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学園編
50.四者面談
しおりを挟む「もぐもぐ。うまし、うまし」
「……よかった。ひとまず気分は良くなったみたいだね」
「フェリアル様がチーズケーキに激弱なチョロフェリアル様で助かった……」
テーブルに置かれたチーズケーキの山をもぐもぐと満喫する。
隣に座るライネスは何やらほっと息を吐き、向かいのシモンも安堵した様子だ。
ちょっぴり失礼なセリフが聞こえた気がしたけれど、チーズケーキに夢中で詳しくは聞き取れなかった。
全て僕にと用意されたチーズケーキを堪能していると、ふとゆったりとした足音が近付いてきた。
「お!フェリちゃん、だいぶ落ち着いたみたいだねぇ」
よかったよかった、と軽快な声が聞こえてハッとする。
慌ててピシッと姿勢を正して振り向くと、そこにはふんわり笑顔を湛えたアル先生こと学園長の姿があった。
「アル先生!あ、あのあの!急に押しかけて、本当に──」
「あぁ~いい、いい!そういう堅苦しいのはナシにしよ!」
なんだか既視感のあるやり取りを流しつつ、そっと顔を上げる。
本当にまったく気にしていない様子のアル先生を見てひとまず安心した。
アル先生が現れて察しただろうけれど、ここは学園長室である。
どうして学園長室にいるかというと、文化祭最終日ということもあり、校舎内の教室はほぼ全て使われていたからだ。
三人で一時避難する場所がなくて途方に暮れていたところに、アル先生がぬるっと現れて誘ってくれたのだ。
ありがたく厚意に甘えつつも、少しお邪魔したらすぐに出ていこうとしていたけれど……。
まさかのチーズケーキを出してくれるという本気のおもてなしをされてしまったので、こうして居座っているというわけだ。
「フェリちゃんがチーズケーキ好きって話を聞いてね?いつか絶対食べさせてあげたいなぁって思ってたんだけど、やっとその機会が来て超嬉しいよ~」
「あ、ありがとう、ございます……」
上座に腰かけたアル先生が、いつものゆったりとした口調でそう語る。
優雅に紅茶を一口飲むと、アル先生はふと「あ、そうだ」と言ってシモンに視線を向けた。
「シモン先生はもう学園慣れたかな?養護教諭が途中で新しくなるって珍しいから心配してたんだよね~」
「ご心配ありがとうございます。でも俺フェリアル様のお傍に居たかっただけで、別に学園に慣れる気とかもなかったので全然大丈夫です」
「あ、そういう感じね~!うんうん、超正直で結構だよ~。やっぱ今の時代?生徒だけじゃなくて教師も勝手しよ!って感じだから?そのスタンスめっちゃいいと思うな~」
相変わらず『ぎゃる』って感じのアル先生がニッコリ笑う。
親指をグッと立てて紅茶を嗜む姿はちょっぴりシュールだ。でも、シモンの率直な性格に物怖じしないのは驚きだった。
出会った時から不思議さんな人だとは思っていたけれど……今の会話で、ちょっぴりアル先生への好感が増した気がする。
「それでぇ~?次はあなただね、大公閣下。うち一番の人気生徒、フェリちゃんとお付き合いしているとか~?」
完全に女子会っぽい空気を纏い始めたアル先生が、今度はシモンからライネスへと標的を移す。
ずっと黙って気配を消していたライネスは、突然自分がロックオンされたことに驚いたのか、ぱちくりと瞬いてからアル先生の問いに答えた。
「あぁ、はい。フェリと結婚を前提とした交際をしていますよ」
ちょっぴり硬い笑顔に眉尻を下げる。
どうやらライネスは、アル先生に責められていると感じたらしい。
まぁ確かに……帝国法では13歳からの婚姻が認められているとはいえ、世間的に見て僕とライネスの関係はかなり物珍しく見えるだろう。
それに加えて、歳の差もかなりある。
いつも密かに年齢差を気にしているライネスにとって、僕との関係について踏み込んだ話をされる時点で警戒の対象なのだ。
「あ、あの、アル先生……」
その話はライネスの地雷かもだから、お話を変えてほしいな……なんて。
そう言おうと口を開いた直後、アル先生は何やらキラキラッと瞳を輝かせて前のめりに声を上げた。
「いいねいいねぇ~!帝国の英雄と大公の燃え盛る愛!二人の関係性は巷で劇のモデルになるくらい有名だよね!実は私もその劇の大ファンなんだぁ~!」
僕とライネス、二人揃ってポカーンと目を丸くした。
