余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

208.新しい侍従

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 ライネスが帰った後は疲労困憊だったので、シモンが戻ってくるよりも早くにぐーすか眠ってしまった。翌朝起きた時、いつもと変わらないシモンのおはようが聞けて安心したけれど…心なしかシモンが妙に上機嫌に見えたのは気のせいだろうか。
 騎士団本部の地下牢で何やら暴行事件なるものが起きたという噂が広がったり、あの日以降少しだけ妙な事が騎士団周辺で起こったりもしたらしいけれど。

 その後は特に何かが起こることもなく。しばらく日が経った頃、ふとそれは訪れた。



「侍従、ふやす?」



 きょとん。蒼白するシモンを背後に首を傾げて聞き返す。
 部屋にやってきた侍従長が頷き、お父様の命で侍従を増やすことになったと説明してくれた。どうやら僕があまりにも問題を起こすせいで、護衛の負担が重くなってしまったようだ。もうしわけないでござる…。

 新しい侍従については、募集で集まった人の中から厳正な身元調査や試験を経て既に決定したらしい。僕はともかく、シモンにすら全て決まった後に報告するなんて。お父様は策士だなぁとふすふすしてしまった。侍従ふやすよーと言ってもシモンはそう簡単には納得しないだろうから。
 今にも暴れ出しそうなシモンをどうどう宥めて、侍従長に報告ありがとねーとお礼を伝える。仕事に戻りますのでとキリッとした様子で部屋を出ていく侍従長をさらばと見送り、忙しなく室内を歩き回ってそわそわ。

 新しい侍従さんはもうすぐ来るらしいので、わくわくしながら扉の前にぴしっと待機。
 どんな人が来るのかなーわくわくと瞳を輝かせていると、不意に背後からおーんおーんと泣き声が聞こえてきてぎょっと振り返った。


「シモン?どしたの?」

「うっ…うぅッ…!俺だけじゃダメなんですかぁ!そんなに頼りないですかぁ!!」

「あわわ」


 どうしよう。シモンが号泣シモンになってしまった。また何かだめなことを言ってしまったみたいだ、はんせい…。

 あわわと駆け寄ってシモンをむぎゅー。うりうりむぎゅむぎゅして「シモンすき。よしよし」といい子いい子してあげると、徐々に号泣が収まっていった。よきよき。
 僕の髪に顔を埋めて何やらすんすん匂いを嗅ぐシモン。ちょっぴり恥ずかしいけれどぐっと我慢。シモンはしょぼぼんしている時、僕の匂いを嗅ぐと何故か上機嫌に戻るから。だから恥ずかしくてもぐっと堪えて、沈んだ気分を持ち直したシモンを見てよきよきするのだ。

 案の定機嫌を直したシモンはにっこり顔を上げて「赤ちゃんの匂い…」と満足げに呟いて体を離した。いつものことだけれど、今日もシモンの発言はよくわからない。


「シモン元気。よきよき」

「まだちょっとだけ荒れてますけど、なんとか堪えられそうです」


 にこっと穏やかに笑うシモン。よかった、少なくとも新しい侍従さんに当たることはなさそうだとほっと一安心。

 ちょうど廊下から聞こえてきた足音にそわそわ姿勢を正し。再びぴしっと待機。ガチャッと軽快に開いた扉の向こうから、ふわもふっと犬耳が見えてハッとした。
 まさか、と思い硬直する。柔らかい印象の茶髪と、そこから生える犬耳。もふっと部屋に入って来た彼は、にかっと笑顔を浮かべて声を上げた。


「姫の騎士が参りました!!」

「参るな去れ」


 すかさずシモンのドロップキックを食らって「グハァッ!!」と吹っ飛ぶ新たな侍従さん…わんちゃんのグリード。

 なんとか堪えられそうって言ったのに…と思いつつあわあわ二人に駆け寄る。
「あふっ…」とわんちゃんの鳴き声を上げるグリードの尻尾をもふもふ掴みながら、シモンに「めっ!」とお説教した。




 * * *




「改めまして、隣国リーベルタースから来ました!犬獣人のグリードって言いまっす!!よろしくお願いします!!」

「うむ。よろしく」


 あれから完全復活し、みんなちょっぴり落ち着こうと時間を置いてからのご挨拶。
 転校生みたいな挨拶をしてニカッと笑うグリードによろしくねーと頷いてきゅっと握手する。ふむ…手はもふもふじゃないのねしょんぼり…。

 むすっとするシモンをよしよししながら、取り敢えず初日ということでグリードの特技なんかを聞いてみようかなと思案。完全に自己紹介タイムみたいな感じだ。好きなものとか趣味とかを教え合ってもいいかもしれない。


「僕、フェリアル。お花とチーズケーキすき。趣味、おひるねと読書。お庭いじりと、おさんぽ。たまにお絵かき」

「シモン・ロタールです。フェリアル様の唯一無二の侍従です。フェリアル様のほくろの場所に数に大きさ、全て熟知しています。フェリアル様の神聖な寝息を一番多く吸っているのは俺です」


 キリリッ!キラーン!

