余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

文字の大きさ
166 / 423
【聖者の薔薇園-プロローグ】

207.侍従と暗殺者(トラードside)

しおりを挟む
 

「……何の用だ。番犬」


 番犬て…と呆れ顔を向けるが、相棒は至って無感情のままフェリちゃんの侍従を見据える。
 確かに番犬とかいう呼び名は似合う。似合うが、この中ではその犬耳ついてる変な男の方が似合うのではとも思ってしまう。ていうか、マジでなにあの犬男。

 わざわざシュタイン伯爵邸にまでやって来たシモンと犬男。
 一体どんな用件だと悩んだのは一瞬で、直ぐに心当たりが思い浮かんだ。主ガチ勢のこの侍従が怒りを滲ませて訪れる理由なんて、フェリちゃんの拉致騒ぎに関すること以外有り得ないか。
 ローズもその辺は分かっているのだろうが、礼を尽くさない相手に合わせる義務はねぇと言わんばかりの堂々っぷりだ。要するに説明しろということだろう。


「単刀直入に聞きますが、貴方なら騎士団本部の地下牢に潜入することが出来ますか」


 本当に直球だな…。思わず苦笑が零れた俺とは違い、ローズは未だ無表情のままだ。せめて笑えよ、顔怖いから。

 大方、地下牢に投獄されている例の変態神官をボコしに行こうとしているのだろう。フェリちゃんが絡むと基本倫理観を失うこの侍従のことだから、正当な裁きなどクソくらえと思っている可能性大だ。
 本当に、どうしてあんなに純粋無垢な天使みたいな子の周りには心の穢れた悪魔共ばかりが集まるのか。そこが以前から甚だ疑問だ。
 白には白が集まり、黒には黒が群れる。物事はそうなるようになっているとばかり思っていたが、どうやら世界は思っているよりも単純ではないらしい。


「俺に潜入出来ない場所など無いが、それがどうした」


 すっげー自信だなオイ、とは思うが事実なので何とも言えない。事実、ローズが潜入に失敗したことは一度も無いのだ。

 シモンがローズの言葉に顔を歪める。憎悪やら怒りやら、人間の負の感情を全て集めればコイツになるんじゃないかと思う程のドス黒いオーラを纏ってシモンが答えた。


「未遂という罪状で重罰が下されるとは思えない。少なくとも俺はそう思うんですが、貴方はどうです?」

「……質問の意図が分からんが。未遂で重罰は下されないというのは、その通りだろうな」

「えぇ。俺はそれが許せないんです」


 食い気味に頷くシモンにローズが目を細める。
 それにしても、さっきから視界にちょこまか映る犬男が絶妙に邪魔だ。孤児院の家族達の遊び相手になる時によく使う小さなボール。冗談半分でそれを部屋の隅に投げると、犬男は一瞬瞳を輝かせてボールの元へ走っていった。どうやらマジモンの犬らしい。
 この侍従、またどういう経緯でこんな変なモン拾ってきたんだとは思うが長話になりそうなので聞くのは諦めた。個人的に超気になるので後で犬に聞いてみよう。


「貴方の力を借りたいんです。潜入する所までで構いません、引き受けてくれませんか」


 律儀にボールを渡しに来てくれた犬を反射的にわしゃわしゃ撫でてしまいハッとする。俺としたことが、何故か犬耳を見ると無意識に手が伸びてしまう現象、一体なんなんだこの野郎。ちょっと悔しい。

 ぐぬぬと一人悔しさに悶えつつ振り返る。割と図々しい要望を口にするシモンとそれを聞いて黙り込むローズ。相棒は一体どんな答えを出すのかと半ば他人事感覚で様子を窺っていると、やがてローズが浅い溜め息を吐いて頷いた。


「良いだろう。だが勝手なことを言うな。引き受けた以上、最後まで付き合ってやる」

「ローズさん…!」


 シモンはなんか感激した様子だが、騙されるな。うちの相棒、たぶん個人的なアレで神官をボコしたいだけだから。顔に出ないだけで、ローズって結構フェリちゃんに入れ込んでるから。
 嫌悪感の湧かない貴族。自分を怖がらない子供。あまつさえ俺に堂々と説教かますような子だ、基本物事には無関心を貫くローズでさえ関心を抱くのは不思議じゃない。
 無関心が基本なローズだからこそ、コイツは結構鈍感だ。他人の感情に疎いローズは、当然自分の感情にも疎い。

