余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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攻略対象file5:狡猾な魔塔主

147.ござるでござる

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 広間で話すにはあれだからと、魔塔主が大きな魔法陣を足元に展開したのがほんの数秒前のこと。強い光が視界を染めたかと思うと、気付けば広間から執務室のような場所に転移していた。
 びっくりして固まっている間に、ずっと足元でそわそわしていたクマくんが衝動のままに部屋中を走り出してしまった。

 クマくんは止まっていることが苦手みたいで、起きた時から何かしらの動きを決して止めない。
 大事な話をしている時は空気で分かるのか黙り込んでいるけれど、その間にもずーっと周囲を走り回っている。
 今も部屋中を走り回ったクマくんは、ふかふかのソファの上が気に入ったのか楽しそうにぴょんぴょん飛び跳ねていた。


「クマ!ふかふかクマ!」

「クマくん。走っちゃだめ、とんじゃだめ。ちゃんと座らないと」

「クマクマ!!」


 わーいと嬉しそうにふかふかを楽しむクマくん。ふかふかがあったら飛び跳ねたくなる気持ちはよくわかるから、どうしても強く止められない。
 あわあわとクマくんの様子を見つめていると、不意にソファの背後に回り込んだシモンがちょうど飛び跳ねたクマくんをがしっと両手で捕まえた。


「クマ?」

「クマさん。今からご主人様が大事なお話をするので、クマさんは別室で大人しくしていましょうね。ご主人様直々の任務です。お兄さんのクマさんなら出来ますよね?」

「クマ…!任務!クマはお兄さんだからもちろんできるクマ!」

「よしよし。流石クマさん。偉いです」


 シモンにまんまと宥められたクマくんは、楽しそうに拘束を抜け出して部屋の入り口へ向かった。
 ドアノブに手を伸ばしてぴょんぴょん飛び跳ねるクマくんを見て慌てて駆け寄る。そうだ、クマくんは小さなぬいぐるみだから扉を開けられないんだった。
 しょんぼりするクマくんをなでなでして扉に手を伸ばした瞬間。僕が開くよりも前に、向こう側から扉が開かれた。


「……フェリ」


 現れたのは、ついさっきお別れしたばかりのレンだった。
「レン!」と思わず叫んでぎゅっと抱き着くと、すぐに背中に腕が回って頬が緩む。可愛い服を着た細身のレンだけれど、こうして抱き合ってみると意外にがっしりした体で驚いた。ちゃんと男の人の体だ。


「……話は聞いてたよ。クマくんは僕が預かるから安心して」

「クマ?クマ、レンのところ行くクマ?レアはいるクマ?」

「……勿論レアもいるよ。レア、寂しそうなんだ。クマくん、レアと遊んであげてくれる?」

「もちろんクマ!お兄さんのクマがレアと遊んであげるクマ!」


 えっへんと胸を張るクマくんにくすくす笑みが零れる。クマくん、子供みたいでかわいい。

 軽々とクマくんを抱き上げて出て行くレンを手を振って見送る。レアがクマくんと遊んでくれるみたいだから、クマくんのことは二人に任せて問題ないだろう。


「シモン。ありがと」


 自由なクマくんをいとも容易く落ち着かせてしまったシモンにお礼を言う。
 僕はあわあわすることしか出来なかったから、ベテランお兄さんのシモンがいてくれて本当に良かった。
 僕もベテランお兄さんになれたと思っていたけれど、どうやらまだまだだったらしい。せめて子供っぽいクマくんを宥めることが出来るようにならないと、ベテランお兄さんとは到底呼べないだろう。


