104 / 423
攻略対象file5:狡猾な魔塔主
152.月明かりの下
しおりを挟む「……ぅん…」
なんだか異様に寝苦しい…。
顔を顰めて目覚めると、初めにカーテンの隙間から覗く月明かりが視界に映った。
頭がぼーっとして、ここはどこで、何をしていたのだったかと思考が鈍る。魔塔での出来事を全て思い出した途端、ハッと我に返って眠たそうに閉じかけていた瞳を見開いた。
慌てて身を起こそうとしてようやく気付く。さっきから感じていた寝苦しさの正体はこれか、と微かに頬が緩んだ。
仰向けに寝ていた僕の体をがしっと拘束するように、両脇に良く似た顔立ちの双子が眠っている。
守るように…と言うよりも、縋り付くかのような拘束。暗くてあまり見えないけれど、どことなく二人の目元が赤く染まっているような気がした。
「にいさま…」
まだ少し怠さの残る体で二人をぎゅーっと抱き締める。どうして兄様達がここに?という疑問を抱いたのはほんの一瞬で、すぐに感情は二人に会えた喜びの方が勝った。
「おかえり、なさい…」
起こさないように静かに呟いて、のそりと起き上がる。
二人の腕をどう離そうか悩んでいたけれど、起き上がるタイミングと同時に力が緩んだのは幸運だった。それもどちらか一方じゃなく、二人同時に。
兄様達がこんなにぐっすり眠っていることは滅多にない。なるべく起こさないように離れないとと思っていたから安堵した。
ゆっくりと二人の間を抜けて、そろりそろりとベッドから降りる。暗い中一人で動くのは寂しいから、棚の上に座っているウサくんを抱っこして部屋を出た。
音が鳴らないようにそっと扉を閉め、ウサくんをぎゅっとして廊下を歩き始める。蝋燭もランタンも持っていないから、視界は完全に月明かり頼りだ。
「……ウサくん、いまお喋りできるようにしたら、みんなびっくりしちゃうかな」
こそこそと内緒話するみたいにウサくんに語り掛ける。暗い空間への恐怖を紛らわせるためとかでは断じて無く、ただ単にちょっとだけ話しかけてみただけだ。
さり気なくポケットにいれた魔石を服の上から撫でて、じーっとウサくんの瞳を見下ろす。魔石を使えば、ただの石であるこの瞳にも光が宿るようになるのかな。
そういえばクマくんはどうしたんだっけ?と考え始めた頃、小さな風の音が耳に届いてふと立ち止まった。
「……」
無言で音の方を向く。どうやら無意識に庭園の入り口に来ていたらしい。
最近はお出かけが多くて庭園を歩くことが少なくなった。小さい頃毎日のように眺めていた花々は今どうなったろうかと、不意に思い出した途端行く先は決まった。
ウサくんをぎゅっと抱き締めたまま、鍵を密かに外して庭園への扉を開く。夜の冷たい風が鋭利に肌を刺してきて一瞬怯んだけれど、構わず扉を後ろ手に閉めて踏み出した。
そういえば、あの日も僕は同じように庭へ出たなぁと不意に。近付く最期を予感して、絶望を抱えながら。夜も更けた頃にふと月が見たくなって、自室を抜け出した。
そう、今みたいに噴水を見かけて、微かな飛沫で濡れることも厭わず縁に腰掛けて、水面に映る月をぼーっと見つめて。
そうしたら、まるで僕の寂寥を察したみたいに彼が現れるのだ。
「フェリアル様」
ふわっと肩に温もりがかかる。視線を向けると、案の定そこにはシモンの姿があった。
肌寒い体を暖めるようにかけられたストールを見下ろしお礼を言う。隣に座ったシモンをちらりと見つめると、少し目を伏せて微笑んだシモンがふと呟いた。
「……すみません。やっぱり俺のこと…失望しましたよね」
紡ぐ言葉とは裏腹に、発される声音は酷く穏やかだ。どんな答えでも全て同じだと言わんばかりの、けれど諦めともまた違う表情。
全て思い出した今、確かに自分の思考はどこか変わった気がする。シモンへの想いも、前のような単純なものではないと、そんな気がする。
それでも、根本は同じ。それだけは以前から一切変わらない、唯一確実なものだ。
失望…失望かもしれない。心の真ん中にぽっかり穴が空いたみたいなこの感覚を失望と呼ぶなら、きっとこれは失望だ。けれどそれは、シモンに向けたものじゃない。
「うぅん…がっかりした、のはほんと」
「……」
分かり易く黙り込むシモンにくすくすと頬が緩む。それを見て不思議そうに目を丸くするシモンを見て、更に心の穴がじわじわと満ちていった。
「僕にね、がっかりしたの」
「……え…俺にじゃなくて…?」
「うん。僕をね、なにしてるのーって、ぽかぽか叩いてあげたい気持ち」
シモンが心を痛めているのは僕の力不足によるものだ。シモンを不安にさせてしまった責任が僕にはある。
本当に信用されていたら、失望なんて可能性考えもしないだろう。普通は考えるのかどうなのか、そこは断言できないけれど。でも、シモンにそう思わせてしまった非は確実にある。
「僕はシモン信じてる。だからもう、もしかしてって、嫌な予想しない。でも、シモンは違う。もしかしてって、僕に思ってる。思わせちゃった僕が、だめな子なの」
ふにゃりと頬を緩めると、シモンは息を吞んでぴたりと硬直した。僕の言葉に思う事でもあったのだろうか。
シモンはとても忠誠心が強い。でも、本当にそれだけだ。疑うことも信用を迷うことも当然のようにする。そして、その疑念がたとえ真実でも忠誠心が崩れることはない。少し不思議で、特殊な人だ。
僕からしてみれば、その淡白さが少し辛い。シモンとの距離を感じてしまって、シモンと自分の感情や想いに対するズレを実感して酷く苦しい。
たぶん、シモンは本当にどんな展開でも幸せなんだろうな。僕が幸せなら、シモンも幸せなんだろうな。そう思ってもどこか納得が行かない。シモンの幸せって何なのだろう。
どうすれば、シモンの切ないくらいの余裕が崩れるだろうか。
「シモン。前の最期は、幸せだった?僕がいなくても、ちゃんと幸せにおわった?」
「……、…それは……」
少し間を置いて返ってくる問い。「フェリアル様は幸せでしたか?」というそれに、僕は少し迷って首を振った。
「ううん。とっても悔しい。とっても悲しい」
「……そう、ですか」
「でもね、シモンのおかげで、最期はちょっとだけすっきりしたの」
だから、ありがとう。
にっと笑みを浮かべると頭をうりうり撫でられて、大きな手の指の隙間から、シモンの痛々しいくらい泣きそうな表情が見えて驚いた。
672
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。