余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

文字の大きさ
192 / 423
【聖者の薔薇園-開幕】

233.悪役の我儘

しおりを挟む
 

「むぅ……」


 ごろごろりーん。
 ベッドで寝転んで天蓋を見つめる。この虚無の遊びも何度目だろうか。神殿に軟禁され始めてから数日が経ったけれど、このところ毎日虚無の遊びをしている気がする。
 ぱたぱたと手足を動かしてバタフライごっこ。これもそろそろ飽きてきた頃合いだ。何か別の遊びを探さないと退屈でおかしくなってしまいそうである。

 本を読みたいと言って渡されたのは聖書だし、ちょっぴりだけお散歩したいと言ったら逃亡を疑われて更に軟禁の具合が強くなるし。もうなんにも言えないのであるものだけで遊ぶことにした次第だ。
 幸いクマくんがいるお陰で正気を保つことが出来ている。クマくんがいなかったら退屈と孤独で今頃とっくにおかしくなっていたに違いない。

 とは言え、そのクマくんも退屈でちーんとなっているわけだけれど。


「つまんないクマ…つまんなくて死んじゃいそうクマ…」

「死んじゃだめ。お気を確かにだよクマくん」


 隣に寝転んで僕と同様天蓋を見つめるクマくん。
 同じ体勢で死んだ目をしている僕達は、傍から見たらかなり異様だろうなぁと不意に思った。その場合異様だと思われるのは、ぬいぐるみに話しかけてちーんしている僕だけなのだけれど。


「ご主人様。もう一回かくれんぼでもしないかクマ?」

「うーん…いいけど、クマくんどうせテーブルの下に隠れるんでしょ?すぐ終わっちゃうよ」

「なッ!なんでクマの隠れる場所分かったクマ!?エスパークマ!?」


 戦慄、という言葉をそのまま浮かべたような表情で固まるクマくん。ものすごく驚いたらしく、背景にぴしゃーごろごろと雷が落ちそうなくらいの衝撃顔だ。

 びっくりクマくんにはごめんなさいだけれど、そんなに凄いことでもない。何故なら僕がエスパーというわけではなく、単にクマくんが分かり易いからという理由だからだ。
 クマくんはかくれんぼの時、大抵テーブルの下に丸まって隠れることが多い。そこにいなければあとは椅子の下だ。それ以外は特になし。
 せめてクローゼットとかに隠れれば良いのに、と思ってはいけない。クマくんは扉を開けられないのだ。押戸やら引戸やらが理解出来ないからこそ、クマくん的には難しいらしい過程を挟まない隠れ場所にしか隠れられない。

 何度も勝負したかくれんぼでそのことについては熟知している。それとなーく伝えてやんわり断ると、案の定クマくんはガーンしてしょぼぼんしてしまった。


「むぅ…やっぱりかくれんぼはだめクマ。他の遊びを探すクマ」


 切り替え早いのねふむふむ。
 ぴょんっと起き上がって何しようかなクマーと踊り出すクマくんをじっと見つめる。どんな時でもぽてぽてポジティブな言動をするクマくんに小さく笑いが零れた。


「……」


 数日…ここに来て数日が経った。けれど未だに聖者に会うことが出来ていない。
 ここに来たら聖者に会って、たくさん話して、彼の目的や本音について聞き出したいと思っていたのに。やっぱり、廊下の外で聖騎士達が噂していた内容は事実なのだろうか。

 浄化活動。悪魔の呪いを受けた人を聖者が浄化しているという噂。
 僕に関わった人達から優先的にということだから、公爵家や大公家、皇宮には当然聖者が訪れただろう。もしかしたら、一度目の二の舞が起こっている可能性も無くはない。
 兄様達が僕に冷たい眼差しを向けるかもしれない。レオが僕に歪んだ殺意を向けるかもしれない。
 ライネスも…僕とはもう、花火を見たいなんて思ってくれないかもしれない。

 僕の大切な人たちはみんな、既に聖者に奪われているかもしれない。


「ご主人様?大丈夫クマ?なんだか元気なさそうクマ」

「……大丈夫だよ。心配してくれてありがとうクマくん」


 不意にひょいっと覗き込んできたクマくんにふにゃりと笑みを向ける。
 本当に、クマくんがここに居てくれて良かった。クマくんがいるお陰で僕は正気を保っていられる。ひとりぼっちの不安と恐怖に、完全に堕ちないでいられる。


「大丈夫…大丈夫、決めたもの」


 どんな結末でも、みんなのハッピーエンドだけは渡さないって。
 僕が聖者をやっつけて、みんなを守るって誓った。帝国を元通りにするんだって。聖者が設定したハッピーエンドなんて全部壊して、物語を本当のハッピーエンドに導くんだって。


「僕は大丈夫」


 大丈夫じゃないと、何も出来ないから。
 だから僕は大丈夫。

 数千年続いた呪いを終わらせる。マーテルと僕の魂は繋がっているから、どちらかが消滅するということは無い。
 どちらも消える。マーテルを倒せば僕も死んでしまうけど、倒すならそれ以外無い。

 自己犠牲は美談じゃない。
 分かっている。けれどこれはもう、自己犠牲なんて生易しいものじゃないのだ。
 ただの我儘。僕の身勝手な望みでしかない。みんな為にじゃなく、自分の為の犠牲。
 マーテルを倒すことならきっと出来る。方法だってある。だけど魂はどうにも出来ない。僕とマーテルが繋がっていることだけは、どう足掻いても変わらない事実なのだ。


 選択権なんて無い。やるべき事は一つしかない。
 結末は、もうすぐそこだ。



「ご主人様!決めたクマ!鬼ごっこするクマ!」



 突如ぴょんっと跳ねたクマくんにびくっと肩を揺らす。
 わくわくした様子のクマくんを見てふわりと微笑み、ゆっくりと体を起こした。


「どっちが鬼?」

「クマが鬼クマ!ご主人様はがんばって逃げるクマ!」

「ん、わかった。頑張る」


 もふもふを撫でて息を吐き、ベッドから下りて立ち上がる。
 わくわくしながら「じゅークマ、きゅークマ」と十秒数えるクマくん。捕まらないようそそくさその場を離れた。
しおりを挟む
感想 1,721

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。