余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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攻略対象file5:狡猾な魔塔主

144.究極の選択

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「……次が最後の勝負だね」

「フェリちゃんなら楽勝に違いないわ!ちゃっちゃと勝利して戻ってきなさい!お茶会の続きをしましょう!」

「……レア。フェリにはこれから大切な用事があるんだよ」

「あらそうなのね!それなら仕方ないわ!また今度にしましょう!」


 紅茶を飲み終わり、いそいそとコートを着る僕に二人が声をかけてくる。名残惜しそうな声に頬が緩んで、レアのまた今度にもちろんと頷いた。
 次は公爵邸でのお茶会に招いて、ゆっくりお喋りが出来たらいいな。レンのお友達のお人形さんたちにも会いたいし、僕も喋るようになった大切な友人をレンに紹介したい。きっと楽しいお茶会になるはずだ。

 なんて楽しい想像をしながら、不意にあることを思い出してピタッと硬直した。
 そういえば忘れかけていたけれど、ここにいるってことはレンも悪の組織のメンバーということ。それなら、外でレンと仲良くすることは出来ないかもしれない。

 こんなに優しいレンが悪者だとも思えない。もしも間に合うなら、レンもにこちゃんみたいに…。


「レン。レンはどんな悪者なの?」

「……?悪者…?」

「悪のそしきのめんばー。レンも、悪いことする?」

「……あぁ」


 そういえば、と言うように頷いたレン。
 まるで今の今まで自分が悪の組織のメンバーであることを忘れていたかのような反応だ。そんなはずないけれど。レンはずっと眠そうな目をしているから、うっかりしていたのかな。

 レンはいい子だから、悪い子じゃない。でも、悪いことをするってことは悪い子で…?どうしよう、僕の頭もこんがらがってきた。
 ぐるぐると思考を回して考え込んでいると、レンは小さく微笑んで首を横に振った。


「……ううん。悪いことはしないよ。フェリのお友達になりたいから、僕は改心することにする」

「…!ほんと…?かいしん?いい子になる?」

「……うん。いい子になるよ。フェリみたいないい子にね」


 いい子って言われた。僕、いい子って言われた。
 えへへと笑って安堵の息を吐くと、レンは微かに頬を染める。柔らかく目を細めたレンとふにゃふにゃ笑う僕を何やら交互に見つめたレアは、やがて「あらあらまぁまぁ!」と頬を包んで体を揺らしだした。

 突然どうしたのだろうと首を傾げると、レアはむふふと嬉しそうに笑って歌うように語り始める。


「可愛いレンにも優しい感情が芽生えたのね!それならどうしましょう!そうだわ!私はレンじゃなくクマちゃんに身を捧げることにする!」

「クマ?みをささげるってなんだクマ?」

「あらあらクマちゃん!あなたそんなことも知らないの?もっとおませさんにならないと成長できないわよ!」


 どういう会話をしているのかは分からないけれど、レアとクマくんの楽しそうな様子だけで心がぽかぽかと温まる。二人ともこの短時間で随分仲良くなったみたいだ。
 クマくんなんて、ついさっき起きたばかりなのに。あぁでも、クマくんは自分がクマくんであることを自覚していた。お喋りできない間でも、ぬいぐるみや人形はずっと自我を持っているのかもしれない。

 だとしたら、ウサくんも…?ウサくんも、ずっと僕を見守ってくれているのかな。お喋りできなくても、動けなくても、ちゃんとお友達として…そうだったらいいな。それなら、とっても嬉しいなぁ。


「また会おうね」


 レンは眠そうな目を静かに、けれど確かに開く。人形みたいに整った容姿、綺麗な紫の瞳がまっすぐに僕を射抜いた。
 それに少し驚いて、直ぐにふにゃりと笑ってこくこく頷く。また会いたいって、そう思ってもらえたことが嬉しくて。

 名残惜しそうにレアに手を伸ばすクマくんをごめんねと謝りながら抱き上げて、僕は最後の戦いに向かうべくレンの部屋を出た。





 * * *





 扉を開けてすぐ、目の前に広がった光景にぎょっとした。



「シモン!ルル!」



 広間みたいなドーム型の広い空間。奥にぐるぐる巻きにされて倒れている二人を見た瞬間、湧き上がる衝動のままに声を上げて走り出した。

 動きにくいもこもこコートで必死にとたとた足を動かして駆け寄ると、心なしかその度にシモンが苦しそうに呻く気がして思わず足を止めた。
 もしかして、僕が近づけば近づくほどシモンの苦痛が増していく罠でも仕掛けられているのだろうか。そう思いきょろきょろと辺りを観察して、その可能性がとても高いことを徐々に確信していく。

 何故なら現状、確かにシモンの呻きが酷くなり続けているのだ。僕がきょろきょろすると鼻血を出して、心配でへにゃりと眉を下げると鼻血の勢いが更に増す。
 これはもう確実だろう。そう思いシモンまであと数歩という場所でそわそわ立ち止まると、シモンは「……え?」と絶望すら混じった声を不意に上げた。


「ど、どうして?どうして寸前で止まるんでしょう…?まさか焦らしプレイ?少し見ない間にそんな高度なプレイを覚えて…──」

「ねぇ、それよりその鼻血どうにかしてくれないかな。貴方の鼻血が僕の靴を汚しそうなんだけど?」


 小声でぼそぼそと会話する二人。どうしたのだろう、そこから抜け出す作戦会議でもしているのかな。
 面目ない…僕が近付けないばかりに…。僕が近付いたらシモンが苦しんでしまうから、どうしたって今は動くことが出来ないのだ。勝負を突破してここまで来たというのに…無念…。


「シモン……」

「え、なにそれかわいい…撫で回したい…俺のフェリアル様がもこもこしてる…もこもこフェリアル様尊い…」


 ごめんねシモン、何もできない主でごめんね、とうるうるしていると、シモンは何かをぶつぶつ呟きながら更に鼻血を垂らし始める。
 僕、動いてないのに。どうして一向に鼻血が収まらないのだろう。出血箇所は鼻だけなのに、血だまりが広がって殺人現場みたいになっている。

 ルルは迫りくる鼻血に顔を顰めてシモンをげしげし蹴っているし、早く何とかしないと二人の仲も危うい。
 どうしようどうしようとあわあわしていると、ふと頭上から声が降ってきた。


『さて少年。最後の勝負、気を引き締めよ』

「…!だれ…?勝負、なにするの……?」

『私は…ふむ、それは後で教えようかの。まぁ楽にするがよい。なに、ただ二択から一つを選択するだけの簡単な勝負に過ぎんよ。勝負とも言わんかもしれんの』


 きょろきょろと辺りを見渡す。横も後ろも、下も上も。けれど不思議なことに、声の主がこの空間にいるような気配はない。
 声自体も空気そのものから発されているみたいに至るところから響いて聞こえて、声の主がそもそもここにはいないのだと気付くのにそう時間はかからなかった。


「せんたく…?えらぶ?」

『うむ。ただ選ぶだけ。選ぶだけで、君の勝利は確定だからの』

「選ぶだけで、勝てる…」


 なんだ、とっても簡単じゃないか。そう思い緊張を緩めた僕を悟ったのだろうか。声の主は一旦間を開けると、僕の答えに興味津々とばかりに楽しそうな声音で問いを投げかける。

 この勝負の核。二択を究極の選択とも呼ぶことを、僕はその時初めて思い出した。




『侍従と魔術師。どちらか生きて、どちらか死ぬ。さて、君はどちらを救いに選ぶ?』




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