余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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攻略対象file4:最恐の暗殺者

if閑話.大好きな人たちに会いにいく話(終)

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 本当は面と向かって会うつもりはなくて、ただ遠くから姿を見たらすぐに帰ろうと思っていた。兄様達の勉強の邪魔をしたくはないし、これほどの我儘を通すならせめて迷惑をかけることだけはしたくないから。

 ただ会いたいからなんて理由を学園側が許してくれるとは思っていなかったけれど、ダメもとで頼んでみるとまさかの了承を貰ってしまうという予想外。
 交渉をしたシモンに聞いてみたけれど「快諾して頂けました!」と笑顔で告げられたので驚いた。そういうところは厳しいと思っていたけれど、まさか本当に快く受け入れてくれたなんて。
 そんなこんなで迷惑をかけないようにと細心の注意を払って訪れた学園。兄様達の授業が終わるまで待っていようと座っていただけなのに、眠ってしまうとは何たる失態。


「フェリはどうして学園に来たんだ?」


 つんつんと頬を突っつかれながら問い掛けられ、甘く瞳を細めるディラン兄様にしょんぼりと答える。


「……兄さまたちに、会いたくて…その……」

「は?それだけ?俺らに会いたいだけでわざわざ来たのか?」

「っ……!ご、ごめんなさい…」


 本当は遠くから姿を見てすぐ帰るつもりだった、なんて言い訳を今更する気はない。どんな目的だったとしても、結果的に兄様達に見つかって今この瞬間迷惑をかけてしまっていることに変わりはないのだから。

 兄様達に呆れられた、嫌われた。それよりも、二人の迷惑になってしまったことが何より悲しくて。
 でも僕が悲しくなる資格なんてないから、湧き上がる衝動をぐっと堪えて唇を噛み締めた。少しでも力を抜いたらすぐにでも涙が溢れてしまいそうな状況の中、ぽかんと問い掛けたガイゼル兄様にディラン兄様が何やら怒りを滲ませた瞳を向けて声を上げる。


「……何度言えば分かるんだ。お前は言い方が悪い、フェリを怖がらせるな」

「は!?な、なんで怖がるんだよ!?俺はただ嬉しいだけで…っ」

「それなら率直に嬉しいと伝えろ愚弟。そんなだから幼少期、お前だけずっとフェリに怖がられていたんだろ」

「なっ…おまっ!!俺のトラウマを蒸し返すな!!」


 ガイゼル兄様のトラウマ…?幼少期、僕にずっと怖がられていた…って。もしかして、まだ僕が声すら発していなかった頃の話だろうか。
 確かにあの時、僕はガイゼル兄様に嫌われていると誤解してずっと避けていたけれど…あの時のことがどうしてトラウマになるのだろう。

 きょとんとする僕を見下ろし、ガイゼル兄様は「ぐっ…」と躊躇するように顔を歪めてやがて小さく呟いた。


「……その…嬉しいからな。お前が来てくれたの…」

「へ……?」

「っ…だから!別におこじゃねぇから!チビがただ会いたくて会いに来たとか、嬉しい以外に思う事ねぇからな!!」

「……!!」


 顔を真っ赤にして叫ぶガイゼル兄様。どうしよう、ガイゼル兄様がせっかく嬉しくなってくれているのに、きっと今一番嬉しいのは僕の方な気がする。

 へにゃりとだらしなく頬を緩めて手を伸ばし、今一度「ぎゅー」と催促するとぎゅっと抱き締めてくる力強い両腕。ガイゼル兄様の鍛え上げられた体に擦り寄ると、腕の力は更に強まった。
 背後のディラン兄様にもぎゅっと挟まれているから、さっき外で眠っていたせいで体に籠った寒さが完全に消え去った。むしろとってもぽかぽかして暖かい。


「おい離れろ愚弟。お前の無駄に大きい図体の所為でフェリの可愛い顔が見えない」

「うるせぇ。ガキの頃から俺が避けられてんの良いことにチビ独占しやがって…これからは俺が独占すんだよ。てめぇの時代は終わりだクソディラン」

「言い掛かりはよせ。幼少期のアレはお前の愚鈍さが原因だろ。己の非から目を逸らすな」

「んなこたぁ分かってる!こういう時だけ兄貴面して説教すんな卑怯だぞ!!」


 前も後ろもあったかい、ぽかぽか。なんて一人ぽかぽかを堪能していると、ふと頭上の口喧嘩がヒートアップしてきたことに気が付いて慌てて顔を上げた。
 しまった、いつものことだから普通にスルーしてしまっていた。


