99 / 423
攻略対象file5:狡猾な魔塔主
147.ござるでござる
しおりを挟む広間で話すにはあれだからと、魔塔主が大きな魔法陣を足元に展開したのがほんの数秒前のこと。強い光が視界を染めたかと思うと、気付けば広間から執務室のような場所に転移していた。
びっくりして固まっている間に、ずっと足元でそわそわしていたクマくんが衝動のままに部屋中を走り出してしまった。
クマくんは止まっていることが苦手みたいで、起きた時から何かしらの動きを決して止めない。
大事な話をしている時は空気で分かるのか黙り込んでいるけれど、その間にもずーっと周囲を走り回っている。
今も部屋中を走り回ったクマくんは、ふかふかのソファの上が気に入ったのか楽しそうにぴょんぴょん飛び跳ねていた。
「クマ!ふかふかクマ!」
「クマくん。走っちゃだめ、とんじゃだめ。ちゃんと座らないと」
「クマクマ!!」
わーいと嬉しそうにふかふかを楽しむクマくん。ふかふかがあったら飛び跳ねたくなる気持ちはよくわかるから、どうしても強く止められない。
あわあわとクマくんの様子を見つめていると、不意にソファの背後に回り込んだシモンがちょうど飛び跳ねたクマくんをがしっと両手で捕まえた。
「クマ?」
「クマさん。今からご主人様が大事なお話をするので、クマさんは別室で大人しくしていましょうね。ご主人様直々の任務です。お兄さんのクマさんなら出来ますよね?」
「クマ…!任務!クマはお兄さんだからもちろんできるクマ!」
「よしよし。流石クマさん。偉いです」
シモンにまんまと宥められたクマくんは、楽しそうに拘束を抜け出して部屋の入り口へ向かった。
ドアノブに手を伸ばしてぴょんぴょん飛び跳ねるクマくんを見て慌てて駆け寄る。そうだ、クマくんは小さなぬいぐるみだから扉を開けられないんだった。
しょんぼりするクマくんをなでなでして扉に手を伸ばした瞬間。僕が開くよりも前に、向こう側から扉が開かれた。
「……フェリ」
現れたのは、ついさっきお別れしたばかりのレンだった。
「レン!」と思わず叫んでぎゅっと抱き着くと、すぐに背中に腕が回って頬が緩む。可愛い服を着た細身のレンだけれど、こうして抱き合ってみると意外にがっしりした体で驚いた。ちゃんと男の人の体だ。
「……話は聞いてたよ。クマくんは僕が預かるから安心して」
「クマ?クマ、レンのところ行くクマ?レアはいるクマ?」
「……勿論レアもいるよ。レア、寂しそうなんだ。クマくん、レアと遊んであげてくれる?」
「もちろんクマ!お兄さんのクマがレアと遊んであげるクマ!」
えっへんと胸を張るクマくんにくすくす笑みが零れる。クマくん、子供みたいでかわいい。
軽々とクマくんを抱き上げて出て行くレンを手を振って見送る。レアがクマくんと遊んでくれるみたいだから、クマくんのことは二人に任せて問題ないだろう。
「シモン。ありがと」
自由なクマくんをいとも容易く落ち着かせてしまったシモンにお礼を言う。
僕はあわあわすることしか出来なかったから、ベテランお兄さんのシモンがいてくれて本当に良かった。
僕もベテランお兄さんになれたと思っていたけれど、どうやらまだまだだったらしい。せめて子供っぽいクマくんを宥めることが出来るようにならないと、ベテランお兄さんとは到底呼べないだろう。
「いえいえ。新人を教育するのも先輩の務めですから」
「しんじん……?」
「えぇ。クマさんはフェリアル様をお守りするという使命を持った同士……つまり、俺の後輩です!」
おお…!と瞳を輝かせる。いいないいな、後輩がいるってお兄さんっぽい。いいなぁ。
「僕も、後輩ほしい」
「後輩欲しいですか…?後輩を作って何がしたいんですか?」
「いい子いい子する。お兄さんになる方法、でんじゅする」
「天使なのかな??」
いい子いい子とよしよしするようなジェスチャーをする僕を、ぷるぷる震えたシモンがむぎゅっと強く抱き締めた。
急にどうしたんだろう、よしよしとシモンを撫でていると、いつの間に用意したのか人数分の飲み物をテーブルに置いたルルが振り返った。
「二人とも。そろそろ話を始めよう。フェリ、ここはもう暖かいからコートは脱ごうね。汗が大変なことになっているから」
ルルはどこからかハンカチをすっと取り出し、もこもこに埋まる僕の顔をふきふきと拭き始めた。
「あせ……?僕、もこもこすき……」
