余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

189.急転

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「ちーずけーきっ、ちーずけーきっ」

「……うん?なにこのかわいい動きは?」

「あぁこれ、チーズケーキを食べる前に稀にフェリアル様が歌う歓喜の舞です」

「なにそれ可愛過ぎない!?」


 とっても美味しいスイーツが食べられるという、帝都の表通りにお店を構えるスイーツ店。貴族が毎日のように訪れる人気店らしい。
 そんなお店も、今日は貸し切りの僕たちだけで中はすっからかん。一番良い席にライネスとシモン、そして僕の三人で座り、注文を終えてチーズケーキを待っているところだ。

 フォークを持ってふんふふんと小さく体を揺らす。
 まだかなまだかなーと足をぷらんぷらんさせていると、不意にライネスがぐはっと呻いて鼻を抑えた。
 シモンは安定の鼻血を出しているけれど、特に動揺する様子もなく慣れた仕草で鼻をふきふきしている。流石毎日のように鼻血ぷしゃーしているシモンは他とは違う。


「チーズケーキ。まだかな、まだかな」

「もうちょっとだからね。ちょっとだけ待ってようね」

「うむ。僕、まてできる」

「うーんかわいい。えらいえらい」


 わしゃわしゃ。ライネスに頭をなでなでされてふふんと頬が緩む。僕えらい子。かしこい子。えっへん。

 むふむふして二人と話しながら待っていると、にこにこしていたシモンが不意にぴくりと眉を顰めて額に手を当てた。
 眉間に皺を寄せてぐっと黙り込むシモンを見て、ライネスと揃ってきょとんと首を傾げる。僕が足ぷらんぷらんとふんふふんの鼻歌をやめると同時に、ライネスがスッと目を細めてシモンに問い掛けた。


「大丈夫?やっぱり体調が悪いんじゃ…」

「いえ…平気です。少し眩暈がする…だけで…」


 そう言いながらも、シモンの体は軸を忘れたみたいにふらふら揺れ始める。瞳の焦点が度々定まっていないことから、シモンが本調子でないことは一目で分かった。
 流石にまずいと本能的に察して、ライネスと目配せしてこくりと頷く。額を押さえてじっとするシモンの手にそっと触れると、驚いたように緑の瞳が丸く覗いた。


「シモン。かえろう。休まないと」

「で、ですが…フェリアル様のチーズケーキが…」

「シモン元気ちがうと、意味ないの。チーズケーキは、今日じゃなくてもたべれる」

「あんなに嬉しそうにチーズケーキの歌を歌っていたのに…」

「もう歌ってない。シモン元気ないのかなしい。歌えない。ぷらんぷらんできない」


 ぴょこぴょこと両手を振って何とか説明する。どんなに嬉しくても、楽しみでも。一緒に美味しくチーズケーキを食べると約束したシモンがいないのなら、それはもう意味が無い。

 そう言うとシモンが泣きそうにぐっと唇を引き結んで、かと思うと嬉しそうに微笑んでお礼を言ってから「それでも…」と小さく呟いた。


「やっぱり、俺のせいでフェリアル様がチーズケーキを食べられなくなるのは悲しいです。代理の護衛を呼ぶので、お二人で…」

「何言ってるんだ。そんなこと出来ると思っているの?」


 柔く笑んだシモンの言葉に泣きそうになっていると、ふとライネスが呆れの籠った声音がそれを遮った。
 驚いた顔のシモンをじっと見据えると、しょぼぼんする僕を視界の外でなでなでしながら静かに語る。


「それじゃあ意味が無いってフェリが言っているの、聞いていなかったのかな。フェリが駄目と言ったら駄目なんだよ。他でもない君がフェリの望みに逆らうの?」


 断言するライネスをうるうるしながらも真剣に見上げる。やっぱりライネスは友達想いで優しい良い人だ。
 ぴしゃりと告げられたシモンは一度ハッとしたように目を見開き、そして申し訳なさそうに眉を下げた。

 シモンをなでなでして大丈夫大丈夫と慰めていた時、ふとシモンの顔色がぐっと蒼白してガタッとテーブルが揺れた。
 まるで重力が酷く重くなったみたいに、シモンが大きくよろめいたのだ。


「まさか……っ!」


 慌てて「シモン!」と叫んで立ち上がる。
 何かに気が付いたみたいに目を見開くシモンにきょとんとしながら、よろめく体を弱々しくもぐっと支えた。


「公子!フェリアル様を!!」

「っ…!シモン……?」


 ぱっとシモンに突き飛ばされる。シモンに思い切り体を離されたのが衝撃的で、頭が真っ白になりながら呆然と後退った。
 目を丸くして硬直する僕の後ろで、正確にシモンの行動の意図を察したらしいライネスが勢いよく立ち上がる。ぎゅっと背後から包まれ思わず目を閉じ、ライネスが息を呑む気配で目を開いた。

 開けた視界の先で僕も息を呑む。
 目を閉じる前まで正面にいたはずのシモンが、まるで初めから存在しなかったみたいに姿を消していた。


「これは……」


 驚愕の表情を浮かべ、呆然と呟くライネス。
 ぎゅっとされた状態でやがて徐々に我に返り、シモンが消えた…いや、誰かにどこかへ連れ去られたという事実を察して、すっと顔が青褪めた。


「し、しもん…、……っ?」


 その時、ふと背中にどっと重荷がかかる。ライネスの声も呼吸の動きも、何一つ前触れめいた予感は無かった。

 背後から力を失った誰かが覆い被さってきたみたいな、そんな感覚にゆっくりと振り返る。
 少し体を動かした瞬間、背後に覆い被さっていた何かがドサッと床に倒れた。

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