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【聖者の薔薇園-プロローグ】
213.はっぴーばーすでー
しおりを挟む「フェリ?本当にそこでいいの?タイミングちゃんと見極められる?」
「うむ。まかせて」
「うーん既視感がありますねぇ……」
心配そうなライネスと遠くを見つめるシモン。
現在僕は、テーブルクロスの内側に隠れるようにして潜り込み、クラッカーを両手にぎゅっとして待機している。
ローズがこの近くを通りかかった瞬間わっ!と飛び出て、おめでとーとクラッカーをぱんっするのだ。
するとローズはびっくり!さぷらいず成功!これこそまさに、びっくりさぷらいず大作戦の要なのである。
わくわく。わくわく。早く帰ってこないかなーわくわくとしながら、テーブルクロスの下を覗き込んでくる二人にぴしゃりと言い放つ。
「僕、待機。しっかり布下げる。二人、知らないふりして」
「はいはい、しっかり布下げますねー」
「……本当に大丈夫かなぁ」
僕の指示をしっかり察したシモンが捲っていたテーブルクロスをさっと下げる。これで僕の姿は完全に外側からは見えなくなった。
うむうむと頷いて息を殺す。まだ全然早いかもしれないけれど、ローズがいつ帰ってくるか分からないから用心するに越したことはない。
音でわかるかな、とそわそわしつつ待っていると、やがて正面にある入り口付近がざわざわし始めた。
子供たちの会話の中に"ローズさん"や"トラードさん"という名前が入り混じる。
どうやらその時が来たらしいと、わくわくと緊張で頬を紅潮させながらタイミングを待った。
「……何だこれは」
やがて聞こえた低い声。淡々としていると言うよりは、何処か困惑が滲んだ声音だ。
振り向いて「おい、説明しろ」と誰かに問うローズ。トラードの声が微かに聞こえたことにそわそわしつつ、機会を窺う。
タイミングとしては、子供たちがわっとローズへのお祝いの言葉を口にした後か…それとも、その前にわっと飛び出すか。
でも最初は子供たちだよねとそわそわ考える。僕はその後だ。ローズの一番のびっくりは子供たちが体験するべき。ふむふむ、さすればグッドタイミングは…。
なんて考えている内に、ついにその時が来たようだ。
「ローズさん!誕生日おめでとー!!」
リアムの言葉に続くように「おめでとー!」と口々にお祝いの言葉を紡ぐ子供たち。ぱちぱちと拍手の音が響き、しばらくローズの声が途切れる。
表情が見えなくて残念だ。びっくりさぷらいず大作戦にまんまと引っかかったローズの反応、見たかったなーとちょっぴり後悔。けれど僕は更なるびっくりを仕掛けると誓ったからよきなのである。
一人テーブルの下でもぞもぞしながらタイミングを窺っていると、ふとローズの声が聞こえてきてハッと耳を澄ました。
「……誕生日?」
ぽつり。短く呟いたその声音は、ローズにしては珍しい幼さを宿したものだった。未知のものに遭遇した子供みたいな、ほんのりあどけなさを残した声音。
困惑や混乱と言うよりは、ただただ純粋な疑問みたいな。子供たちも何か異変を感じ取ったのか、途端にぴたっと静寂が広がった。
けれどそれは悪い静寂ではなくて、みんな全て理解したみたいな沈黙。気付けばそわそわした緊張は無くなっていて、穏やかな静寂に合わせるように動きを止めて完全に静止した。
「……どうして、生まれた日だというだけなのに祝うんだ」
ぺしっと頭を叩くような音。ローズが微かに息を呑んだことから、どうやらその原因はトラードらしいと悟る。案の定、トラードの呆れたような声が聞こえてきた。
「馬鹿。生まれたからだろ」
そーっとテーブルクロスを捲る。ほんのちょっぴり、向こう側からならよーく見ないと分からないくらいに。
どうしてもローズの表情が見たくて覗き込む。そろりそろりと視線を動かし、その先にローズの姿が見えて思わず息を殺した。そわそわ、バレないようにしないとそわそわ。