「うん。もこもこ好きなのは分かるよ。分かるんだけれど、それで着続けてお熱になっちゃう方が僕は心配だ」
「……うぅん…そっか、わかった……ごめんね」
「ううん。僕の方がすまないね。もこもこ着たかったよね、すまない」
しゅんとしながらコートをぬぎぬぎする。
さり気なく横に膝を着いたシモンにコートを預け、軽くなった体を確かめるように軽くぴょんぴょん跳ねた。
「ぬいだ」
「うん。ありがとう。可愛いお顔がよく見えて素敵だよ」
さぁソファに座ろう、と笑顔で抱き上げられソファにすとんと下ろされる。
コップいっぱいに入ったオレンジジュースを手渡され、とっても濃いオレンジ色に驚いてごくごく飲んでしまった。
うぅ、すっぱい……。思わずきゅっとした顔をしてしまう。
何故かまたもや鼻血を出し始めるシモンは完全スルーで、初めに話を切り出したのはルルだった。
「それじゃあ……まず何から話すべきかな。取り敢えず、今日はフェリの手紙に応えた訳だから、フェリの用件を先に済ませてしまおうか」
僕の用件……?とはてなを浮かべて一瞬硬直する。
すぐにぴーんと思い出して、そういえば今日の目的はローズの任務代行だった、とハッとした。
いけないいけない。少し前までの勝負の記憶に引っ張られて、最重要任務のことをすっかり忘れてしまうところだった。
慌ててポケットからメモの紙を取りだし、くしゃくしゃになっていたそれを指先で軽く伸ばす。
ローズには『お前は語彙が絶望的に発達していない。セリフもしっかり書いてやろう』と言われたので、きちんと話し言葉で細かくメモされている。なのでつっかえることなく聞くことが出来るはずだ。
ぴらっと開いてじっと見つめながら、代行した任務を果たそうとメモした問いを尋ねた。
「"みりょうについて、すでにはあくしているだろうか。せいじゃについてのじょうほうがおいついていなければ、ほんだいにはいることがきわめてむずかしくなる"」
「……あ、あぁ…うん。聖者や魅了については魔塔も把握しているよ。恐らく前提として持っている情報は、貴方達よりこちら側の方が多いと思う」
「ふむ。"せいじゃののろいにいわかんをおぼえているのだが"…──」
「ちょ、ちょっと待って?」
メモに書かれた小さな文字を目を凝らして読んでいると、不意にルルが堪え切れないとばかりに声を上げた。
突然どうしたのだろうと顔を上げると、ルルは困惑を滲ませた表情で控えめに尋ねてきた。
「その紙…それとおかしな話し方…もしかして、今日の目的は"フェリの用事"では無かったりする?例えば……誰かの用事をフェリが代行したとか」
「……」
「……」
真面目な顔でじーっとルルの顔を見つめる。やがて言葉の意味に追いついて理解した途端、冷や汗がだらだらと流れ始めた。
「あ、これ図星かな……」
「これルドルフ。分かっても口に出すでない。幼子が必死に隠し事をしている時は黙って見守るものと言うただろうに」
「すみません師匠……あまりに気になって思わず……」
こそこそと内緒話する二人にそわそわが募る。何を話しているかは分からないけれど、とにかくこのメモにルルが違和感を持ってしまったということは事実のようだ。
おかしいな…このメモに書いてあるセリフは、僕のかっこいい話し方とあまり違わないはずだけれど……。
僕はいつも、このメモのセリフくらいかっこいい話し方をしているもの。
違和感を覚えるなんて、流石次代の魔塔主だ。
「そそそそそんなことはないである。いつもよりほんのちょっとだけ、かっこよくきいてみただけでござる」
「ござる?」
「ござる違う。だけである」
いけないいけない。別のかっこいい話し方が出てしまった。
「うーん……でも、正直なところ代行任務だよね?」
「ちがうでござる」
「そうでござるかぁ」
ルルの困惑顔が段々愉快げに染まっていくのを首を傾げて見つめる。
どうしようどうしよう。これ以上は誤魔化せないよとあわあわしていると、隣に座っていたシモンが至って真面目な顔でルルに反論した。
「ちょっとやめて下さい。フェリアル様が違うでござると言っているんだから違うでござりますよ!」
「いやはや、すまないでござるね」
「これお前たち。遊んでいないで話を続けないか」
718
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。