余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

文字の大きさ
167 / 423
【聖者の薔薇園-プロローグ】

208.新しい侍従

しおりを挟む
 
 ライネスが帰った後は疲労困憊だったので、シモンが戻ってくるよりも早くにぐーすか眠ってしまった。翌朝起きた時、いつもと変わらないシモンのおはようが聞けて安心したけれど…心なしかシモンが妙に上機嫌に見えたのは気のせいだろうか。
 騎士団本部の地下牢で何やら暴行事件なるものが起きたという噂が広がったり、あの日以降少しだけ妙な事が騎士団周辺で起こったりもしたらしいけれど。

 その後は特に何かが起こることもなく。しばらく日が経った頃、ふとそれは訪れた。



「侍従、ふやす?」



 きょとん。蒼白するシモンを背後に首を傾げて聞き返す。
 部屋にやってきた侍従長が頷き、お父様の命で侍従を増やすことになったと説明してくれた。どうやら僕があまりにも問題を起こすせいで、護衛の負担が重くなってしまったようだ。もうしわけないでござる…。

 新しい侍従については、募集で集まった人の中から厳正な身元調査や試験を経て既に決定したらしい。僕はともかく、シモンにすら全て決まった後に報告するなんて。お父様は策士だなぁとふすふすしてしまった。侍従ふやすよーと言ってもシモンはそう簡単には納得しないだろうから。
 今にも暴れ出しそうなシモンをどうどう宥めて、侍従長に報告ありがとねーとお礼を伝える。仕事に戻りますのでとキリッとした様子で部屋を出ていく侍従長をさらばと見送り、忙しなく室内を歩き回ってそわそわ。

 新しい侍従さんはもうすぐ来るらしいので、わくわくしながら扉の前にぴしっと待機。
 どんな人が来るのかなーわくわくと瞳を輝かせていると、不意に背後からおーんおーんと泣き声が聞こえてきてぎょっと振り返った。


「シモン?どしたの?」

「うっ…うぅッ…!俺だけじゃダメなんですかぁ!そんなに頼りないですかぁ!!」

「あわわ」


 どうしよう。シモンが号泣シモンになってしまった。また何かだめなことを言ってしまったみたいだ、はんせい…。

 あわわと駆け寄ってシモンをむぎゅー。うりうりむぎゅむぎゅして「シモンすき。よしよし」といい子いい子してあげると、徐々に号泣が収まっていった。よきよき。
 僕の髪に顔を埋めて何やらすんすん匂いを嗅ぐシモン。ちょっぴり恥ずかしいけれどぐっと我慢。シモンはしょぼぼんしている時、僕の匂いを嗅ぐと何故か上機嫌に戻るから。だから恥ずかしくてもぐっと堪えて、沈んだ気分を持ち直したシモンを見てよきよきするのだ。

 案の定機嫌を直したシモンはにっこり顔を上げて「赤ちゃんの匂い…」と満足げに呟いて体を離した。いつものことだけれど、今日もシモンの発言はよくわからない。


「シモン元気。よきよき」

「まだちょっとだけ荒れてますけど、なんとか堪えられそうです」


 にこっと穏やかに笑うシモン。よかった、少なくとも新しい侍従さんに当たることはなさそうだとほっと一安心。

 ちょうど廊下から聞こえてきた足音にそわそわ姿勢を正し。再びぴしっと待機。ガチャッと軽快に開いた扉の向こうから、ふわもふっと犬耳が見えてハッとした。
 まさか、と思い硬直する。柔らかい印象の茶髪と、そこから生える犬耳。もふっと部屋に入って来た彼は、にかっと笑顔を浮かべて声を上げた。


「姫の騎士が参りました!!」

「参るな去れ」


 すかさずシモンのドロップキックを食らって「グハァッ!!」と吹っ飛ぶ新たな侍従さん…わんちゃんのグリード。

 なんとか堪えられそうって言ったのに…と思いつつあわあわ二人に駆け寄る。
「あふっ…」とわんちゃんの鳴き声を上げるグリードの尻尾をもふもふ掴みながら、シモンに「めっ!」とお説教した。




 * * *




「改めまして、隣国リーベルタースから来ました!犬獣人のグリードって言いまっす!!よろしくお願いします!!」

「うむ。よろしく」


 あれから完全復活し、みんなちょっぴり落ち着こうと時間を置いてからのご挨拶。
 転校生みたいな挨拶をしてニカッと笑うグリードによろしくねーと頷いてきゅっと握手する。ふむ…手はもふもふじゃないのねしょんぼり…。

 むすっとするシモンをよしよししながら、取り敢えず初日ということでグリードの特技なんかを聞いてみようかなと思案。完全に自己紹介タイムみたいな感じだ。好きなものとか趣味とかを教え合ってもいいかもしれない。


「僕、フェリアル。お花とチーズケーキすき。趣味、おひるねと読書。お庭いじりと、おさんぽ。たまにお絵かき」

「シモン・ロタールです。フェリアル様の唯一無二の侍従です。フェリアル様のほくろの場所に数に大きさ、全て熟知しています。フェリアル様の神聖な寝息を一番多く吸っているのは俺です」


 キリリッ!キラーン!

