は、本当に賑やかだね」
兄様達が居なくなると途端に静寂に包まれる生徒会室に、オーレリア兄様の苦笑交じりの呟きが零れた。
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