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【聖者の薔薇園-プロローグ】
200.繋がる影
しおりを挟む「申し訳ございませんフェリアル様。公子とは絶対に引き離すなと命じたのですが、どうやら部下に誤った指示が伝わっていたようでして…」
「す、すみません令息っ!とんでもないミスをっ…!!」
とっても申し訳なさそうに頭を下げる眼鏡くいっ副官さんと、青褪めた顔色の尋問担当騎士さん。
刑事役からしぶしぶ容疑者役に戻り、ぽすっとソファに座る僕に二人は未だ頭を深々と下げたまま。そんなに落ち込まなくても…と思い尋問騎士さんの肩をぽんぽん叩いた。
よきよきでござるよ。きみとはよき勝負であったでござる。またお手合わせねがいたいものでござるな、ふむふむ。
「よき。僕、たったひとつのしんじつみぬく。体は子ども、ずのーは大人。その名も名探偵ふぇりある。めーたんてーの僕に任せるでござる」
「……??この子は一体何を…?」
「あ、実はさっきからこんな感じなんです。たぶん、過度な恐怖を感じた所為で混乱しているのかと…」
「なんと…それは惨いですね…あのクズ神官には必ずや相応の罰を下さなければ」
何やらとっても重々しい空気で真剣に語り合う二人。今度は二人で作戦会議じゃろか。ふふん、何度やったって結果は同じでござるよ。
ふんすっとソファに座ってゆらゆら揺れていると、不意によっこらせと抱き上げられてむぎゅっとされてしまった。完全に膝抱っこである。ソファにライネスが腰掛け、僕はその上にぽすっと収まっている状態だ。
ぷらんぷらんと足を揺らしていつもよりも高い座高を楽しんでいると、何やら三人が会話をし始めた。ぷらんぷらーん。
「あ、たぶんそれ、おままごとみたいなものだと思いますよ」
「え…おままごと…??」
「えぇ。探偵役が楽しいのかもしれませんね。何かの絵本に影響でもされたのかな、かわいい」
「探偵、役…?」
うりうり、むぎゅむぎゅ。ライネスのぎゅーにほわぁっと力が抜ける。やっぱり安心する。さっきまではちょっぴり体が強張っていたけれど、ライネスが部屋に入ってきた途端びっくりするくらいの安堵が身を包んだのだ。ふわふわって。
うれしくてコアラみたいに抱き着いてしまったけれど、ライネスは嫌な顔ひとつせず、むしろ嬉しそうにふふっと笑ってくれた。やさしい。
「フェリ。フェリは名探偵さんなの?」
「む?うむ!体はこども、ずのーは大人」
「そっかそっかぁ。確かにフェリはとっても賢いお兄さんだものね。ちっちゃくても中身はおっきなお兄さんだよね」
うむうむ。わかっとるではないかとこくこく頷く。そう、確かに僕はちょっぴり、ほんのちょっぴりだけちっこいかもしれない。けれど中身までちっこいだなんて言わせない。ちなみに、体もそんなにちっこくないよ。おっきいよ、ぷんぷん。
とにかく、僕がおっきな心とかっこいい頭脳を持っているのは間違いなく事実。だから僕は、子供の体でたったひとつのしんじつをみぬくのでござる。
ぴしっと姿勢を正して尋問騎士さんと眼鏡くいっ副官さんを見据える。かっこいいむーでぃーな大人を演じつつ、ふっと語った。
「なんでもききたまえ。わしていどになると、しらぬものなどそんざいせんからのー。ふぉっふぉ」
「…!今です!"物語の重要な真実を語ってくれる謎の老人B"を演じ始めた今がチャンスですよ!」
「えっ!はっ、はい!!」
「確かに推理小説に稀にいますね、仙人みたいな立場の謎モブ…」
このせかいにはにしゅるいのにんげんがおる。わしか、わしいがいか…。
ふぉっふぉ。エア杖ぽすぽす。エアひげふさふさ。
何やら新人らしき主人公きしさんから繰り出される「事件の顛末を教えていただけますか…?」という神妙な問いに、まかせたまえふぉっふぉと頷いた。
わしにわからぬものなどない。もちろんあのじけんについてもよくしっているでござるよふぉっふぉ。
聞かれるままにすらすら答え、どうじゃすごいじゃろとどどやぁする。ライネスがぱちぱち拍手してくれるのを見てふふんと胸を張った。
「ぼくにとけない謎はないのである。じっちゃんのなにかけて」
「ふふ、今度は探偵かな。ころころ変わってかわいすぎるなぁ、ぎゅーしちゃう」
尋問しゅーりょー。これにてフェリアル少年のじけんぼ、完…でござる。
むぎゅむぎゅ。ライネスのむぎゅむぎゅに応えつつむふふと頬を緩めて、足ぷらんぷらんを再開する。とっても楽しい尋問であった。結局かつどんが来なかったことだけが心残りだけれど。
ぎゅっぎゅしながら足ぷらんぷらん。ぽかぽか堪能。えへへ、あったかしあわせ。ふにゃふにゃ。
「あの、もう少しだけ時間かかりますんで、良ければお菓子でも…」
「おかし!」
「うんうん、お菓子良かったねぇ。ありがとうございます、頂きますね」
「いただきます。ありがとございます」
お礼言えてえらい、とライネスによしよし撫でられる。ありがとうは当然のお返事、もちろんきちんと言うに決まっているでござるよ、ふふん。
そっとテーブルに置かれたのはクッキーやらマドレーヌやらが入った小さな籠。
クッキーを手に取りぽりぽりもぐもぐしていると、後ろから伸びてきた手がむにゅっとほっぺを摘まんで控えめに伸ばした。もぐもぐ中だから遠慮しているのかも。もっとむにゅーっと伸ばしても全然大丈夫なのに。
「ん、ふふ…リスみたい…かわいい…」
「むぐむぐ、もぐもぐ」
うりうりむぎゅむぎゅ。なぜだろう、心なしかさっきよりもむぎゅむぎゅ具合が激しくなっている気がする。うーん、気のせいかな。むぎゅむぎゅが激しいのはいつものことか。
少しだけお待ちください!と慌ただしく出て行った尋問騎士さんと、別の件があるとかですたすたクールに出て行った眼鏡くいっ副官さん。
ちょっとだけと言っていたので、食べすぎないようきちんと一つずつお菓子を食べていく。もぐもぐ、うまし。
「もぐ、むぐ……む??」
「うん?フェリ、どうかした?」
ふと、ピリッと感じた確かな気配。
思わず手から零れ落ちた食べかけのクッキー。それをタイミングよくナイスキャッチしたライネスが、特に何か言うわけでもなく普通にあむっと食べた。
どうしてちょっとだけ頬を染めているのだろう。何がそんなにてれてれなのだろう。
そんな疑問を抱えながらも、気を何とか逸らして気配に集中する。
……やっぱり。その気配の正体を察した時、ぶわわっと涙腺がゆるゆるになってしまった。
「シモンいきてる…!シモンと繋がった…!」
ライネスの膝からぴょんっと降りて、すかさず足元の影にぺたりと張り付いた。
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