余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

文字の大きさ
403 / 423
学園編

42.皇太子とマリッジブルー?

しおりを挟む

ちょっぴりグダグダではあったけれど、直近の一大任務、ローズの腕の治癒は無事に達成することができた。

けれど気は抜けない。
学園の生徒としての重要な行事、文化祭はまだ終わっていないのである。

一日目は兄様達との交流やローズの件であっという間に時間が過ぎて、早くも二日目。

事前に手紙で送られていた予定通りなら、二日目の今日はお忍びでレオが来るはず。
皇太子という立場上ほいほい大衆の面前に顔を出せない上に、そもそも多忙だから来られるかどうかすら分からない。

そんなふわっとした約束ではあったけれど……嬉しいことに、レオは予定通り学園に来てくれた。


「──フェリ、久々の再会ですね。この日を心待ちにしていましたよ」


学園の裏門でレオを出迎えた僕は、変わらない友人の姿を見て思わず瞳を潤ませた。


「おひさしぶり、レオ。会えてとってもうれしい」


レオとは学園に来る前から会う機会が徐々に減っていた。
幼い頃はあんなに一緒に遊んでいたから、その変化が寂しくて……でも、お互いに立場が大きく変わったから仕方ないということも理解出来る。

それでも、とにかく再会を果たせたことが純粋に嬉しい。
成長盛りの僕より背が伸びた気がするレオは、時が経つほど増していく皇太子としての威厳を纏って穏やかに微笑んだ。


「学園への出立日も見送りが出来ず、フェリに会う機会を長く逃してしまったことを悔やんでいたんです。だから私も、会えてとても嬉しい」

「レオ……」


堪えていた瞳のうるうるが再び湧き上がってしまう。
皇帝陛下がほとんど隠居の状態となった今、レオは皇帝としての執務も代行することになり、それはもうとっても忙しい身だ。

本来、僕の学園入学なんて気にする暇もないだろうに……僕と同じように、レオも寂しく感じてくれていたのか。


「ようやく会えたというのに申し訳ないのですが……今日も午後から貴族会議を控えていまして、長居は出来ないんです……」

「ううん、いいの!こうしてね、会えただけでも、ほんとうは十分なんだよ」


困り顔でそう言うレオに慌てて首を振る。

申し訳なさそうに眉尻を下げるレオに、これ以上気を遣わせたくない。
僕はこの日を楽しんでほしくてレオを誘ったのだ。だから、そんな顔をしないで笑ってほしい。
そう思ったから、僕は切り替えてレオの手を引いた。


「レオ、さぁ行こう。屋台は回れないから、僕がね、いっぱい食べ物を買っておいたの。お部屋で一緒に食べよう」


文化祭の醍醐味である校内を回るという行為は出来ないから、レオのために用意した部屋で雰囲気を楽しむことくらいしか出来ないけれど……。

僕が行こう行こうと歩き出すと、レオは嬉しそうに笑って頷いた。



***



いつもは応接室として使われている部屋を貸し切らせてもらい、レオと二人でソファに並んで座る。

一応護衛の騎士さん達が入り口に控えているけれど、気配を消しているから実質レオと二人きりだ。
僕はテーブルに用意したたくさんの食べ物を指さしてレオに尋ねた。

ちなみに、毒見は既に全部済んでいるので問題なしだ。


「レオ、食べたいのある?クレープとか、串焼きとかあるよ」

「いかにもお祭りといった感じで楽しいですね」


完璧な皇太子としての仮面を取り払ったレオは、子供みたいに瞳を輝かせて楽しそうに選び始めた。

皇宮というある意味冷たい戦場のような場所で、レオは常に気を張っているのだろう。
最近になってようやく人に頼ることを覚えつつあるけれど、それでも人を信用することを苦手とするレオのことだ。こういう時間は貴重なものに違いない。

そう思うと、絶対にレオを楽しませなきゃという気持ちがより強くなった。


「うーん、あ!これ、これおいしいよ。お店のよりもね、クリームがいっぱいなの」

「それは気になりますね」


比率や健康というものを一切気にしていない、お祭り特有の欲望しか加味していないシュークリームを勧める。
レオは僕の説明にキラリと瞳を輝かせると、少し躊躇して、けれど最後は欲に逆らえない様子でシュークリームを手に取った。


「……今日くらいは、構いませんよね」

「うんうん!かまわない!だいじょぶ!」


ちょっとくらいは我慢をやめて、気分転換をするべきだ。
レオみたいないつも気を抜けない立場にいる人なら尚更。そう思って強く何度も頷くと、レオは嬉しそうにシュークリームを頬張った。


