余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

214.ひょいひょいむぎゅー

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「……」

「……」


 しーん。沈黙が流れること数秒。
 ローズがやがてふと動き出し、空のクラッカーを持ったままじっとする僕をひょいっと持ち上げた。そのままテーブルの下からぬるっと取り出して、両脇を持ち上げたまま無表情で見つめてくる。
 構えるように持っていたクラッカーはシモンにするっと回収され、手持ち無沙汰になった両手を万歳するみたいに掲げた。

 武器なんて持ってないよーと、暗殺者を前にした時の行動を反射的に取ってしまった自分にあわわっと驚く。でも本当に武器なんて持ってないでござるよ。


「……お前の仕業か。フェリアル」

「はわわ…」

「お前が仕組んだのか。フェリアル」


 ご丁寧に名指しされてしまったので目を逸らすことは出来ない。感情を読みにくいローズの瞳に、少なくとも怒りや呆れの色が無いことに気付いてほっとした。どうやらおこではないようだ。

 瞳を揺らしてあわわっと答えを探す。仕組んだのは僕じゃない。僕はあくまでトラードの依頼を受けただけ。
 とは言え結果的にはノリノリでパーティーの準備を手伝ってしまったし、るんるん気分でアップルパイも作ってしまった。
 仕組んだのは僕じゃない。でも、仕業かどうかと聞かれれば…うーむといった感じ。はてなんと答えようかと逡巡していると、発端のトラードが助け舟を出してくれた。


「仕組んだのは俺だよ。フェリちゃんは俺の頼みを聞いて手伝ってくれただけ」

「お前が…仕組んだ…?」


 どういう心境の変化だ。訝しげにそう問うローズにトラードがおかしそうに笑う。


「心境の変化って。大事な相棒の誕生日なんだからそりゃ祝うだろ」

「あ…?気持ち悪い」

「照れんなよ相棒」


 キラーンと笑顔を浮かべてローズの肩を組むトラード。ローズは照れている…わけではなく、本当に面倒くさそうだ。あの表情はきっと本気で嫌がっている。


「ウザい。何企んでる。吐け」

「だーかーらっ!!なんも企んでねぇって!つーか企みとか言うな!ほらアイツら泣きそうになってんぞ!!」


 トラードがくわっ!と叫んだ言葉に、ローズがハッと目を見張る。ちらっと周囲を窺うと、トラードの言う通り子供たちがうるうる瞳を潤ませているのが分かった。
 喜んでもらいたくてしたことを『企み』と言われてしまえば、確かに悲しくもなるだろう。ローズもそのことに気が付いたのか、口を噤んで黙り込んだ。


「……」

「こういう時の好意は素直に受け取っとけ。なにも全部疑って捨てる必要ねーんだから」


 トラードがぽんとローズの肩を叩き、穏やかに宥めるような言葉を口にする。ローズは少し不服そうにしながらも、けれど納得したように眉を下げて俯いた。
 ローズらしくない気弱な反応にちょっぴり驚く。こういう顔もするのか、なんて。仲良くなったつもりでいたけれど、僕はローズのことをまだ全然知れていないのだと気が付いた。


「ローズ」


 ふと呼び掛ける。ローズが静かに視線を向けてきたタイミングで、シモンがささっと花束を手渡してきた。流石シモン、察する力がとんでもなく高い。

 わさっと花束を抱え、一旦足をぱたぱたして下ろしてアピール。ローズがちょこんと下ろしてくれたと同時に、どーぞと花束を差し出した。
 色とりどりの花束を目前に差し出され、ローズがきょとんと目を瞬く。


「ローズ。はっぴーばーすでー。ライネスが素敵なお花用意した」

「……薔薇か」

「うん。ローズとおなじで、とってもきれい」


 ローズと同じ。その言葉に一瞬ぴくりと反応したように見えたけれど、気のせいだろうか。

 無言で花束を受け取るローズ。
 片手に二つの風船を持って、カラフルな冠を被って、薔薇の花束を抱えて。いつものローズからは想像もつかないくらい鮮やかな姿に、ちょっぴり頬が緩んで肩を震わせた。


「ん、ふふっ……ろーず、すてき」

「……何がおかしい」

「おかしくない。すてきすてき」

「笑ってるだろ」

「笑ってない。にっこりしてるだけ。にこにこ」


 んふふ、と止まらないにこにこを何とか堪える。
 ローズがむっとした顔で見下ろしてくるけれど、両手が塞がっているから何も出来ないようだ。いつもならきっと、わしゃわしゃ髪を乱してくるところだろう。

 危機がないことをいいことに肩を震わせていると、ローズが不意に風船と花束をトラードに半ば押し付けるように手渡した。
 ほえっと硬直した途端。目で追えないくらい素早く腕を伸ばしたローズに、ひょいっと両脇を鷲掴みされて持ち上げられてしまった。

 高い高いするみたいにぐっと持ち上げられてあわあわ慌てる。
 危ないからぱたぱた抵抗はせずぴたーっと固まっていると、ローズが無表情を僅かに崩して得意気な顔をした。


「……ふん……笑った罰だ。何がおかしいか吐いてみろ」


 ひょいひょいっ。
 ダンベルで筋トレするみたいに上下にひょいひょい高い高いされ、ぐるぐる目を回しながら手をぱたぱたする。足を動かさなければ安全みたいだ。


「はわ、はわわっ。おかしくないっ。おかしくないのっ」


 縋るような視線をシモンとライネスに向ける。ひょいひょい動く視界の中、一向に動く気配のない二人にきょとんとぱちくりした。


「む、むむ……むっ!?」


 よくよく見てハッとする。
 シモンとライネスがにっこにこの笑顔で水晶を分け合い、僕に向けていることに気が付いた。とっても楽しそうだということだけは確かだ。
 なんたる所業…にこにこが今は悪魔の笑顔に見える……。

 ぷんすか頬を膨らませて腕をぱたぱた。
 ローズの罰が終わったら一目散に二人の元へ駆け寄る。そしてふて寝ならぬ"ふてむぎゅー"をしてやるのだ。むっと膨らんだほっぺできっと睨んでやるのだ。きーっ。


 まってろよ、でござる。

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