余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

文字の大きさ
172 / 423
【聖者の薔薇園-プロローグ】

213.はっぴーばーすでー

しおりを挟む
 

「フェリ?本当にそこでいいの?タイミングちゃんと見極められる?」

「うむ。まかせて」

「うーん既視感がありますねぇ……」


 心配そうなライネスと遠くを見つめるシモン。
 現在僕は、テーブルクロスの内側に隠れるようにして潜り込み、クラッカーを両手にぎゅっとして待機している。
 ローズがこの近くを通りかかった瞬間わっ!と飛び出て、おめでとーとクラッカーをぱんっするのだ。

 するとローズはびっくり!さぷらいず成功!これこそまさに、びっくりさぷらいず大作戦の要なのである。

 わくわく。わくわく。早く帰ってこないかなーわくわくとしながら、テーブルクロスの下を覗き込んでくる二人にぴしゃりと言い放つ。


「僕、待機。しっかり布下げる。二人、知らないふりして」

「はいはい、しっかり布下げますねー」

「……本当に大丈夫かなぁ」


 僕の指示をしっかり察したシモンが捲っていたテーブルクロスをさっと下げる。これで僕の姿は完全に外側からは見えなくなった。
 うむうむと頷いて息を殺す。まだ全然早いかもしれないけれど、ローズがいつ帰ってくるか分からないから用心するに越したことはない。
 音でわかるかな、とそわそわしつつ待っていると、やがて正面にある入り口付近がざわざわし始めた。

 子供たちの会話の中に"ローズさん"や"トラードさん"という名前が入り混じる。
 どうやらその時が来たらしいと、わくわくと緊張で頬を紅潮させながらタイミングを待った。


「……何だこれは」


 やがて聞こえた低い声。淡々としていると言うよりは、何処か困惑が滲んだ声音だ。
 振り向いて「おい、説明しろ」と誰かに問うローズ。トラードの声が微かに聞こえたことにそわそわしつつ、機会を窺う。

 タイミングとしては、子供たちがわっとローズへのお祝いの言葉を口にした後か…それとも、その前にわっと飛び出すか。
 でも最初は子供たちだよねとそわそわ考える。僕はその後だ。ローズの一番のびっくりは子供たちが体験するべき。ふむふむ、さすればグッドタイミングは…。
 なんて考えている内に、ついにその時が来たようだ。


「ローズさん!誕生日おめでとー!!」


 リアムの言葉に続くように「おめでとー!」と口々にお祝いの言葉を紡ぐ子供たち。ぱちぱちと拍手の音が響き、しばらくローズの声が途切れる。
 表情が見えなくて残念だ。びっくりさぷらいず大作戦にまんまと引っかかったローズの反応、見たかったなーとちょっぴり後悔。けれど僕は更なるびっくりを仕掛けると誓ったからよきなのである。

 一人テーブルの下でもぞもぞしながらタイミングを窺っていると、ふとローズの声が聞こえてきてハッと耳を澄ました。


「……誕生日?」


 ぽつり。短く呟いたその声音は、ローズにしては珍しい幼さを宿したものだった。未知のものに遭遇した子供みたいな、ほんのりあどけなさを残した声音。
 困惑や混乱と言うよりは、ただただ純粋な疑問みたいな。子供たちも何か異変を感じ取ったのか、途端にぴたっと静寂が広がった。

 けれどそれは悪い静寂ではなくて、みんな全て理解したみたいな沈黙。気付けばそわそわした緊張は無くなっていて、穏やかな静寂に合わせるように動きを止めて完全に静止した。


「……どうして、生まれた日だというだけなのに祝うんだ」


 ぺしっと頭を叩くような音。ローズが微かに息を呑んだことから、どうやらその原因はトラードらしいと悟る。案の定、トラードの呆れたような声が聞こえてきた。


「馬鹿。生まれたからだろ」


 そーっとテーブルクロスを捲る。ほんのちょっぴり、向こう側からならよーく見ないと分からないくらいに。

 どうしてもローズの表情が見たくて覗き込む。そろりそろりと視線を動かし、その先にローズの姿が見えて思わず息を殺した。そわそわ、バレないようにしないとそわそわ。
 くっと目を凝らす。少し遠い上に角度が難しくて、表情があまり見えないことにがっくしした。うーむ、あんまり見えないでござる。