くっと目を凝らす。少し遠い上に角度が難しくて、表情があまり見えないことにがっくしした。うーむ、あんまり見えないでござる。
そんなぐだぐだっぷりでしょぼぼんしていたけれど、やがてそれもすっと晴れた。
ふと沈黙が止んで、心配するような声がたくさん聞こえてきて。顔を上げると、そこにはぐっと少しだけ俯くローズが。もう一度しっかり目を凝らすと、ローズが見たこともない表情を浮かべていることに気が付きハッとした。
無表情をちょっぴりだけ崩し、きょとんと瞳を丸くして瞬いている。口はぽかんと僅かに開いていて、とにかくなんだか、とっても珍しい表情だ。
「……そうか」
たった一言。ぽつりと呟いたローズが小さく頷いた。
子供たちから手渡された星型とハート型の風船を戸惑いながらも持つ姿。ローズの背後でトラードがおかしそうに笑いをこらえているのが見えた。
子供たちの中でも一番幼いであろう小さな子が前に出て、ぐっと精一杯の背伸びをする。ローズが反射的にさっと膝をつくと、小さな子は両手に持っていた手作りの冠をローズの頭にちょこんと乗せた。
花冠みたいな、紙で作ったリングを繋ぎ合わせたみたいな冠。小さな手で必死に作ったのか、形は少し歪だ。けれどとってもカラフルで、どんな宝石で作られた冠よりも綺麗に見えた。
「……ありがとう」
小さな子が「ん」と頷く。ローズはぎこちないながらも慣れた手つきでその子の頭を撫でて、微かに弧を描くように目を細めた。
見間違いでなければ、ほんの少しだけ微笑んだようにも見えたような…流石に、それは気のせいだろうか。
「ローズさん!おれっ、ローズさんのために虫いっぱいとったぞ!」
「ぼ、ぼくはローズさんの絵、かいた…っ」
「ローズさんローズさんっ!わたしはねっ──」
風船の子と小さな子を筆頭にわわわっとローズに駆け寄る子供たち。各々プレゼントを掲げてキラキラと顔を輝かせている。
よきかなよきかな。気分は髭もじゃおじいちゃんだ。みんな楽しそうでなによりなにより。
ふむふむと感動して頷いていると、ふと視線を感じてきょとんと顔を上げた。向けられた視線の先を追った末にぴたりと硬直する。
いつの間に気が付いたのか、じーっとこっちを見つめるローズマダーの瞳がそこにはあった。
視界の端でシモンとライネスがあちゃーと額を抑える瞬間を目撃。どうやらローズの視線がまっすぐ僕に向いていることは間違いないらしい。
「……」
そろりそろり。何事も無かったかのようにすとんとテーブルクロスを垂らす。
僕は何も見ていない。僕は何も気づいていない。そう、気づかれたことなんて僕は気づいていないのだ。
うむ。問題なし。なんにも問題なしでござるぷるぷる。べっ別に震えてないよ。これは武者震いでごさるぷるぷる。
冷や汗たらたらしながら、とりあえず準備準備とクラッカーを構える。
いや、なんとなく。もうちょっとでローズが目の前に来そうな予感がしたもので。そう、ただの予感です。
数秒後。案の定テーブルクロスに映る向こう側の影。影の主はテーブルのすぐ正面に膝を着いて、じーっと見透かすようにクロスを見つめている。
まだ大丈夫まだ大丈夫。そんな悠長なことを考えていると、ついに影が確信を持った声音で声を上げた。
「……おい」
「……」
「……おい。そんな所で何してる」
はわわーっ。なぜか分からないけれど気づかれているでござるあわわーっ。
むぐっと口を噤んでとりあえず黙秘を選択。ここには誰もいないでござるよ。
なんてことをしても合理主義のローズにはもちろん効かない。数秒後には、この選択がなんの時間稼ぎにもならないことが発覚してしまう。
返事がないことに焦れたのか、やがてローズは問答無用でばっとテーブルクロスを捲り上げた。
「……」
「……」
じーっと繋がる視線。
半ば無意識にクラッカーの紐をきゅっと引っ張る。軽快に響いたぽんっという音と共に、ひらひらーっと紙吹雪がローズの頭上を舞った。
「は、はっぴーばーすでー」
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