88 / 423
攻略対象file5:狡猾な魔塔主
136.それぞれの対抗策(後半ガイゼルside)
しおりを挟む「見栄を張りたい年頃だろうからな。微笑ましい」
全く信じていない顔のローズ。優雅に紅茶を含むローズを見て、途端にじわじわと涙が滲み始めた。
わっと涙が溢れて、またもやシモンと向かい合うように後ろを向いてぎゅうっと抱きつく。ぽかぽかとシモンの胸を叩いて、その胸にしくしくと顔を埋めた。
「ほんとだもん…ほんとにまとーしゅさま助けたもん…」
「そうですよね。ほんとに助けましたよね。見栄なんかじゃないですもんね。よしよし、俺はちゃんと分かってますよ」
めそめそ泣きながらシモンと抱き合う僕を見て、ローズは流石に悪いと思ったのか微かに瞳を揺らした。無表情ながらも動揺が確かに見えるのは、少なからずローズと親しくなった証拠かもしれない。
ぐすんと鼻を啜ってひょいっと首だけ振り返り、ぷくーっと頬を膨らませる。
「……お手紙おくれば、わかる。まとーしゅ…魔塔主さま、僕なら会える!」
一度助けたことがあるからって、会ってくれるかどうかはまた別の話。それをすっかり忘れたまま、根拠のない確信をどどんと宣言してしまった。
* * *
今日一度目の授業が終わり、次の実技教科の為に移動していた時のこと。突如学園の敷地内に姿を見せた見知らぬガキは、まるで降臨を演じるかの如く神々しい光を纏って空から現れた。
一体何が目的だと警戒する間もなく、ガキは迷いなくディランに近寄り瞳を淡く光らせ、チビでさえ解呪出来なかったそれをあっさりと解呪してしまった。
これが例の聖者か。そう事態を把握することに、時間はかからなかった。
突如ガキが現れた場所は学園のど真ん中。つまり、教師や数多くの生徒がいる中でそれは行われた。
その状況がマズかったのか、何故かその場にいた生徒のほぼ全員が異常なほどに女神を崇め始めた。
「女神万歳」だの「聖者様万歳」だの、正気の人間から見るとあまりに狂気じみていて気味が悪い。しかもその異常事態は、聖者がすぐに姿を消した後も尚収まる気配がなかった。
寧ろこうして寮に戻る途中、女神崇拝を謳う輩が更に増えていっていた気がする。
「ったく…聖者は何企んでやがる。学園にいるヤツら全員信者にする気なのか?」
「何か壮大を企てているのは確実だが、全く迷惑なことだ」
「教師達も魅了とやらに侵されたのであれば、現状かなりマズイ事態なのでは…」
「まぁ何はともあれ、ご主人様の呪いが解けたのはよかったですみゃー」
取り敢えずディランとミアと皇太子を連れて自室に戻ったはいいが…これからどうすべきかが纏まらない。
明らかに洗脳された生徒と教師達。流石に気にせず授業を受け続ける状況ではない。鉢合わせた皇太子の提案で、聖者が消えてすぐに俺達は寮へ戻った。
ディランの奇襲騒ぎがあった後では説得力が皆無だが、寮内は本来敷地内で最も安全な場所なのだ。不安はあるが、外で無防備に固まるよりはまだマシだろう。
「ミアさんの言う通りですね。解呪に関しては、唯一今朝の件で安心出来た事です」
「ディランお前、痛みはもう無いのか?また妙な呪いかけられた訳じゃねぇだろうな」
確かにディランの呪いが解呪されたのは…まぁ、安心した。だがそれで素直に喜べるほど、あのクソ聖者にされたことは単純では無かった。
疑心を持ってしまうのは、今朝聖者がしたことは本当に単なる解呪だったのかということ。もしも解呪を装われてまた面倒な呪いを刻まれたら…と警戒していると、ディランは自分の体を見下ろして首を振った。
「痛みは無い。体も正常だ。どうやら聖者の目的は本当に学園全体を魅了することだけで、俺に呪いをかけたのも演出の為の単なる手段に過ぎなかったようだな」
「されたことへの恨みは残りますが…ともかく、聖者の目的が完全にディランに向けられてはいなかったようで良かったです」
困ったように微笑を浮かべる皇太子の心情も理解出来る。
あれだけ広範囲に魅了がばら撒けるなら、ディラン一人を本気で魅了しようと思えばきっとどうとでも出来たばず。奴の本気がディランに向けられていなかったのは、不幸中の幸いと呼ぶべきか。
「それにしても…これから一体どうなるのでしょうね…流石に神殿も今回の事態に気が付いたでしょうし、聖者が現れたとなれば動き出しますよ」
「結局チビは聖者じゃなかったってことだろ。チビが神殿に狙われねぇなら勝手にしとけって感じなんだが」
「アホかみゃ?イカレ聖者が神殿味方につけたらマズイに決まってんだろだみゃ。頭使えだみゃ」
そろそろ埋めるかコイツ。鬱陶しく動く尻尾を鷲掴み、本気でそう考えた。
ミャーミャー喧しいクソ猫を後ろに放り投げる。猫の姿というだけで実際はただの使い魔だ、床やら壁やらに叩き付けられたところで傷が出来るタマでは無いだろう。
使い魔が雑な扱いをされていることはどうでもいいのか、ディランは泣き付くクソ猫を邪魔と言わんばかりに引き離して話の続きを再開した。
