余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

文字の大きさ
105 / 405
攻略対象file5:狡猾な魔塔主

153.ハッピーエンドの為に

しおりを挟む
 
 最期の瞬間を思い出す。
 あの時『お前を愛さない』と断言した僕を見て、聖者が一体どんな表情を浮かべたのか。それをやけに明確に覚えている。

 想定外と言わんばかりの、あの驚愕の表情。絶望すら宿していそうなあの表情が忘れられない。
 僕が無惨な死を迎えることを何より望んでいただろうに、どうして聖者はあの時あんな顔をしたのか。僕の言葉がまるで鋭利な刃のように突き刺さったみたいな、そんな表情で。

 いつもなら胸が痛むような顔も、聖者のものだと思えば意外なくらい清々しい気持ちが湧き上がった。
 自分が自分じゃないみたいな、けれどあの時だけは息苦しさが嘘みたいに無くなって、ちゃんと自分になれたようなそんな感覚。胸が痛むどころか、靄が晴れたみたいな感覚になるなんて。
 でも、それはきっと悪いことじゃない。良いことでもないのかもしれないけれど…。でも、あれはたぶん、自業自得というやつだ。


「あのねシモン。僕、今世はがんばろうと思う」

「……!」


 膝に乗せた両手をもじもじと合わせて、少し不安を抱えながらも小さく呟く。シモンは息を呑んで、その直後嬉しそうにぱあっと顔を輝かせた。


「聖者と対抗する、ということですか?」


 僕のことだからきっと諦めるだろうとか、そう思っていたのだろうか。確かに今までの僕を見ていればそう思っても仕方ないかもしれない。
 さっきまでのしょんぼり顔を嘘みたいに晴らしたシモンに苦笑して、喜色に溢れた言葉にこくりと頷いた。


「うん。きっと今世が最後だから。魂のことも…。終わらせるなら、もう今世しかない」


 魂についてを語ったことが想定外だったのか、シモンはぴしりと固まった。この様子だと、シモンも僕の魂のことを既に知ってしまったのだろう。

 シモンの話で前世の真実を思い出した時、同時に数千年の輪廻についても思い出した。
 明確な記憶が残っているのは前世…ここよりひとつ前の人生までだけれど、その前にも数え切れない人生を繰り返した記憶だけがぼんやりと蘇る。その全てがハッピーエンドだったことも。

 幾度も魂の消耗を繰り返し、既にその寿命が尽きていることも自覚した。
 今の僕は聖者…いや、マーテルの呪いによってマーテル自身と繋がっている状態なのだ。つまりマーテルと僕は一心同体みたいなもので、マーテルが消滅すれば、僕も同時に消滅する。

 分かっていても、やっぱり気持ちは変わらない。


「僕、みんなが好き。一度目のことも恨んでない。魅了でみんながみんなじゃなくなるなら、絶対とめたい。守りたい」


 今までゲームの中のことだと思っていた前世…一度目の人生のこと。
 そういう運命だからと諦めていたけれど、それが運命でも何でもない神の我儘だったなら、それは諦める理由にはならない。むしろ、それで諦めるのはみんなに失礼だ。みんなを見捨てることになる。
 魅了なんて運命でも何でもない呪いで、みんながみんなじゃなくなる。自我も全部消えて、ただの操り人形になる。それは絶対に許せない。

 僕だけの運命なら諦めていたかも。だって、どうせ、僕なんかって。でも、大切な人達の未来がかかっているなら話は別。


「みんなに酷いことする聖者、許せない。だから、僕が終わらせる。僕が、マーテルをやっつける」


 ずっと守られてばかりだった。強くなって、大切な人達を守って、恩返しがしたいと思っていた。
 それがようやく叶う。強くはなれなかったかもしれないけれど。弱いままかもしれないけれど、弱いままでも守る方法があるのだから。

 僕が実行しようとしているそれを悟ったのか、シモンはぐっと息を詰めて声を上げた。


「絶対に駄目です!奴を倒してもフェリアル様が犠牲になるなら意味が無い!!」


 勢いよく立ち上がって声を荒げるシモンをじっと見つめる。
 以前のシモンなら『フェリアル様が望むなら』といって静かに肯定するだけだったろうに、前世を思い出した途端明らかに変わった。いや、戻ったと言った方が正しいだろうか。


