余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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学園編

47.えらい子

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太陽は既に一番高い位置に昇って、学園の熱気も最高潮に達している。
そんな中、僕はライネスをお迎えする為に校舎の裏門へ向かった。

なぜ裏門から来るかというと、理由は簡単。ライネスは大公様で、大公様が表から堂々と来ると間違いなく騒ぎになるからだ。
レオと大体同じ理由である。


「あ!来ましたよ、フェリアル様!」


誰が見ても明らかなくらいそわそわと身体を揺らしていると、ふとシモンがそんな僕の背を撫でながら門を指さした。

ハッとして視線を上げると同時に、夜なら闇に紛れているに違いない真っ黒な馬車が静かに裏門を抜ける。
僕とシモンの前に滑り込んだ馬車が停まると、すぐに待ち望んだ人が降りてきた。


「フェリ!」


長い黒髪を一括りにした彼は、黒いペリースを靡かせながら当然のように僕を抱き上げた。


「あぁフェリ!会いたかった……!」


むぎゅうっと強く抱き締められ、同時にうりうりと頬擦りされる。
出会って早々人形みたいにされるがままになって驚いたけれど、すぐにじわりと目頭が熱くなってきた。

視界が滲んで、それを堪えるように唇をきゅっと噛みしめ、僕はぴったり隙間なく彼に抱きつく。


「ら、らいねす……ぅ、ひぐっ、うえぇぇっ」

「フェリ……!?あぁどうしよう、泣かないで……!」


堪えたと思ったのに、どうやらそれは勘違いだったらしい。

完全に涙腺が決壊して、子供みたいな大号泣を見せてしまう。
成長してかっこよくなった姿を見せようとしていたのに、これじゃあ最初から計画が台無しだ。
貴族のお兄さんみたいにスマートなお出迎えをして、にっこり笑って再会を喜ぼうと思っていたのに。


「ひぅっ、ぼく、がんばってるよぉ……っ!」

「うんうん……一人で新しい場所に来て、緊張しないはずないよね。フェリ、たくさん頑張ってるだろうなって思っていたよ」

「ぼくっ、いつもはかっこいいよっ!いつもは、なかないよぉっ……」

「うんうん、分かってるよ。フェリはもう学生のお兄さんだもんね。今日はちょっと緊張が解けちゃったんだよね、ちゃんと分かってるよ」

「うわぁぁん!」


大号泣が不服であることを説明すると、ライネスは慈愛に満ちた表情でうんうんと頷いてくれた。

さすがは僕の目指すべきスマートお兄さんのライネスである。
詳しい説明をしなくても、僕がいつもはライネスに似てかっこいいお兄さんであることを察してくれたようだ。


「らいねす……っ」

「フェリ、フェリ。会えて嬉しいよ、今日もかわい──……かっこいいねぇ」

「らいねすぅぅっ!」


ひしっ!と抱き合う僕達の後ろで、何やらシモンが生暖かい目をしていたことには気付かなかった。



「…………すっかりいつも通りですね」



***



ライネスとシモンは僕が落ち着くまで急かさず待ってくれた。

泣き止んだ僕の真っ赤な目元を、シモンがハンカチでササッと拭ってくれる。
時間も惜しいので早速校舎へ向かおうとすると、ライネスがさり気なく僕の手を握った。
ちょっぴり照れくさいけれど……でも、僕もライネスとは少しでもくっついていたかったので特に抵抗しなかった。


「あ、えっと……ライネス、お仕事大丈夫?忙しくない?」


ほんのり紅潮する頬を冷ますついでに会話を切り出す。
ライネスは僕の質問に頷いて穏やかに微笑んだ。


「うん。今日までに全て終わらせてきたよ。フェリに会いたかったら死ぬ気で働けって、父上にも散々脅されたからね」

「パ、パパ……」


爽やかに笑いながら言うことじゃない気もするけれど……ま、まぁ大公家の日常の範疇か。

パパは大公位をライネスに継がせた後も、特に隠居することなく表舞台に立ち続けている。
騎士としてもまだまだ現役だし、ヴィアス領での影響力も健在だ。大公であるライネスに命令出来る、唯一の人間と言っても過言ではない。

そんなパパの指示を受けたというのなら、きっと仕事を終わらせたというライネスの言葉に嘘はないのだろう。
前科としてディラン兄様の件があるから、ちょっとだけ疑ってしまった……。


「それじゃ、パパも元気なんだね。よかった」

「あぁ……うん、本当に拍子抜けするほど元気だよ。そろそろどこかしら衰えてもおかしくないのに、一向にガタが来る気配がないんだよね」


あの人本当に人間なのかな……というちょっぴり失礼な呟きが聞こえて苦笑した。

この分なら、きっと大公妃さまもお元気なのだろうなと察して安堵する。
大公妃さまの体調はパパの体調に左右されることが多いし、なんにせよパパにはこれからもずっとずーっと元気でいてもらわなきゃ。

その為にも、そろそろ無茶はしないように僕の口からも忠告しなきゃ。
悶々と考え込んでいると、今度はライネスが話を切り出した。


「元気といえば、シモンも。学園に侍従は原則同行できないし、フェリが入学すると聞いた時はシモンのことも心配していたんだけれど……」


そう言うとライネスは振り返り、僕達の背後を静かに追っていたシモンを見て微笑んだ。


「元気そうで本当によかったよ。まさかフェリを追って教員になるとはね……いや、まったく驚かないけれど」

「驚かないんですか」

「驚かないよ。いつものことだし」


流石はライネス。大抵の人がびっくりしちゃうシモンの行動にもまるで動じていない。
むしろ心配そうに「よく教員の立場で妥協出来たね」とシモンを心配する始末だ。完全にシモンの特性を受け入れてくれている。


「私に言ってくれたら、二人を寮の同室にすることくらいは容易だったのに」

「それは……フェリアル様が許しませんよ。ね、フェリアル様。学園では権威も影響力も決して行使せず、自分の力だけで過ごすんですもんね」

「うん。ズル、だめ。僕もシモンも、正攻法でがんばるの」


相変わらず僕とシモンには甘々なライネスをメッと窘める。
正直言って嬉しい提案ではあるけれど、それに頼るのは絶対に駄目だ。
僕は生徒として、シモンは教師として。それぞれ立場にあった環境に、正当に身を置くのである。


「そっか。フェリは偉いね。偉くて、いい子だ」


ライネスによしよしと頭を撫でられる。
大きな手が触れた箇所からじんわり熱が広がって、それはついさっき熱が引いたばかりの頬まで再び赤く染めた。

ライネスにえらいって言われた……。


「えへへ。僕、えらい。これからも、いっぱいがんばるよ」

「うーん可愛い。うん、うん。フェリは本当に偉い子だよ。あとシモンも」

「え、俺もですか?」

「フェリとの別居に耐えられるなんて、シモンにしては偉すぎる方だよ」

「なんかちょっと言い方が気になりますけど……まぁ、それはそうですよね。俺、偉すぎますよね。褒めてくれてありがとうございます」


気付くと、さっきまで後ろにいたシモンが僕の隣に並んでいる。

大好きな二人が両隣にいて、これから一緒に文化祭を楽しめる。
そう思ったら途端に高揚感が湧いてきて、僕はルンルン気分でライネスと繋いだ手を振りながら校舎へ歩いた。
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