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【聖者の薔薇園-プロローグ】
162.なかよしの双子
しおりを挟む初めにガイゼル兄様の部屋に行ってみたけれど、誰もいなかったのでディラン兄様の部屋へ。案の定、仲良しの二人はディラン兄様の部屋で楽しくお喋りをしている途中のようだった。
「お話の邪魔してごめんなさい」
「邪魔じゃない。コイツと楽しむ世間話などない」
「こんな無口野郎と話すよりチビと話した方が楽しいに決まってんだろ」
相変わらずツンツンツンデレな二人だ。本当はとっても仲良しなのに、いつもはこうしてツンツンしてしまう二人が微笑ましい。
うんうんとふわふわ頷くと、兄様達はむっとしながら「妙な誤解するなよ」と念押ししてきた。わかってる、そうは言いつつ本当は大好きなんだよね。むふふ、誤解なんてしてないよ。
ディラン兄様の抱っこからんしょんしょと逃れ、てくてくとソファに近付いてよっこらせと座る。
少し不満そうな兄様達が椅子に座ったかと思うと、二度目の双子喧嘩が勃発しかけた。僕をひょいっと抱き上げて膝に乗せたディラン兄様に、ガイゼル兄様が「あぁ!?」とでも言いたげな威圧的な目を向けたのだ。
「おいてめぇ!それは狡いだろ俺に寄越せ!!」
「早い者勝ちに決まってるだろ。状況判断の遅い節穴のような己の目を恨め」
「お前今日いつにも増してキレッキレだな」
ディラン兄様のあまりのチクチク言葉っぷりに戦慄したのか、ガイゼル兄様はたちまち勢いを失ってすんと落ち着いた。
ガイゼル兄様、そんなに怒ってどうしたのだろう。もしかして寒いのかな。僕とガイゼル兄様の体格差だったらちょうどすっぽり収まるくらいだし、抱き枕には最適だろうなと半ば他人事みたいに考える。
あとでむぎゅむぎゅしてあげよう、と決意して喧嘩を止めた。
「ディラン兄様。喧嘩めっ。お話したくて来たのに、二人ぎすぎす…悲しい…」
「俺とガイゼル以上に仲良しな双子は居ないぞ」
「超仲良いから誤解すんなよ。泣く必要ねぇんだからなチビ」
やっぱりなかよし。むふふと微笑んでこくこく頷く。やっぱりギスギスは勘違いだったみたいだ、よきよき。
「それでフェリ。話とは何だ」
「うん。お話、レオについて」
仲良しのくだりを誤魔化すように尋ねたディラン兄様は、僕がレオの名前を出すなり驚いたように目を見開いた。
ガイゼル兄様と意味深に目を合わせると、一度こくりと頷いて「どうして皇太子についてを?」と問い掛けてくる。
「アラン…殿下がきました。レオの様子おかしい、学園もやめるって。レオもだけど、兄様たちにも、お話ききたいです」
「……俺達にも?」
「うん。兄様たちも、もしかして学園やめちゃう?」
「……」
数秒の沈黙の後、呆れ顔のガイゼル兄様が「直球で聞くんだな…」と小さく呟く。気になったことはしっかり聞かないと欲する答えが返ってきません、っていつだったかシモンが言っていた。
しっかり聞いたはいいものの、兄様たちは何だかもごもごと言葉を探すみたいに視線を彷徨わせて迷子中だ。どうしたのだろう、答えられない質問だったのかな。
こてんと首を傾げていると、やがてディラン兄様がすんと無表情を浮かべて答えた。
「あぁ。辞めようと思う」
「どうして…?」
やっぱりそうなのか、と思いつつ驚きはあまり湧かない。なんとなく、予想はついていたからだろうか。
「学園での魅了騒ぎがあったろう。それによって学園内の人間のほぼ全てが聖者に堕ちた。あの場に留まるのは危険と判断した」
「魅了騒ぎ…にいさまが冷たくなった…」
「っ……それは…それは、本当に悪かった。反省している…」
魅了騒ぎ。その言葉に例の件を思い出す。ディラン兄様が僕を突き放して、冷たい目を向けたあの日のこと。
思い出すと途端に悲しくなって、ぐっと涙を堪えるように俯いた僕をディラン兄様があわあわ抱き締めた。
ぎゅーっと広がる温もりが、兄様がいつもの優しいディラン兄様に戻ったことを改めて思い知らせてくれる。
「かなしかった…もう、僕のこと嫌いじゃない…?」
「フェリのことはずっと好きだ。愛している。嫌いだったことなんてない。あの時は混乱していて、兄として相応しくない策を実行してしまった…本当に悪かった…」
耳元で何度も紡がれる謝罪の言葉。心底後悔したような声音から、兄様が僕に本当に負い目を感じているのがよくわかった。
元々怒りなんて無いから、肩を落とすディラン兄様をぎゅっと抱き締め返した。大丈夫だよ、僕は平気だよと伝えたくて。
「大丈夫。わかってる。僕はディラン兄様だいすきで、ディラン兄様も僕のことすき。ちゃんと、わかってる」
ガイゼル兄様が繋ぎ止めてくれた。兄様達と僕の、兄弟の絆。魅了がなければ絶対に壊れないって、僕はもう知っている。
あくまで本当に、魅了が無ければの話だけれど…今後二年は不安を抱く必要もないから、そこは安心していいだろう。
「……あ」
「うん?」
「あ?」
そうだ、兄様達はまだ知らないのか。聖者が神力回復のために眠りについたこと。
きっと兄様達は、再び聖者の魅了を受ける可能性を考慮して学園を辞める判断をしたのだ。でも、少なくとも彼らが卒業するまでは魅了の脅威は絶対にない。
つまり、兄様達やレオが今学園を辞める理由は特に無くなったということだ。
「兄さま。学園辞めなくて大丈夫。聖者来ない」
「……?それはどういうことだ」
かくかくしかじか。きょとんとする兄様達にルルの話を軽く説明する。
聖者が魅了の使い過ぎで神力を消耗し、その回復のために眠りにつくこと。それを説明するだけで、兄様達は瞬時に全てを察してくれた。
聖者が目覚めるまでの間が、僕たちのチャンスだということを。
「朗報だな。あのクソ聖者が自爆したとは」
「シモンから何となく聞いてたが、マジで女神ってクソ神だったんだな。まぁでも神殿が信仰する神ってだけで、何か嫌な感じはしてたけどよ」
「お前は神殿が嫌いなだけだろ。分かっていた風で賢さを装うな」
「装ってねぇよ俺は普通に賢いわボケ」
理解が早くてたすかる。ありがたき、とうんうんと頷いた。
僕が頭をぐるぐるさせながら必死に理解した全てを、兄様達は当然のように受け入れて冷静に納得してみせた。なんだか口が悪くなっているけれど、そこは気にしない方針でいこう。
「そうか、それなら確かに学園を辞める理由は無いな」
「学園の奴らはおかしいが…まぁ聖者が絡まなけりゃ基本いつもと変わんねぇしな」
納得したような口ぶりだけれど、なぜか表情は残念そうに顰められている。
どうしたのだろうと瞬くと、兄様達は僕をむぎゅむぎゅして悔しそうに呟いた。
「クソッ…辞めてぇ…戻りたくねぇ…」
「一年など耐えられない」
「もう連れて行くってのは駄目なのか?聖者いねぇし別に良いだろ」
「別に良い気がしてきた」
兄様達の謎の呟きがぽつりぽつりと零れる。
地獄耳のシモンが「良いわけないに決まってますよね?」とにこにこ顔でバンッと扉を開けたのは、その数秒後のことだった。
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