「兄さま。けんか、めっ!仲よし」

「喧嘩なんてしていない。俺達はいつでも仲良しだ」

「喧嘩じゃねぇぞチビ。全部挨拶みたいなモンだ」


 それにしてはやけに物騒な挨拶だけれど、本当に大丈夫なのだろうか…。
 二人揃ってぐっと親指を立てている辺り、確かに仲は良さそうだ。さっきのは口喧嘩ではなく、言葉通りただの挨拶だったらしい。


「む……なかよし……?ガイゼル兄さま、ディラン兄さま好き?ディラン兄さま、ガイゼル兄さま好き?」

「え」

「は」


 わくわく、と瞳を輝かせて尋ねる。
 仲良しなら、二人はお互いのことが好きということになる。なのにいつも喧嘩ばかりしてしまうのは、言葉が足りないからじゃないだろうかと思い至った。

 だから、たまには本音を伝え合うのも良い気がする。そう思っての問い掛けだったけれど、何故か二人はドン引きした様子でお互いに目配せし始めた。


「……?すき、ちがう……?」


 好きじゃないのかな。二人はいつもの様子通り本当に仲が悪いのかな、とさっきまで輝いていた瞳がうるうると滲む。
 大好きな人たちがお互い嫌悪を抱いているなんて、それはとっても悲しいことだ。でもそれは二人の感情の問題だから、他人が口を出して良いことじゃない。

 でもやっぱり悲しいものは悲しい……なんて複雑な気持ちに苛まれていると、不意にディラン兄様が硬直を解いて語った。


「トテモ、スキダ」


 どうしてカタコトなのだろう……。

 声を発したディラン兄様だったけれど、いつもの棒読みを遥かに凌駕するようなカタコトが飛び出したことにぱちくりと瞬く。
 心做しか表情が無だ。何の色も宿っていない。


「き、きも……──」

「ガイゼル兄さまは?ディラン兄さま好き?」

「お、おう!す、す、す……き……らい!嫌いではねぇよ!!」


 ニカッと笑ってグーサインをするガイゼル兄様。
 求めていた答えとは少し違ったけれど、これでも好きと言っていることに変わりはないから満足してうんうんと頷いた。


「ふふん。僕も、ふたり大好き。なかよし」


 周囲に花をぽんぽんと咲かせるくらいの上機嫌で、ふにゃふにゃと微笑む。
 お互い見つめ合って苦々しい表情をしていた二人は、緩んだ僕の顔を見るなり笑みを含んだ呆れ顔で息を吐いた。


「まぁ……チビが嬉しいならいいか」

「この笑顔の為にプライドを捨てたと思えば安いものだ」


 何やらぼそぼそと語り合う二人にきょとんとすると、すかさず柔らかい笑みが返ってきた。


「そうだチビ。丁度昼休みだし、一緒に飯食おうぜ」

「……!たべる……!!」


 兄様たちとご飯。久々のそれは想像するだけで嬉しくてドキドキして、ついさっきまでの好き嫌い論争のことはぱっと忘れてしまった。


「あ……でも……おべんと、ない……」


 意気揚々とベンチから立ち上がったところでふと気付く。今日は兄様達の顔を見てすぐに帰る予定だったから、ご飯のことなんて何も考えていなかった。

 しょんぼりと肩を落とす僕を見下ろした二人は、何を言っているんだとばかりに目を丸くして、両側から僕の手をぎゅっと繋いだ。


「チビは俺らの一緒に食えば良いだろ?学食は混んでてだりぃから、俺らいつも弁当だしな」

「失態……フェリが来ると知っていればタコさんウインナーを用意したのだが……」


 お弁当、わけあいっこ。
 聞いただけでわくわくそわそわしてしまう。へにゃりと頬を緩めて繋いだ手に力を込め、嬉しい、ありがとうと紡いで、しょんぼり沈んだ面持ちのディラン兄様にも笑みを向けた。


「兄さま。次に来るとき、兄さまにたこさん作ってくる!」

「ッ……!!フェリの手作り弁当、だと……?」

「は!?何でディランだけなんだよ……!」

「ガイゼル兄さま、ちいさい頃、たこさん嫌いって……」

「いや好きだぞ。たった今一番好きな魚に昇格したぞ」


 それじゃあガイゼル兄様にもタコさん作らないと。
 ガイゼル兄様の分も持ってくるねと意気込んで答えると、返ってきたのは心底嬉しそうな笑顔だった。





───
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