余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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攻略対象file5:狡猾な魔塔主

146.魔塔主の目的

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「……」

「……」


 沈黙が流れる。
 答えに迷うように押し黙った周囲にきょとんとすると、初めにルルが「あー…」とやや気まずそうに唸りながら立ち上がった。

 悪の組織のボスと対峙する僕の元まで来ると、ルルは視線を合わせるように膝をついて語り始める。


「ごめんねフェリ。今までの勝負は、全て魔塔が用意した試練だったんだ。悪の組織なんて、初めから無かったんだよ」

「あくのそしき……ない……?」


 呆然と硬直する。その言葉を何とか受け取って頭の中で繰り返し、理解が追いつくまで数秒かかった。

 悪の組織が無い……悪の組織は、初めからなかった…。
 つまり、シモンとルルは連れ去られてなんていなくて、僕を騙すためにわざとあんな演技をしていた。
 にこちゃんもクマ博士もトラ博士も、レンもレアも本当はいなくて、みんないいひと。悪い人じゃなかった。


「……っ」

「わ、えっ、フェリ……!?」


 うるうると視界が滲む。うぅ…と目をごしごししながら俯いて黙り込むと、正面に膝をついていたルルが慌てたように声を上げた。

 ぽんぽん頭を撫でてきたり肩をさすさすしてきたり。人に慣れているような態度のルルなのに、どことなくぎこちない触れ方に少し違和感を覚える。
 けれどその違和感は後回しにして、今はルルの焦燥を落ち着かせなければとごしごしをやめて目をぱちぱちした。

 くすんと鼻を啜って、へにゃりと赤く染まった目元でルルを見上げる。
 眉を下げたルルは申し訳なさそうに「うっ…」と呻いて、僕に軽く頭を下げた。


「ご、ごめんね……流石に泣かせるつもりは無かったんだけれど…──」

「よかった……」

「……え?」


 ほっと息を吐くと返ってくる困惑の声。
 へにゃあ、と緩みきった笑顔を浮かべると、みんな揃ってピタッと硬直してしまった。
 ルルは目をこれ以上ないほど見開いているし、シモンはいつも通り鼻血を出している。もしかしてシモンの鼻血って無限にあるのかな。


「みんな、いいひと。やっつけなくていい。よかった、よかった……」


 うんうんと深く頷く。よかったよかった、よきよきと湧き上がる喜びを噛み締める。

 にこちゃんも博士たちもレンもいいひとだった。みんな優しい人だったから、本当はやっつけたくなかった。
 やっつけなくてもいい方法を何とか見つけ出そうと考えていた矢先。まさか悪の組織なんて本当は初めから存在しなくて、全部が演技だったなんて。

 大きな安堵を抱くには、十分すぎる嬉しい暴露だった。


「ありがと、ルル。あくのそしき違う。ありがと」

「え…なんか…いい子すぎないかな…?これも演技……?」

「んな訳ないでしょ。フェリアル様は天然モノのいい子です。ちょっとだけポンな所があるので演技なんて出来ません」


 なんだろう…さらっとシモンに馬鹿にされたような気が……。


「これでよく分かったでしょう?あなたも、魔塔主殿も、いい加減認めて対話を受け入れて頂けませんか?」


 呆れ返った様子でシモンが動き出す。さり気なく僕をひょいっと抱き上げると、もこもこな僕をうりうりしたりぎゅーぎゅーしたりし始めた。
 とはいえ表情は至って真顔で声も真剣。衝動が抑えきれなかったのかな、と察して僕からもぎゅーぎゅー抱き締め返した。

 シモンは何らかの限界を超えると、無意識で僕をぎゅーぎゅーする癖がある。
 疲労が限界なのか何が限界なのかはよく分からないけれど、疲れているならと受け入れることにしているのだ。


「……まぁ、確かにそうだね。フェリの素質は十分見せて貰ったし、全てあの方の愛し子として相応しい行動だった」

「ふむ……」

「師匠。僕はフェリを受け入れることに損は無いと思います。あの方の愛し子というだけで、魔塔にとってはメリットになるかと」


 白髭を撫でながら何やら考え込む魔塔主様と、そんな魔塔主様に答えを促すように語りかけるルル。

 何だか真剣な空気が流れていることに遅れて気付いて、場を乱してはいけないからと両手で口を塞ぐ。
 そのままシモンの肩に顔を埋めると、すぐに大きな手が頭を優しくなでなでしてくれて心地良さに包まれた。


「何より、もう時間がありません。我々にリベラ様の神託が下ったのなら、神殿にもマーテルの神託が秘密裏に下っている可能性が高いです」


 頭を撫でる手が不意に止まる。気になって顔を上げると、そこには表情を険しく歪ませたシモンの顔があった。
 思わず手を伸ばして頬に触れると、すぐに険しい顔は崩れて優しい笑みが返される。それに安堵して息を吐くと同時に、黙り込んでいた魔塔主様の声が耳に届いた。


「……リベラ様の復活の為にも、愛し子が必要不可欠であることは紛れもない事実だからの」


 魔塔主様がゆっくりと振り返る。
 穏やかな、けれど確かな芯のある瞳に射抜かれ思わず固まると、その瞳は柔らかく細められた。

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