「対策でも反撃でもする前に、取り敢えず一度確認しておきたいのだが。実際にお前達、魅了の影響は現状受けていないのか。特に聖者崇拝の殿下」
「名指しで黒歴史掘り返すのやめてください…。フェリが聖者じゃないならもうどうでもいいですし、微塵も興味ありませんから。魅了も恐らく効いていませんよ、至っていつも通りです」
両手を挙げて疲れ切った表情を浮かべる皇太子。幼少期に聖者を崇拝していたことを黒歴史呼ばわりしている辺り、本当に女神への信仰心は薄れているらしい。
確かに誰が見てもチビにしか興味を持たない変態皇太子だ、性格も倫理観もクソみてぇな聖者を見て更に黒歴史が深まったに違いない。
「私も今朝の現場を見ましたが…本当にアレがディランを襲って胸糞事件を起こした犯人と同一人物なのですか?信仰心を自作自演で作るような人間が聖者…?」
「残念だが、そういうことになる」
「……長年聖者の恩恵を受けてきた帝国も、もう終わりでしょうかね…」
「皇太子がそれ言っちまうのかよ」
明らかに気落ちした様子の皇太子が低く呟く。
確かに、聖者は代々帝国を支えてきた存在だ。それが想像と真逆のクソ野郎だと知った皇太子の絶望はどれ程か…まぁ、正直興味はないが。
「取り敢えず、殿下は血縁者の血を常備して下さい。誰が魅了されてもおかしくない状況ですが…最悪のパターンを想定するなら、それはあなたが聖者の駒になることです」
ディランの言い分は最もだ。帝国の中枢に立つ人間が敵に洗脳される…それ以上に最悪の事態は無いだろう。
皇太子もそれについては自覚しているようで、冷静な表情を崩さずポケットから小さな瓶を取り出して掲げて見せた。
「勿論分かっています。一応ディランの事件後、アランから血を送ってもらいました。弟は昔から単純で直ぐに人を信用する癖があるので、入手に困難が無くて助かりましたよ」
「……なんつーかお前…クソ兄貴だな…」
「失礼な。個人としては、きちんと弟を愛していますよ」
仕方ない状況とはいえ、ここまであっさりと弟を使える皇太子が全く理解出来ない。俺なら皇太子と同じ立場になった時、躊躇なくチビを使えるだろうか。
やり方にリスクが無いならともかく、血を欲するならそいつの体に傷をつけることになる。チビの体に傷をつけてまで血を望む…?考えるだけでドン引きだ。
チビと関わる時の皇太子ばかり印象に浮かぶから忘れかけていた。こいつは本来血も涙もない冷徹な人間…国の為ならどんな犠牲も表情一つ動かさず受け入れる皇太子なのだ。
生まれつき穴が空いているのだと言う人間としての感情の欠陥は、チビと関わったところで正常に戻るものでもないのだろう。
「それよりもディラン。今朝の件は一応フェリにも伝えるべきでは?君もそろそろ限界でしょう、以前フェリにした仕打ちに己を憎悪していることでしょうし」
「確かにそうだな。とりあえず呪いは解けた訳だ、聖者を騙す演技も必要ない。もうチビを避ける理由特にねぇだろ。つっても、とっくにチビに嫌われてるかもしれねぇが」
「っ……!!」
チビに嫌われているかもしれない。根拠のない可能性を聞いただけでこのダメージなら、あの時よくチビにあんな態度を取れたもんだ。面と向かって嫌いなんて言われたら死ぬんじゃねぇか、コイツ。
仮にそうなったとしても、全部コイツの自業自得。フォローする価値は無い。
「……」
「あぁもうガイゼル。そういう事を言うとディランが使い物にならなくなるじゃないですか。君は鞭だけでなく飴の使い方も覚えてください」
「あ?命令すんな。チビを傷付けた馬鹿にやる飴なんかねぇよ」
知るかボケ、と切り捨てて立ち上がる。皇太子に「何処に行くつもりです?」と問われ、鬱陶しく思いながらも返してやった。
「お前が言ったんだろうが、チビにも今回の件伝えろって。俺らが動くわけにいかねぇし、裏の奴でも適当に雇ってシモンに情報届けさせる」
諜報に向いている使い魔がいるにはいるが、そのクソ猫はさっきの塩対応に拗ねてふて寝し始めたから使い物にならない。こういうところは飼い主そっくりだ、とか言ったらディランに絞められるから言わないが。
「待てガイゼル、雇うなら一人思い当たる人間がいる。そいつに依頼しろ」
「急に冷静になるな、ビビるだろ。思い当たるヤツって…お前、裏に知り合いなんていたか?」
不意にディランが沈黙を解いて声を上げる。
ディランは物騒だが、裏と関わるほどでは無かったはずだ。というのも、コイツは基本的に私情に他人を使うことがない。慎重なコイツらしいと言えばらしいが、それが非効率であることも事実。
ようやく他人を使う気になったかと息を吐くと、ディランは無表情のまま頷いた。
「あぁ。例の件で俺に奇襲を仕掛けた暗殺者だ」
「……は?お前それって…、…は??」
「腕は確かだ」
「そういう問題じゃねぇだろ馬鹿!!」
658
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。