その向かいで、なぜかシモンは『当然ですね』と言わんばかりにドヤ顔で胸を張っている。後方なんとか面というやつみたいだ。
アル先生は固まる僕達には気付かない様子でそわそわと立ち上がると、執務机から何やら色紙みたいなものを持ってきてライネスに手渡した。
「噂の大公閣下!ぜひともサインくださ~い!」
「え?え、えぇ……?」
ライネスは心の底から大困惑した様子を見せつつも、アル先生の勢いに押されたらしく戸惑いながらもサインを書いた。
「えぇっと、どうぞ」
「わぁ~!ありがとう!今日は推しカプ拝めて大満足だよぉ~!」
「推しカプ……?」
「おしかぷ?」
なんだかよく分からない単語が聞こえて、反射的に僕も繰り返してしまった。
それにしても、アル先生は本当に不思議さんだなぁ。
正直、突然僕たちの関係について聞いてきた時は僕も身構えてしまったけれど……まさかこんなことを言われるとは思わなかった。
「……と、まぁ世間話はこの辺りにして」
ライネスのサイン色紙を大切そうに執務机に飾ると、アル先生はソファに座り直してふと声のトーンを下げた。
一瞬で切り替わった空気に身体を強張らせつつ、今度こそ硬い表情でアル先生を見遣る。
また何を言われるのだろうか。ビクビクしていると、アル先生は僕に視線を向けてニコッと微笑んだ。
「フェリちゃん。学校は楽しい?」
「……へ?」
シモン、ライネスと来て、次のお話相手は僕らしい。
突然の問いにきょとんと首を傾げるけれど、すぐにピシッと姿勢を正して頷いた。
「は、はいっ!とっても楽しいです!ありがとうございます!」
「あらら、また堅苦しくなっちゃった」
アル先生が接し方の礼儀とかを気にしない人なのは分かっているけれど、どうしても相手が学園長だと思うと緊張してしまう。
背筋を伸ばして答えるとアル先生は苦笑して、かと思えば困ったように微笑んだ。
「うんうん、確かにフェリちゃんはいつも楽しそうだね。でもね、質問の意味はそれとはちょ~っと違うんだ」
違うって、どういうことだろう?
首を傾げる僕に、アル先生は優しい声で静かに尋ねた。
「無理、してない?」
短い問いに息を呑む。
向かいに座るシモンから一瞬視線を感じて、同時にライネスの心配そうな表情が視界の端に映った。
僕はそろりと僅かに俯きながら、アル先生の問いにぽつぽつと答える。
「……無理って?僕、すごく楽しいです」
「うん。でもね、楽しい気持ちと、疲れたな~って気持ちは、一緒の場所にあるんだ。特にフェリちゃんは、入学してからずっと頑張ってるから」
カップをテーブルに置くと、アル先生は膝上で指を組んで微笑んだ。
「成績は入学時から一度も落ちていないし、試験は常に首席争い。それに加えて生徒会に入った上に、学園でも有名な問題児達を纏め上げた……などなど?」
「……!」
「いやぁ本当、入学したばかりなのに大活躍だ。ただでさえ“英雄”としての印象が広まっていて疲れるだろうに、君はそれにさえ真面目に応えちゃうんだから」
なんだか、アル先生の優しい声がものすごく胸に沁みる。
ふと膝上で握り締めた手に温もりが触れて、下を向くとライネスの手が僕の手を包み込んでいた。
「優等生なのは実に結構。でも、優等生すぎるのも考えものかな~?」
そう言うとアル先生はこてんと小首を傾げて、柔らかい微笑みを湛えた。
「そういうわけだから」と切り出し、シモンとライネスを交互に見据えながら続けた。
「文化祭の真っ只中で悪いけど。せっかく身内も集まっているみたいだし、突発で四者面談でもしようか!」
「……四者、面談?」
シモンが呆れたような表情で「急に何を言い出すんですか」と肩を竦め、アル先生は「まぁまぁ、いいからいいから」と笑う。
急に四者面談なんて、ライネスが混乱するに違いない。
そう思って慌てて顔を上げるけれど、そこにあったのは困惑の表情ではなかった。
「いいですね。私も、フェリとはじっくり学校の話をしたいなと思っていたので」
「お!いいねいいね~。さっすが大公、話が分かるねぇ~」
ライネスの爽やかな笑顔を見てぽかーんと目を瞠る。
ま、まぁでも……ライネスが乗り気なら別にいいか。そう考え、僕はのそのそと再び姿勢を正して、突然の四者面談なるものに臨むのだった。
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