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学園編
51.隠した本音
しおりを挟む「えぇ~やばいやばい!滝の前で出会うとかめっちゃ運命的じゃない?そこも劇と同じなんだぁ~!リアル恋愛劇じゃん!」
四者面談と言うからどんな堅苦しい話が始まるかと思えば、実際はアル先生の好奇心による思い出話だった。
今は僕とライネスの出会いについて聞かれたので、主にシモンがドヤ顔でその時の思い出を語っているところである。
緩い四者面談だなぁと思いつつ、アル先生もきゃっきゃと楽しそうなのでまぁいいかと肩の力を抜いた。
「その後は劇でご存じの通り、フェリアル様が天使の如き慈愛の眼差しで大公をピクニックに誘ったというわけです!」
「や~ん!超萌える~!もうほぼ絵本の世界じゃ~ん!」
アル先生がクネクネと興奮したように身体を揺らす。
楽しそうにお喋りする二人をよそに、僕とライネスはそわそわとお菓子を食べることしか出来なかった。
目の前で自分の恋愛についての話をされるのって、かなり照れくさい……。
「……あの!そろそろ話を移しませんか」
ちびちびと紅茶を飲む僕の隣で、ふと耐え切れなくなったのかライネスが声を上げた。
シモンが「ここからが盛り上がるのに!」とブーブー文句を言うけれど、ライネスはそれを完全にスルーしてニコリと笑顔を浮かべた。
「例えば、フェリの学園での様子を聞いてみたいです。保護者としては、何か厄介事に巻き込まれていないかが心配なので」
「恋人っていうより親みたいなこと言ってますね……」
シモンがぬるっとツッコミするけれど、ライネスは至って真面目のようだ。
質問の内容はちょっぴりドキッとしたけれど、別に何を答えられても問題ないので力を抜いた。
学園でやましいことも特にしていないし、堂々とアル先生の答えを聞こうじゃないか。
そう思いながらえっへんと胸を張った僕だけれど、アル先生が口にしたセリフによって余裕が瞬時に崩れ去った。
「あ~そうだね。厄介事と言っていいのかアレだけれど、ウォード君となにやら大仕事あったらしい時は陰ながら心配していたね~」
「あっ」
「ウォード?」
お手本のような「あっ」が飛び出した。
いやいや、別に、やましいことなんかではないけれども。
でも、そういえばローズの件をまだライネスに詳しく話していないんだった。それを思い出してサーッと青ざめる。
ど、どうしよう。例の件は、ライネスが聞いたら絶対に心配を通り越してお説教が始まるやつだ。
ガクガクと震え始める僕を訝しげに見下ろしたライネスは、眉を顰めつつニッコリ笑うという器用な反応を見せてくれた。
「フェリ?私、それ聞いてないと思うんだけれど?」
「あ、あぇ……」
「ウォードって、あのウォードだよね?で、大仕事?もう聞く前から嫌な予感しかしないんだけれど、詳しく聞かせてもらってもいいかな?」
「あば、あばば……」
どうしてだろう。ライネスの天使様みたいな笑顔が、今は悪魔のそれに見える。
有無を言わせないオーラはまるでパパが憑り付いたみたいで、僕はあばば……と涙目になることしか出来なかった。
***
「──……なるほど。事情は分かったよ」
ソファに正座して全てをつらつらと白状した僕は、腕を組むライネスを見上げつつしょんぼりと縮こまった。
シモンは完全に他人のフリで白々しくお菓子を食べているし、アル先生はこの緊迫した空気を楽しんでいる様子なのでまるで頼りがいがない。
僕は諦めてへにょりと眉尻を下げ、これから始まるであろうお説教を覚悟した。
けれど予想とは裏腹に、ライネスが発したのは説教の言葉ではなかった。
「フェリ、偉いね」
「…………へ?」
ぽん、と頭に手がのって目を見開く。
そろりと視線を上げると、そこにはライネスの優しい微笑みがあった。
怒られるならまだしも褒められるなんて思わなくて、ポカーンと間の抜けた表情を浮かべてしまう。
てっきり、危ないことしちゃだめでしょ!って怒られると思ったのに。ライネスは僕のびっくりした顔を見ると困ったように苦く笑った。
「怒ると思った?私はただ心配なだけ。フェリがやらなきゃって思って、友達と協力して成し遂げたことでしょ?」
僕がやらなきゃと思って、友達と成し遂げたこと。
ライネスの言葉はいつだって真っ直ぐ胸に刺さる。でも、今回はもっと特別だった。
周りの人達と同じで……いや、それ以上に過保護なライネスだけれど、ライネスは同時に、いつだって僕の行動を否定したりしない。
一歩引いて見守ってくれる。そんなライネスが、僕は……。
「でもローズの方は私に報告してくれても良かったのにね。大人の役目なのに……って、彼にそういう感覚は通用しないか」
ぶつぶつと小言を呟くライネスだけれど、すぐに諦念した様子で項垂れた。
僕はそんなライネスを見つめて、ふと考えて……そして、とある衝動に迫られる。
本能的にシモンへ視線を向けると、シモンは僕の全てを見透かしたように微笑んで頷いた。
その反応に背を押されるようにして、僕はふいに口を開く。
「……あ、あの。ライネス」
「うん?どうしたの?」
視界の端で、シモンとアル先生が似たような穏やかな笑みを湛えているのが見えた。
もしかするとアル先生は、初めからこの展開に持ち込もうと、突然の四者面談なるものを提案したのかもしれない。
僕が無意識に抱えていたものを、僕自身が自覚して、それを吐き出せるように。
「あのね……あの、僕、ライネスにね、お話したいこと、いっぱいあるの」
指先をもじもじと絡めながら精一杯言葉を紡ぐ。
「学校のこと……さっきは楽しいって言ったけど……あ、ううん、ほんとに楽しいの!でもね、楽しい、だけじゃなくて……」
瞳を揺らしながらもごもごと声を発していると、ふと忙しなく動く手をライネスの温かい手で包み込まれた。
ハッとして顔を上げると、柔らかく微笑むライネスと視線が合って息を呑む。
ライネスは、どこまでも僕の気持ちを理解してくれているみたいだ。
「……聞いて、くれる?」
思い出すのは向けられる度に胸を締め付けられる、周囲からの『罪悪感』が滲んだ視線。
英雄への期待になんとか応えたくて、自分に見合わないかっこよさを追い求めている現状。
色んなことが脳裏に巡る中、眉尻を下げてそう尋ねると、ライネスは当然のように強く頷いた。
「もちろん。フェリのお話、全部聞きたいな」
遠くから賑やかな熱気が薄らと届く。
文化祭はまだまだ終わらない。ライネスとの時間を最後まで心から楽しみたいから、僕はその前に全てを曝け出すことを決めた。
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