「俺はっ…!俺は…今回こそ、生きてあなたを守ると誓ったんです…一度目の悲劇を回避することが…二度目を与えられた俺の使命だと…」

「……使命の、ため?」

「それは…っ!…そんな、使命とかは二の次で…俺はただ…」


 ただ。その先に続く言葉を何となく察していても、それでも気付かないふりをする。
 互いに信頼し合える関係を望んでおきながら、自分だってシモンに頼り切れていない。分かっていても、僕にとっての最優先は『大切な人達の安全』なのだ。


「僕がしたいの。シモンは、僕のわがまま、聞いてくれない?」


 我ながら狡い問いだと思う。案の定、シモンも「それは狡いですよ…」と複雑そうに顔を歪めて呟いた。
 僕の我儘。主の我儘に、忠誠心の強いシモンが逆らえないことを知った上での狡い言葉。


「そのために、みんなと協力しないといけない。僕だけじゃ、きっとなにも…」

「前提は一人じゃなくて二人ですよ。俺が居るんですから」


 僕の我儘に呆れたのか、さっきよりも少し不貞腐れた様子のシモンが甘い言葉で僕を引き留めた。
 確かに前提としては僕とシモン、で最早ひとつの扱いになってもいい頃だ。血の誓約によって僕達は繋がっているし、魂と器がそもそも一致していたことが確定した今、僕が死ねばシモンも死ぬことも同時に確実となった。

 そんなシモンと僕だから、前提としては何をするにも二人から。僕だけじゃなく、僕が何かすればそれがシモンにも影響されるのだ。


「うん。シモンと僕はひとつ。いっしょ。……最期も、一緒になっちゃうよ」

「それは……俺にとっては褒美みたいなものです」


 嬉しそうに微笑むシモンに、言うと思ったなんてくすくす笑う。シモンのことだから、道連れに対して負の感情を持たないことはとっくに分かっていた。


「……今世こそ生きてあなたを守ります。だから、最期は一緒に死にましょう。そうすれば、俺は使命を全うしたことになる」


 面と向かって直接的なことを言われたのは、考えてみればこれが初めてな気がする。
 一緒に死のうなんて、重荷を感じる言葉を僕に投げることはしなかったはずだ。少なくとも、以前までのシモンなら。


「……うん。一緒にみんなのこと、守ろう」


 物語のハッピーエンドなんて、全部壊してしまおう。
 僕が望むハッピーエンドは聖者のものでも物語のものでもなくて、大切な人たちの結末のことを指す。

 そこに僕がいなくても、という考えは変わらない。
 何より、大切な人たちがそれぞれのハッピーエンドを迎えてくれるなら、それで。

しおりを挟む
感想 1,714

あなたにおすすめの小説

気付いたらストーカーに外堀を埋められて溺愛包囲網が出来上がっていた話

上総啓
BL
何をするにもゆっくりになってしまうスローペースな会社員、マオ。小柄でぽわぽわしているマオは、最近できたストーカーに頭を悩ませていた。 と言っても何か悪いことがあるわけでもなく、ご飯を作ってくれたり掃除してくれたりという、割とありがたい被害ばかり。 動きが遅く家事に余裕がないマオにとっては、この上なく優しいストーカーだった。 通報する理由もないので全て受け入れていたら、あれ?と思う間もなく外堀を埋められていた。そんなぽややんスローペース受けの話

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

お子ちゃま勇者に「美味しくないから追放!」された薬師、田舎でバフ飯屋を開く

ファンタジー
現代日本から転生した味覚オタクの薬師ユージンは、幼い勇者パーティの“保護者枠”として命を守るため口うるさくしていたが、「薬が苦い」「うるさい」と追放される。 田舎ミズナ村で薬膳小料理屋「くすり香」を開いた彼の“バフ飯”は冒険者を覚醒させ、村を救い、王都の薬利権すら揺らす。 一方、追放した子どもたちはユージンの真意を知って大泣きするが、彼は戻らない──自分の人生を取り戻すために。

BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた

BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。 断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。 ーーそれなのに。 婚約者に婚約は破棄され、 気づけば断罪寸前の立場に。 しかも理由もわからないまま、 何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。 ※最終的にハッピーエンド ※愛され悪役令息

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。