余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

文字の大きさ
144 / 423
【聖者の薔薇園-プロローグ】

188.異変

しおりを挟む
 

「こちらもお似合いになるかと!!」

「いいえこちらの方がっ」

「いえいえこちらの方がッ!!」


 帝都、貴族御用達の仕立て屋。ライネスの指示で全ての衣装が奥から引っ張り出され、真ん中に立った僕はあっちこっちから衣装を当てられあわあわしていた。

 黒や白や鮮やかな赤や青まで。女の子が着るようなふわっと広がったスカートを当てられた時は流石にぷくっと怒って「僕、おとこのこ」としっかり教えてあげた。
 まったく、ぷんぷん。女の子に間違われるなんて。ちょっとだけ平均よりも、ほんのちょっぴりだけ小さいだけで、筋肉むきむき、中身も賢いお兄さん。かわいいじゃなくかっこいいが似合うひとなのに。

 そんなこんなでぷんぷんしつつふぁっしょんしょーをしていると、不意に正面のソファにゆったり腰掛けてじーっと僕のしょーを見つめていたライネスが声を上げた。


「ブローチも付けよう。宝石は金色のもので。それと、黒生地の衣装は全て買うから包んでくれるかな」


 ライネスの一声に店員さん達がぴたっと硬直する。黒生地の衣装を纏う僕とライネスを交互に見つめると、やがてハッとしたように頬を染めて立ち上がった。
 二手に分かれて服を包む係とブローチを用意する係がそれぞれ動く。さささーっと奥に下がってすぱぱっとブローチをかき集めて戻ってきたブローチ係、この短時間でたくさんあるブローチの中から金色のものだけ集めて持ってくるなんて…なかなか凄腕の店員さん達だ。

 こそこそひそひそと話しながら結局全てのブローチを購入したらしいライネスは、しょーをしていた僕よりもやりきった顔をして息を吐いた。


「さぁフェリ。そのお洋服のまま、一緒にチーズケーキでも食べに行こうか」

「……!チーズケーキ!たべる!」


 わーいわーいとぴょんぴょん跳ねる。ライネスと手を繋いで中央から離れると、背後から店員さん達のとっても力と心が籠った「ありがとうございました!!」が聞こえてきた。





 * * *





「フェリアル様!お洋服は買えましたか?」

「うむ。これ、かっこいい」

「……すごい。独占欲の塊みたいな色合いですね…」


 仕立て屋さんを出て入り口で護衛をしていたシモンに答えると、思っていたものとは違う反応が返されて困惑した。
 おかしいな…いつものシモンならすぐに『素敵です天才ですお似合いです!!』くらい言いそうなものだけれど。このお洋服、似合っていなかったのかな…。

 しょぼぼんする僕を見て何かを察したのか、シモンはふとハッとした様子であわあわ手を振った。


「とってもお似合いです!ちょっと男の醜い欲望が見え隠れしていたもので呆然としてしまいました!ごめんなさい!」

「む…?うむ、だいじょぶ」


 よくわからないけれど、何か嫌なものが見えてしまったらしいと同情する。お祓いのために、このお洋服は今日のうちにごしごし洗っておかないと。シモンが元気を無くしてしょぼぼんしちゃうのはだめだから。


「シモン。シモンも、チーズケーキたべる」

「わー!俺も良いんですか!嬉しいですありがとうございます!!」

「うむ。はっ!ライネス、シモン一緒…」

「構わないよ。こうなるだろうなとは思っていたから。うん。フェリとシモンはセットだもんね」


 にこにこと全てを悟った神様みたいな顔をするライネス。何でも全部受け止めますーみたいな表情だ。
 それを聞いたシモンが意外そうな表情を浮かべたことには気付かず、僕はライネスの言葉にぷるぷる震えて感動していた。ライネスやさしい。

 むぎゅ、と抱きついてライネスのお腹にうりうり顔を埋める。やっぱりライネスは大好きな友達だ。大好きな友達にはぎゅーしていいはず。
 思えば初めて会った時から闇属性というだけでシモンをバカにすることもなかったし、今だってすごく優しい。


「ありがとライネス」


 ふにゃりと頬が緩む。
 ライネスとは、ずっとずっと仲良しでいたいな。ぎゅーも抱っこも、全部できたままがいいな。


「その代わり、次に大公家に遊びに来たら二人きりでお菓子を食べようね?」

「むっ。うむ!」


 ひそひそと耳元で囁いたライネスにこくこく頷く。
 二人きりじゃないと話せないこともあるだろうし、僕もライネスと二人でお菓子もぐもぐしたい。もちろんいいよとこくこくすると、ライネスは嬉しそうに微笑んだ。


「それじゃあ行こうか。美味しいチーズケーキがあるお店、貸し切りで予約しているから」

「あ、こうなること決まってたんですね。初めからフェリアル様とチーズケーキを食べるつもりで…」

「うん?もちろん。フェリと外出するならまずはチーズケーキが売られている店を確認、ってこれフェリデートの常識だからね」


 きょとんライネスと呆れ顔シモン。なんだか楽しそうにお話しているなぁ、と思いながらもライネスと繋いだ手を無言でちょんちょん引っ張る。
 はっとして「さっ、行こうか」とにこやかに言うライネスに、わくわくそわそわしながら何度も頷いたその直後。


「……?」


 ふと、微かな違和感を覚えて振り返る。視線の先には表通りを歩く人々の雑踏ばかりで、怪しい気配は何もない。
 数秒きょろきょろして、やがて気のせいかとぱちくりしながら視線を戻した。僕の一連の動きを見ていたらしい二人が心配そうに声をかけてくるのを、全て「なんでもない」で返してふにゃりと微笑んだ。

 気を取り直してと歩みを再開しようとした時、今度はシモンが一瞬くらりとよろめいたことで目を見開く。


「だいじょぶ…?」

「えぇ、大丈夫ですよ。すみません…何だか、ここに来てから少し頭がぼーっとしていて…おかしいですね、こんな軟弱な体ではないはずなんですが…」


 額をそっと指先で抑えるシモン。確かに、少し顔も青褪めているように見える。
 どうしようどうしようあわあわと混乱していると、僕を宥めるようにひょいっと抱き上げたライネスが冷静に語った。


「人酔いかな。シモンはずっと外で待機していたからね、早く店に行って飲み物でも飲もうか」

「む…!うむ。シモン、きゅーしゅつする!」


 はよう店にゆかねば!ぴしっと表通りの先を指さすと、ライネスがにこっと笑って「お店こっちだよ」と逆方向を指さした。

しおりを挟む
感想 1,721

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。