余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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攻略対象file5:狡猾な魔塔主

136.それぞれの対抗策(後半ガイゼルside)

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「見栄を張りたい年頃だろうからな。微笑ましい」


 全く信じていない顔のローズ。優雅に紅茶を含むローズを見て、途端にじわじわと涙が滲み始めた。

 わっと涙が溢れて、またもやシモンと向かい合うように後ろを向いてぎゅうっと抱きつく。ぽかぽかとシモンの胸を叩いて、その胸にしくしくと顔を埋めた。


「ほんとだもん…ほんとにまとーしゅさま助けたもん…」

「そうですよね。ほんとに助けましたよね。見栄なんかじゃないですもんね。よしよし、俺はちゃんと分かってますよ」


 めそめそ泣きながらシモンと抱き合う僕を見て、ローズは流石に悪いと思ったのか微かに瞳を揺らした。無表情ながらも動揺が確かに見えるのは、少なからずローズと親しくなった証拠かもしれない。

 ぐすんと鼻を啜ってひょいっと首だけ振り返り、ぷくーっと頬を膨らませる。


「……お手紙おくれば、わかる。まとーしゅ…魔塔主さま、僕なら会える!」


 一度助けたことがあるからって、会ってくれるかどうかはまた別の話。それをすっかり忘れたまま、根拠のない確信をどどんと宣言してしまった。





 * * *





 今日一度目の授業が終わり、次の実技教科の為に移動していた時のこと。突如学園の敷地内に姿を見せた見知らぬガキは、まるで降臨を演じるかの如く神々しい光を纏って空から現れた。

 一体何が目的だと警戒する間もなく、ガキは迷いなくディランに近寄り瞳を淡く光らせ、チビでさえ解呪出来なかったそれをあっさりと解呪してしまった。
 これが例の聖者か。そう事態を把握することに、時間はかからなかった。

 突如ガキが現れた場所は学園のど真ん中。つまり、教師や数多くの生徒がいる中でそれは行われた。
 その状況がマズかったのか、何故かその場にいた生徒のほぼ全員が異常なほどに女神を崇め始めた。

「女神万歳」だの「聖者様万歳」だの、正気の人間から見るとあまりに狂気じみていて気味が悪い。しかもその異常事態は、聖者がすぐに姿を消した後も尚収まる気配がなかった。
 寧ろこうして寮に戻る途中、女神崇拝を謳う輩が更に増えていっていた気がする。


「ったく…聖者は何企んでやがる。学園にいるヤツら全員信者にする気なのか?」

「何か壮大を企てているのは確実だが、全く迷惑なことだ」

「教師達も魅了とやらに侵されたのであれば、現状かなりマズイ事態なのでは…」

「まぁ何はともあれ、ご主人様の呪いが解けたのはよかったですみゃー」


 取り敢えずディランとミアと皇太子を連れて自室に戻ったはいいが…これからどうすべきかが纏まらない。
 明らかに洗脳された生徒と教師達。流石に気にせず授業を受け続ける状況ではない。鉢合わせた皇太子の提案で、聖者が消えてすぐに俺達は寮へ戻った。
 ディランの奇襲騒ぎがあった後では説得力が皆無だが、寮内は本来敷地内で最も安全な場所なのだ。不安はあるが、外で無防備に固まるよりはまだマシだろう。


「ミアさんの言う通りですね。解呪に関しては、唯一今朝の件で安心出来た事です」

「ディランお前、痛みはもう無いのか?また妙な呪いかけられた訳じゃねぇだろうな」


 確かにディランの呪いが解呪されたのは…まぁ、安心した。だがそれで素直に喜べるほど、あのクソ聖者にされたことは単純では無かった。
 疑心を持ってしまうのは、今朝聖者がしたことは本当に単なる解呪だったのかということ。もしも解呪を装われてまた面倒な呪いを刻まれたら…と警戒していると、ディランは自分の体を見下ろして首を振った。


「痛みは無い。体も正常だ。どうやら聖者の目的は本当に学園全体を魅了することだけで、俺に呪いをかけたのも演出の為の単なる手段に過ぎなかったようだな」

「されたことへの恨みは残りますが…ともかく、聖者の目的が完全にディランに向けられてはいなかったようで良かったです」


 困ったように微笑を浮かべる皇太子の心情も理解出来る。

 あれだけ広範囲に魅了がばら撒けるなら、ディラン一人を本気で魅了しようと思えばきっとどうとでも出来たばず。奴の本気がディランに向けられていなかったのは、不幸中の幸いと呼ぶべきか。


「それにしても…これから一体どうなるのでしょうね…流石に神殿も今回の事態に気が付いたでしょうし、聖者が現れたとなれば動き出しますよ」

「結局チビは聖者じゃなかったってことだろ。チビが神殿に狙われねぇなら勝手にしとけって感じなんだが」

「アホかみゃ?イカレ聖者が神殿味方につけたらマズイに決まってんだろだみゃ。頭使えだみゃ」


 そろそろ埋めるかコイツ。鬱陶しく動く尻尾を鷲掴み、本気でそう考えた。
 ミャーミャー喧しいクソ猫を後ろに放り投げる。猫の姿というだけで実際はただの使い魔だ、床やら壁やらに叩き付けられたところで傷が出来るタマでは無いだろう。

