153 / 423
【聖者の薔薇園-プロローグ】
197.騎士団と甥っ子
しおりを挟む「フェリちゃんはどっちがいい?」
トラードから与えられた選択肢。お兄さんの処罰をローズ達に任せるか、今向かって来ている騎士団に任せるか。
騎士団なら帝国法に則って正当な処罰を下すだろうけれど、違法に裁けるローズ達ならどんな処罰でも出来る。普通なら正当な順序を踏むべきだから、騎士団に任せた方が良いのだろうけれど…。
気になるのは、その後お兄さんからマーテルのことやら何やらを聞き出せるのかどうかということ。お兄さんが持つ情報はきっと、マーテルを倒そうとしている僕達の目的の役に立つ。
けれど、お兄さんが騎士団に捕まってしまえばそれは叶わなくなるかもしれない。
「うぅむ…らいねす…」
困ったときのシモン頼み…は今出来ないから、今回はライネスに縋った視線を向けてみる。
ライネスは「ぐっ」と呻いて胸を抑え、きょとんとする僕にふわりと優しい笑顔を浮かべてくれた。
「うーん…個人的な感情では私がクズ神官の拷問を担いたいくらいだけど…でも、法に任せても問題は無いと思うよ」
「隠蔽とかされねーか?腐ってもコイツ、神官だし。神殿が何か卑怯なことしたら…」
「公爵家の令息に手を出しておいて、隠蔽も何も無いでしょ。何より証人に私が名乗り出るんだからね、神殿に余計な事はさせないよ」
にこっと笑うライネスに、トラードは「おう…確かに…」と呟いた。
確かにそうだと、僕も納得。そういえば僕、公爵令息というれっきとした貴族だものねとふむふむ頷いた。皇室と深い関係を築いている神殿だから不安はあるけれど、流石に公爵家を陥れることは容易ではなさそうだ。
でも…それならやっぱり、不安は一つだ。お兄さんが持っているマーテルの情報、騎士団に捕らわれた後に果たしてそれを聞き出せるのかどうか。
せっかくの有力な情報をここで手放してしまえば、きっとみんながっくしする。魔塔のみんなにもパパにも、良い情報を渡せるかもしれないのに。
なんてことをぐるぐる考え込んでいると、ふとライネスにほっぺを柔く摘ままれた。
ふくふく、と触れられきょとんと顔を上げると、穏やかに弧を描いた瞳に見つめられてぴたりと固まる。
「フェリ。また優しいこと考えてるでしょ?大方、このクズ神官の情報を手放すのが惜しいって所かな。私達ががっかりすると思ってる?」
「むっ…」
全て見透かされている。
びくっとすると、ライネスは窘めるみたいにほっぺをむにゅーっと強く伸ばした。にっこり笑顔にぷるぷる体が震えて、むにゅーっと伸びたほっぺのままむぐむぐと答える。
「むぅ…じょーほー…みんにゃ、ほしぃ…」
「確かに情報は欲しいね。でも一番大事なのはフェリだから、それ以外は全部二の次だよ。この件に神殿が関わっているなら、根本まで全て引き摺り出さなきゃ」
心なしか、ライネスの笑顔が段々黒くなっているような気がするのは気のせいだろうか…。
いっそ不自然に感じる満面の笑顔のライネスを見て、ローズとトラードが若干引いたような表情を浮かべたのが分かった。
「元々神殿は目障りだったから丁度良い。これで大義名分が出来た」
そう言ったライネスが浮かべた仄暗い不敵な笑みは、以前パパが見せたものとそっくりだった。
* * *
半ばライネスに誘導されるようにして答えを出した後、ローズとトラードは「ギルドの方は任せろ」と言い放って崩れた壁から塔を出て行った。ギルドって、一体何の話だろう。
はてなを浮かべたけれど、詳しく聞く時間もなさそうなので口を噤んだ。その時にはもう、たくさんの足音が階下からこの部屋に近付いてきていたから。
