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【聖者の薔薇園-開幕】
232.それぞれの策略(シモン・トラードside)
しおりを挟む魔塔の最上部。ドーム型の広間のような場所に集まったのは数人。魔塔主と次期魔塔主、ディラン様にガイゼル様、そして俺と犬の六人だ。
予想通り、今頃公爵家には浄化活動を謳った神官達が訪れているらしい。その前に邸を出たのが吉と出たようだ。問題は山積みだが、一先ず神殿の手から逃れることが出来たのは幸いと言えるだろう。
魔塔主は俺達が来ることを想定していたのか、再会した時も特に驚いた様子を見せなかった。寧ろ待っていたと言わんばかりの態度。これも神の目とやらの力なのだろうか。
そんな魔塔主は黒く汚れた分厚い本を持ち出し、何やら真剣な様子で語り出した。
「我々も動き出さなければの」
「師匠。やはり例の禁術を使うことになるでしょうか」
「うむ…神の相手は神にしか出来ぬ。お前には負担を掛けてしまうが…」
「構いません。僕はこの時の為に魔術師になったのですから」
神妙な面持ちの魔塔主と覚悟を決めたような表情の次期魔塔主。一体何を企んでいるのか、訝しく思い首を傾げる。
焦れた様子のガイゼル様が舌打ちして声を上げた。
「おい、何か策があるなら俺らにも話せ。聖者をぶっ飛ばす算段があるなら聞かせろ」
獰猛な獣の如く怒りを顕にするガイゼル様。無理もない。フェリアル様が連行されて何も出来ずにいる状況を一番悔やんでいるのは、身内である彼らだろうから。
怒りは聖者と、自らに向けている感情なのだろう。普段は平静を貫き誰より冷静なディラン様も、今は悔しそうに拳を強く握り締めている。神殿に対抗出来る策があるなら一刻も早く実行したいと思っている筈だ。
彼らの怒りと悔しさを察したのか、やがて次期魔塔主が一歩前に出て答えた。
「聖者を…マーテルを相手に貴方達が出来る事は何もない。残念だけれど」
ガイゼル様が息を呑み、ディラン様は微かに肩を揺らして俯く。
静かに告げられた言葉は淡々としていて、同情も気遣いも何一つ含まれていなかった。ただただ事実だけを述べたような容赦の無い言葉だ。
静寂が広がった空間の中、次期魔塔主は小さく息を吐いて語り始めた。
「……聖者については僕達に任せてほしい。貴方達には、そこに至るまでの過程で手を貸してほしいんだ」
「過程…?」
「皇太子の奪還。聖者に皇太子を奪われる訳にはいかないからね」
想像し得る限り最悪の展開。それは皇太子が神殿側の手に渡ること。正しく言うなら、魅了に堕とされる前に救い出すということだ。
次期魔塔主の言葉の意味を正確に理解したのか、ガイゼル様は若干納得しきれない様子を見せながらも渋々頷いた。
それをじっと窺っていたディラン様がガイゼル様の隣に並び、ふと静かに問いを紡いだ。
「聖者については任せろと言うが、具体的な策はあるのか。相手は神だ、いくら魔塔の実力者が集まっても敵わないかもしれない」
次期魔塔主がぱちくりと瞬く。やがて意味深に微笑んで「その通りだ。人間では神に敵わない」と滑らかに答えた。
余裕気な態度を崩さないところを見る限り、策があるのは本当らしい。魔塔主から黒ずんだ本を受け取った次期魔塔主が得意げにその本を捲る。歌うように紡がれた言葉は、想像の斜め上を行く大胆な策だった。
「古代禁術を使う。高難度の憑依術…これで僕の体にリベラ様を憑依させるのさ」
* * *
「即興の策で突破出来る警備じゃないな。ここは出直して、計画を考えた方が良いんじゃないか?」
「……」
神殿付近に身を隠し、遠目で警備体制を確認する。曲がりなりにも流石神殿と言うべきか、侵入経路になり得るあらゆる場所に聖騎士が配置されていた。当然、秘密経路の付近にも。
殺り合いながらの強行突破でも何とかなりそうっちゃなりそうだが、後の動きが面倒になる可能性が高い。正味この任務の本番は侵入ではなく、あの子を奪還した後からになる。逃げ始めてからが本番だ。
だからこそ、なるべく相手側には見つからない方向性でいきたい。いきたい所だが…うちの相棒が果たしてどんな結論を下すか。
「現状で考え付くのは陽動くらいか。どう思う、ローズ」
とは言えこの数を陽動させるのは無理があるが。適当な案を挙げて問い掛けると、ローズは双眼鏡を手にしたまま溜め息を吐いた。
「……一先ず戻って計画を練る。その前に、フェリアルの現状だけでも確認出来れば」
「おや、貴方も狼の皮を被った羊ですか」
息を呑む。咄嗟に刃物を構えて振り返ると、少し離れた場所に見るからに怪しい妙な男が立っていた。
黒いフェイスベールで顔の大半を隠した大柄な男。神官服を着た人間を一人片手に引き摺る姿は、はっきり言って俺らより断然怪しい。相貌も状況もそっちの方が完全に犯罪者だ。
何より、男が纏う妙なオーラ。俺は兎も角、ローズでさえ背後につかれるまで気付かないなんて、余程の実力者であることに間違いない。
間違いない…が、やはり怪しい。怪しすぎる。
後孔から白濁を零して気絶している神官。白目を剥いてぐったりとする姿はレイプ後の被害者にしか見えない。明らかに事後だ。
「……気持ち悪い」
直球すぎるぜローズ。そんな顔してやるな。これ見よがしに鼻をつまんで顔を歪めるな。
確かに事後の熱っぽい匂いがしてかなり不愉快だが、相手の実力を詳細に見極められていない以上刺激するのは得策じゃない。
だが…一応この状況にツッコミくらいは入れるべきだろうか…。万が一コイツが強姦魔だとすれば、気絶している神官はやはり被害者ということになる。他人がどうなろうと別にどうでも良いが、強姦魔をフェリちゃんの周囲に放っておくのはマズイ。主にローズの機嫌が。
不安通りローズは険しい表情を浮かべて男を睨んだ。このレイプ野郎がフェリちゃんに手を出す場面を想像してしまったらしい。うーん確かに胸糞悪い。
状況把握の為かローズが神官を指さし、小さく問い掛けた。
「……それは何だ」
「ん?あぁこれですか。オナホです。安物なので締め付けも感度も悪いですが」
「……」
ローズの視線が俺の方に向く。そんな『コイツは何を言っているんだ』みたいな目をされても回答に困る。俺も困惑してるから。だってどう見てもそのオナホ、人だし。
「欲しいですか?中古で良ければ差し上げますよ」
「あ…いや、間に合ってます…」
明らかにヤバい相手を前に状況把握を諦めたのか、面倒くそうな顔をして黙り込んだローズの代わりに小さく答えた。
しかしこの状況…本当にどうしたものか…。
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