余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

文字の大きさ
87 / 423
攻略対象file5:狡猾な魔塔主

135.まとーしゅさま

しおりを挟む
 

「フェリアル。分かっていると思うが、今回は無闇に動くな。大人しくしていろ」

「でも……」

「フェリアルの周囲でばかり厄介事が起こる。聖者の目的はほぼ明白と言っていい。お前は安全な場所で大人しくしているべきだ」


 今すぐにもディラン兄様の元へ行きたい。本当に解呪が成功したのか、無事なのかどうか。学園全体が魅了で侵され始めているのなら、ガイゼル兄様やレオの状態も気になるところだ。
 でも、魅了を解呪出来ない僕が行ったところでお荷物にしかならない、邪魔なだけだってことも勿論分かっている。だから、ローズの言い分も理解は出来る。

 でも…やっぱり心配なものは心配だ。それはきっと、皆がゲームと同じシナリオを辿ってしまうことが怖いのだろう。
 ずっと覚悟してきたはずなのに、ゲームは必ず始まるって、分かっていたのに。なのに、どうしたって恐怖が消えない。

 そんな我儘な心情を抱えて震えていると、やがてローズが根負けしたように溜め息を吐いた。


「……分かった。それなら、お前も来るか?大して楽しくは無いと思うが」

「くる?いく…どこに?」


 何か用事でもあるんだろうか。はたと考えて、すぐにその言葉の意味を深読みする。
 任務が大好きなローズの用事といえば、それはもう暗殺しか無いだろう。きっとローズはこのあとに暗殺任務が控えていて、退屈ならそれについてくればいいと言っているんだ。
 普通はそんな発想にならないけれど、矛盾した倫理観を併せ持つローズならそういう提案をしてもおかしくない。

 さーっと青褪めた僕を見ると、ローズは無表情にほんの少し呆れの色を滲ませた。


「…何を想像しているか知らんが、目的地はただの魔塔だぞ」

「まとー?」

「魔塔って…あの魔塔ですか?どうして?」


 まとー、まとう、魔塔…?
 魔塔というと、優秀な魔術師が多く所属する他、古代魔法や呪術についての研究を目的とする、ある種の研究所のような場所だ。
 魔塔に関する攻略対象者がいるものの、魔塔自体はゲームにあまり関係がなく登場回数も少ない場所。背景スチルも魔塔の外観を描いた一枚しかなく、内部は想像もつかない。

 暗殺者であるローズとは縁のない場所のような気がするけれど、一体なんの用が……はっ!まさか…!


「ターゲット、まとーしゅさま…!?」

「違う。恐ろしい事を言うな」


 ばっさり切られてしょんぼり肩を落とす。的外れなこと言ってごめんなさい…。

 しゅんとする僕をよしよし撫でてぎゅっとしながら、シモンは僕の代わりにローズへ質問を投げかけてくれた。


「あなたは体術が全てのような人間ですし、魔法とは縁が無いように見受けますが。フェリアル様の言う通り、暗殺のターゲットと言われても普通に納得しますよ」


 シモン。さりげなくフォローしてくれるところ、だいすき。

 嬉しくなって足も腕もむぎゅーっと絡める。コアラみたいに張り付いた僕を鬱陶しがる様子もなく、むしろ「ぐへへ…」と頬を緩めたシモンが更にぎゅーを強くしてくれた。
 ローズはそんな状況を特に気にする様子も無く、シモンの問いに淡々と答える。


「確かに依頼を受けての事だが、暗殺とは関係ない。ちなみに依頼主はお前の兄達だ」

「うん…?兄様たちが、ローズに依頼?」


 これまた予想外の回答にぴたりと動きを止める。シモンと向かい合わせでぎゅっとしていた体勢を直し、背中をシモンにくっつけるようにして座り直した。
 だらんと横に垂れていたシモンの腕をよいしょよいしょと持ち上げてお腹に巻き付け、これでよしと満足感にこくこく頷く。お腹も背中もぽかぽか、よきよき。

 背後から聞こえる呻き声が何だか怖いけれど、知らないふりをしてローズとの会話を続けることにした。背後霊とかだったらとても怖いし、対処法がわからないから。


「どうして兄様たちが、ローズを魔塔に?」

「呪いについて調べてくれと依頼された。どうやら魅了に何か思うことがあるらしい。特に一番目の兄の方が、魅了の欠陥には大きな違和感があると言っていた」

「けっかん…?」


 ディラン兄様が違和感を覚えるということは、きっとそれには何かある。あの察しが良く鋭い観察眼を持ったディラン兄様だからこそ、事情を知らなくともそんな確信を抱いてしまう。