ぐったりと倒れるお兄さんを「起きろクズ神官」と乱暴に蹴り起こしたライネスの姿には、いつもの優しい貴族の雰囲気が一切感じられなかった。
「あわ、なんですか何事ですかっ!ぐえっ!!」
「喧しい。直ぐに騎士団が来るからさっさと起きろ」
「え、えぇっ!騎士団!?私捕まっちゃうんですか!」
「当然でしょ。この期に及んで取引とか舐めた事言ったら殺すよ」
ぷるぷる。お兄さんと一緒にぷるぷる体を震わせた。ライネスがパパ化している…。
お兄さんの髪をがしっと乱暴に鷲掴んで無理やり頭を持ち上げると、ライネスは魔王みたいな真っ黒いオーラを纏って低く告げた。
「お前、運が良いね。騎士団の尋問なら、流石に四肢切断も火炙りも許されないだろうから」
「へ……」
「……とは言え先の事は分からない。君が投獄中に不慮の事故に合わないことを祈るよ」
事故の心配をしている…?なーんだ、パパ化したわけじゃなかったみたい。
やっぱりライネスはいつでも優しいライネスのまま。黒いオーラも気のせいだったのねよきよきとほくほく。心配されて嬉しいはずなのに、お兄さんが顔を蒼白させているのは何故なのだろうと不思議に思った。
静かに震えるお兄さんから手を離し、ライネスがふと立ち上がる。それと同時に扉がばーん!と開かれた。
「……んぁ?フェリアル?」
騎士団だ!手を挙げろ!くらい言われると思っていたけれど。実際初めに部屋に響いたのは、どこか楽観的で悠長な、けれど大人の余裕を感じる声だった。
ライネスの表情が驚愕に染まったことに少し不安を抱きながら恐る恐る振り返る。
そこに立っていたのは数人の騎士を背に引き連れたがっしりとした巨躯の男性。僕の身長を優に超えた大剣を背負った、金髪オールバックと瑠璃色の瞳の野性味溢れる騎士。
見覚えがないはずなのに、それでもなんだか、彼に言葉にできない懐かしさを感じて首を傾げた。
「おめぇフェリアルだよなぁ!?あんなちびっ子がこんなでかく…でかっ…?いや、でかくはなってねぇか…?ちっこいままだな。ちっこいままだ」
「がーん…!!」
初対面のはずなのに、ちびっこだのちっこいだのと散々な言いようをされてしまった。
がっくしと肩を落としてめそめそ縋り付くと、ライネスは当然のようにぽんぽん撫でて慰めてくれた。やさしい。
「そんでおめぇは…フレデリックんとこの悪餓鬼か!!ライオンとかいったか?おめぇはでかくなったなぁ!!」
「ライネスです」
ぴしっと額に青筋を浮かべてすかさず訂正するライネス。にっこり笑顔だけれど、これまた目が笑っていない…。
ぱちくりしつつライネスに「だれ…?」と耳元で小さく問い掛ける。彼は…と口を開きかけたライネスの言葉を遮るように、陽気な雰囲気を纏った巨躯の騎士が声を上げた。
「アイツはまだ寝たきりか?呪いで死にかけてらぁって聞いたが!」
「父上ならとっくに呪いを解いて前線に復帰していますよ。いつの話してるんですか。それ今更父上の前で言ったら首飛びますからね」
熱気溢れる騎士と淡白なライネス。二人は知り合いなのかな、と首を傾げる。
やがて扉付近にいた数人の騎士の一人が遠慮がちに前へ出て、ガハハと豪快に笑いながら世間話を繰り広げるオールバックの騎士に何やら耳打ちした。
「団長…そろそろ状況の把握を…」
「んぁ?あぁそうだな!!わりぃわりぃ!可愛い甥っ子に会えたのが嬉しくってなぁ!!」
甥っ子?はてと瞬いてぴこーんと頷く。
なるほどなっとく。彼はライネスのおじさんなのかそうなのかーとふむふむして、やがてぴたりと動きを止めた。
む…?ライネスのおじさん、どうして僕を見つめているのだろう。
490
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。