「……おいしい。美味しいです」

「ほんと?」

「えぇ、本当に。きっとフェリが一緒に居るからですね」


にこやかに微笑むレオを見ると、僕も嬉しくて頬が緩んだ。

いや、シュークリームは僕も食べたし、本当に美味しいことも知っている。僕がいてもいなくても、シュークリームはいつも美味しい。
でも、きっとそういうことじゃない。そういうことじゃないのだろうって、最近相手の心を読めるようになってきた。


「うん、うん。よかった。レオがおいしくおやつ食べられるなら、僕、いつでもレオのところに行くからね」

「ふふっ、それは……最高の提案ですね」


くすくすと笑うレオの表情をジッと見つめて、ほっと安堵する。
よかった。仮面じゃない、心からの笑顔だ。

レオは冗談っぽく笑うけれど、僕は本気だ。
幼少期の仮面を被ったレオを知っているからこそ、レオの本当の笑顔を引き出すためならなんだって出来る。
大事なお友達であるレオのためなら、僕は……。


「そうだ、フェリ。公子……大公とは最近どうですか?あの男、フェリにしっかり手紙の返事を送っていますか?」


レオがおやつを食べながらふと尋ねてくる。
それを聞いてぱちくり瞬いて、そしてまた頬が緩む。ライネスはレオの従兄弟でもあるし、気になるのは当然か。


「大丈夫。きちんと、お返事くれるよ。今日でお仕事片づけて、明日来てくれるって」

「そうでしたか、それなら良いのです。フェリが学園に入学してから仕事漬けのようなので、フェリをほっぽっていないか心配だったんですよ」

「……そうだったの」


ライネス、仕事漬けなのか。それは確かに心配だ……。
僕がへにゃりと眉尻を下げると、レオはすぐにニコリと笑ってセリフを続けた。


「あぁ、ですがそれほど心配せずとも平気ですよ。元々彼は、フェリが居なければ仕事くらいしかすることのない男ですし」

「そ、そんなことないよ。ライネスだって、趣味とか」

「趣味?強いて言えばフェリの水晶コレクションを集めたり、フェリに似合う服を掃いて捨てるほど見繕ったりとかですか?」

「……ぐぅ」


特に反論することも出来なくて、ぐうの音しか出なかった。
確かに考えてみれば、ライネスが趣味らしい趣味を楽しんでいるところを見たことがない。

暇があれば仕立屋を呼んで僕の服を作らせたり、僕の好きなお菓子を集めて僕に食べさせてニコニコしたり。
そういうライネスしか思い浮かばなくて、やっぱり反論は出来なかった。


「うーん……もしもの時のために、なにか趣味、おすすめするべきかな……」


思わず腕を組んでうーむと考え込むと、レオは今のセリフが引っかかったのかきょとんと首を傾げた。


「もしもの時とは?」


あ、そういえばレオにもまだ話していないんだった。
というか、今のところシモンにしか話していない。いや、まだ自分でも詳しいことは何も考えていないし、特に誰かに伝える予定もなかったけれど。

でも、この際だしレオにも一応話しておこうかな。
そう思って、僕は学園に来てから出来た新たな夢をレオに語った。


「あのね、僕、帝国の外に行こうとおもうの」

「…………え?」

「いつになるかわからないけど、行ってみたい国がいっぱいあるの。あと、見てみたい海とか、森とか、遺跡とか」

「え……ちょ、あの」

「ライネスは大公さまのお仕事忙しいから、きっと僕だけで行くこともあるとおもう。だから、その時はライネスおひとりだし、なにか趣味を」

「ちょっと待ってください!フェリ!」


突然レオが勢いよく立ち上がり、びっくりして数ミリほど飛び上がる。

ぱちぱちと大きく見開いた目を瞬くと、レオは僕よりも驚愕と……そして少しの恐怖を滲ませた表情で震える声を吐き出した。


「ど、どうして……どうして、帝国から出るだなんて恐ろしいことを?何か気に入らないことでも!?そ、それともあれですか、マリッジブルーとかいうアレですか!?」

「へ?あの、レオ、ちょっと落ちついて──」

「落ち着いてくださいフェリ!ひとまず深呼吸です!どんな不満があるのか分かりませんが、とにかくまずは落ち着きましょう!」

「レ、レオが落ち着いて……」


僕は至って普通だよ。落ち着いていないのはレオの方だよ。
そう言いたいけれど、何やら錯乱状態のレオには僕の言葉が通じない。

どうしたものか……と困り顔をする僕をよそに、レオの表情はどんどん硬さを増していくばかりだった。



「フェリがいなくなるなど、それだけは、それだけは絶対に……──」



とりあえずシモンを呼んでクールダウンのお手伝いでもしてもらおうか。
そんなことを悶々と考える僕は、レオの表情が仄暗く沈み始めたことに気付かなかった。
しおりを挟む
感想 1,721

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。