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【聖者の薔薇園-プロローグ】
163.一番好きなむぎゅむぎゅ
しおりを挟む「完全ふっかつ!」
わー!とみんなが拍手する。ぱちぱちと鳴る拍手の音にふふんとどやった。
風邪を引いてから数日。ようやく熱も下がり、体調も万全に回復した。これでやっと聖者についてのことやその他もろもろに手を付けられる。
シモンに兄様達に、ライネスにローズ。ルルは相変わらず忙しいみたい。けれど昨日届いた手紙に、なんとトラードの情報収集能力を買って合同調査をすることにしたと書かれていた。
トラードは家族の洗脳を解くために魅了について人一倍熱心に調査していたから、これはルルにとってもトラードにとっても良い動きかもしれない。
お見舞い兼復活祝いに駆け付けてくれたいつものメンバーを見渡して、少ししょんぼりと肩を落とした。未だこの輪の中にレオの姿は無い。
「おめでとうフェリ。無事に回復して安心したよ」
「ありがと、ライネス。お見舞いも嬉しかった」
「俺が来る時は悉く眠っていたがおめでとう」
「ありがと、ローズ。起きてるとき、いっかいも会えなくてごめんね」
「俺の目を盗んで部屋を抜け出すやんちゃなフェリアル様も可愛かったです!復活おめでとうございます!」
「ありがと、シモン。ごめんなさいするから、兄さまたちにはげきおこしないで」
続々と紡がれるお祝いの言葉にそれぞれぺこりぺこりと頭を下げる。最後のシモンに関しては、満面の笑顔が逆に怖かったのでぷるぷるしながらごめんなさいした。
あのあと兄様たちまでにこにこシモンに怒られてしまったから、しでかしたことについては本当に反省しているのだ。
あとですんすんむぎゅむぎゅさせてくれたら許します、という言葉にどんとこいと頷いたことを思い出す。すんすんもむぎゅむぎゅもみんなにされているから慣れたものだ。
なんて思っていたが、まさか一時間超えのむぎゅむぎゅすんすんになるとは思わなかった。終わるときもシモンの鼻血大量出血による気絶で終了だったから、シモンの鼻がもっと強かったら更に伸びていた可能性も否定できない。
「そうだ。フェリ、父上達も今回のことをとても心配していたよ。来たがっていたんだけど、流石に大公家の当主が領地を離れる訳にいかなくてね」
「パパが?うれしい。ありがとって言わないと」
「会いに行ったらすごく喜ぶと思う。もう随分来てないよね?私も寂しいから、ぜひ来てほしいな」
「うん!あそびにいく!…ちがう、交流にいく!」
遊ぶのではなくて、交流にいくのだ。公爵家の令息として、クールに訪問するのである。
キリリッと宣言すると、ライネスはくすくす笑って頷いた。
確かにここ最近は大公城に行っていないし、それどころかパパたちにも全く会えていない。久しぶりに大公家のみんなに会いたいな。シャルルにも、いつもお疲れ様の飴を渡したい。
…けれどその前に、まずどうにかしなければならない問題がひとつある。
「みんな、ふっかつのお祝い来てくれてありがと。僕はこれから、お友だちに会いに行きます」
「このアホチビ。病み上がりに何言ってんだアホ」
どどん、と宣言した直後、後ろからひょいっと持ち上げられて体がぶらんぶらんと宙に浮いた。
「ガイゼル兄様。僕はもう大丈夫。元気いっぱい」
「お前の大丈夫は信用出来ねぇ。どんだけ前科あると思ってんだ馬鹿」
「しょんぼり…」
しょん…と沈んだ空気を纏うと、ガイゼル兄様から更にひょいっと僕を回収したディラン兄様がよしよしと背中をぽんぽん撫でてくれた。やさしい。
