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攻略対象file5:狡猾な魔塔主
135.まとーしゅさま
しおりを挟む「フェリアル。分かっていると思うが、今回は無闇に動くな。大人しくしていろ」
「でも……」
「フェリアルの周囲でばかり厄介事が起こる。聖者の目的はほぼ明白と言っていい。お前は安全な場所で大人しくしているべきだ」
今すぐにもディラン兄様の元へ行きたい。本当に解呪が成功したのか、無事なのかどうか。学園全体が魅了で侵され始めているのなら、ガイゼル兄様やレオの状態も気になるところだ。
でも、魅了を解呪出来ない僕が行ったところでお荷物にしかならない、邪魔なだけだってことも勿論分かっている。だから、ローズの言い分も理解は出来る。
でも…やっぱり心配なものは心配だ。それはきっと、皆がゲームと同じシナリオを辿ってしまうことが怖いのだろう。
ずっと覚悟してきたはずなのに、ゲームは必ず始まるって、分かっていたのに。なのに、どうしたって恐怖が消えない。
そんな我儘な心情を抱えて震えていると、やがてローズが根負けしたように溜め息を吐いた。
「……分かった。それなら、お前も来るか?大して楽しくは無いと思うが」
「くる?いく…どこに?」
何か用事でもあるんだろうか。はたと考えて、すぐにその言葉の意味を深読みする。
任務が大好きなローズの用事といえば、それはもう暗殺しか無いだろう。きっとローズはこのあとに暗殺任務が控えていて、退屈ならそれについてくればいいと言っているんだ。
普通はそんな発想にならないけれど、矛盾した倫理観を併せ持つローズならそういう提案をしてもおかしくない。
さーっと青褪めた僕を見ると、ローズは無表情にほんの少し呆れの色を滲ませた。
「…何を想像しているか知らんが、目的地はただの魔塔だぞ」
「まとー?」
「魔塔って…あの魔塔ですか?どうして?」
まとー、まとう、魔塔…?
魔塔というと、優秀な魔術師が多く所属する他、古代魔法や呪術についての研究を目的とする、ある種の研究所のような場所だ。
魔塔に関する攻略対象者がいるものの、魔塔自体はゲームにあまり関係がなく登場回数も少ない場所。背景スチルも魔塔の外観を描いた一枚しかなく、内部は想像もつかない。
暗殺者であるローズとは縁のない場所のような気がするけれど、一体なんの用が……はっ!まさか…!
「ターゲット、まとーしゅさま…!?」
「違う。恐ろしい事を言うな」
ばっさり切られてしょんぼり肩を落とす。的外れなこと言ってごめんなさい…。
しゅんとする僕をよしよし撫でてぎゅっとしながら、シモンは僕の代わりにローズへ質問を投げかけてくれた。
「あなたは体術が全てのような人間ですし、魔法とは縁が無いように見受けますが。フェリアル様の言う通り、暗殺のターゲットと言われても普通に納得しますよ」
シモン。さりげなくフォローしてくれるところ、だいすき。
嬉しくなって足も腕もむぎゅーっと絡める。コアラみたいに張り付いた僕を鬱陶しがる様子もなく、むしろ「ぐへへ…」と頬を緩めたシモンが更にぎゅーを強くしてくれた。
ローズはそんな状況を特に気にする様子も無く、シモンの問いに淡々と答える。
「確かに依頼を受けての事だが、暗殺とは関係ない。ちなみに依頼主はお前の兄達だ」
「うん…?兄様たちが、ローズに依頼?」
これまた予想外の回答にぴたりと動きを止める。シモンと向かい合わせでぎゅっとしていた体勢を直し、背中をシモンにくっつけるようにして座り直した。
だらんと横に垂れていたシモンの腕をよいしょよいしょと持ち上げてお腹に巻き付け、これでよしと満足感にこくこく頷く。お腹も背中もぽかぽか、よきよき。
背後から聞こえる呻き声が何だか怖いけれど、知らないふりをしてローズとの会話を続けることにした。背後霊とかだったらとても怖いし、対処法がわからないから。
「どうして兄様たちが、ローズを魔塔に?」
「呪いについて調べてくれと依頼された。どうやら魅了に何か思うことがあるらしい。特に一番目の兄の方が、魅了の欠陥には大きな違和感があると言っていた」
「けっかん…?」
ディラン兄様が違和感を覚えるということは、きっとそれには何かある。あの察しが良く鋭い観察眼を持ったディラン兄様だからこそ、事情を知らなくともそんな確信を抱いてしまう。