 どんな形であろうと、ローズが自分なりに自覚を持ってフェリちゃんを『家族』として認めているのは間違いないだろう。


「身内に手を出した代償は払って貰う。信条を果たす為に」


 素直にフェリちゃんに手出した馬鹿が許せねぇって言えよ。とは思ったが口には出さなかった。
 文句つけるとすぐ殴ってくるからなこの暴君。


「トラード。決行は今夜だ」

「はいはい…リュウに伝えとくよ」


 現場の下調べには情報屋であるリュウが欠かせない。分かっていても多少の苛立ちが湧くのは止められない。
 今回の戦犯とも言えるリュウはお咎めなし、というのは気に食わないが。まぁローズのことだからその辺の代償はリュウからしっかり貰っているはずだ。
 リュウほど実力のある情報屋も珍しい。リュウを消せば俺達の任務にも弊害が出る。それをリュウ自身も理解しているかこそ、今回ローズを敵に回すような真似に手を出せたのだろう。

 それに、流石のローズも今回の件については裏の人間として負い目を感じているらしい。
 今後フェリちゃんに関わる情報を誰かに要求されたら、その依頼主が出す額の倍を払う。その代わりリュウはフェリちゃんの情報の一切をローズ以外に売らない。そんな痛手しかない契約をリュウと結んだようだ。
 そして全て事後報告。せめてリュウとの契約は俺に相談してからやってほしかったものだ。ローズの突発的な行動は今に始まったことじゃないが。


「おい番犬。今回の件、双子と皇太子には報告するのか」


 ふとローズが問い掛ける。どうやらそのつもりなら、学園にいる過保護組に情報を届けてやってもいいと言っているらしい。俺がディラン君にしでかしたことの貸し借りのつもりなのだろう。いやはや申し訳ない。


「……いえ。フェリアル様が望んでいないので」

「え。そりゃまたどうして」


 普通の貴族令息なら兄貴共と権力者の友人に泣き付くと思うが…なんて途中まで考えて自分に呆れた。あの善意の塊みたいな子が、自分の為の選択をするとは思えない。
 兄貴達への報告を避けたのも、きっと何か他人優先の考えがあってのことなのだろう。そう思い聞き返すと、案の定の答えが返ってきた。


「以前の二の舞は迷惑になってしまうからと…。ただでさえあのお三方は出席日数も危うく、高等部最後の一年なので。遠慮しているんだと思います」

「えぇ…レイプ未遂にあった子供だろ?こういう時こそ兄貴達に慰めて貰えばいいのに…」


 年齢の割に幼い容姿に言葉遣い。幼稚なのかと思えば、思考は案外大人寄り。
 極度の遠慮も気遣いも、あの年の子供では出来ないようなことばかりをするあの子。幼い言動で忘れがちだが、フェリちゃんが過酷な前世の記憶持ちという事実は変わらない。
 何も悩みなんてありませんみたいなぽやぽや具合のくせに、あれでかなり闇深い訳ありの子なのだから恐ろしい。

 あの幼気な言動の裏に、一体どれほどの悲痛と絶望を隠しているというのか。


「だからこそ…です。やるなと言われたらやりません。ですが、フェリアル様は何も言わない。だから、俺も何も言わずに屑を処分するんです」


 何でもかんでも共有して分け合って。そんな典型的な依存関係を拗らせているだけだと思っていたが。どうやらこの二人の関係は想像以上に歪んでいるようだ。
 拗れているわけじゃない。歪んでいる状態が正しいのだ。こういう世界に生きているから、歪んだ関係への理解はそれなりにあるが、ここまで正しく歪んでいるのもまた珍しい。


「俺もボコします!!」

「うおっビビった」


 急に吠えるなよ。ビビるだろうが。
 思わず犬男をぶっ叩きながら声を上げる。俺も大概ローズのこと言えないな。反射的に手が出る癖、いい加減表で過ごしている時くらいは直したいんだが。

 とりあえず犬男から距離を取りつつ溜め息を吐くと、シモンが今思い出したと言わんばかりの表情で犬男を見据えて呆れ顔を浮かべた。この嫌そうな表情を見る限り、少なくともシモンは犬男のことを好いてはいないようだ。


「あぁはいはい。その前にあなたがボコされてくださいね。言っときますけど俺、別にあなたのこと許した訳じゃないんで。勘違いしないでください」

「あふっ……」


 シモンは辛辣に吐き捨てる。しかしどうも犬には効いていないらしいが大丈夫だろうか。
 喘ぐ犬を足蹴にする様が任務中の冷酷暴君なローズと僅かに重なり、思わず少しだけ背筋が凍った。

しおりを挟む
感想 1,721

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。