むぎゅーっと抱き着いて首元にすりすり頬擦りすると、ディラン兄様がふっと天を仰いだ。顔を隠すようなこの仕草、たまにするけれどどんな意味が籠められているのだろう。
「ディラン兄様。お友だちに会いに行くのだめですか」
「だ…──」
「だめ、ですか……?」
「だめじゃない」
瞳をうるうる。一瞬冷淡に駄目だと言われる気配がしたけれど、どうやらそれは勘違いだったらしい。ディラン兄様は僕の瞳に溜まった大粒の涙を見るなりだめじゃないと即答してくれた。
わーいと喜んでいると聞こえてくる「堕ちるな馬鹿しっかりしろ!」というガイゼル兄様の声が聞こえてくる。謎の言葉を向けられたディラン兄様は、ハッとした様子を見せながらも諦めたように目を伏せた。
おちるな…あ、おとすなってことか。僕をぎゅっと抱っこしているけれど、落としちゃだめだよーというガイゼル兄様の優しさなのか。
「ディラン兄さま。ぎゅ」
「不意打ち攻撃止めてくれ」
任せてディラン兄様。僕がしっかりとむぎゅむぎゅ抱き着いているから…と思いコアラみたいに巻き付くと、ディラン兄様は一瞬ぐはっと苦しそうな表情を見せた。
「やはり駄目だ。この天使から目を逸らしてはならない」
「コイツ頭ふわふわしてっからマジ危ねぇぞ」
大変。早くも外出許可が覆るような空気になってきている。
まったくガイゼル兄様も失礼だ、僕はしっかり者だからふわふわなんてしていないのに。
ぷんすか頬を膨らませてディラン兄様の拘束から抜け出し、シモンの腰辺りにぴとりと抱きつく。
これ以上失礼なことを言われる前に、早くレオの元に行かなければ。アランの心配も晴らしてあげたいし、何より僕が不安を消し切れない。
「行こうシモン」
「はわわっ…きゃわたん過ぎますフェリアル様…!そうですよね!フェリアル様は俺の抱っこが一番好きですもんね!」
にまーっと笑顔を浮かべるシモンにぎゅっと抱っこされる。シモンの抱っこは大好きだけれど、ディラン兄様の抱っこも同じくらい大好きだ。
僕に初めて抱っこの喜びを教えてくれたのはディラン兄様だから、それもあってなのかもしれない。
「不服だ。不満だ。俺の抱っこの方が安定感があるに決まってる」
「妙なところで張り合うんじゃねぇ馬鹿」
「私の抱っこも心地好いと思うんだけどなぁ」
「……」
いつの間にやら始まる抱っこ談義。兄様達に加え、ライネスまで参加しているのは一体なぜなのか。
ローズだけは無関心な様子で、不意に僕を一瞥したかと思うと颯爽と窓から出て行ってしまった。
効率的なことを好くローズだから、いつもの中身のない茶番の気配を察して逃げていったのだろう。
そうだ。今度お見舞いのお礼のために、僕からローズの元に出向くのもいいかもしれない。
なんて考えていると、ふと今の今まで部屋の隅っこで大人しくしていたぬいぐるみ達が動き出した。ウサくんはともかく、クマくんは静かにするのも我慢の限界だったのだろう。
どれどれ…二人はきちんと仲良くしてるかな、と様子を窺ってみる。
「クマの抱っこが一番クマ!ご主人様はもふもふ抱っこが一番好きに違いないクマ!」
「仮にもふもふ抱っこが一番好きでもお前は論外ぴょん。抱っこされる側のぬいぐるみが人間を抱っこできる訳ないぴょん。少しは頭を使えぴょん」
「やっぱり嫌いクマ!ウサギ大嫌いクマ!この腹黒ウサギ!かわいこぶるなクマ!」
「可愛いウサに可愛こぶるなは意味不ぴょん。ウサはデフォルトでかわいいから可愛こぶるもなにもないぴょん」
うむうむ。ウサくんもクマくんもきちんと仲良くしているみたいだ。よきよき。
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