余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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学園編

46.悪夢の原因


目が覚めるとすぐに、視界の端にシモンが見えて安堵した。

ベッド脇の椅子で読書をしていたらしい。シモンは僕が起きたことに気が付くと、すぐに本を置いて僕の顔を覗き込んだ。


「フェリアル様、よかった……具合はどうですか?」


額にシモンの大きな手がのせられる。ひんやりして心地良い。
頭痛も収まって、今朝まで少し荒れていた気分も落ち着いている。こくりと頷くと、シモンは心底ほっとしたように息を吐いた。


「怖い夢は見ませんでしたか?」

「うん……大丈夫」


やっぱり、シモンが傍にいると思えばよく眠れるみたいだ。
優しく頭を撫でられる間は力を抜いていたけれど、やがて今の状況を思い出してハッと起き上がった。


「ど、どうしよう、学校……!」


それはもうぐっすり眠った感覚があるけれど、マズい状況でもある。
今日は文化祭最終日。そして、ライネスと会える大事な日。寮の医務室で熟睡している暇はなかったのに。

サーッと青ざめる僕に、シモンは穏やかな微笑みを向けた。


「大丈夫ですよ、今は昼前です。大公もまだ来ていません」

「あ……そ、そっか。よかった……」


てっきり何時間も寝過ごしてしまったかと思ったけれど、杞憂だったらしい。
脱力した身体をベッドの縁に移動すると、シモンは僕の正面に屈みこんで再び顔を覗き込んできた。


「……顔色も良くなりましたね。すみませんフェリアル様、これは俺のミスです」

「へ……?ミスって?」

「病気だったら大変なので、一応フェリアル様が眠っている間に軽い診察を済ませておいたんですが……」


診察?それは、シモンがやってくれたってことでいいのだろうか。
シモン、診察まで出来るのか。いや、養護教諭の教員試験に受かったのだから当然と言えば当然だけれど……でも、まさか知識まで本物だったなんて。

シモンなら経歴の偽装とかも余裕そうだし、試験の突破なんていくらでも対応が利きそうなのに。
いや、そういえば真っ当に試験を受けたって言っていたような……。

ぐるぐると考え事をしていると、シモンがふと蛍光色の液体が入った瓶を差し出してきた。


「……?これ、なぁに?」

「即効性の栄養ポーションです。副作用が少し気になりますが、今は一刻も早く栄養を摂っていただかないと」

「栄養?どうして?」


予想もしていなかった言葉を聞いてぎょっとする。
栄養……まさか、今朝の気分の悪さは栄養不足が原因だったのか。
いや、でも栄養は毎日摂っている。ローダが作るご飯は誰が見ても栄養たっぷりだし、お昼を抜いたこともない。

それなのにどうして。
ぱちくりと瞬く僕を見下ろし、シモンは困ったように眉尻を下げた。


「単純な栄養不足じゃありませんよ。過労に不眠、環境の変化による急性ストレス。諸々合わさっての、“栄養不足”です」


さぁ早く飲んで、と急かされて慌てて瓶の蓋を開ける。
お世辞にも美味しそうには見えないポーションを見て、思わず怖気付いてしまったけれど……シモンの強い視線の方が怖かったので、大人しく一口で飲み干した。


「……う、ぐぅ……お、おいしくない……」

「当たり前です。味に配慮していられないくらい緊急用のポーションですから」


呆れ声で言うシモンだけれど、事前に用意していたのか味の濃いジュースをくれた。
それをぐびぐびと飲んでポーションの味を掻き消すと、僕はようやく苦い表情を戻してシモンに向き直った。