 そんなぐだぐだっぷりでしょぼぼんしていたけれど、やがてそれもすっと晴れた。
 ふと沈黙が止んで、心配するような声がたくさん聞こえてきて。顔を上げると、そこにはぐっと少しだけ俯くローズが。もう一度しっかり目を凝らすと、ローズが見たこともない表情を浮かべていることに気が付きハッとした。

 無表情をちょっぴりだけ崩し、きょとんと瞳を丸くして瞬いている。口はぽかんと僅かに開いていて、とにかくなんだか、とっても珍しい表情だ。


「……そうか」


 たった一言。ぽつりと呟いたローズが小さく頷いた。

 子供たちから手渡された星型とハート型の風船を戸惑いながらも持つ姿。ローズの背後でトラードがおかしそうに笑いをこらえているのが見えた。
 子供たちの中でも一番幼いであろう小さな子が前に出て、ぐっと精一杯の背伸びをする。ローズが反射的にさっと膝をつくと、小さな子は両手に持っていた手作りの冠をローズの頭にちょこんと乗せた。

 花冠みたいな、紙で作ったリングを繋ぎ合わせたみたいな冠。小さな手で必死に作ったのか、形は少し歪だ。けれどとってもカラフルで、どんな宝石で作られた冠よりも綺麗に見えた。


「……ありがとう」


 小さな子が「ん」と頷く。ローズはぎこちないながらも慣れた手つきでその子の頭を撫でて、微かに弧を描くように目を細めた。
 見間違いでなければ、ほんの少しだけ微笑んだようにも見えたような…流石に、それは気のせいだろうか。


「ローズさん!おれっ、ローズさんのために虫いっぱいとったぞ!」

「ぼ、ぼくはローズさんの絵、かいた…っ」

「ローズさんローズさんっ!わたしはねっ──」


 風船の子と小さな子を筆頭にわわわっとローズに駆け寄る子供たち。各々プレゼントを掲げてキラキラと顔を輝かせている。

 よきかなよきかな。気分は髭もじゃおじいちゃんだ。みんな楽しそうでなによりなにより。
 ふむふむと感動して頷いていると、ふと視線を感じてきょとんと顔を上げた。向けられた視線の先を追った末にぴたりと硬直する。

 いつの間に気が付いたのか、じーっとこっちを見つめるローズマダーの瞳がそこにはあった。
 視界の端でシモンとライネスがあちゃーと額を抑える瞬間を目撃。どうやらローズの視線がまっすぐ僕に向いていることは間違いないらしい。


「……」


 そろりそろり。何事も無かったかのようにすとんとテーブルクロスを垂らす。
 僕は何も見ていない。僕は何も気づいていない。そう、気づかれたことなんて僕は気づいていないのだ。

 うむ。問題なし。なんにも問題なしでござるぷるぷる。べっ別に震えてないよ。これは武者震いでごさるぷるぷる。
 冷や汗たらたらしながら、とりあえず準備準備とクラッカーを構える。
 いや、なんとなく。もうちょっとでローズが目の前に来そうな予感がしたもので。そう、ただの予感です。

 数秒後。案の定テーブルクロスに映る向こう側の影。影の主はテーブルのすぐ正面に膝を着いて、じーっと見透かすようにクロスを見つめている。
 まだ大丈夫まだ大丈夫。そんな悠長なことを考えていると、ついに影が確信を持った声音で声を上げた。


「……おい」

「……」

「……おい。そんな所で何してる」


 はわわーっ。なぜか分からないけれど気づかれているでござるあわわーっ。

 むぐっと口を噤んでとりあえず黙秘を選択。ここには誰もいないでござるよ。
 なんてことをしても合理主義のローズにはもちろん効かない。数秒後には、この選択がなんの時間稼ぎにもならないことが発覚してしまう。

 返事がないことに焦れたのか、やがてローズは問答無用でばっとテーブルクロスを捲り上げた。


「……」

「……」


 じーっと繋がる視線。
 半ば無意識にクラッカーの紐をきゅっと引っ張る。軽快に響いたぽんっという音と共に、ひらひらーっと紙吹雪がローズの頭上を舞った。



「は、はっぴーばーすでー」


しおりを挟む
感想 1,721

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。