ローズ曰く、魅了の欠陥というのは例の物理的な解呪法のこと。
完全に魅了にかかった人には効果が無いようだけれど、完全にかかる前なら誰でも魅了から解放することが出来る。血縁者の血を飲むことによって魅了を消し去るという、あの方法。
ディラン兄様はそれをトラードから教わったらしく、そのお陰で魅了から逃れることが出来たのだとか。
まさかトラードがディラン兄様を魅了から逃がしていたなんて知らなかったから、この事実には本当に驚いた。そうなのであれば、一方的にトラードを罵るのは違ったかもしれないと。
これについては、次にトラードに会った時にでも必ずありがとうを言わないと。
それにしても、未完成の魅了の解呪法に対してどうして違和感を覚えるのか。ディラン兄様の真意を考えていると、シモンが「それ俺も思ってました」と不意に手を挙げた。
「それ…?」
「魅了の解呪法に違和感があるって話です。あれだけ強力な呪いを刻めるのに、解呪法はあまりに簡素で尚且つ雑。いくら未完成の状態でしか解呪出来ないと言っても、無防備が過ぎると思いませんか?」
「うぅん…たしかに…?」
わかるような、わからないような。
明らかにきょとんとしながらも分かった風を装う僕を、シモンは何が胸に刺さったのか「ぐぅっ!!」と呻いてぎゅーぎゅー抱き締めてきた。すこし、くるしい。
「……とにかく、魔塔へ行く理由は呪いの情報を集める為ということだ。とは言え、魔塔は閉鎖的な場所だからな。下っ端との面会を取り付けるだけでも難儀するだろう」
「あぁ…確かに魔術師自体、引き籠り体質の陰鬱な人間が多いって有名ですもんね。身分関係なく完全に実力主義なので、公爵家の名をチラつかせても容易に頷かないかもしれません」
真剣に話し合う二人の横で、難しい話題に介入できない僕はぽわぽわと隅っこにある記憶を引っ張り出す。
そういえば、随分前に魔塔に関する攻略対象者のシナリオを変えてしまったことがあったな、と不意に。人の生死を覆す変化を起こしてしまったから、もしかするとそのルート…魔塔主のシナリオも既に本来の運命から逸れている可能性が高い。
ゲームでは既に亡くなっているはずの現魔塔主、次期魔塔主の師匠である彼が今もなお生きているのだから、逸れた運命は決して小さくはないはず。
シナリオが変わったことで、彼らの人格や自我に影響があったらどうしよう。そんなことを思いながらぐるぐる悩み込んでいると、不意に二人が気になる話を語った。
「何か貸しでもあれば楽なんだがな。奴らは陰鬱に加えプライドも高いから、借りのままにすることを酷く嫌う」
「いっそ自作自演でもして恩を押し売りましょうか?嫌でも面会を拒否出来ない状況を作って…」
何やら不穏な会話をしている二人に不安を感じた直後、貸しという言葉が脳内で繰り返されてはっとする。
そうだ。そういえば僕は。
「シモン、ローズ。僕、魔塔のひと助けたことある」
「えっ!フェリアル様が魔塔の人間を?」
「うん。命のピンチ、助けた!」
「それは凄いぞ。その下っ端の名は何だ?直ぐに調べてフェリアルの名で脅迫じょ…面会を申し込む手紙を送ろう」
べたぼめされて満更でもなく、ふふんと胸を張ってそうであろうそうであろうと頷いた。
僕はやればできる子、がんばれる子なのだ。いつもぽわぽわぼーっとしてる訳ではない。きちんと役に立つことを先回りしてこなしているのである。
ローズの言葉にもふむふむ頷き、下っ端の名前はすぐに教えてあげるよと胸を張る。胸を張って、ふと思った。
あれ…僕が助けたひと、特に下っ端ではなかったような。
「……」
「どうしましたフェリアル様?もしかして、名前忘れちゃいましたか?」
「うぅん…」
「大丈夫ですよ。その辺の下級魔術師の名前など、フェリアル様の愛らしい脳の一部に含める程の価値ありませんもんね」
「……??」
少し難しいことを言っているシモンにきょとんとしながら、助けた二人の名前は何だったかと記憶を引っ張り出す。
片方は例の攻略対象者。もう一人は、その攻略対象者の師匠。つまり僕が助けたのは…。
「まとーしゅさまと、次のまとーしゅさま、助けた」
どどん、と誇らしげに宣言すると、案の定二人はぽかんとした顔で硬直した。
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