時間も惜しいし、とにかく話を進めないと。
ライネスにこの状況を知られるのもマズいから、早いところ校舎に向かわないといけない。


「シモン、さっき過労とか、不眠とか、ストレスとか言ってたよね?あの、全部身に覚えがないんだけれど……」

「全部ですか?うーん……まぁ鈍感なフェリアル様ですし、全て無自覚症状だったとしてもおかしくないか……」


ちょっぴり不服なセリフが聞こえた気がしたけれど今は聞き流す。
それよりも、今はその栄養不足とやらの原因だ。こんなことがこれからも起こっては面倒だし、原因は今のうちに聞いておかないと。


「ねぇシモン、僕のストレスってなんだとおもう?」

「それ聞いちゃいます?こういうのは自分で分かっていないと駄目なんですよ、フェリアル様」

「ぐぅ……で、でも……ほんとにわからない……」


いつもは甘々なシモンだけれど、こういう時だけは厳しいのだ。
腰に手を当てておこモードのシモンに肩を落とす。いや、でも本当に分からない……。

学園生活は楽しいし、特に文化祭が始まるまでの準備期間はもっと楽しかった。
生徒との交流も充実している。勉強に苦を感じたこともあまりないし……あぁどうしよう、考えれば考えるほど分からない。

頭を抱えてぐぬぬと唸る僕を見て、シモンはやがて深い溜め息を吐いた。


「はぁ……まったく。いいですかフェリアル様。入学してからここまでの数ヶ月、そりゃストレスが溜まって当然でしょう」

「えっ?どうして?僕、楽しいよ?」

「前向きな感情はストレスと共存するんです。短期間でこれほど一気に環境が変わって、心身ともに疲れないはずないんですよ」


呆れ顔のシモンから、机に置かれた『ご自由にお持ちください』のキャッチコピーが書かれた紙を手渡される。
いわゆる保健だより的なものらしいそれには、まさにストレスについての記事が書かれていた。


「“昂る高揚感が続いた時ほどストレスに注意”……」

「はいそうです。今のフェリアル様は典型的な環境変化によるストレスを抱えていますね」

「環境変化、ストレス……」

「溜まっていたストレスが今朝になって何らかのきっかけが起こり爆発した、といったところでしょう。その原因に心当たりは?」


きっかけ……。

なんとなく、シモンに向けていた視線を逸らしてしまった。
別にやましいことなんて何もないけれど、でも口にするのはなんだか憚られて。

きっかけ……それは十中八九、あの夢に違いない。
最近では滅多に見なくなっていた前世の夢。思えば珍しいあの夢を見たのも、無意識に溜めていたストレスが原因だったのかもしれない。

悪夢のほとんどはストレスによるもの。それくらいは僕も知っている。


「うん。ちょっと、怖い夢みた、かも。それがきっかけかな……?」

「……怖い夢、ですか」


シモンは腕を組むと、微かに探るような目を僕に向けてきた。


「ちなみに、どんな夢でした?」


ドキッと心臓が音を立てたけれど、特に顔には出さない。
こういう時のシモンは、まるで全てを見透かしているようで少し苦手だ。嫌なわけじゃなくて、ただ、今回ばかりはシモンに本当のことを言いたくないから。

だって……言えるわけない。
シモンは前世でたった一人、僕の生存のために尽力してくれた。そんな僕が処刑される瞬間を夢に見た……なんて言ったら。

きっとシモンは、今までにないくらい悲しんでしまうだろう。


「あ……どんな夢、だったかな……忘れちゃった」

「……そうですか」


ぽつりと答えたシモンが、ほんの一瞬悲しそうな色を瞳に滲ませたのはきっと気のせいじゃない。
でも、それ以上に悲しませるのを分かっているから、やっぱり本当のことは言えない。

シモンはそれ以上特に何も言わず、いつもの優しい笑顔を表情に戻した。


「それじゃあ、もう動けますか?そろそろ大公が来るでしょうから、せっかくですし一緒に出迎えに行きませんか」

「……!うん、行く!」


きっとライネスも、シモンに会えたら喜ぶはずだ。
シモンの気の利いた誘いに強く頷いて、僕は早速登校の準備をするために立ち上がった。
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