 ローズ曰く、魅了の欠陥というのは例の物理的な解呪法のこと。
 完全に魅了にかかった人には効果が無いようだけれど、完全にかかる前なら誰でも魅了から解放することが出来る。血縁者の血を飲むことによって魅了を消し去るという、あの方法。
 ディラン兄様はそれをトラードから教わったらしく、そのお陰で魅了から逃れることが出来たのだとか。

 まさかトラードがディラン兄様を魅了から逃がしていたなんて知らなかったから、この事実には本当に驚いた。そうなのであれば、一方的にトラードを罵るのは違ったかもしれないと。
 これについては、次にトラードに会った時にでも必ずありがとうを言わないと。

 それにしても、未完成の魅了の解呪法に対してどうして違和感を覚えるのか。ディラン兄様の真意を考えていると、シモンが「それ俺も思ってました」と不意に手を挙げた。


「それ…?」

「魅了の解呪法に違和感があるって話です。あれだけ強力な呪いを刻めるのに、解呪法はあまりに簡素で尚且つ雑。いくら未完成の状態でしか解呪出来ないと言っても、無防備が過ぎると思いませんか?」

「うぅん…たしかに…?」


 わかるような、わからないような。
 明らかにきょとんとしながらも分かった風を装う僕を、シモンは何が胸に刺さったのか「ぐぅっ!!」と呻いてぎゅーぎゅー抱き締めてきた。すこし、くるしい。


「……とにかく、魔塔へ行く理由は呪いの情報を集める為ということだ。とは言え、魔塔は閉鎖的な場所だからな。下っ端との面会を取り付けるだけでも難儀するだろう」

「あぁ…確かに魔術師自体、引き籠り体質の陰鬱な人間が多いって有名ですもんね。身分関係なく完全に実力主義なので、公爵家の名をチラつかせても容易に頷かないかもしれません」


 真剣に話し合う二人の横で、難しい話題に介入できない僕はぽわぽわと隅っこにある記憶を引っ張り出す。
 そういえば、随分前に魔塔に関する攻略対象者のシナリオを変えてしまったことがあったな、と不意に。人の生死を覆す変化を起こしてしまったから、もしかするとそのルート…魔塔主のシナリオも既に本来の運命から逸れている可能性が高い。

 ゲームでは既に亡くなっているはずの現魔塔主、次期魔塔主の師匠である彼が今もなお生きているのだから、逸れた運命は決して小さくはないはず。

 シナリオが変わったことで、彼らの人格や自我に影響があったらどうしよう。そんなことを思いながらぐるぐる悩み込んでいると、不意に二人が気になる話を語った。


「何か貸しでもあれば楽なんだがな。奴らは陰鬱に加えプライドも高いから、借りのままにすることを酷く嫌う」

「いっそ自作自演でもして恩を押し売りましょうか?嫌でも面会を拒否出来ない状況を作って…」


 何やら不穏な会話をしている二人に不安を感じた直後、貸しという言葉が脳内で繰り返されてはっとする。
 そうだ。そういえば僕は。


「シモン、ローズ。僕、魔塔のひと助けたことある」

「えっ!フェリアル様が魔塔の人間を?」

「うん。命のピンチ、助けた!」

「それは凄いぞ。その下っ端の名は何だ?直ぐに調べてフェリアルの名で脅迫じょ…面会を申し込む手紙を送ろう」


 べたぼめされて満更でもなく、ふふんと胸を張ってそうであろうそうであろうと頷いた。
 僕はやればできる子、がんばれる子なのだ。いつもぽわぽわぼーっとしてる訳ではない。きちんと役に立つことを先回りしてこなしているのである。

 ローズの言葉にもふむふむ頷き、下っ端の名前はすぐに教えてあげるよと胸を張る。胸を張って、ふと思った。
 あれ…僕が助けたひと、特に下っ端ではなかったような。


「……」

「どうしましたフェリアル様?もしかして、名前忘れちゃいましたか?」

「うぅん…」

「大丈夫ですよ。その辺の下級魔術師の名前など、フェリアル様の愛らしい脳の一部に含める程の価値ありませんもんね」

「……??」


 少し難しいことを言っているシモンにきょとんとしながら、助けた二人の名前は何だったかと記憶を引っ張り出す。
 片方は例の攻略対象者。もう一人は、その攻略対象者の師匠。つまり僕が助けたのは…。



「まとーしゅさまと、次のまとーしゅさま、助けた」



 どどん、と誇らしげに宣言すると、案の定二人はぽかんとした顔で硬直した。

しおりを挟む
感想 1,721

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。