余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

194.こわかった

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 詳しい話をする為にと、とりあえず一旦落ち着いて場所移動。
 お兄さんにはまだまだ聞きたい事があるからと語るトラードの横で「処分…」と何故かお兄さんを処分したい衝動を抱えるローズがうずうずしていた。

 ふかふかベッドに腰掛けるライネス。その膝の上にちょこんと座って後ろからむぎゅっとされながら、地面に正座するむっつり神官お兄さんを見下ろす。
 そんなお兄さんの正面に、前世何かのドラマで見た借金取りの如く仁王立ちする暗殺者二人。状況だけ傍から見れば、何だかとっても怖い状況である。

 お兄さんは顔を上げ、たらたら…と冷や汗を流しながら、両手をもみもみ擦ってへにゃあと笑った。


「えぇっと…もしかして私、このあと殺されちゃいます…?」

「ったりめーだろアホ」


 呆れ顔で吐き捨てるトラード。容赦ないでござる…。
 ころす…そうなの…?流石にそこまでしないよねと顔を上げると、ライネスににこっと笑顔を返された。否定しないということは…いや、肯定もしていないからだいじょぶだいじょぶ。


「えぇ何でですかぁ!ちょっと魔が差しただけじゃないですかぁ!」

「殺す」

「落ち着けローズ。気持ちはマジで分かるが抑えろ。殺るのは今じゃない」


 くねくねと体を揺らすお兄さんにローズが、侮蔑だとかそんな言葉では言い表せないあらゆる怨念が籠った視線を向けた。
 すぐにでもお兄さんを刺し殺そうなローズをトラードが渋々止めて、むーっと反省していなさそうなお兄さんに向き直る。


「おいお前。さっき光属性じゃねぇどうのこうの言ってただろ。それ詳しく吐け。神官だってのに光属性じゃねーってどういうことだよ」


 真剣な表情で問い掛けるトラード。処分を後回しにしていたのはこういうことか、とふむふむ納得した。その件については僕も気になっていたところだ。

 神官だというのに光属性ではない。その上、神殿に属しているのにマーテルを愛していない…つまり、魅了の影響を受けていない人物。
 何よりどうして僕をゆーかいしたのかとか、色々知りたいことはたくさんある。そしてそのほとんどが、恐らくお兄さんしか知らない内容だから。
 だから、トラードは衝動的なローズを止めたのだろう。


「……それ、気になるんですか?そんなに?」


 ちらちらとトラードを見上げながらぼそぼそ問うお兄さん。それに訝しげな顔で頷いたトラードに、見間違えでなければお兄さんがキランッと瞳を輝かせた。


「うーん、そうですねぇ。じゃあ取引ということで!私を助けてくれるなら教えてあげますよ!」


 えっへん、と宣言するお兄さん。その言葉に室内の空気が凍り付く。
 流石のトラードも軽蔑やら憎悪やらが籠った瞳でお兄さんを見下ろし、ローズは最早殺気を隠さずナイフを構えている。ライネスはにっこり笑顔だけれど、目が笑っていなかった。

 僕も、ちょっぴりだけぞわぞわーっとしてしまう。体の向きを変えてライネスにむぎゅーっと抱き着くと、すぐにぎゅっと抱き締め返された。


「……まぁまぁ。そんなことよりも、さ。君達、一番大事な過程をすっぽかしてるよ。取引とかはその後だと思うんだけど」


 沈黙を破ったのはライネスだった。静かに、けれど何処か冷酷な色を含んだ声がひんやりと響き渡る。

 ローズとトラードがきょとんと振り返り、僕もぱちくりと丸い目を瞬く。にっこりライネスが続けた言葉に、胸がじーんとなってそういえばと思い出した。


「クズ神官。フェリへの謝罪と土下座が何より先でしょ。加害者が懺悔より先に自己保身を語る姿を見ることほど気味の悪い苦痛は無いんだけれど」


 状況への混乱と、こんな時だからこそ気丈でなければという無意識の虚勢。そのせいで自分でも忘れかけていた。
 微かに震える体を、ライネスだけは気付いてくれていたのだろうか。いっそ苦しいくらいぎゅっと抱き締めてくる理由が震えを宥める為だということを、その時初めて理解した。

 自覚するともう止まらなくて、零れる小さな嗚咽のままにライネスに擦り寄る。ぽろりと滲む涙でライネスの綺麗な服を汚したくなくて少し離れると、そんなことは許さないとばかりに腕の中に引き戻された。


「怖かったねフェリ。フェリは優しいから、あんなクズでも罪悪感を抱かないようにって遠慮してたんだよね」

「っ…ぅ…ぁ」

「泣いてもいいんだよ。悪いのはこのクズだし、事態を未然に防ぐことが出来なかった私でもある。けど、フェリの所為だなんてことは絶対にないんだから」


 そう言われ優しく頭を撫でられると、へにゃあと涙腺がゆるゆるになって涙が止まらなくなってしまった。ぽろぽろと涙を零して、嗚咽を漏らして、とにかくライネスにむぎゅむぎゅうりうりとひっつく。今この場で安心できる場所は、ライネスの腕の中だけだから。


「こわ…かったぁ…」


 涙で顔をふにゃふにゃに濡らして、嗚咽も全部吐き出しながら何とか口にした本音。お兄さんに触れられた箇所が今になってじんじん疼いてきて、ぎゅうっと自分の体を抱き締める。
 太腿も腰も全部じんじんする。特に足がぷるぷる震えて、けれどライネスの体にぐっと巻き付けてくっつくと、その震えも幾分収まった。

 僅かに振り返った先で、呆然とするローズとトラード。そしてお兄さんの表情がちらりと見える。
 お兄さんはようやく事態を理解したみたいな蒼白顔で、不意にひゅっと息を吞んだ。

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