 二人続けて自己紹介を遂行する。シモンの言葉の内容が所々おかしかったような気がするけれど、いつものことかぁと聞き流した。

 僕達のことちょっとは分かってくれたかなふすふすと顔を上げると、そこにはぷくっと触れ頬のグリードが。どうしたのだろうときょとんすると、グリードはむすっとした声でもごもご口を動かす。
 むむ…?と耳を澄ますと、何だか不満そうな声音がもごもご。


「ずるい…姫のほくろ熟知してるシモン様ずるい…シモン様の肺を寝息で占領してる姫ずるい…」


 ちょっとよくわからないことを呟くグリードにきょとんな困惑が止まらない。
 シモンが思わずといったように発した「お前ヤバいですね」という言葉で辛うじてやばい人だということはわかった。グリードやばいかも。

 ドン引きシモンがやがて長く深い溜め息を吐き、ぷくぷくグリードを面倒くさそうに指さす。やる気のなさそうな声で「お前、何か取り柄とかあるんですか?」と面接っぽい質問を口にした。面接もう終わっているけど。
 それにしてもシモン、さっきからグリードへの扱いがとっても雑になってきているような…。呼び方なんて、あなたじゃなくてお前になってしまっている。もしかしてグリードのこと、本当にわんちゃんだと思っているのかな。


「取り柄…あっ!それなら俺の力について説明しますね!!」

「ちから?闇属性の、ちから?」

「そうですそうです!シモン様が持つ影の力みたいな、そんな感じのやつです!」


 グリードの力。シモンの影を使役する力みたいに、誰もが持っている独自の力。
 人間離れした聴力以外にもあるグリードの強み。知りたい知りたいとわくわくしながら瞳をキラキラ輝かせる。グリードはにかーっと嬉しそうに笑って尻尾をぶんぶん。実際に力を使いながら説明してくれた。


「シモン様の能力と、まぁぶっちゃけ似たようなもんなんですけど」


 グリードが手を翳した場所に箱型の黒い何かが現れる。見た目は黒が入り混じった透明の立方体、これだけ見ても何が何やらという感覚だ。

 シモンと一緒にぱちくり瞬くと、グリードは得意げに笑ってポケットから小さな石を取り出した。何の変哲もない、ただの石を。
 それを何に使うのだろうとまたもやきょとんと首を傾げる。するとグリードは、取り出した石を躊躇なく黒い箱にひょいっと投げ入れた。

 物を保管できる箱なのかなーと呑気に思い浮かべた考えはすぐに打ち消される。箱の中に沈んだ石が徐々に小さくなり、やがてぽつんと消えてしまったのだ。
 まるで、そこには初めから何も無かったかのように。


「いし、きえた!」


 わくわく。未知の力を前に瞳をキラキラさせながら手を伸ばす。黒い箱に触れる直前、グリードがあわわっと慌てたように手を引っ込めた。


「あぁー!触っちゃだめです!これマジで危ないので!」


 危ない、という言葉に反応したシモンがサッと僕を抱き上げる。とっても素早い動きだったので思わずぱちくり瞬いてしまった。
 後ろから抱え込まれてぷらんぷらーんする。そんな僕をむぎゅっと抱っこし直したシモンが呆れ顔に僅かな怒りを滲ませて呟いた。


「危険なものを子供の手の届く範囲で見せびらかさないでください。馬鹿なんですか?」

「あふっ…ごもっとも…」

「侍従と言うか、足手纏いが出来た感覚なのですが。お前本当に役に立つんですか?」

「あふっ!お、お任せくださいシモン様!こう見えて俺、隣国じゃそれなりの実力者として知られてるんですよ!!」

「へぇ。隣国って意外とアホが多いんですね。お前レベルの犬が実力者として認められているなんて」


 何だかとっても辛辣な言葉をシモンが浴びせるものだから、ぐさぐさ攻撃を受けたグリードがあふあふ痙攣しながら地面に伏せてしまった。

しおりを挟む
感想 1,721

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。