 二人続けて自己紹介を遂行する。シモンの言葉の内容が所々おかしかったような気がするけれど、いつものことかぁと聞き流した。

 僕達のことちょっとは分かってくれたかなふすふすと顔を上げると、そこにはぷくっと触れ頬のグリードが。どうしたのだろうときょとんすると、グリードはむすっとした声でもごもご口を動かす。
 むむ…?と耳を澄ますと、何だか不満そうな声音がもごもご。


「ずるい…姫のほくろ熟知してるシモン様ずるい…シモン様の肺を寝息で占領してる姫ずるい…」


 ちょっとよくわからないことを呟くグリードにきょとんな困惑が止まらない。
 シモンが思わずといったように発した「お前ヤバいですね」という言葉で辛うじてやばい人だということはわかった。グリードやばいかも。

 ドン引きシモンがやがて長く深い溜め息を吐き、ぷくぷくグリードを面倒くさそうに指さす。やる気のなさそうな声で「お前、何か取り柄とかあるんですか?」と面接っぽい質問を口にした。面接もう終わっているけど。
 それにしてもシモン、さっきからグリードへの扱いがとっても雑になってきているような…。呼び方なんて、あなたじゃなくてお前になってしまっている。もしかしてグリードのこと、本当にわんちゃんだと思っているのかな。


「取り柄…あっ!それなら俺の力について説明しますね!!」

「ちから?闇属性の、ちから?」

「そうですそうです!シモン様が持つ影の力みたいな、そんな感じのやつです!」


 グリードの力。シモンの影を使役する力みたいに、誰もが持っている独自の力。
 人間離れした聴力以外にもあるグリードの強み。知りたい知りたいとわくわくしながら瞳をキラキラ輝かせる。グリードはにかーっと嬉しそうに笑って尻尾をぶんぶん。実際に力を使いながら説明してくれた。


「シモン様の能力と、まぁぶっちゃけ似たようなもんなんですけど」


 グリードが手を翳した場所に箱型の黒い何かが現れる。見た目は黒が入り混じった透明の立方体、これだけ見ても何が何やらという感覚だ。

 シモンと一緒にぱちくり瞬くと、グリードは得意げに笑ってポケットから小さな石を取り出した。何の変哲もない、ただの石を。
 それを何に使うのだろうとまたもやきょとんと首を傾げる。するとグリードは、取り出した石を躊躇なく黒い箱にひょいっと投げ入れた。

 物を保管できる箱なのかなーと呑気に思い浮かべた考えはすぐに打ち消される。箱の中に沈んだ石が徐々に小さくなり、やがてぽつんと消えてしまったのだ。
 まるで、そこには初めから何も無かったかのように。


「いし、きえた!」


 わくわく。未知の力を前に瞳をキラキラさせながら手を伸ばす。黒い箱に触れる直前、グリードがあわわっと慌てたように手を引っ込めた。


「あぁー!触っちゃだめです!これマジで危ないので!」


 危ない、という言葉に反応したシモンがサッと僕を抱き上げる。とっても素早い動きだったので思わずぱちくり瞬いてしまった。
 後ろから抱え込まれてぷらんぷらーんする。そんな僕をむぎゅっと抱っこし直したシモンが呆れ顔に僅かな怒りを滲ませて呟いた。


「危険なものを子供の手の届く範囲で見せびらかさないでください。馬鹿なんですか?」

「あふっ…ごもっとも…」

「侍従と言うか、足手纏いが出来た感覚なのですが。お前本当に役に立つんですか?」

「あふっ!お、お任せくださいシモン様!こう見えて俺、隣国じゃそれなりの実力者として知られてるんですよ!!」

「へぇ。隣国って意外とアホが多いんですね。お前レベルの犬が実力者として認められているなんて」


 何だかとっても辛辣な言葉をシモンが浴びせるものだから、ぐさぐさ攻撃を受けたグリードがあふあふ痙攣しながら地面に伏せてしまった。

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