「いえいえ。新人を教育するのも先輩の務めですから」

「しんじん……?」

「えぇ。クマさんはフェリアル様をお守りするという使命を持った同士……つまり、俺の後輩です!」


 おお…!と瞳を輝かせる。いいないいな、後輩がいるってお兄さんっぽい。いいなぁ。


「僕も、後輩ほしい」

「後輩欲しいですか…?後輩を作って何がしたいんですか?」

「いい子いい子する。お兄さんになる方法、でんじゅする」

「天使なのかな??」


 いい子いい子とよしよしするようなジェスチャーをする僕を、ぷるぷる震えたシモンがむぎゅっと強く抱き締めた。

 急にどうしたんだろう、よしよしとシモンを撫でていると、いつの間に用意したのか人数分の飲み物をテーブルに置いたルルが振り返った。


「二人とも。そろそろ話を始めよう。フェリ、ここはもう暖かいからコートは脱ごうね。汗が大変なことになっているから」


 ルルはどこからかハンカチをすっと取り出し、もこもこに埋まる僕の顔をふきふきと拭き始めた。


「あせ……?僕、もこもこすき……」

「うん。もこもこ好きなのは分かるよ。分かるんだけれど、それで着続けてお熱になっちゃう方が僕は心配だ」

「……うぅん…そっか、わかった……ごめんね」

「ううん。僕の方がすまないね。もこもこ着たかったよね、すまない」


 しゅんとしながらコートをぬぎぬぎする。
 さり気なく横に膝を着いたシモンにコートを預け、軽くなった体を確かめるように軽くぴょんぴょん跳ねた。


「ぬいだ」

「うん。ありがとう。可愛いお顔がよく見えて素敵だよ」


 さぁソファに座ろう、と笑顔で抱き上げられソファにすとんと下ろされる。
 コップいっぱいに入ったオレンジジュースを手渡され、とっても濃いオレンジ色に驚いてごくごく飲んでしまった。
 うぅ、すっぱい……。思わずきゅっとした顔をしてしまう。

 何故かまたもや鼻血を出し始めるシモンは完全スルーで、初めに話を切り出したのはルルだった。


「それじゃあ……まず何から話すべきかな。取り敢えず、今日はフェリの手紙に応えた訳だから、フェリの用件を先に済ませてしまおうか」


 僕の用件……?とはてなを浮かべて一瞬硬直する。
 すぐにぴーんと思い出して、そういえば今日の目的はローズの任務代行だった、とハッとした。
 いけないいけない。少し前までの勝負の記憶に引っ張られて、最重要任務のことをすっかり忘れてしまうところだった。

 慌ててポケットからメモの紙を取りだし、くしゃくしゃになっていたそれを指先で軽く伸ばす。
 ローズには『お前は語彙が絶望的に発達していない。セリフもしっかり書いてやろう』と言われたので、きちんと話し言葉で細かくメモされている。なのでつっかえることなく聞くことが出来るはずだ。
 ぴらっと開いてじっと見つめながら、代行した任務を果たそうとメモした問いを尋ねた。


「"みりょうについて、すでにはあくしているだろうか。せいじゃについてのじょうほうがおいついていなければ、ほんだいにはいることがきわめてむずかしくなる"」

「……あ、あぁ…うん。聖者や魅了については魔塔も把握しているよ。恐らく前提として持っている情報は、貴方達よりこちら側の方が多いと思う」

「ふむ。"せいじゃののろいにいわかんをおぼえているのだが"…──」

「ちょ、ちょっと待って?」


 メモに書かれた小さな文字を目を凝らして読んでいると、不意にルルが堪え切れないとばかりに声を上げた。
 突然どうしたのだろうと顔を上げると、ルルは困惑を滲ませた表情で控えめに尋ねてきた。


「その紙…それとおかしな話し方…もしかして、今日の目的は"フェリの用事"では無かったりする?例えば……誰かの用事をフェリが代行したとか」

「……」

「……」


 真面目な顔でじーっとルルの顔を見つめる。やがて言葉の意味に追いついて理解した途端、冷や汗がだらだらと流れ始めた。


「あ、これ図星かな……」

「これルドルフ。分かっても口に出すでない。幼子が必死に隠し事をしている時は黙って見守るものと言うただろうに」

「すみません師匠……あまりに気になって思わず……」


 こそこそと内緒話する二人にそわそわが募る。何を話しているかは分からないけれど、とにかくこのメモにルルが違和感を持ってしまったということは事実のようだ。
 おかしいな…このメモに書いてあるセリフは、僕のかっこいい話し方とあまり違わないはずだけれど……。

 僕はいつも、このメモのセリフくらいかっこいい話し方をしているもの。
 違和感を覚えるなんて、流石次代の魔塔主だ。


「そそそそそんなことはないである。いつもよりほんのちょっとだけ、かっこよくきいてみただけでござる」

「ござる?」

「ござる違う。だけである」


 いけないいけない。別のかっこいい話し方が出てしまった。


「うーん……でも、正直なところ代行任務だよね?」

「ちがうでござる」

「そうでござるかぁ」


 ルルの困惑顔が段々愉快げに染まっていくのを首を傾げて見つめる。
 どうしようどうしよう。これ以上は誤魔化せないよとあわあわしていると、隣に座っていたシモンが至って真面目な顔でルルに反論した。


「ちょっとやめて下さい。フェリアル様が違うでござると言っているんだから違うでござりますよ!」

「いやはや、すまないでござるね」

「これお前たち。遊んでいないで話を続けないか」

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