 使い魔が雑な扱いをされていることはどうでもいいのか、ディランは泣き付くクソ猫を邪魔と言わんばかりに引き離して話の続きを再開した。


「対策でも反撃でもする前に、取り敢えず一度確認しておきたいのだが。実際にお前達、魅了の影響は現状受けていないのか。特に聖者崇拝の殿下」

「名指しで黒歴史掘り返すのやめてください…。フェリが聖者じゃないならもうどうでもいいですし、微塵も興味ありませんから。魅了も恐らく効いていませんよ、至っていつも通りです」


 両手を挙げて疲れ切った表情を浮かべる皇太子。幼少期に聖者を崇拝していたことを黒歴史呼ばわりしている辺り、本当に女神への信仰心は薄れているらしい。
 確かに誰が見てもチビにしか興味を持たない変態皇太子だ、性格も倫理観もクソみてぇな聖者を見て更に黒歴史が深まったに違いない。


「私も今朝の現場を見ましたが…本当にアレがディランを襲って胸糞事件を起こした犯人と同一人物なのですか?信仰心を自作自演で作るような人間が聖者…?」

「残念だが、そういうことになる」

「……長年聖者の恩恵を受けてきた帝国も、もう終わりでしょうかね…」

「皇太子がそれ言っちまうのかよ」


 明らかに気落ちした様子の皇太子が低く呟く。
 確かに、聖者は代々帝国を支えてきた存在だ。それが想像と真逆のクソ野郎だと知った皇太子の絶望はどれ程か…まぁ、正直興味はないが。


「取り敢えず、殿下は血縁者の血を常備して下さい。誰が魅了されてもおかしくない状況ですが…最悪のパターンを想定するなら、それはあなたが聖者の駒になることです」


 ディランの言い分は最もだ。帝国の中枢に立つ人間が敵に洗脳される…それ以上に最悪の事態は無いだろう。

 皇太子もそれについては自覚しているようで、冷静な表情を崩さずポケットから小さな瓶を取り出して掲げて見せた。


「勿論分かっています。一応ディランの事件後、アランから血を送ってもらいました。弟は昔から単純で直ぐに人を信用する癖があるので、入手に困難が無くて助かりましたよ」

「……なんつーかお前…クソ兄貴だな…」

「失礼な。個人としては、きちんと弟を愛していますよ」


 仕方ない状況とはいえ、ここまであっさりと弟を使える皇太子が全く理解出来ない。俺なら皇太子と同じ立場になった時、躊躇なくチビを使えるだろうか。
 やり方にリスクが無いならともかく、血を欲するならそいつの体に傷をつけることになる。チビの体に傷をつけてまで血を望む…?考えるだけでドン引きだ。

 チビと関わる時の皇太子ばかり印象に浮かぶから忘れかけていた。こいつは本来血も涙もない冷徹な人間…国の為ならどんな犠牲も表情一つ動かさず受け入れる皇太子なのだ。
 生まれつき穴が空いているのだと言う人間としての感情の欠陥は、チビと関わったところで正常に戻るものでもないのだろう。


「それよりもディラン。今朝の件は一応フェリにも伝えるべきでは?君もそろそろ限界でしょう、以前フェリにした仕打ちに己を憎悪していることでしょうし」

「確かにそうだな。とりあえず呪いは解けた訳だ、聖者を騙す演技も必要ない。もうチビを避ける理由特にねぇだろ。つっても、とっくにチビに嫌われてるかもしれねぇが」

「っ……!!」


 チビに嫌われているかもしれない。根拠のない可能性を聞いただけでこのダメージなら、あの時よくチビにあんな態度を取れたもんだ。面と向かって嫌いなんて言われたら死ぬんじゃねぇか、コイツ。
 仮にそうなったとしても、全部コイツの自業自得。フォローする価値は無い。


「……」

「あぁもうガイゼル。そういう事を言うとディランが使い物にならなくなるじゃないですか。君は鞭だけでなく飴の使い方も覚えてください」

「あ?命令すんな。チビを傷付けた馬鹿にやる飴なんかねぇよ」


 知るかボケ、と切り捨てて立ち上がる。皇太子に「何処に行くつもりです?」と問われ、鬱陶しく思いながらも返してやった。


「お前が言ったんだろうが、チビにも今回の件伝えろって。俺らが動くわけにいかねぇし、裏の奴でも適当に雇ってシモンに情報届けさせる」


 諜報に向いている使い魔がいるにはいるが、そのクソ猫はさっきの塩対応に拗ねてふて寝し始めたから使い物にならない。こういうところは飼い主そっくりだ、とか言ったらディランに絞められるから言わないが。


「待てガイゼル、雇うなら一人思い当たる人間がいる。そいつに依頼しろ」

「急に冷静になるな、ビビるだろ。思い当たるヤツって…お前、裏に知り合いなんていたか?」


 不意にディランが沈黙を解いて声を上げる。
 ディランは物騒だが、裏と関わるほどでは無かったはずだ。というのも、コイツは基本的に私情に他人を使うことがない。慎重なコイツらしいと言えばらしいが、それが非効率であることも事実。
 ようやく他人を使う気になったかと息を吐くと、ディランは無表情のまま頷いた。


「あぁ。例の件で俺に奇襲を仕掛けた暗殺者だ」

「……は?お前それって…、…は??」

「腕は確かだ」

「そういう問題じゃねぇだろ馬鹿!!」

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